ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

690:私たち、結婚します

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 LH五二年六月七日、ハモネスのECN社本社を五名の男女が訪れた。
 五名のうち四名は本社に所属する社員である。
 昨年八月にこの場所を出発してから、約一〇ヶ月ぶりに彼らは戻ってきた。
 彼らの先頭に立っていたのは、ロビー・タカミであった。
 彼らは「東部探索隊」の帰還報告と、今後の業務についての指示を受けるためにこの場にやって来た。
 そして、ロビーにはもうひとつ、プライベートな報告をするという目的があった。
 「はじまりの丘」へ帰還した五月二六日、コナカは「私のほうからお願いします」とロビーのプロポーズを受け入れたのであった。
 そこでロビーとコナカは、他のメンバーより二日ほど先行してハモネスに戻り、互いの親族に向けて結婚の挨拶を済ませたのであった。
 
 五人は会議室のひとつに通された。
 そこには先客として一組の男女の姿があった。
 いずれもECN社の幹部であり男性がエリック・モトムラ、女性はレイカ・メルツである。
「よく戻ってきたね、報告はサイリ君から聞いているけど、彼女らに伝えていないことで何か僕らに話すことがあるかい?」
 エリックが言う「サイリ君」とは、「はじまりの丘」に待機しているエリックの部下で、現在は「東部探索隊」でロビー達のサポートを担当しているカンナ・サイリのことである。
「『東部探索隊』という意味ではないな」
 ロビーの言葉は他に報告事項があることを仄めかしていたが、そのことについてエリックは触れようとはしなかった。
「皆さん、お疲れ様です。大変な成果でしたね。社としても胸を張って、『東部探索隊』はサブマリン島の新たな可能性を発見しましたと言うことができます。ありがとうございました」
 レイカはにこやかにロビー達を労った。
 インデストの状況は厳しいのにタフな女性だ、とロビーは感心するしかなかった。
「今日は他に何かあるんですかぁ? なければ早く帰って寝たいんですけど~」
 オオイダが気だるそうにテーブルの上に突っ伏した。
「オオイダさん、ごめんなさい。あと一人ここへ来る人がいるのだけど、彼がここへ着いてから次のお仕事と少し別の報告をするから。それが終わったら帰っていいわ」
 レイカの言葉にカネサキがちらっとエリックの方を見た。
 (オオイダがメルツ先生のところに入る、ってことね……)
 現在「東部探索隊」としてエリックの指揮下に入っている「とぉえんてぃ? ず」の三人だが、レイカの言葉から少なくともオオイダに関してはレイカの指揮下に移ることが推測される。
 一方、ロビーはこの場所に呼ばれている「もう一人」が誰かと考えていた。
 恐らく次の仕事に関係する人物なのだろうと思っているところに、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
 レイカが扉を開けると、失礼します、とノックの主が部屋へと入ってきた。
 ロビーのよく知っている声だった。
 この声を生で聞くのは一〇ヶ月ぶりくらいだろうか。
 中に入ってきたのは、ロビーほどではないが長身といえる背丈の若い男性であった。
 ただ、その男性はロビーの知っているのとは大きく姿を変えていた。
 背丈はロビーの知る者と同じであるが、その幅は半分ほどまでに減っていたのだ。
「……誰だ? お前?」
 顔などからロビーはその正体に見当がついているのだが、それでもそう言わざるを得なかったのだ。
「あの……? どちらさまでしょうか?」
 オオイダまでテーブルから顔を上げて、入ってきた男性をまじまじと見ている。
「嫌だなぁ、わからないんですか?」
 男性の声はロビーのよく知っているものだった。
 それでもその姿を見ると、ロビーは現実を認める気が失せてくるのだ。
「わかっているよ! 性質の悪い冗談ってことはな!」
「またまた。これが正真正銘のタカシ・モリタの姿ですって」
 ロビーにとって、モリタと顔を合わせるのは「東部探索隊」の出発以来となる。
 セス、ロビー、モリタの三人は職業学校時代から、「東部探索隊」の出発まで常に一緒に行動していた。
 しかし、モリタが「東部探索隊」に参加しないという決定がなされたことにより、モリタとロビーは離れて仕事をすることとなったのである。
 肥満気味だった身体はすっかり細くなり、もとからの長身も手伝って、ファッションモデルのようなスタイルとなっている。
 また、もともと顔の造形は整っていたものの、かつては体型のためにそれがはっきりと表れていなかった。
 しかし、今では顔の無駄な肉も落ちて、顔とスタイルが一致したかのようであった。
 オオイダとカネサキが呆気にとられた様子で、「嘘でしょ」とつぶやいていることからも、モリタの変貌ぶりがいかほどのものであったか推測できる。

「どうしますか? 先にプライベートな報告からでもいいんじゃないかな」
 エリックの言葉にレイカがうなずいた。
 俺か、と思ってロビーが立ち上がりかけた瞬間、レイカが首を振ってそれを制した。
「こんなところですみませんが、私から皆さんに報告することがあって、今日は皆さんをここにお呼びしました」
 (えっ?! 俺じゃなくてメルツ先生が?)
 ロビー達が首を傾げていると、レイカが回りに目をやった。
「私ことレイカ・メルツは、こちらにいらっしゃるタカシ・モリタさんと結婚します。一緒にお仕事をしていた親しい皆さんにはどうしても早く伝えたくてこうした場を設けさせてもらいました。モトムラマネージャー、すみませんでした」
 レイカがモリタと一緒に深々と頭を下げた。レイカだけではなく、モリタの動作までもが洗練されたものとなっている。
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