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第十五章
673:目的は達成されなかった……のか?
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「IMPU設立に対する現幹部、特に設立者のアカシの見通しが甘かったのではないか?」
インデストの状況の悪さを指摘したヌマタに対し、サクライがヌマタを問い詰めていった。
ヌマタも反論を試みようとしたが、その前に助け舟が出された。
オイゲンに「現場の視点と外部の視点の差」を指摘されたサクライは追及の手を止めたのだった。
ミヤハラと比較すると、ECN社時代のサクライとオイゲンとの接点は必ずしも多くなかった。
それでも気さくなオイゲンは、サクライを含めたECN社の従業員との接点を持っており、サクライと直接会話を交わしたのも一度や二度ではなかった。
まるで面識のない相手ではない。
ミヤハラほどではないが、サクライも彼をよく知る人々からは遠慮のない性格として知られている。
しかし、どうしてもオイゲン相手の場合は畏まってしまうのだ。
ミヤハラや亡くなったウォーリーに対してこのような態度を見せることは、意図してのものを除けばほぼない。だが、オイゲンに対する場合だけはそうならなかった。
「……ああ、続けさせてもらう」
ヌマタは助かったというよりも拍子抜けした、という様子で話を再開した。
彼の見解ではIMPU設立以降の一連の事件について、IMPUの能力を超えた部分の責任までを幹部に負わせようという流れがある、とのことであった。
「地熱発電所の事件はOP社管轄の施設で起きた事件で、被害者もOP社の人間が殆どだ。そしてこの前のホテル爆破事件はインデスト市街のホテルで起きた事件で、被害者はホテルと宿泊客、その中にはECN社の社員もいたはずだが、IMPUの名前はここまで出てきていない、この意味が判るか?」
ヌマタが問いかけたが答えはない。更にヌマタは問いかけを続ける。
「……付け加えれば、発電所の事件の容疑者は組合関係者とされているが、俺が持ってきた物証がそれを否定している。IMPU参加企業の幹部の身柄を何らかの事件の容疑者として拘束しているが、二つの事件の容疑者を確保したのは『勉強会』グループだ。何か見えてくる構図がないか?」
この問いに対しても答えはなかった。
「……俺は今までの状況を見て、アカシさんが苦境に立たされていると感じた。当時、ホテル爆破事件の関係でインデスト市街への出入りが制限されていたから、農場に頼んでインデスト市街への配送の仕事を作ってもらった。そこでアカシさんと面会し、通信機を託された、という訳だ」
一気に話を終えたヌマタは、大きく肩で息をしている。
ミヤハラはヌマタの話を時折うなずきながら聞いていた。
これはいける、とヌマタは考えていたのだが、ミヤハラの反応は予想に反して薄いものであった。
「……言いたいことは大体理解した。今日は遅いし、長時間の移動で疲労もあるだろう、二人とも休んでくれ」
ミヤハラはそう言い残して席を立ち、その場から去ろうとしたのだった。
「お、おい!」
「社長のいう通りだ。こちらでも後で聞きたいことが出てくるはずだ。それまで身体を休めておいてくれ。今はこれ以上の議論をするタイミングではない」
慌ててヌマタが引き止めようとしたが、サクライがそれを制した。
「おい、ちょっと待ってくれ! 話は続いて」
ヌマタが言い終えるよりも早く、ミヤハラ、サクライの二人は部屋を出て行ってしまっていた。
「ちょ、ちょっと……」
残されたエリックが何か言いかけたが、サクライに引っ張られてしまう。
その間、オイゲンは何か考え事をしていたようで、殆ど無反応である。
ヌマタは部屋を飛び出してミヤハラたちを追おうとしたが、中にオイゲンが残っていることに気づき、オイゲンのほうを見やった。
「……イナさん、どう思う?」
「……ああなったら、これ以上ミヤハラに話をするのは逆効果だと思う」
「ならば、俺たちの行動は失敗だったのか?」
「恐らくミヤハラの中では結論が出ているのだと思う。昔から自分の結論が出ればそれ以上の話は聞かないところがあったからね」
「どんな結論になるのか?」
「わからない。ただ、メルツ室長の意向がかなり影響すると思う。そこにはかなり拘っていたように見えた」
「……わかった。今日のところは引き上げるか」
何か釈然としないヌマタであったが、ここでは大人しくミヤハラやサクライの言葉に従うことにした。
本来のヌマタであればここで騒ぎを起こして大事にしたであろうが、何故か毒気を抜かれた様子で指定された場所へと移動した。
当分の間滞在するであろうその場所は、オイゲンによればECN社の関係者が保有している施設のひとつではないかとのことであった。
(こちらを害する意図がないか、警戒しておく必要はあるな……)
ヌマタが周囲を油断なく見回した。
インデストの状況の悪さを指摘したヌマタに対し、サクライがヌマタを問い詰めていった。
ヌマタも反論を試みようとしたが、その前に助け舟が出された。
オイゲンに「現場の視点と外部の視点の差」を指摘されたサクライは追及の手を止めたのだった。
ミヤハラと比較すると、ECN社時代のサクライとオイゲンとの接点は必ずしも多くなかった。
それでも気さくなオイゲンは、サクライを含めたECN社の従業員との接点を持っており、サクライと直接会話を交わしたのも一度や二度ではなかった。
まるで面識のない相手ではない。
ミヤハラほどではないが、サクライも彼をよく知る人々からは遠慮のない性格として知られている。
しかし、どうしてもオイゲン相手の場合は畏まってしまうのだ。
ミヤハラや亡くなったウォーリーに対してこのような態度を見せることは、意図してのものを除けばほぼない。だが、オイゲンに対する場合だけはそうならなかった。
「……ああ、続けさせてもらう」
ヌマタは助かったというよりも拍子抜けした、という様子で話を再開した。
彼の見解ではIMPU設立以降の一連の事件について、IMPUの能力を超えた部分の責任までを幹部に負わせようという流れがある、とのことであった。
「地熱発電所の事件はOP社管轄の施設で起きた事件で、被害者もOP社の人間が殆どだ。そしてこの前のホテル爆破事件はインデスト市街のホテルで起きた事件で、被害者はホテルと宿泊客、その中にはECN社の社員もいたはずだが、IMPUの名前はここまで出てきていない、この意味が判るか?」
ヌマタが問いかけたが答えはない。更にヌマタは問いかけを続ける。
「……付け加えれば、発電所の事件の容疑者は組合関係者とされているが、俺が持ってきた物証がそれを否定している。IMPU参加企業の幹部の身柄を何らかの事件の容疑者として拘束しているが、二つの事件の容疑者を確保したのは『勉強会』グループだ。何か見えてくる構図がないか?」
この問いに対しても答えはなかった。
「……俺は今までの状況を見て、アカシさんが苦境に立たされていると感じた。当時、ホテル爆破事件の関係でインデスト市街への出入りが制限されていたから、農場に頼んでインデスト市街への配送の仕事を作ってもらった。そこでアカシさんと面会し、通信機を託された、という訳だ」
一気に話を終えたヌマタは、大きく肩で息をしている。
ミヤハラはヌマタの話を時折うなずきながら聞いていた。
これはいける、とヌマタは考えていたのだが、ミヤハラの反応は予想に反して薄いものであった。
「……言いたいことは大体理解した。今日は遅いし、長時間の移動で疲労もあるだろう、二人とも休んでくれ」
ミヤハラはそう言い残して席を立ち、その場から去ろうとしたのだった。
「お、おい!」
「社長のいう通りだ。こちらでも後で聞きたいことが出てくるはずだ。それまで身体を休めておいてくれ。今はこれ以上の議論をするタイミングではない」
慌ててヌマタが引き止めようとしたが、サクライがそれを制した。
「おい、ちょっと待ってくれ! 話は続いて」
ヌマタが言い終えるよりも早く、ミヤハラ、サクライの二人は部屋を出て行ってしまっていた。
「ちょ、ちょっと……」
残されたエリックが何か言いかけたが、サクライに引っ張られてしまう。
その間、オイゲンは何か考え事をしていたようで、殆ど無反応である。
ヌマタは部屋を飛び出してミヤハラたちを追おうとしたが、中にオイゲンが残っていることに気づき、オイゲンのほうを見やった。
「……イナさん、どう思う?」
「……ああなったら、これ以上ミヤハラに話をするのは逆効果だと思う」
「ならば、俺たちの行動は失敗だったのか?」
「恐らくミヤハラの中では結論が出ているのだと思う。昔から自分の結論が出ればそれ以上の話は聞かないところがあったからね」
「どんな結論になるのか?」
「わからない。ただ、メルツ室長の意向がかなり影響すると思う。そこにはかなり拘っていたように見えた」
「……わかった。今日のところは引き上げるか」
何か釈然としないヌマタであったが、ここでは大人しくミヤハラやサクライの言葉に従うことにした。
本来のヌマタであればここで騒ぎを起こして大事にしたであろうが、何故か毒気を抜かれた様子で指定された場所へと移動した。
当分の間滞在するであろうその場所は、オイゲンによればECN社の関係者が保有している施設のひとつではないかとのことであった。
(こちらを害する意図がないか、警戒しておく必要はあるな……)
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