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第十五章
677:ホンゴウの行き先
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LH五二年四月一七日午前一〇時過ぎ、それまでほぼ平らだった足元が徐々に登っていくようになった。
それに連れてロビー達の歩みの速度が落ちていった。
当初より、東端付近は居住に適さないだろうとされており、居住可能地域開拓の意味で島の東端に到達することは、あまり重要ではない。
それでも島東端という未踏の地に達することのインパクトは大きいというECN社の判断のもと、ロビー達が東端を目指すことが許容されているのだ。
ロビーからすればそのような社の思惑はどうでもよく、自身の目的のため、ただひたすら進んでいる。
歩みを進めるごとに、ロビーのチームの解散が近づいていく。
チームの解散はロビーとチームのもう一名の今後について、重大な選択を行う期限でもあった。
とはいっても、当事者の一人であるロビーの頭からは、このことがすっぽり抜け落ちている。
これはロビーがもう一名の当事者を軽んじているのではなく、目の前の目標に意識を集中させていることによるものである。
その他にもチームの解散により、メンバーは現在の仕事を離れ、他の仕事へと移ることになる。
このように島の東端への到達は、チームのメンバーに大きな変化をもたらすトリガーとなるのは間違いない。
ロビー達の歩みは、そのトリガーに向けての道でもあった。
「あとどのくらいなの? 全然先が見えないんだけど」
オオイダが舌を出して暑さに耐えている犬のようなしぐさをしている。
「オオイダ! 少しは静かにしてなさい。測定ができないじゃないの!」
そう注意ながらも、カネサキは律儀に測定を続けながら歩いている。
「だ、大丈夫です。聞こえていますから」
少し離れた場所でコナカが声をあげた。
オオイダがチップの設置位置を決めて、コナカが発信器となるチップを設置、カネサキが測定を行っている。
カネサキが測定完了の声をあげてから、コナカが次のチップをケースから取り出して設置する。
測定終了前にケースの蓋が開くと測定に影響するため、自身の声が通るよう、カネサキはオオイダに静かにするように言っているのだ。
しかし、実際のところはカネサキの声は必要以上に大きいため、多少オオイダが騒いだくらいでコナカの作業に支障はなかったのだが。
「オオイダ、今のペースで進んであと二時間くらいかしら。多分、ギリギリまで海は見えないわよ」
カネサキの言葉にオオイダが肩を落とした。
「はぁ、進む気が削がれるわねぇ……コナカ、何か食べるものない?」
「クッキーならあるけど……それでいい?」
「いい、いい。この際文句は言っていられないから!」
「はい」
オオイダとコナカのやり取りを見て、カネサキがため息をついた。
「まったく……コナカも人が好すぎるから」
「まあ、先輩。二人ともまだ余裕があるってことだと思いますよ」
ロビーが少し下がってカネサキに耳打ちした。
「あのね、あの子放っておくと苦労することになるから、ちゃんと見ていなさいよ」
カネサキの言葉にロビーは苦笑しながらも、任せてくださいと応じた。
カネサキからすれば、引っ込み思案なコナカの行く末が気になるのだろう。
その心情はロビーにも理解できるから、ロビーとしても苦笑せざるを得なかったのである。
そう考えるロビーも、同行しているホンゴウの行く末は気にしている。
コナカほどでないにしろ、ホンゴウも自己主張の少ないタイプに見える。
彼の場合はOP社治安改革部隊の出身であることを理由に行動を制限される可能性を捨てきれないため、ロビーはそれを警戒している。
特にここ数日、ホンゴウと本社が直接通信でやり取りする機会が増えている。
本社側がその現場に他人を同席させることを認めなかったため、ロビーもやり取りの内容までは把握していない。
現在、ホンゴウはECN社の社員ではなく外部の協力者という形で「東部探索隊」に参加しているため、ECN社が直接彼に何かを命じることはできないはずだ。
本社がそのことを理解していないとは思わないが、理解した上でホンゴウに何らかの圧力をかけるなどということをしない、と思えるほどロビーはお人よしではない。
ミヤハラやサクライなどの上層部が何を考えているかはわからないが、もし、社がホンゴウに何らかの圧力をかけるのであれば彼らに釘をさすべきであろうとロビーは考えている。
ロビーが隊を離れれば、ロビーとホンゴウは別の職場で仕事をすることになるだろう。
そのとき、ホンゴウとその家族の身体や精神の安全を確保できるようにしておく必要がある。
ロビーはそう考えているのであった。
だからこそ、ここ数日のホンゴウと本社の動向が気になるのである。
ロビーが隊を離れるまでの時間は、刻一刻と減ってきている。
島の東端に達すれば隊におけるロビーの役割は事実上終わりで、それからホンゴウと別れるまでの時間がホンゴウに対して何らかの手を打てる時間であった。
(東端に達したら、何を話していたかホンゴウさんに聞いてみるか……)
そのホンゴウは列の最後尾を黙々と歩いている。
それに連れてロビー達の歩みの速度が落ちていった。
当初より、東端付近は居住に適さないだろうとされており、居住可能地域開拓の意味で島の東端に到達することは、あまり重要ではない。
それでも島東端という未踏の地に達することのインパクトは大きいというECN社の判断のもと、ロビー達が東端を目指すことが許容されているのだ。
ロビーからすればそのような社の思惑はどうでもよく、自身の目的のため、ただひたすら進んでいる。
歩みを進めるごとに、ロビーのチームの解散が近づいていく。
チームの解散はロビーとチームのもう一名の今後について、重大な選択を行う期限でもあった。
とはいっても、当事者の一人であるロビーの頭からは、このことがすっぽり抜け落ちている。
これはロビーがもう一名の当事者を軽んじているのではなく、目の前の目標に意識を集中させていることによるものである。
その他にもチームの解散により、メンバーは現在の仕事を離れ、他の仕事へと移ることになる。
このように島の東端への到達は、チームのメンバーに大きな変化をもたらすトリガーとなるのは間違いない。
ロビー達の歩みは、そのトリガーに向けての道でもあった。
「あとどのくらいなの? 全然先が見えないんだけど」
オオイダが舌を出して暑さに耐えている犬のようなしぐさをしている。
「オオイダ! 少しは静かにしてなさい。測定ができないじゃないの!」
そう注意ながらも、カネサキは律儀に測定を続けながら歩いている。
「だ、大丈夫です。聞こえていますから」
少し離れた場所でコナカが声をあげた。
オオイダがチップの設置位置を決めて、コナカが発信器となるチップを設置、カネサキが測定を行っている。
カネサキが測定完了の声をあげてから、コナカが次のチップをケースから取り出して設置する。
測定終了前にケースの蓋が開くと測定に影響するため、自身の声が通るよう、カネサキはオオイダに静かにするように言っているのだ。
しかし、実際のところはカネサキの声は必要以上に大きいため、多少オオイダが騒いだくらいでコナカの作業に支障はなかったのだが。
「オオイダ、今のペースで進んであと二時間くらいかしら。多分、ギリギリまで海は見えないわよ」
カネサキの言葉にオオイダが肩を落とした。
「はぁ、進む気が削がれるわねぇ……コナカ、何か食べるものない?」
「クッキーならあるけど……それでいい?」
「いい、いい。この際文句は言っていられないから!」
「はい」
オオイダとコナカのやり取りを見て、カネサキがため息をついた。
「まったく……コナカも人が好すぎるから」
「まあ、先輩。二人ともまだ余裕があるってことだと思いますよ」
ロビーが少し下がってカネサキに耳打ちした。
「あのね、あの子放っておくと苦労することになるから、ちゃんと見ていなさいよ」
カネサキの言葉にロビーは苦笑しながらも、任せてくださいと応じた。
カネサキからすれば、引っ込み思案なコナカの行く末が気になるのだろう。
その心情はロビーにも理解できるから、ロビーとしても苦笑せざるを得なかったのである。
そう考えるロビーも、同行しているホンゴウの行く末は気にしている。
コナカほどでないにしろ、ホンゴウも自己主張の少ないタイプに見える。
彼の場合はOP社治安改革部隊の出身であることを理由に行動を制限される可能性を捨てきれないため、ロビーはそれを警戒している。
特にここ数日、ホンゴウと本社が直接通信でやり取りする機会が増えている。
本社側がその現場に他人を同席させることを認めなかったため、ロビーもやり取りの内容までは把握していない。
現在、ホンゴウはECN社の社員ではなく外部の協力者という形で「東部探索隊」に参加しているため、ECN社が直接彼に何かを命じることはできないはずだ。
本社がそのことを理解していないとは思わないが、理解した上でホンゴウに何らかの圧力をかけるなどということをしない、と思えるほどロビーはお人よしではない。
ミヤハラやサクライなどの上層部が何を考えているかはわからないが、もし、社がホンゴウに何らかの圧力をかけるのであれば彼らに釘をさすべきであろうとロビーは考えている。
ロビーが隊を離れれば、ロビーとホンゴウは別の職場で仕事をすることになるだろう。
そのとき、ホンゴウとその家族の身体や精神の安全を確保できるようにしておく必要がある。
ロビーはそう考えているのであった。
だからこそ、ここ数日のホンゴウと本社の動向が気になるのである。
ロビーが隊を離れるまでの時間は、刻一刻と減ってきている。
島の東端に達すれば隊におけるロビーの役割は事実上終わりで、それからホンゴウと別れるまでの時間がホンゴウに対して何らかの手を打てる時間であった。
(東端に達したら、何を話していたかホンゴウさんに聞いてみるか……)
そのホンゴウは列の最後尾を黙々と歩いている。
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