ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
257 / 304
第十五章

675:東端目指して

しおりを挟む
「コナカさん、あとチップは何枚あるかしら?」
 カネサキがコナカに仕事モードの口調で尋ねた。
「ニ五〇枚ほどです。二日分くらいでしょうか」

 LH五二年四月一六日、「東部探索隊」のロビー・タカミが率いるチームは、サブマリン島東端からおよそ十数キロと思われる地点でキャンプを張っていた。
 この地点で比較的広い平地が見つかったとため、ロビー、ホンゴウ、オオイダの三名が周辺の調査に出ており、キャンプにはカネサキとコナカの二名が残されていた。
 探索は一時の遅れを取り戻し、予定よりもやや早くサブマリン島東端に到達できる見込みではある。

 隊は相変わらず背の高い木々に囲まれた場所を進んでおり、視界は開けていないが、進むに連れて徐々に地形が平坦になってきた。
 進むのには好都合であったが、新たな問題も生じていた。
 当初の見込みより、居住可能な平地が少ないのである。
 最大の要因は島東部を南北に分ける川の川幅にあった。
 三十数年前、「ルナ・ヘヴンス」がサブマリン島に不時着する直前に撮影された上空からの写真では、島中央部の湖「サファイア・シー」からほぼ真東に細い川が流れていた。
 写真の通りであればロビーの隊が選択したルートからは、とても川が見えるとは考えられなかった。
 しかし、実際にはロビー達の進んだルートのすぐ脇まで川が流れている場所もあり、その分、居住可能とされる平地が狭くなっていた。
 ロビーのチームの目的は島の東端までのルートを開拓することが第一である。
 だが、「東部探索隊」の主目的が「島の東部で居住可能な場所を探索すること」である以上、ロビーのチームもこの目的から逃れることはできない。
「東部探索隊」の目的からすれば、ロビーのチームの成果は著しく小さいものであった。
 カネサキはそのことを気にかけているのだが、ロビーは「相手が自然だからなぁ、居住できない場所がわかっただけでも成果じゃないか」とあまり気にしていない様子である。
 ロビーから見ればカネサキは成果を急ぎすぎのように思えるのだが、相手は社会人の先輩であり、その意見は重く見ている。
 その結果が現在の状況で、半日のロスを承知で現在地の周辺の平地を調査しているのである。
 現在の場所は調査前から比較的大きな平地があるとされている場所であり、居住可能な場所として有望視されていた。
 この場所に後続の隊が使う大規模な拠点を置くために事前調査を行う、ということで調査そのものの大義名分も立つ。
 こうした観点からロビーは妥協案として、この日一日を居住可能性調査に充てたのだ。
 カネサキもこのあたりが落としどころだ、ということは認識している。
 彼女には他に気にかかることがあり、そちらにも力を注ぎたいと考えていた。
 本社との通信で、レイカがインデストを離れざるを得なくなったと聞かされたのだ。
 このことから、インデストの状況が非常に悪いことは見当がついている。
 レイカの状況を聞いたホンゴウが「ECN社の幹部が再度インデストを訪れる際に自分が同行した方がいいのではないか」と申し出たが、これにはロビーが断固として反対した。
 ロビーのチームの誰もがハモネスへの帰還を急ぐべきだとは考えている。
 ただ、戻るための前提条件の設定については、メンバーによって差があるというだけの話なのだ。

 ロビー達が調査を終えてキャンプに戻ってきたのは、陽が完全に落ちた午後六時半を少し回った時刻であった。
 日没までに戻ってこないというのはカネサキにとって予想外であったが、オオイダからカネサキに宛てて二時間ほど前に帰りが遅れる可能性があると連絡が入っていたため、特に混乱は生じなかった。
 キャンプに戻るや否や、ロビーとホンゴウは一気に報告用の資料をまとめ、夕食の場でメンバーに調査結果を報告した。
 まず、調査に予定より時間を要した理由として、ロビーは調査した平地に入り込むための道を見つけるのに苦労したためと説明した。
 ロビーのチームが現在進んでいるルートは、川に近すぎて増水時に危険なことや、見通しが悪いことなどから、今後の移動のための道としてはふさわしくない。
 そこでこの平地に入るための他のルートを調査し、平地の北側から入るのがよさそうだという結果を得たが、この調査に時間を要した。
 その後の居住可能性の調査については、特に問題なく進み、ある程度の人数の居住については問題がなさそうだという結論に達した。
「移動の方法と、細かい部分は後のチームに任せることにして、明日一気に東端まで進む。今日は早めに休むことにしますよ、先輩方」
 そう言って、ロビー荷物の整理を始めた。
 その様子を見たメンバーは、ロビーが本気で明日一日で決着をつけるつもりだと確信した。
 ロビーが言葉の後にただちに行動に移った、ということは、その言葉が決定であるからだ。
 一度決めてしまえばロビーの行動は早い。
 ロビーの行動についていけなかったとしても、彼がそれを叱責することはまずなかった。だが、ついていけなかった者の後押しを欠かすことはなかったことから、彼が急いでいることだけは明らかだ。
 ロビーはチームのリーダーではあるが、チームの中では最年少であり、社会人としての経験も少ない。
 しかし、経験の少ないリーダーに余計な手間をかけさせようとする者は、少なくとも現在のロビーのチームには存在しなかった。
 チームの成り立ちを考慮すれば当然のことであるかもしれないが、ロビーの隊が大きなトラブルもなく運営され続けていたのはこうした要因も影響していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...