281 / 304
第十五章
699:やり合いたくない相手
しおりを挟む
「さて、ミヤハラのおっさんはどう動くかな? ヤマガタの爺さんが俺の言う通り動いていれば、こんな面倒なことにはならなかったのだけどな」
小柄な男性が意地悪く笑った。
「今の経営陣にはいい意味でのベテランがいませんからな。その意味では非常に厳しい立場にあるでしょう。シヴァ所長が適正価格でアドバイスしてみてはいかがですか?」
「嫌だね。頼まれもしないのに、意味のない相手にアドバイスなんて御免だね。それに、面白くないんだよな、あの連中は。ここはお手並み拝見でいこうじゃないか」
小柄な男性━━「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァ━━は、面白くなさそうに答えると、背伸びして自分よりも背の高い相手の頭を軽く叩いた。
頭を叩かれた方、副所長のヨシクニ・サワムラは不快さを見せることもなく、落ち着いて、そうですな、と答えた。
「さて、状況が状況だ。所員に説明する必要があるだろう。副所長、準備はできているな?」
「勿論。一七時に招集をかけてあります」
「その後は?」
「一九時には終わることができるでしょう。所長、一九時半からでいいですかな? 場所は所長に一任します」
「しかたねぇな。まあ、そこまで頼むんだったらやってやるよ。年長者への義理は果たさないとな」
トニーはふんぞり返って、偉そうにうなずいた。
サワムラはお願いしますよと両手を合わせて頭を下げた。
「リスク管理研究所」は、インデストで起きている一連の事件に対して、ほぼ一貫して静観している。
遠く離れたインデストの状勢について、情報を集めるための資源も少ない状態では危険が大きい、とトップのトニーが判断したためだ。
一方、ポータル・シティ及びその周辺の電力供給状況やOP社の動向などについては、積極的に状況を評価し、対応の問題を指摘していた。
ただし、直接的に事態に介入することは絶対にしない、というのが彼らのスタンスである。
彼らの指摘は少なくない数の市民や専門家からも支持を得ていた。
その中で特に評価が高いのが、行方不明とされているエイチ・ハドリが治安改革部隊に発電技術者を投入したこと、及びこれらの発電技術者の多くが復帰していないことへの指摘であった。
特にハドリ不在となってからのOP社のマネジメント力については、痛烈な批判を寄せており、最近発表しているレポートもこの件が中心となっている。
ECN社の責任についても指摘はあるが、こちらは主にOP社への支援が小出しになっていることに対する経営陣への批判が中心だ。
その一方で、レイカ・メルツが中心となって実施している治安改革部隊からの発電技術者への復帰プログラムについては、八割以上の皮肉を込めながらも一定の評価はしている。
トニーが今になって所員を集めて状況説明をしようとしているのには理由がある。
インデストの状況についての情報が十分に得られていない状態で、所員がこの件について不用意な発言をすることを防止するためである。
「リスク管理研究所」がインデストの状況について、十分な情報が得られていないのは、単純にそのための資源が不足しているからだ。
しかし、最近になってインデストの状況について「リスク管理研究所」による問題の分析を希望する声も徐々に大きくなっている。
電力不足問題とOP社の迷走、そしてインデストの治安悪化の間に関連があると考える者が増えているためのようであった。
インデストの状勢に通じている元OP社治安改革部隊のオオカワを引き入れたことで、ある程度インデストに関する情報も入るようになってきた。
しかし、情報の絶対量の不足は否めず、かつ「リスク管理研究所」にとって、分析のメリットが少ない問題であるとトニーをはじめとした上層部は判断している。
そう判断した最大の要因は「EMいのちの守護者の会」が「勉強会」グループへの支持を表明したことであった。
IMPU内部の対立にOP社が絡む程度であれば、それほど問題はない。
トニーなどの目から見れば甘い点はあっても、ある程度は合理的に動くし、理屈が通じる相手である。
しかし、「EMいのちの守護者の会」は別だ。
「子供のため」というマジックワードひとつで理屈がすべて吹っ飛ぶ相手では、「リスク管理研究所」としても分が悪い。
そのような者は恐らく一部であるだろうが、相手の影響力が大きすぎる。
「EMいのちの守護者の会」絡みでは、トニーも過去に何度か痛い目にあっている。
「リスク管理研究所」が発表しているレポートに対して、苦情が殺到し、その対応に追われたのは一度や二度ではない。
また、「EMいのちの守護者の会」を支援している配偶者を持つ所員が、配偶者を説得できず所を去ったこともある。
トニーが目をかけていた所員だっただけに、本人は認めようとしていないが痛手は大きかった。
トニーには「EMいのちの守護者の会」憎しの感情はあるのだが、直接やり合うほど冷静さを欠いているわけではない。
むしろ、「いかにして他者の手で相手を黙らせるか」という方向に知恵を絞っている。
小柄な男性が意地悪く笑った。
「今の経営陣にはいい意味でのベテランがいませんからな。その意味では非常に厳しい立場にあるでしょう。シヴァ所長が適正価格でアドバイスしてみてはいかがですか?」
「嫌だね。頼まれもしないのに、意味のない相手にアドバイスなんて御免だね。それに、面白くないんだよな、あの連中は。ここはお手並み拝見でいこうじゃないか」
小柄な男性━━「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァ━━は、面白くなさそうに答えると、背伸びして自分よりも背の高い相手の頭を軽く叩いた。
頭を叩かれた方、副所長のヨシクニ・サワムラは不快さを見せることもなく、落ち着いて、そうですな、と答えた。
「さて、状況が状況だ。所員に説明する必要があるだろう。副所長、準備はできているな?」
「勿論。一七時に招集をかけてあります」
「その後は?」
「一九時には終わることができるでしょう。所長、一九時半からでいいですかな? 場所は所長に一任します」
「しかたねぇな。まあ、そこまで頼むんだったらやってやるよ。年長者への義理は果たさないとな」
トニーはふんぞり返って、偉そうにうなずいた。
サワムラはお願いしますよと両手を合わせて頭を下げた。
「リスク管理研究所」は、インデストで起きている一連の事件に対して、ほぼ一貫して静観している。
遠く離れたインデストの状勢について、情報を集めるための資源も少ない状態では危険が大きい、とトップのトニーが判断したためだ。
一方、ポータル・シティ及びその周辺の電力供給状況やOP社の動向などについては、積極的に状況を評価し、対応の問題を指摘していた。
ただし、直接的に事態に介入することは絶対にしない、というのが彼らのスタンスである。
彼らの指摘は少なくない数の市民や専門家からも支持を得ていた。
その中で特に評価が高いのが、行方不明とされているエイチ・ハドリが治安改革部隊に発電技術者を投入したこと、及びこれらの発電技術者の多くが復帰していないことへの指摘であった。
特にハドリ不在となってからのOP社のマネジメント力については、痛烈な批判を寄せており、最近発表しているレポートもこの件が中心となっている。
ECN社の責任についても指摘はあるが、こちらは主にOP社への支援が小出しになっていることに対する経営陣への批判が中心だ。
その一方で、レイカ・メルツが中心となって実施している治安改革部隊からの発電技術者への復帰プログラムについては、八割以上の皮肉を込めながらも一定の評価はしている。
トニーが今になって所員を集めて状況説明をしようとしているのには理由がある。
インデストの状況についての情報が十分に得られていない状態で、所員がこの件について不用意な発言をすることを防止するためである。
「リスク管理研究所」がインデストの状況について、十分な情報が得られていないのは、単純にそのための資源が不足しているからだ。
しかし、最近になってインデストの状況について「リスク管理研究所」による問題の分析を希望する声も徐々に大きくなっている。
電力不足問題とOP社の迷走、そしてインデストの治安悪化の間に関連があると考える者が増えているためのようであった。
インデストの状勢に通じている元OP社治安改革部隊のオオカワを引き入れたことで、ある程度インデストに関する情報も入るようになってきた。
しかし、情報の絶対量の不足は否めず、かつ「リスク管理研究所」にとって、分析のメリットが少ない問題であるとトニーをはじめとした上層部は判断している。
そう判断した最大の要因は「EMいのちの守護者の会」が「勉強会」グループへの支持を表明したことであった。
IMPU内部の対立にOP社が絡む程度であれば、それほど問題はない。
トニーなどの目から見れば甘い点はあっても、ある程度は合理的に動くし、理屈が通じる相手である。
しかし、「EMいのちの守護者の会」は別だ。
「子供のため」というマジックワードひとつで理屈がすべて吹っ飛ぶ相手では、「リスク管理研究所」としても分が悪い。
そのような者は恐らく一部であるだろうが、相手の影響力が大きすぎる。
「EMいのちの守護者の会」絡みでは、トニーも過去に何度か痛い目にあっている。
「リスク管理研究所」が発表しているレポートに対して、苦情が殺到し、その対応に追われたのは一度や二度ではない。
また、「EMいのちの守護者の会」を支援している配偶者を持つ所員が、配偶者を説得できず所を去ったこともある。
トニーが目をかけていた所員だっただけに、本人は認めようとしていないが痛手は大きかった。
トニーには「EMいのちの守護者の会」憎しの感情はあるのだが、直接やり合うほど冷静さを欠いているわけではない。
むしろ、「いかにして他者の手で相手を黙らせるか」という方向に知恵を絞っている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる