ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

678:終着点

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 ロビー達の進む斜面は角度を増してきているが、歩行するのに支障があるほどではなかった。
 比較的足場が安定していたためか、オオイダもクッキーを口にして以降は文句を言うことなく進んでいる。

「これなら普通に歩いて行けそうね。もっとも、調査か観光以外でこんなところに来る人はいないでしょうけど」
「先輩、開発が終わった後のことまで考えるなんて気が早いですね」
 カネサキの言葉にそう応じたロビーは、足元を見ながらこれならセスの車椅子でも進めただろうな、などと考えていた。
「それにしても戻ったら、私たち何の仕事をさせられるのかしら? 力仕事は当分遠慮しておくわ。コナカはどう?」
「……そうですね。私たちは技術者ではないですから、何の仕事を担当することになるのでしょうか……?」
 ECN社の組織上、ホンゴウを除く四名はエリック・モトムラがトップとなる一八番のタスクユニットの所属となる。
 このタスクユニットは「東部探索隊」とコンピュータシステムの設計開発が業務のふたつの柱であり、「東部探索隊」関係の業務に従事していない者はその殆どがコンピュータシステムの設計開発に従事することとなる。
 コナカの言葉通り、カネサキ、オオイダ、コナカの三名からなる「とぉえんてぃ? ず」のメンバーは皆技術者ではない。
 このため「東部探索隊」から外れると、彼女らがタスクユニット内で担当できる業務はごく限られたものになる。
 そもそも、ECN社に転じてから「東部探索隊」に参加するまでの間、彼女たちは労務関係の事務を担当していた。
 しかし、これは「タブーなきエンジニア集団」から多くの人材がECN社に転じた際に一時的に労務関係の業務が増大したことによる人員不足解消のための処置であり、現在、労務関係の業務がそれほど多いというわけではない。
 彼女たちの専門性からは「東部探索隊」を離れた場合、エリックのタスクユニットに在籍することの意義はほぼゼロに等しいとも考えられる。

「ねぇ、隊長。私たちが今後どうなるか聞いてないの?」
「それがですね、先輩。こっちは何も聞かされてないですよね」
 オオイダの質問をロビーがばっさりと切り捨てた。
 事実、ロビーは彼女らの処遇について社から何の情報も聞かされていなかった。
 エリックに対して彼女らの処遇についていくつか要望したことはあったものの、これらについてもエリックから明確な回答は得られていない。
「とか何とか言っちゃって、本当は何か聞かされているんじゃないの?」
 オオイダが疑わしげな視線を向けてきたが、ロビーとしても知らないものは答えようがない。
「だったら先輩から聞いてくださいよ。モトムラマネージャー、俺が今後どうなるかも答えてくれないんですよ」
「ケチねぇ」
 諦めたのか納得したのかロビーにはわからなかったが、オオイダはこれ以上の追及をしてこなかった。

 不意にカネサキが「そろそろよ」と伝えてきた。
 目的となる東端が近づいてきたらしい。
 ロビーが前を向いてからわずかに視線を上げると、今まで見えていなかった位置に空が見えてきた。
 今までこの角度には土の茶色が見えていたから、先が平坦か下っているのでなければその先に地面はないようだ。
 ちょっと行ってくる、と言い残してロビーが足早に坂を上っていく。
 ずるいといいながら、オオイダ、カネサキの二名がそれに続いた。
 ロビーが足を止めるまでそれほど時間はかからなかった。
 進むべき道がなくなったのだ。
「時計見て!」
 カネサキの声が飛んだところで、ロビーが腕時計に目をやった。
「一一時五二分……」
 ロビーがそう答えると、カネサキはメモを取りながらオオイダとコナカに指示を出した。
 ロビーは視線を下に向けた。
 東端とされた場所は切り立った崖の上であった。
 斜度が急すぎて、海面まで下っていくのはほぼ不可能である。
 また、高さも見当がつかないほど高い。
 ドガン山脈を越えたときを除けば、ロビーが今まで目にしたこともない高さである。
「どのくらいあるんだ? これ?」
「一〇〇メートルではきかないと思いますが……」
 いつの間にか追いついていたホンゴウが答えた。
 ホンゴウによれば、OP社の本社ビルより高いだろうとのことであった。
「そんなもの、すぐに確認するわよ。ちょっと待っていて」
 カネサキがコナカに測定用のチップを持ってこさせた。
「えいやっ!」
 そしてフリスビーの要領で、チップを前方に向かって投げた。
 すぐにチップは見えなくなった。
 それからカネサキは、声に出して五〇まで数えた。
「……そろそろいいわね」
 そしてカネサキがいつものようにチップの測定を始める。
「……チップがどこに落ちたかわからないけど、チップまでの距離は垂直方向に一七〇メートルくらいね。海にチップが沈んだとしても、こんなに岸に近い位置だったら海底でも深さは一〇メートルもないんじゃない? ざっと見積もって一五〇メートル以上、ってところじゃないかしら」
「さすがに下っていくのは無理ですね……」
 ホンゴウの言葉により、彼らの前進はこの位置で止まることとなった。

 その後、彼らはこの地で二時間ほどの調査を続けた。
 付近の海上に島などの陸地が見当たらなかったこと。
 海は波が高く、船の航行が難しそうなこと。
 付近に海面近くまで降りていける場所がなさそうなこと。
 などが確認された。
 ロビーは付近の様子を徹底的に映像として保存した。
 それは、この地を訪れたことがない者にあたかもこの地を訪れたかのように感じさせるかのようであった。
(いいか、ここが東端、だぞ……)
 ロビーは今は亡き友人に語りかけた。
 そしてこの瞬間、ロビーの「東部探索隊」における役割は終わったのだった。
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