250 / 304
第十四章
669:帰還
しおりを挟む
ミヤハラの表情が険しいのを見て、ヌマタは自身の答えがミヤハラを納得させていないことを悟った。
だが、何を話せばミヤハラが納得するのか皆目見当もつかない。
ここで引き下がっては自身の目的が達成できなくなると考え、ヌマタは必死で訴える。
「他にか? あとは俺だろうが、ここにこう姿を現したことである程度はわかるだろう。俺を裁くなら勝手にしてくれ。ただ、アカシさんの文書の件が解決してからだ。解決すれば必要なことはすべて話す」
「オーシャンリゾート」の爆破の罪を問われるのは構わない。
死に値する罪だということも認識している。
だが、アカシの窮地を救わないことには、ヌマタとしては死んでも死に切れないのだ。
「……それでは遅いな。お前さんが何を考えているかわからんが、何故、二人でハモネスに来た?」
ミヤハラの質問はヌマタの想定と異なっていた。
ジンダイと二人で来たことを訝しがられている、というのはヌマタにも理解できる。
もともとECN社との会談はヌマタ一人でやるつもりであったし、ジンダイを巻き込んだのは自分が拘束された際の保険でしかなかった。
ただ、ECN社側から見れば、顔にマスクをしている怪しげな人物が同行しているとなれば気になるであろう。
そいつは、とヌマタが言いかけたところで、ジンダイが立ち上がった。
「すみません、ここにいる我々五人以外にこの会話を聞いている人はいますか?」
ジンダイの言葉にサクライがエリックにどうかと確認する。
「おいっ! ジンダイ、いきなり何を!」
ヌマタが慌てて立ち上がる。
一方、ミヤハラはヌマタの言葉に首を傾げた。
「……ジンダイ?」
ヌマタがミヤハラの疑問に答えようとしたが、それより先にジンダイが次の言葉を発していた。
「すみません、先ほどの質問に答えていただけないでしょうか?」
「少なくともそちらが会話を外に漏らしていないなら、いないはずだ」
サクライが答えた。
「サクライ、それで間違いないな?」
ミヤハラが確認すると、サクライは間違いないと答える。
「それなら問題ありません。二人でここに来た理由ですが、それは私が答えなければならないでしょう」
ジンダイが何か言いたそうなヌマタを制した。
マスクの下の表情を窺うことはできないが、ヌマタを制止するときは、どこか申し訳なさそうな素振りを見せていた。
「何故、お前さんが答える?」
ミヤハラが腕組みをしながら尋ねた。
「ヌマタさんには知らせていないのですよ。というより、言いそびれてしまったのだけどね」
そう言うと、ジンダイは顔のマスクに手をかけ、それを外してみせた。
ジンダイの目から鼻の下が露わになる。
ヌマタが見たその素顔には、傷はなかった。
「ジンダイ、お前、治っていたのか……」
ヌマタはそうつぶやいてから、あることに気づいた。
ジンダイが見せたこの行為は一体何の意味を持つのであろうか?
「……やはりな」
正面のミヤハラは腕組みしたままそうつぶやいた。
サクライとエリックは、驚きの表情を浮かべてジンダイを見やっている。
「……さあ、話してもらうぞ、イナ」
ミヤハラが周囲を見回した。そしてサクライとエリックの表情を見やってから、
「……お前らなぁ、自分のところのトップの顔や声くらいわからないのか?」
と呆れてみせた。
「??」
サクライやエリックだけではない、ヌマタも状況が理解できずに茫然としている。
「……ヌマタさん、すまない。ジンダイというのは偽名でね、イナというのが本名なんだ。騙したくはなかったのだけど、本名が知られるといろいろ面倒なので……」
「イナ、だと……?」
その姓を聞いて、ヌマタの頭に思い浮かぶ人物は限られている。
しかし、目の前にある人物の顔がすぐに結びつかない。
「何だ、知らなかったのか? まあ、イナの顔は眼鏡をかけてないと特徴が何もないからな」
ミヤハラが意地悪く笑った。一方、イナと呼ばれた方は困っているとも、あてが外れたともつかない微妙な顔をしている。
マスクを外し素顔を晒したこの人物こそ、前ECN社社長オイゲン・イナその人であった。
「改めて自己紹介させてもらいますよ。オイゲン・イナです。とりあえず、見ての通り無事だよ」
「社長、どういうことですか?」
サクライがオイゲンに詰め寄った。未だ驚きの表情を浮かべたままである。
「今の社長はミヤハラだから、『社長』は勘弁して欲しいな。それと今、僕が姿を現したりしたら社が混乱するだろう。それに僕には社に復帰する意思はないよ」
「確かにな。今イナが姿を現せば、社内は混乱するな。まったく……俺が喜んで社長代行を降りようと思っていたのに、余計な真似をしやがって……」
ミヤハラが恨めしそうにオイゲンを見やった。
さすがに一年近くも行方不明だった社長が戻ってきたから、即社長交代、というわけにはいかないだろう。
「ならば、社長、じゃなかった、イナさんはこれからどうするつもりなのですか?」
サクライの問いに対し、オイゲンは次のように答えた。
「うん、当分はここにいる五人以外に所在を知られたくないからね。どこかで大人しくしているよ。ただ、インデストのことは何とかできるといいな、とは思っている」
それを聞いたミヤハラは、わかった、と答え、サクライとエリックにオイゲンとヌマタの当分の間の宿を確保するように命じた。
宿の手配のため、サクライとエリックがいったん部屋を出た。
「おい、ジンダイ、じゃなかった、イナさん。どういうことなんだ?」
ヌマタがオイゲンに詰め寄った。
「……すみません、いずれはハモネスに戻らなければならなかったのだけど、正体を知られると厄介なことになるから、こうするしかなかった」
「……」
「幸い、カワエさんがウォーリーやモトムラ君が知っているヌマタさん、ということがわかったし、ヌマタさんがミヤハラと顔を合わせたいこともわかったので、ミヤハラとヌマタさんが顔を合わせる場面で事情を明らかにしたほうがいいと思ったんだ」
「……さすがに驚いた。一体何事かと思った」
力なくそれだけ言うと、ヌマタは安堵の表情を浮かべた。
「それはそうと、イナもヌマタも色々と話すことがありそうだな。サクライとエリックが戻ってきたら、話してもらうぞ」
ミヤハラの言葉にオイゲンとヌマタの二人が同時にうなずいた。
だが、何を話せばミヤハラが納得するのか皆目見当もつかない。
ここで引き下がっては自身の目的が達成できなくなると考え、ヌマタは必死で訴える。
「他にか? あとは俺だろうが、ここにこう姿を現したことである程度はわかるだろう。俺を裁くなら勝手にしてくれ。ただ、アカシさんの文書の件が解決してからだ。解決すれば必要なことはすべて話す」
「オーシャンリゾート」の爆破の罪を問われるのは構わない。
死に値する罪だということも認識している。
だが、アカシの窮地を救わないことには、ヌマタとしては死んでも死に切れないのだ。
「……それでは遅いな。お前さんが何を考えているかわからんが、何故、二人でハモネスに来た?」
ミヤハラの質問はヌマタの想定と異なっていた。
ジンダイと二人で来たことを訝しがられている、というのはヌマタにも理解できる。
もともとECN社との会談はヌマタ一人でやるつもりであったし、ジンダイを巻き込んだのは自分が拘束された際の保険でしかなかった。
ただ、ECN社側から見れば、顔にマスクをしている怪しげな人物が同行しているとなれば気になるであろう。
そいつは、とヌマタが言いかけたところで、ジンダイが立ち上がった。
「すみません、ここにいる我々五人以外にこの会話を聞いている人はいますか?」
ジンダイの言葉にサクライがエリックにどうかと確認する。
「おいっ! ジンダイ、いきなり何を!」
ヌマタが慌てて立ち上がる。
一方、ミヤハラはヌマタの言葉に首を傾げた。
「……ジンダイ?」
ヌマタがミヤハラの疑問に答えようとしたが、それより先にジンダイが次の言葉を発していた。
「すみません、先ほどの質問に答えていただけないでしょうか?」
「少なくともそちらが会話を外に漏らしていないなら、いないはずだ」
サクライが答えた。
「サクライ、それで間違いないな?」
ミヤハラが確認すると、サクライは間違いないと答える。
「それなら問題ありません。二人でここに来た理由ですが、それは私が答えなければならないでしょう」
ジンダイが何か言いたそうなヌマタを制した。
マスクの下の表情を窺うことはできないが、ヌマタを制止するときは、どこか申し訳なさそうな素振りを見せていた。
「何故、お前さんが答える?」
ミヤハラが腕組みをしながら尋ねた。
「ヌマタさんには知らせていないのですよ。というより、言いそびれてしまったのだけどね」
そう言うと、ジンダイは顔のマスクに手をかけ、それを外してみせた。
ジンダイの目から鼻の下が露わになる。
ヌマタが見たその素顔には、傷はなかった。
「ジンダイ、お前、治っていたのか……」
ヌマタはそうつぶやいてから、あることに気づいた。
ジンダイが見せたこの行為は一体何の意味を持つのであろうか?
「……やはりな」
正面のミヤハラは腕組みしたままそうつぶやいた。
サクライとエリックは、驚きの表情を浮かべてジンダイを見やっている。
「……さあ、話してもらうぞ、イナ」
ミヤハラが周囲を見回した。そしてサクライとエリックの表情を見やってから、
「……お前らなぁ、自分のところのトップの顔や声くらいわからないのか?」
と呆れてみせた。
「??」
サクライやエリックだけではない、ヌマタも状況が理解できずに茫然としている。
「……ヌマタさん、すまない。ジンダイというのは偽名でね、イナというのが本名なんだ。騙したくはなかったのだけど、本名が知られるといろいろ面倒なので……」
「イナ、だと……?」
その姓を聞いて、ヌマタの頭に思い浮かぶ人物は限られている。
しかし、目の前にある人物の顔がすぐに結びつかない。
「何だ、知らなかったのか? まあ、イナの顔は眼鏡をかけてないと特徴が何もないからな」
ミヤハラが意地悪く笑った。一方、イナと呼ばれた方は困っているとも、あてが外れたともつかない微妙な顔をしている。
マスクを外し素顔を晒したこの人物こそ、前ECN社社長オイゲン・イナその人であった。
「改めて自己紹介させてもらいますよ。オイゲン・イナです。とりあえず、見ての通り無事だよ」
「社長、どういうことですか?」
サクライがオイゲンに詰め寄った。未だ驚きの表情を浮かべたままである。
「今の社長はミヤハラだから、『社長』は勘弁して欲しいな。それと今、僕が姿を現したりしたら社が混乱するだろう。それに僕には社に復帰する意思はないよ」
「確かにな。今イナが姿を現せば、社内は混乱するな。まったく……俺が喜んで社長代行を降りようと思っていたのに、余計な真似をしやがって……」
ミヤハラが恨めしそうにオイゲンを見やった。
さすがに一年近くも行方不明だった社長が戻ってきたから、即社長交代、というわけにはいかないだろう。
「ならば、社長、じゃなかった、イナさんはこれからどうするつもりなのですか?」
サクライの問いに対し、オイゲンは次のように答えた。
「うん、当分はここにいる五人以外に所在を知られたくないからね。どこかで大人しくしているよ。ただ、インデストのことは何とかできるといいな、とは思っている」
それを聞いたミヤハラは、わかった、と答え、サクライとエリックにオイゲンとヌマタの当分の間の宿を確保するように命じた。
宿の手配のため、サクライとエリックがいったん部屋を出た。
「おい、ジンダイ、じゃなかった、イナさん。どういうことなんだ?」
ヌマタがオイゲンに詰め寄った。
「……すみません、いずれはハモネスに戻らなければならなかったのだけど、正体を知られると厄介なことになるから、こうするしかなかった」
「……」
「幸い、カワエさんがウォーリーやモトムラ君が知っているヌマタさん、ということがわかったし、ヌマタさんがミヤハラと顔を合わせたいこともわかったので、ミヤハラとヌマタさんが顔を合わせる場面で事情を明らかにしたほうがいいと思ったんだ」
「……さすがに驚いた。一体何事かと思った」
力なくそれだけ言うと、ヌマタは安堵の表情を浮かべた。
「それはそうと、イナもヌマタも色々と話すことがありそうだな。サクライとエリックが戻ってきたら、話してもらうぞ」
ミヤハラの言葉にオイゲンとヌマタの二人が同時にうなずいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる