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第十五章
698:「EMいのちの守護者の会」
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この有力者達の残党ともいえる「EMいのちの守護者の会」は、子供への安全や教育の機会の提供に大きく貢献している一方で、一部の人々からは数々の事件に関与しているという疑惑を持たれていた。
学校や孤児院などの運営以外に、多額の資金の動きがあること。
犯罪に関与している団体や企業との関係が疑われていること。
マスコミを通じた情報操作を行っている可能性が指摘されていること。
これらの疑惑のうち、資金の動きについてカミザカ老人はある程度の情報を持っていたようであった。
これは、通貨システムに関与し、その情報を閲覧する権限を持っていたことによると考えられるが、それがゆえに公にできなかったのであろう。
サブマリン島の中で唯一といってよい全島統一的なルールである「ポイント決定」でも、通貨システムに登録されている情報の漏洩は重大な罪とされている。
カミザカ老人といえど、このルールからは逃れることはできない。
「さて、この情報がインデスト行きにどう繋がるんだ?」
ロビーが思ったままを口にした。
すると、この場の名目上の最上位者であるサクライが周囲を見回してからロビーに説明を始めた。
「『EMいのちの守護者の会』が『勉強会』グループへの支持を表明しただろう。我々ECN社は態度を明確にしていないが、IMPU支持に回る予定だ。ならば、『EMいのちの守護者の会』は対抗する相手となる。だから、相手のことを調べているのだ」
サクライの説明にロビーはしっくりしないという表情を浮かべている。
「EMいのちの守護者の会」については、学校や孤児院を運営する慈善団体としての顔だけを知っている者が大多数だからだ。ロビーも例外ではない。
そして、ロビーの認識はある意味正しい。
カミザカ老人から得られた情報にも記載されていたが、子供への安全や教育の機会の提供といった慈善活動以外の活動に関与している者は、上層部のうち表に出ていないごく一部に限られているためだ。
「通貨システムを覗けば、奴等に不正があるかどうかはわかるということか。インデストでの行動を決めるためにも、通貨システムの情報を知っておきたい。そうでなければ、俺はどちらに与するか決めたくはない」
ロビーの言葉にサクライが顔をしかめた。
面倒なことになった、とでも考えたようであった。
部屋の中が沈黙に覆われる。
ロビーとモリタがサクライのほうに目をやった。
ホンゴウは資料を見直しており、オイゲンは何か考える様子を見せている。
サクライは仕方ない、という様子で口を開いた。
「……まったく。この件で最終的に意思決定するのは社長だ。イナさん、社長に何とかするよう言ってもらえないでしょうか」
結局のところ、サクライはミヤハラとオイゲンに責任を放り投げたのだ。
サクライからすれば、今この場に自分がいるのもミヤハラが責任を押し付けたからであり、この程度の仕返しは当然の権利であると考えている。
「こちらも勝手に行方不明になって迷惑をかけているからね、やってみるよ」
オイゲンが素直に引き受けたことに、サクライは安堵した。
ロビーはオイゲンの返事を聞いて彼の方へと目をやった。
その目は「義務を確実に遂行するまでは、許さないからな」と脅しているかのようであった。
それに気付いたのか、オイゲンはすぐにサクライを通してミヤハラと連絡を取った。
「……と言うわけでミヤハラ、『EMいのちの守護者の会』の資金の流れについて通貨システムのデータをここにいるメンバーに見せたい。カミザカ先生の情報の確認のために必要なのだけど」
オイゲンの言葉に画面に映るミヤハラの表情が険しいものとなる。
「厄介ごとを押し付けやがったな、イナ。サクライはともかくホンゴウさんやタカミ、モリタも巻き込むつもりか?」
「そこは僕とミヤハラの動き次第、だろう」
「む……」
ミヤハラの表情が露骨に不快感を表していた。
「EMいのちの守護者の会」の資金の流れについて、情報をつかむ必要があることはミヤハラも理解している。
しかし、タブーとされている通貨システムのデータの覗き見をわざわざ宣言する必要があるのか、というのがミヤハラの考えだ。
「どちらにせよ、ミヤハラは通貨システムを見ることができないのではないかな。それでもミヤハラは通貨システムの中を確認する必要があるだろう」
オイゲンのこの言葉はミヤハラの急所を突いていた。
確かにミヤハラは通貨システムの中身を見ることができないのだ。彼は権限そのものを有していない。
「それをわかっているなら、俺に権限を付加したらどうなんだ?」
「できればそうしたいんだけど、僕には閲覧の権限しかない。他人の権限を変更することは出来ないんだよ……」
「む……」
画面を通じたオイゲンとミヤハラのにらみ合いが続く。
表情には出さないものの、サクライなどは気が気ではなかった。
サクライにとってはミヤハラもオイゲンも上司のようなものである。
現在のECN社の社長 (後ろに「代行」がつくのだが)であるミヤハラはともかく、オイゲンは事実上ECN社を外れた状態だ。だが、サクライからすればそうもいかないのである。
「……わかった。とりあえずは貸しだな」
ミヤハラがオイゲンに向かって答えた。
「ああ、それでいいさ。いずれにせよ僕らが関与しなければならないだろう」
「誰の許可を得て『僕ら』に俺を巻き込んだのだか」
ミヤハラはオイゲンを咎めるような表情を見せたが、それも長いことは続かず、すぐにいつもの仏頂面に戻ったのだった。
学校や孤児院などの運営以外に、多額の資金の動きがあること。
犯罪に関与している団体や企業との関係が疑われていること。
マスコミを通じた情報操作を行っている可能性が指摘されていること。
これらの疑惑のうち、資金の動きについてカミザカ老人はある程度の情報を持っていたようであった。
これは、通貨システムに関与し、その情報を閲覧する権限を持っていたことによると考えられるが、それがゆえに公にできなかったのであろう。
サブマリン島の中で唯一といってよい全島統一的なルールである「ポイント決定」でも、通貨システムに登録されている情報の漏洩は重大な罪とされている。
カミザカ老人といえど、このルールからは逃れることはできない。
「さて、この情報がインデスト行きにどう繋がるんだ?」
ロビーが思ったままを口にした。
すると、この場の名目上の最上位者であるサクライが周囲を見回してからロビーに説明を始めた。
「『EMいのちの守護者の会』が『勉強会』グループへの支持を表明しただろう。我々ECN社は態度を明確にしていないが、IMPU支持に回る予定だ。ならば、『EMいのちの守護者の会』は対抗する相手となる。だから、相手のことを調べているのだ」
サクライの説明にロビーはしっくりしないという表情を浮かべている。
「EMいのちの守護者の会」については、学校や孤児院を運営する慈善団体としての顔だけを知っている者が大多数だからだ。ロビーも例外ではない。
そして、ロビーの認識はある意味正しい。
カミザカ老人から得られた情報にも記載されていたが、子供への安全や教育の機会の提供といった慈善活動以外の活動に関与している者は、上層部のうち表に出ていないごく一部に限られているためだ。
「通貨システムを覗けば、奴等に不正があるかどうかはわかるということか。インデストでの行動を決めるためにも、通貨システムの情報を知っておきたい。そうでなければ、俺はどちらに与するか決めたくはない」
ロビーの言葉にサクライが顔をしかめた。
面倒なことになった、とでも考えたようであった。
部屋の中が沈黙に覆われる。
ロビーとモリタがサクライのほうに目をやった。
ホンゴウは資料を見直しており、オイゲンは何か考える様子を見せている。
サクライは仕方ない、という様子で口を開いた。
「……まったく。この件で最終的に意思決定するのは社長だ。イナさん、社長に何とかするよう言ってもらえないでしょうか」
結局のところ、サクライはミヤハラとオイゲンに責任を放り投げたのだ。
サクライからすれば、今この場に自分がいるのもミヤハラが責任を押し付けたからであり、この程度の仕返しは当然の権利であると考えている。
「こちらも勝手に行方不明になって迷惑をかけているからね、やってみるよ」
オイゲンが素直に引き受けたことに、サクライは安堵した。
ロビーはオイゲンの返事を聞いて彼の方へと目をやった。
その目は「義務を確実に遂行するまでは、許さないからな」と脅しているかのようであった。
それに気付いたのか、オイゲンはすぐにサクライを通してミヤハラと連絡を取った。
「……と言うわけでミヤハラ、『EMいのちの守護者の会』の資金の流れについて通貨システムのデータをここにいるメンバーに見せたい。カミザカ先生の情報の確認のために必要なのだけど」
オイゲンの言葉に画面に映るミヤハラの表情が険しいものとなる。
「厄介ごとを押し付けやがったな、イナ。サクライはともかくホンゴウさんやタカミ、モリタも巻き込むつもりか?」
「そこは僕とミヤハラの動き次第、だろう」
「む……」
ミヤハラの表情が露骨に不快感を表していた。
「EMいのちの守護者の会」の資金の流れについて、情報をつかむ必要があることはミヤハラも理解している。
しかし、タブーとされている通貨システムのデータの覗き見をわざわざ宣言する必要があるのか、というのがミヤハラの考えだ。
「どちらにせよ、ミヤハラは通貨システムを見ることができないのではないかな。それでもミヤハラは通貨システムの中を確認する必要があるだろう」
オイゲンのこの言葉はミヤハラの急所を突いていた。
確かにミヤハラは通貨システムの中身を見ることができないのだ。彼は権限そのものを有していない。
「それをわかっているなら、俺に権限を付加したらどうなんだ?」
「できればそうしたいんだけど、僕には閲覧の権限しかない。他人の権限を変更することは出来ないんだよ……」
「む……」
画面を通じたオイゲンとミヤハラのにらみ合いが続く。
表情には出さないものの、サクライなどは気が気ではなかった。
サクライにとってはミヤハラもオイゲンも上司のようなものである。
現在のECN社の社長 (後ろに「代行」がつくのだが)であるミヤハラはともかく、オイゲンは事実上ECN社を外れた状態だ。だが、サクライからすればそうもいかないのである。
「……わかった。とりあえずは貸しだな」
ミヤハラがオイゲンに向かって答えた。
「ああ、それでいいさ。いずれにせよ僕らが関与しなければならないだろう」
「誰の許可を得て『僕ら』に俺を巻き込んだのだか」
ミヤハラはオイゲンを咎めるような表情を見せたが、それも長いことは続かず、すぐにいつもの仏頂面に戻ったのだった。
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