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第十五章
676:近づいてくる「終わり」
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翌四月一七日朝、ロビーたちは午前八時過ぎにサブマリン島東端へと向けて出発した。
ロビーが先頭に立ち、殿はホンゴウが引き受けている。
ロビーに焦りが見えたらホンゴウが先頭に立つつもりだったが、現在のところその気遣いは必要がないもののようであった。
「カネサキ先輩、方向は大丈夫ですかね?」
ロビーがすぐ後ろを歩くカネサキに声をかけた。
「大丈夫、ずれるようならそこで言うから、それまではそのまま進んで」
カネサキの言葉も落ち着いたものであった。
現在進んでいる方向が正しいものであれば、目的地となる島の東端は確実に近づいているはずだ。
だが、相変わらず高い木々が視界を遮っており、先に何があるのかはわからない。
細かい起伏が多いことも、見通しがきかない要因となっている。
こうした障害は隊の一部のメンバーを苛立たせはしたものの、彼らの士気を挫くには至らなかった。
彼らには亡き発案者の遺志を継いで、島の東端に達するという強い目的意識があったのだ。
一行はカネサキの計測により進む方向を調整しながら、ある程度進んではチップを設置し、また方向を調整することを繰り返していた。
最近ではこの一連の作業で進める距離はおおよそニ〇〇メートル程度に達していた。
このまま進めば、現在のチップの枚数が半分くらいになるところで目的の島東端に達することができる見込みである。
「高い木が多いわね。まだ海から距離があるっていうこと?」
オオイダがぼやくのも無理はなかった。
彼女らが住むサブマリン島西部で背の高い木がある場所といえば、島中央部のサファイア・シーに面した土地でくらいある。
人の背の高さを超えるような高木など人々の多くが活動する海岸沿いには皆無なのだ。
このためエクザロームに住む多くの者が「木があるのは内陸」と考える傾向がある。
現在進んでいるのは島の東端、すなわち海に近いエリアのはずだが、木が多い。オオイダは自らの持つ常識から「海から距離がある」と判断したのだった。
「いえ、島東部は西部と植生がまったく異なるようです。順調に行けば正午までには東端に到達できるでしょう」
ホンゴウが落ち着いた声で静かに答えた。
「それならいいけど、これだと後ろの人たちは大変ねぇ」
やれやれ、といった様子でオオイダが両手を大きく広げた。
オオイダの指摘についてはロビーにも心当たりがある。
ドガン山脈を越えてから、現在に至るまではほぼ常に高い木々に囲まれた場所を通っている。
木々が密集しているためロビーのチーム五人が通るくらいであれば問題ないが、多くの人々が通行するのには支障がある。
今後、居住地域を開拓する際には人々や物資の行き来が必須であるが、現在の状態ではそれもままならないだろう。
往来のための道を切り開く必要があるが、それに必要な人材や物資を投入する意思と能力がECN社にあるかが「東部探索隊」の今後を決定付けることになる。
ただし、ロビーにはそこまで「東部探索隊」に付き合う意思はない。
「東部探索隊」を立ち上げたのはロビーであるが、あくまでこれは故セス・クルスの希望によるものである。
セスは島の東側がどうなっているのかを知りたがっていた。
だが、島東部への移住について興味を示していたようには見えなかった。
ロビーはセスの希望をすべて把握していたわけではないが、島東部の居住地域の開拓は、セスの希望ではないと考えている。
これはセスがこうした開拓に反対していることを意味しているものではない。
開拓そのものが興味の対象外であったというのが正しい。
島の東端に達し、セスの墓前にそれを報告すれば「東部探索隊」で自身の役割は終わる、とロビー自身は考えていた。
このあたりの考え方については「とぉえんてぃ? ず」の三人も大差ないと思われた。
彼女らもまた、セスに付き合って「東部探索隊」に参加したクチである。
ECN社が今後どのような対応を取るか、ロビーにそれを決める権限はないが、どのようになってもロビー達が隊を離れることによる影響は小さい。
島東部への行き来が可能であること、居住可能なエリアが存在することさえ判明すれば、後は行き来のためのルートの整備と、都市開発の段階に入る。
ロビー達はこれら活動の専門家ではない。そしてECN社にはこうした活動の専門家が数多く存在する。
ポータル・シティやハモネスなどの都市を開発したのも、主だった都市間を結ぶ道路を整備したのもECN社である。
そのため、島東部の開拓を進める上で必要な技術と人材そのものは、ECN社が有しているといえる。
ただ、その技術はロビー達が有しているものではない、というだけの話なのだ。
しかし、現時点で「東部探索隊」として実際に探索に当たっているメンバーにこうした道路整備や都市開発の専門家はいないはずで、今後は彼らが苦労するであろうことは容易に予測できた。
(俺達の活動が終わった後のことは専門家が勝手に考えてくれるさ。俺達は島の東端を目指す、それでいい)
ロビーは声に出すことなく、そううそぶいた。
ロビーが先頭に立ち、殿はホンゴウが引き受けている。
ロビーに焦りが見えたらホンゴウが先頭に立つつもりだったが、現在のところその気遣いは必要がないもののようであった。
「カネサキ先輩、方向は大丈夫ですかね?」
ロビーがすぐ後ろを歩くカネサキに声をかけた。
「大丈夫、ずれるようならそこで言うから、それまではそのまま進んで」
カネサキの言葉も落ち着いたものであった。
現在進んでいる方向が正しいものであれば、目的地となる島の東端は確実に近づいているはずだ。
だが、相変わらず高い木々が視界を遮っており、先に何があるのかはわからない。
細かい起伏が多いことも、見通しがきかない要因となっている。
こうした障害は隊の一部のメンバーを苛立たせはしたものの、彼らの士気を挫くには至らなかった。
彼らには亡き発案者の遺志を継いで、島の東端に達するという強い目的意識があったのだ。
一行はカネサキの計測により進む方向を調整しながら、ある程度進んではチップを設置し、また方向を調整することを繰り返していた。
最近ではこの一連の作業で進める距離はおおよそニ〇〇メートル程度に達していた。
このまま進めば、現在のチップの枚数が半分くらいになるところで目的の島東端に達することができる見込みである。
「高い木が多いわね。まだ海から距離があるっていうこと?」
オオイダがぼやくのも無理はなかった。
彼女らが住むサブマリン島西部で背の高い木がある場所といえば、島中央部のサファイア・シーに面した土地でくらいある。
人の背の高さを超えるような高木など人々の多くが活動する海岸沿いには皆無なのだ。
このためエクザロームに住む多くの者が「木があるのは内陸」と考える傾向がある。
現在進んでいるのは島の東端、すなわち海に近いエリアのはずだが、木が多い。オオイダは自らの持つ常識から「海から距離がある」と判断したのだった。
「いえ、島東部は西部と植生がまったく異なるようです。順調に行けば正午までには東端に到達できるでしょう」
ホンゴウが落ち着いた声で静かに答えた。
「それならいいけど、これだと後ろの人たちは大変ねぇ」
やれやれ、といった様子でオオイダが両手を大きく広げた。
オオイダの指摘についてはロビーにも心当たりがある。
ドガン山脈を越えてから、現在に至るまではほぼ常に高い木々に囲まれた場所を通っている。
木々が密集しているためロビーのチーム五人が通るくらいであれば問題ないが、多くの人々が通行するのには支障がある。
今後、居住地域を開拓する際には人々や物資の行き来が必須であるが、現在の状態ではそれもままならないだろう。
往来のための道を切り開く必要があるが、それに必要な人材や物資を投入する意思と能力がECN社にあるかが「東部探索隊」の今後を決定付けることになる。
ただし、ロビーにはそこまで「東部探索隊」に付き合う意思はない。
「東部探索隊」を立ち上げたのはロビーであるが、あくまでこれは故セス・クルスの希望によるものである。
セスは島の東側がどうなっているのかを知りたがっていた。
だが、島東部への移住について興味を示していたようには見えなかった。
ロビーはセスの希望をすべて把握していたわけではないが、島東部の居住地域の開拓は、セスの希望ではないと考えている。
これはセスがこうした開拓に反対していることを意味しているものではない。
開拓そのものが興味の対象外であったというのが正しい。
島の東端に達し、セスの墓前にそれを報告すれば「東部探索隊」で自身の役割は終わる、とロビー自身は考えていた。
このあたりの考え方については「とぉえんてぃ? ず」の三人も大差ないと思われた。
彼女らもまた、セスに付き合って「東部探索隊」に参加したクチである。
ECN社が今後どのような対応を取るか、ロビーにそれを決める権限はないが、どのようになってもロビー達が隊を離れることによる影響は小さい。
島東部への行き来が可能であること、居住可能なエリアが存在することさえ判明すれば、後は行き来のためのルートの整備と、都市開発の段階に入る。
ロビー達はこれら活動の専門家ではない。そしてECN社にはこうした活動の専門家が数多く存在する。
ポータル・シティやハモネスなどの都市を開発したのも、主だった都市間を結ぶ道路を整備したのもECN社である。
そのため、島東部の開拓を進める上で必要な技術と人材そのものは、ECN社が有しているといえる。
ただ、その技術はロビー達が有しているものではない、というだけの話なのだ。
しかし、現時点で「東部探索隊」として実際に探索に当たっているメンバーにこうした道路整備や都市開発の専門家はいないはずで、今後は彼らが苦労するであろうことは容易に予測できた。
(俺達の活動が終わった後のことは専門家が勝手に考えてくれるさ。俺達は島の東端を目指す、それでいい)
ロビーは声に出すことなく、そううそぶいた。
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