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第十四章
668:ミヤハラが求める答え
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指定された建物に部屋はいくつかあるようで、ヌマタとジンダイが案内されたのは一番奥の部屋である。
中には誰もおらず、ヌマタとジンダイは案内された席に着く。
「ここはECN社の施設か? だとしたら、お偉方というのはロクなことを考えないんだな……」
ヌマタが吐き捨てるように言った。
ジンダイは何かを思い出そうとしているかのように目を閉じている。
しかし、それも長い時間ではなく、しばらくして不意に目を開き、顔を上げた。
「どうした?」
「思い出しました。確かここは会員制の貸し会議室ですね。一般の施設だったと思います」
ジンダイの言葉にヌマタは面白くなさそうに、そうか、とうなずいた。
「それにしても、ECN社からは誰が来るかわからんが、遅いな」
読みが外れたことで、ヌマタは話題を転じることにした。
「そうですね、誰が来るのかは気になるところですね……」
ジンダイはヌマタを気遣ったのか、話題を転じたことについて得に指摘はせず、ヌマタの話に付き合っている。
「社長が来なければ意味がないからな。俺がここへ来たのは、ミヤハラ社長にインデストの現状を知ってもらうためだからな」
「そうですね、会社のトップの意思決定なら動かすのは難しいでしょうけど、そうでない場合は、簡単にひっくり返る場合もありますしね」
「そういうことだ」
ヌマタはミヤハラが出てくる可能性について五分五分だと見ている。
やはり先ほどの会談で、ミヤハラやサクライの態度があまり積極的にインデストに関わろうとしていないように見えた。
役員などと話し合いをする、とミヤハラが言ったのもIMPUへの支援を断るための口実に思える。
しかし、この場が設定された、ということはミヤハラ、サクライ、エリックのいずれかがヌマタに何らかの興味を持っていることを示している。
会談の後の動きを見ていると、エリックはミヤハラやサクライの意思について詳細を知らされていないように思われた。
そう考えると、この場を設定したのはミヤハラかサクライの可能性が高い。
問題は何の目的でこの場を設定したのか、そしてそれにミヤハラの意思が関係しているのか、の二点である。
(俺の身柄が目的なら、サクライ氏のほうが可能性がありそうだな……)
そんなことを考えているうちに、足音が近づいてきた。
失礼します、と年配女性に連れてこられたのはサクライとエリックの二名であった。
(やはりサクライ氏の差し金か……)
ヌマタがやや警戒した様子を見せると、サクライが口を開いた。
「ミヤハラがもう少し後で来る。悪いが少し待って欲しい」
(何? ミヤハラ氏が来るのか? 一体何を企んでいる?)
ヌマタが警戒を強めた。
場合によっては、ひと暴れする必要があるかもしれない、と思ったその瞬間、エリックの声が耳に入った。
「社長は動きが遅いですからね、ここでは何とかして欲しかったのですけど」
エリックの口調は普段と変わらない様子で、緊張がほぐれているように聞こえる。
「そうだな、まったく。こっちに急げと言う割に肝心の本人のほうが遅れてくるとはどういうことだか……」
応じたサクライの言葉もどこか愚痴っぽい。
「到着していないのでは仕方ない。待たせてもらう」
ヌマタはそう言って、ジンダイの方に目をやった。
ジンダイはミヤハラの到着が気になるのか、ときどき入口のほうに目をやるものの、特に動揺した様子などは見られない。
「話す内容がわかっていれば、こちらで先に進めてしまうのだが、自分もモトムラも何も聞かされていないのでね、申し訳ない」
サクライが頭を下げた。
先ほどの会談のときと比較すると、サクライはヌマタに対する警戒を緩めているように見える。
彼の場合はヌマタ個人を警戒しているというより、ヌマタとの話によってなされた意思決定がECN社に与える影響を警戒しているようであった。
少しして、また足音が聞こえてきた。
「申し訳ない、遅くなった」
ミヤハラが中に入ってきた。
そして、ヌマタの向かいの席に着くと、開口一番にヌマタを問い詰めるような口調で言った。
「通信機の件は理解した。ただ、他にも目的があるな。話してもらおうか」
ヌマタにはミヤハラの意図が理解できなかったが、ミヤハラの口調から何らかの答えが必要だと判断した。
「他の目的、だと……? 俺の持っている情報でも知りたいのか?」
「まあ、そういったところだ」
ミヤハラの口調はやや柔らかくなったが、先ほどからの威圧感に変化はない。
情報、と半ば口から出任せのように言ってしまったが、どうやらミヤハラの狙いはそこにあるようであった。
ヌマタが持っている「情報」といえば、インデストの状況と自分自身、そして行方不明とされているハドリの状況くらいである。
インデストの状況はアカシからの文書である程度伝わっているはずだ。
また、ヌマタ自身が顔を出したことで、ヌマタの状況もある程度判断できるはずである。
これらのことから、消去法でハドリの状況の情報を提供するか、とヌマタは考えた。
ハドリが生死不明ということから、彼がどこかに潜伏していることを警戒しているのかもしれないな、と考えてヌマタは知る限りのハドリについての情報を提供することにした。
「……『オーシャンリゾート』の爆発があっただろう。ハドリの奴は、あの爆発に巻き込まれて致命傷を負ったのさ」
「待て、ハドリ氏の死体は発見されていないぞ」
サクライが反論したが、予測できたことなのでそれに答えながら続ける。
「そのまま海へと向かって濁流の中に身を投じたのさ。あの流れの中に飲み込まれれば助からないだろうな。探したところで無駄だろう。これを信じるかどうかは任せるが」
ヌマタの言葉にエリックとサクライが顔を見合わせた。
一年近くの捜索にも関わらず、ハドリの生死は不明のままだった。
事件直後からの足取りすらつかめなかった。
しかし、ヌマタの言葉はこれらの疑問の殆どに答えていたのだ。
ハドリが今後姿を現すことがない可能性が高い、ということでECN社の対応が変わるとは考えにくいが、それでも情報の重要性は高いとこの場にいる者たちは感じていた。
ただ一人の例外を除いて。
「……なるほど、それだけか」
ミヤハラの声のトーンはぐっと低くなっていた。その表情は険しい。
中には誰もおらず、ヌマタとジンダイは案内された席に着く。
「ここはECN社の施設か? だとしたら、お偉方というのはロクなことを考えないんだな……」
ヌマタが吐き捨てるように言った。
ジンダイは何かを思い出そうとしているかのように目を閉じている。
しかし、それも長い時間ではなく、しばらくして不意に目を開き、顔を上げた。
「どうした?」
「思い出しました。確かここは会員制の貸し会議室ですね。一般の施設だったと思います」
ジンダイの言葉にヌマタは面白くなさそうに、そうか、とうなずいた。
「それにしても、ECN社からは誰が来るかわからんが、遅いな」
読みが外れたことで、ヌマタは話題を転じることにした。
「そうですね、誰が来るのかは気になるところですね……」
ジンダイはヌマタを気遣ったのか、話題を転じたことについて得に指摘はせず、ヌマタの話に付き合っている。
「社長が来なければ意味がないからな。俺がここへ来たのは、ミヤハラ社長にインデストの現状を知ってもらうためだからな」
「そうですね、会社のトップの意思決定なら動かすのは難しいでしょうけど、そうでない場合は、簡単にひっくり返る場合もありますしね」
「そういうことだ」
ヌマタはミヤハラが出てくる可能性について五分五分だと見ている。
やはり先ほどの会談で、ミヤハラやサクライの態度があまり積極的にインデストに関わろうとしていないように見えた。
役員などと話し合いをする、とミヤハラが言ったのもIMPUへの支援を断るための口実に思える。
しかし、この場が設定された、ということはミヤハラ、サクライ、エリックのいずれかがヌマタに何らかの興味を持っていることを示している。
会談の後の動きを見ていると、エリックはミヤハラやサクライの意思について詳細を知らされていないように思われた。
そう考えると、この場を設定したのはミヤハラかサクライの可能性が高い。
問題は何の目的でこの場を設定したのか、そしてそれにミヤハラの意思が関係しているのか、の二点である。
(俺の身柄が目的なら、サクライ氏のほうが可能性がありそうだな……)
そんなことを考えているうちに、足音が近づいてきた。
失礼します、と年配女性に連れてこられたのはサクライとエリックの二名であった。
(やはりサクライ氏の差し金か……)
ヌマタがやや警戒した様子を見せると、サクライが口を開いた。
「ミヤハラがもう少し後で来る。悪いが少し待って欲しい」
(何? ミヤハラ氏が来るのか? 一体何を企んでいる?)
ヌマタが警戒を強めた。
場合によっては、ひと暴れする必要があるかもしれない、と思ったその瞬間、エリックの声が耳に入った。
「社長は動きが遅いですからね、ここでは何とかして欲しかったのですけど」
エリックの口調は普段と変わらない様子で、緊張がほぐれているように聞こえる。
「そうだな、まったく。こっちに急げと言う割に肝心の本人のほうが遅れてくるとはどういうことだか……」
応じたサクライの言葉もどこか愚痴っぽい。
「到着していないのでは仕方ない。待たせてもらう」
ヌマタはそう言って、ジンダイの方に目をやった。
ジンダイはミヤハラの到着が気になるのか、ときどき入口のほうに目をやるものの、特に動揺した様子などは見られない。
「話す内容がわかっていれば、こちらで先に進めてしまうのだが、自分もモトムラも何も聞かされていないのでね、申し訳ない」
サクライが頭を下げた。
先ほどの会談のときと比較すると、サクライはヌマタに対する警戒を緩めているように見える。
彼の場合はヌマタ個人を警戒しているというより、ヌマタとの話によってなされた意思決定がECN社に与える影響を警戒しているようであった。
少しして、また足音が聞こえてきた。
「申し訳ない、遅くなった」
ミヤハラが中に入ってきた。
そして、ヌマタの向かいの席に着くと、開口一番にヌマタを問い詰めるような口調で言った。
「通信機の件は理解した。ただ、他にも目的があるな。話してもらおうか」
ヌマタにはミヤハラの意図が理解できなかったが、ミヤハラの口調から何らかの答えが必要だと判断した。
「他の目的、だと……? 俺の持っている情報でも知りたいのか?」
「まあ、そういったところだ」
ミヤハラの口調はやや柔らかくなったが、先ほどからの威圧感に変化はない。
情報、と半ば口から出任せのように言ってしまったが、どうやらミヤハラの狙いはそこにあるようであった。
ヌマタが持っている「情報」といえば、インデストの状況と自分自身、そして行方不明とされているハドリの状況くらいである。
インデストの状況はアカシからの文書である程度伝わっているはずだ。
また、ヌマタ自身が顔を出したことで、ヌマタの状況もある程度判断できるはずである。
これらのことから、消去法でハドリの状況の情報を提供するか、とヌマタは考えた。
ハドリが生死不明ということから、彼がどこかに潜伏していることを警戒しているのかもしれないな、と考えてヌマタは知る限りのハドリについての情報を提供することにした。
「……『オーシャンリゾート』の爆発があっただろう。ハドリの奴は、あの爆発に巻き込まれて致命傷を負ったのさ」
「待て、ハドリ氏の死体は発見されていないぞ」
サクライが反論したが、予測できたことなのでそれに答えながら続ける。
「そのまま海へと向かって濁流の中に身を投じたのさ。あの流れの中に飲み込まれれば助からないだろうな。探したところで無駄だろう。これを信じるかどうかは任せるが」
ヌマタの言葉にエリックとサクライが顔を見合わせた。
一年近くの捜索にも関わらず、ハドリの生死は不明のままだった。
事件直後からの足取りすらつかめなかった。
しかし、ヌマタの言葉はこれらの疑問の殆どに答えていたのだ。
ハドリが今後姿を現すことがない可能性が高い、ということでECN社の対応が変わるとは考えにくいが、それでも情報の重要性は高いとこの場にいる者たちは感じていた。
ただ一人の例外を除いて。
「……なるほど、それだけか」
ミヤハラの声のトーンはぐっと低くなっていた。その表情は険しい。
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