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第十四章
667:罠か、それとも……?
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ヌマタが合流場所として指定した喫茶店に着くと、既にジンダイは先に中に入っていた。
ヌマタはジンダイの向かいに陣取り、開口一番、クレームを入れる。
「お前なぁ、そっちからの音声は切っておけよ、何が起きたかわからなかったぞ」
ミヤハラやサクライと話している最中に、キータイプ音が鳴り響いたことに対して文句を言っているのだ。
封筒の中身の文書より、こちらを先にするのがヌマタという人物らしい。
「すみません、操作をミスってしまって……」
ジンダイが素直に頭を下げると、まあいい、とヌマタはその話題を打ち切った。
そして封書の封を切り、中身を取り出す。
中には一枚の紙と、それとは別にカードが一枚入っている。
「……ジンダイ、お前ハモネスの人間だったな。ならこの場所はわかるか?」
紙には地図が描かれており、一九時半に指定された場所に来るようにと記されている。
入口でカードを提示すること、とも書かれているので、カードは入館証の類だと思われる。
ジンダイは記憶の糸を手繰るかのように紙とカードを見比べながら考え込んだ。
しかし、それも長い時間のことではなく、ああそうかとつぶやいてから答えだす。
「……ここからだと歩いて二〇分くらいですね。隣の駅に近い場所です。列車で移動しますか?」
「いや、歩いて間に合うなら歩いていこう。時間はあるだろう」
ジンダイの言葉にヌマタが受け入れなかったのは、エクザロームにおける交通機関の利用料金の高さが原因であった。
ヌマタが「ピーター・ウェル農場」に常駐していた際は、基本的に三食宿舎付きであったので、金を使う場面はほとんどなかった。
そのため、手元の資金はそれなりに潤沢ではあったものの避けられる出費は避けたいと考えたのだ。
エフ・ティ・ロジ社所属のヌマタはともかく、「ピーター・ウェル農場」にリハビリとして常駐していたジンダイの財布がそれほど潤沢とも思えない。彼に余計な出費をさせるのもヌマタには気が引けるのだった。
「……そうですね、移動の料金で夕食代が出てしまいますね」
ジンダイの言葉通り隣の駅までの移動でも、鉄道の運賃は安い定食屋の一食分に匹敵するのだ。
ジンダイは苦笑しながら携帯端末を操作し始めた。
どうやら徒歩で指定の場所に行くための道順を調べているようだった。
不意にヌマタがあることに気づき、ジンダイに声をかける。
「おい、ジンダイ。お前も行くのか?」
「同行を依頼されているとさっき言っていましたけど」
「そうだが、お前は部外者だろう」
「でも、先方に存在を知られてしまったようですからね。隠れても無駄だと思いますよ」
ジンダイの言葉には、どこか諦めが含まれているようにヌマタには思える。
ヌマタはジンダイの様子を窺う。
ジンダイは無言で携帯端末を操作している。
十数秒の沈黙の後、先に口を開いたのはヌマタであった。
「……わかった。ECN社が本気を出せば、お前が隠れたところで簡単に捕まえることができるだろうしな。ならば、先に飛び込んでおくことにしよう」
「多分、ですけど相手も立場があるので手荒な真似はできないでしょう」
ヌマタにはジンダイの言葉が少し楽観的過ぎるように聞こえる。
「ただ、警戒はしなければならないだろう。例えば、さっきECN社での俺の話がなかったことにされると厄介だぞ」
「確かにそうですね。会話の音声情報を託すことができる知り合いでもいればいいのですが、今の自分にはあてがないですね……」
「まあ、状況が状況だけに仕方ないわな。俺もここの人間ではないからそんなツテはないしなぁ……」
ヌマタとジンダイはしばらく考え込んだ。
しかし、それも長いことではなく、ヌマタが首を横に振りながら口を開いた。
「どこかに端末を隠しても、協力者が確保できない限り無理だな。小細工はやめにしておこう」
「そのまま向かいますか?」
ジンダイの言葉にヌマタは微かな笑みを浮かべながら答える。
「ああ、そのつもりだ。向こうが何かしようとしてきたら、暴れて騒ぎにするだけさ」
そう答えてから、不意にジンダイの顔に目をやり、苦笑する。
「もっとも、ジンダイがこのナリだとなぁ、怪しむなというほうが難しいかもしれんが」
ジンダイの顔には目から鼻の下を覆うマスクがある。
医療行為により装着されたものとはいえ、他人からは奇異なものに見えても仕方のないところだ。
「すみません」
「構わん。あんまり時間がないんだったな、行くか」
「そうしましょう」
ヌマタがジンダイを連れて指定された場所へと歩き始めた。
※※
一九時二七分、約束の時間の少し前にヌマタとジンダイは指定された場所に到着した。
指定の建物は古風な民家のように見えるが、表札は出ていない。
ヌマタが扉を見つけ、中に入る。
中は一〇平米ほどの部屋になっており、奥には頑丈そうな扉がある。
ヌマタが扉を開こうとするが、びくともしない。
脇には管理人室に繋がっていると思われるガラス窓があり、ジンダイがそこを覗き込んだが、どうやら無人のようであった。
窓の近くに呼び鈴を見つけ、ヌマタがそれを鳴らす。
しばらくして、窓の向こう側に一人の年配女性がやって来た。
ヌマタが窓越しにカードを提示すると、少々お待ちください、と言って女性は姿を消した。
数十秒後、奥の扉が開いた。
「こちらへ」
女性の案内でヌマタとジンダイは奥の部屋へと案内された。
ヌマタはジンダイの向かいに陣取り、開口一番、クレームを入れる。
「お前なぁ、そっちからの音声は切っておけよ、何が起きたかわからなかったぞ」
ミヤハラやサクライと話している最中に、キータイプ音が鳴り響いたことに対して文句を言っているのだ。
封筒の中身の文書より、こちらを先にするのがヌマタという人物らしい。
「すみません、操作をミスってしまって……」
ジンダイが素直に頭を下げると、まあいい、とヌマタはその話題を打ち切った。
そして封書の封を切り、中身を取り出す。
中には一枚の紙と、それとは別にカードが一枚入っている。
「……ジンダイ、お前ハモネスの人間だったな。ならこの場所はわかるか?」
紙には地図が描かれており、一九時半に指定された場所に来るようにと記されている。
入口でカードを提示すること、とも書かれているので、カードは入館証の類だと思われる。
ジンダイは記憶の糸を手繰るかのように紙とカードを見比べながら考え込んだ。
しかし、それも長い時間のことではなく、ああそうかとつぶやいてから答えだす。
「……ここからだと歩いて二〇分くらいですね。隣の駅に近い場所です。列車で移動しますか?」
「いや、歩いて間に合うなら歩いていこう。時間はあるだろう」
ジンダイの言葉にヌマタが受け入れなかったのは、エクザロームにおける交通機関の利用料金の高さが原因であった。
ヌマタが「ピーター・ウェル農場」に常駐していた際は、基本的に三食宿舎付きであったので、金を使う場面はほとんどなかった。
そのため、手元の資金はそれなりに潤沢ではあったものの避けられる出費は避けたいと考えたのだ。
エフ・ティ・ロジ社所属のヌマタはともかく、「ピーター・ウェル農場」にリハビリとして常駐していたジンダイの財布がそれほど潤沢とも思えない。彼に余計な出費をさせるのもヌマタには気が引けるのだった。
「……そうですね、移動の料金で夕食代が出てしまいますね」
ジンダイの言葉通り隣の駅までの移動でも、鉄道の運賃は安い定食屋の一食分に匹敵するのだ。
ジンダイは苦笑しながら携帯端末を操作し始めた。
どうやら徒歩で指定の場所に行くための道順を調べているようだった。
不意にヌマタがあることに気づき、ジンダイに声をかける。
「おい、ジンダイ。お前も行くのか?」
「同行を依頼されているとさっき言っていましたけど」
「そうだが、お前は部外者だろう」
「でも、先方に存在を知られてしまったようですからね。隠れても無駄だと思いますよ」
ジンダイの言葉には、どこか諦めが含まれているようにヌマタには思える。
ヌマタはジンダイの様子を窺う。
ジンダイは無言で携帯端末を操作している。
十数秒の沈黙の後、先に口を開いたのはヌマタであった。
「……わかった。ECN社が本気を出せば、お前が隠れたところで簡単に捕まえることができるだろうしな。ならば、先に飛び込んでおくことにしよう」
「多分、ですけど相手も立場があるので手荒な真似はできないでしょう」
ヌマタにはジンダイの言葉が少し楽観的過ぎるように聞こえる。
「ただ、警戒はしなければならないだろう。例えば、さっきECN社での俺の話がなかったことにされると厄介だぞ」
「確かにそうですね。会話の音声情報を託すことができる知り合いでもいればいいのですが、今の自分にはあてがないですね……」
「まあ、状況が状況だけに仕方ないわな。俺もここの人間ではないからそんなツテはないしなぁ……」
ヌマタとジンダイはしばらく考え込んだ。
しかし、それも長いことではなく、ヌマタが首を横に振りながら口を開いた。
「どこかに端末を隠しても、協力者が確保できない限り無理だな。小細工はやめにしておこう」
「そのまま向かいますか?」
ジンダイの言葉にヌマタは微かな笑みを浮かべながら答える。
「ああ、そのつもりだ。向こうが何かしようとしてきたら、暴れて騒ぎにするだけさ」
そう答えてから、不意にジンダイの顔に目をやり、苦笑する。
「もっとも、ジンダイがこのナリだとなぁ、怪しむなというほうが難しいかもしれんが」
ジンダイの顔には目から鼻の下を覆うマスクがある。
医療行為により装着されたものとはいえ、他人からは奇異なものに見えても仕方のないところだ。
「すみません」
「構わん。あんまり時間がないんだったな、行くか」
「そうしましょう」
ヌマタがジンダイを連れて指定された場所へと歩き始めた。
※※
一九時二七分、約束の時間の少し前にヌマタとジンダイは指定された場所に到着した。
指定の建物は古風な民家のように見えるが、表札は出ていない。
ヌマタが扉を見つけ、中に入る。
中は一〇平米ほどの部屋になっており、奥には頑丈そうな扉がある。
ヌマタが扉を開こうとするが、びくともしない。
脇には管理人室に繋がっていると思われるガラス窓があり、ジンダイがそこを覗き込んだが、どうやら無人のようであった。
窓の近くに呼び鈴を見つけ、ヌマタがそれを鳴らす。
しばらくして、窓の向こう側に一人の年配女性がやって来た。
ヌマタが窓越しにカードを提示すると、少々お待ちください、と言って女性は姿を消した。
数十秒後、奥の扉が開いた。
「こちらへ」
女性の案内でヌマタとジンダイは奥の部屋へと案内された。
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