ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

694:二人の社長、恩師のもとを訪れる

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「さて、ワシのところに来た目的は何だね? まさかイナの甥っ子の生存を知らせるだけではあるまい」
「……最近インデストで発生している一連の事件・事故について、知る限りの情報を提供していただきたい」
 ミヤハラの言葉にカミザカ老人はわずかに眉をひそめた。
「インデストの状況は悪くなる一方です。このままでは市民が疲弊して倒れるのが先になるように思われます」
 カミザカ老人の表情を見たオイゲンが、助け舟を出した。
 オイゲンにはカミザカ老人の表情の意味がおぼろげながら理解できていた。
「ミヤハラ、どのような大儀をもって、インデストの問題に介入しようというのだ?」
「イナの言う通り、インデストでは市民生活に影響が出ているし、社の事業活動に対しても同様。ちまちま対症療法をやるより、直接原因を断った方が効率的です」
「……なるほど、面倒くさがりのお前らしいの、ミヤハラ」
 ミヤハラは不快そうな表情を見せたが、カミザカ老人は意に介さず、言葉を続けた。
「イナの甥っ子は知っているだろうが、有力者が絡む問題はなかなかに厄介だ。『ポイント決定』以外に、ひとつとして島全体に通用する規則を決められなかったワシ等の世代の力のなさが原因かも知れぬが、な」
「インデストの事件に関わっている有力者はどことどこだか教えていただけませんかね?」
「……『EMいのちの守護者の会』ならば、関わっているのはウタイ家とカノ家だ」
 ミヤハラに助け舟を出した後は一言も発さず、かつ眉一つ動かさずに会話を見守っていたオイゲンがここで大きく息を吐いた。
 オイゲンにとっては既知に近い事項であったが、ごく一部の例外を除いて他人と共有することがタブー視されている事項でもある。
 それがたった今、彼の目の前で例外以外の者に共有されたのだ。
 ただし、オイゲンはミヤハラが今までの話の内容について事前に情報を得ていなかったとは考えていない。

「さて、ここまでは調べがついているだろう。ここから先は……世論との戦争をするか否か、お前さん次第になるぞ、ミヤハラ」
「戦争にするかどうかは自分の決めることではないのでね。皆が理性的な判断をしてくれるかに懸かっています」
「相変わらずじゃな、お前さんは」
 カミザカ老人はわずかに笑みを浮かべた。
 それはミヤハラの根本的な性質が学生時代から変わっていない、ということを意味していた。
 カミザカ老人は、ミヤハラの様子を見て我を失っていないと判断した。
 これならすべてを話してもよかろう、と。
「まず、『有力者は、その管理地区においてルールである』というのは授業でもやったからわかるな?」
 カミザカ老人は悪戯小僧のような表情を浮かべて、ミヤハラを見やった。
「ああ、わかっているつもりです」
「ならば、何故彼らが管理地区においてルールとなれたか、わかるかな?」
「相変わらず遠回しな話です。答えだが、有力者達が他に統治機構を設けることに反対したこと、それと多くの市民が有力者から土地を提供されているために有力者達を支持したことなど、でしょう?」
 ミヤハラの答えにカミザカ老人は思い切り人の悪そうな表情を浮かべた。
「ミヤハラ、事前にイナの甥っ子に答えを聞いていたか? だが、その答えでは合格点はやれんな。幹部から十分な引継ぎがあったとは思えんから仕方ない部分もあるじゃろうが」
「別に今回は単位をもらいに来たのではないのでしてね、早急に解答をもらえませんかね?」
「……まあ、いいじゃろう。『大きな統治機構は効率が悪く、また暴走した場合、それを止めうる勢力が島内に存在しない』という声が強かったことも大きな要因のひとつ、ということが抜けているのじゃ、わかるか?」
 ミヤハラがわずかに不快そうな表情を見せたのに満足したのか、カミザカ老人は驚くほどあっさりと解答を示した。
「なるほどな。その声の出所はどこになるのですかね?」
「証拠がないのでな、確実なことは言えんのじゃが、そういう声があることを喧伝して得する連中、と考えるのが自然、と言ったところじゃな」
「ああ、有力者どもとその取り巻きのマスコミとかか」
 ミヤハラの答えにカミザカ老人は、正しいとも誤りだとも答えなかった。
「そういう姿を表に出さない連中を相手にすることになる、ということは理解しておろうな?」
「……やりたくなくても、やらざるを得ないというところだな」
「正直だな。それなら心配はいらんじゃろ」
 カミザカ老人はそう言うと表情を和らげ、資料を持ってくると部屋を後にした。

「おい、イナ。お前が話さないから、テストになっちまったじゃないか!」
 カミザカ老人の姿が見えなくなったところで、ミヤハラがオイゲンに抗議した。
「すまない。けど、先生の性格ではどっちみちテストをすると思うけどなぁ。それに僕がインデストに介入すると言ったら止められるだけだったと思うよ」
 ミヤハラの抗議にオイゲンは苦笑しながら答えた。
「確かにイナに荒事は向いていないからな。ただ、俺だって他に適任がいればそいつにやらせるつもりなのだがな」
 ミヤハラがそう言ったところでカミザカが携帯端末を手にして戻ってきた。

「ワシからはインデストの事件に関係しそうな情報を提供することと、イナの甥っ子が生きているという情報を隠しておくこと、それだけでいいのじゃな?」
「それと今日の訪問について、他人にはその目的を秘密にしてくれ」
「ミヤハラ、相変わらず注文が多いの。まあ、今日のところは、経営の相談に来た、というところにしておくか」
「それでお願いする」
 その後ミヤハラとオイゲンは、三〇分ほどカミザカ老人と雑談し、老人の家を後にした。

「あのなぁ、学校のテストのようにちゃんと準備しておけよ。あの爺さんのところに話に行く時点でテストになるのはわかっていただろうに……」
「すまない、ミヤハラ。ちょっと準備不足だったね」
「準備不足って、これがテストなら単位が厳しかったぞ、まったく。俺が何とか上手に切り抜けたからいいようなものの、学生時代はもう少し上手くやっていただろう、イナ」
「うーん、やっぱりまだ感覚が戻りきっていないのかもしれない。さすがにこの状態では社に復帰する選択はできないね」
「……まったく、そのあたりしっかりしてくれないと困るぜ。ただでさえ、俺のところの負荷が大きいのだからな」
 ミヤハラはオイゲンと別れるまで愚痴を吐き続けていた。
 別れ際にミヤハラはオイゲンに対して、カミザカ老人から提供された情報の内容確認をするよう依頼した。
「エリックにばかり負担はかけられないからな。もっとも、確認の信頼度の問題もあるから、サクライあたりにフォローさせるか」
 ミヤハラの言った通り、この後サクライはオイゲンの作業に付き合わされることになる。
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