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第十五章
688:問題の答え
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シシガと同じ、というウィリマのつぶやきの後も周囲は静まり返ったままだった。
沈黙に耐え切れず、仕方なくヌマタがシシガに話を振った。
「……何というかだな、シシガ。最初の亡霊云々の話はもういいのか?」
「それはエリックが今後調査してくれるようですし、ECN社が本腰を入れて調べれば、すぐに正体が判明するでしょう。そうですよね、エリック?」
「それは大丈夫だと思う。それにしても、シシガはどこでそんな噂を聞いたのだろうか?」
エリックの質問に、シシガは携帯端末を示した。
インデストに出入りする運送業者や観光客などがやり取りしている掲示板で、亡霊関連の投稿が複数掲載されているようであった。
「俺もこの中のいくつかは見たことがあるな」
ヌマタが画面を覗き込みながら言った。彼も運送業者であったから、こうした掲示板で情報を得ていたのだった。
(それだけ多くの人が知っているということか、気に留めておこう)
エリックは亡霊騒ぎについて注意を喚起するためにシシガが話をしたのだろう、と理解したのだった。
「ところでイナ社長、あなたはECN社を前社長から引き継ぐにあたって、迷いなどはありませんでしたか? 適性はともかく、あなたは人の上に立つことを好むように見えないのですが」
「ちょっと、シシガ」
「お、おい!」
シシガのストレートな物言いに、エリックとヌマタがほぼ同時に反応した。
オイゲンは構わないよ、と二人を止めてから次のように答えた。
「好き嫌いや得手不得手で考えたら、受ける方向にはならなかったかもしれないね。ただ、僕が受けない、という方向で行動している人がいるようには見えなかったのだよね。
その結果がこの有様だから今の事態を引き起こした責任は僕にあるのだけど」
オイゲンの言葉は淡々としていた。
ヌマタなどから見れば、もう少し自己主張したほうがよいのではないかと思われるのだが、オイゲンは拍子抜けするほどそうしたことをしない。
トップとしての実力は間違いなく故ウォーリー・トワに劣るだろう。
しかし、オイゲンには偉才を見出すことや、そうした偉才の持ち主に自由に行動させるという優れた点もある、とヌマタは考えている。
噂では凡才、無能といった評価もあるようだが、少なくともヌマタには目の前のオイゲンがそうした人物であるとは思えない。
そして、増長とは無縁で、ヌマタの考える「正しいものの見方」に一定以上の評価を与えるところも、ヌマタは好ましく思っていたのだ、
「そのような基準、ですか。なるほど、僕にはできない芸当ですね……」
そうシシガが言ったところで、ヌマタが割って入った。
「ちょっと待て! 何だお前、黙って聞いていればイナ社長に責任のないことまで突っ込んでいるじゃないか。どういう了見で物を言っているんだ?」
「ヌマタさん、僕はイナ社長がどのような判断のもとに行動したか、イナ社長のお考えを知りたいのです。あなたの参加は求めていませんよ」
ヌマタの抗議に対し、シシガはしれっと返した。
ヌマタは立ち上がり、シシガの言葉を無視するかのように声を荒げた。
「いい加減にしろ! 俺にしろ、お前やお前の両親にしろ、イナ社長だって完全じゃないんだ!
人間なんざそう作られちまったものなんだから、責めるだったらそっちを責めたらどうなんだ、ええ?!」
「?? 製造元、ということですか?」
「そうだ。創造主だか神サマだか知らねえが、こんな問題だらけの欠陥品を作りやがって、それでほくそ笑んでいるとしたら、俺は奴らの神経が知れないね! 製造物の責任を製造元に取らせないで、作られたものを責めてどうするんだ、っての、馬鹿野郎!」
「……」
ヌマタの言葉に、シシガは感心したかのように「そうか、製造元か」とつぶやいた。
「……俺はな、製造元も嫌いだが、立場が上ってだけで、欠陥品の癖に製造元のように振舞う奴らも反吐が出るほど嫌いなんだよ!」
ヌマタはそこまで言い切ると、言いたいことはすべて言わせてもらったとばかりに肩で息をしながら席に座った。
座ってからウィリマの方を向いて、「うるさくしてしまってすまない」と一言侘びを入れたあたりは彼らしい。
シシガは何度もうなずきながら、何か考えている様子であった。
そして突然立ち上がり、興奮した様子で話しはじめた。
「……そうか、完璧ですよ! ヌマタさん! 僕が存在しているとも知らなかった問題をヌマタさんは、一気に答えまで出してしまった! 何てすごい人なんだ。僕にはまだまだ勉強しなければならないことがあるのだなぁ」
「お、おい、一体何だっていうんだ?」
シシガの様子に驚いたのがヌマタである。
先ほどまで一気にまくし立てた勢いはどこへ行ったか、今は完全にシシガのペースに飲み込まれている。
「素晴らしいです! 何が素晴らしいって、人間の苦しみの原因を特定したことと、原因を対応能力のない人に押し付けることの無意味さをこれほど明確にした言葉はありません!」
そうまくし立ててシシガがヌマタの両手を取った。
シシガのテンションの高さに、ヌマタは呆気にとられたままだ。
沈黙に耐え切れず、仕方なくヌマタがシシガに話を振った。
「……何というかだな、シシガ。最初の亡霊云々の話はもういいのか?」
「それはエリックが今後調査してくれるようですし、ECN社が本腰を入れて調べれば、すぐに正体が判明するでしょう。そうですよね、エリック?」
「それは大丈夫だと思う。それにしても、シシガはどこでそんな噂を聞いたのだろうか?」
エリックの質問に、シシガは携帯端末を示した。
インデストに出入りする運送業者や観光客などがやり取りしている掲示板で、亡霊関連の投稿が複数掲載されているようであった。
「俺もこの中のいくつかは見たことがあるな」
ヌマタが画面を覗き込みながら言った。彼も運送業者であったから、こうした掲示板で情報を得ていたのだった。
(それだけ多くの人が知っているということか、気に留めておこう)
エリックは亡霊騒ぎについて注意を喚起するためにシシガが話をしたのだろう、と理解したのだった。
「ところでイナ社長、あなたはECN社を前社長から引き継ぐにあたって、迷いなどはありませんでしたか? 適性はともかく、あなたは人の上に立つことを好むように見えないのですが」
「ちょっと、シシガ」
「お、おい!」
シシガのストレートな物言いに、エリックとヌマタがほぼ同時に反応した。
オイゲンは構わないよ、と二人を止めてから次のように答えた。
「好き嫌いや得手不得手で考えたら、受ける方向にはならなかったかもしれないね。ただ、僕が受けない、という方向で行動している人がいるようには見えなかったのだよね。
その結果がこの有様だから今の事態を引き起こした責任は僕にあるのだけど」
オイゲンの言葉は淡々としていた。
ヌマタなどから見れば、もう少し自己主張したほうがよいのではないかと思われるのだが、オイゲンは拍子抜けするほどそうしたことをしない。
トップとしての実力は間違いなく故ウォーリー・トワに劣るだろう。
しかし、オイゲンには偉才を見出すことや、そうした偉才の持ち主に自由に行動させるという優れた点もある、とヌマタは考えている。
噂では凡才、無能といった評価もあるようだが、少なくともヌマタには目の前のオイゲンがそうした人物であるとは思えない。
そして、増長とは無縁で、ヌマタの考える「正しいものの見方」に一定以上の評価を与えるところも、ヌマタは好ましく思っていたのだ、
「そのような基準、ですか。なるほど、僕にはできない芸当ですね……」
そうシシガが言ったところで、ヌマタが割って入った。
「ちょっと待て! 何だお前、黙って聞いていればイナ社長に責任のないことまで突っ込んでいるじゃないか。どういう了見で物を言っているんだ?」
「ヌマタさん、僕はイナ社長がどのような判断のもとに行動したか、イナ社長のお考えを知りたいのです。あなたの参加は求めていませんよ」
ヌマタの抗議に対し、シシガはしれっと返した。
ヌマタは立ち上がり、シシガの言葉を無視するかのように声を荒げた。
「いい加減にしろ! 俺にしろ、お前やお前の両親にしろ、イナ社長だって完全じゃないんだ!
人間なんざそう作られちまったものなんだから、責めるだったらそっちを責めたらどうなんだ、ええ?!」
「?? 製造元、ということですか?」
「そうだ。創造主だか神サマだか知らねえが、こんな問題だらけの欠陥品を作りやがって、それでほくそ笑んでいるとしたら、俺は奴らの神経が知れないね! 製造物の責任を製造元に取らせないで、作られたものを責めてどうするんだ、っての、馬鹿野郎!」
「……」
ヌマタの言葉に、シシガは感心したかのように「そうか、製造元か」とつぶやいた。
「……俺はな、製造元も嫌いだが、立場が上ってだけで、欠陥品の癖に製造元のように振舞う奴らも反吐が出るほど嫌いなんだよ!」
ヌマタはそこまで言い切ると、言いたいことはすべて言わせてもらったとばかりに肩で息をしながら席に座った。
座ってからウィリマの方を向いて、「うるさくしてしまってすまない」と一言侘びを入れたあたりは彼らしい。
シシガは何度もうなずきながら、何か考えている様子であった。
そして突然立ち上がり、興奮した様子で話しはじめた。
「……そうか、完璧ですよ! ヌマタさん! 僕が存在しているとも知らなかった問題をヌマタさんは、一気に答えまで出してしまった! 何てすごい人なんだ。僕にはまだまだ勉強しなければならないことがあるのだなぁ」
「お、おい、一体何だっていうんだ?」
シシガの様子に驚いたのがヌマタである。
先ほどまで一気にまくし立てた勢いはどこへ行ったか、今は完全にシシガのペースに飲み込まれている。
「素晴らしいです! 何が素晴らしいって、人間の苦しみの原因を特定したことと、原因を対応能力のない人に押し付けることの無意味さをこれほど明確にした言葉はありません!」
そうまくし立ててシシガがヌマタの両手を取った。
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