ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

712:「とぉえんてぃ? ず」リーダーを失う

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 一方、部屋の中ではオオイダがカネサキのもとに呼ばれていた。
 カネサキの痙攣は治まっていたが、呼吸が乱れていたため落ち着くのを待っていた。
「カネサキ……何でこんなになっちゃうのよ?」
 オオイダは、泣きながら抗議するかのようにわめいた。
「アンタね……何て顔しているのよ。しっかり……しなさい!」
 カネサキの叱咤には、いつもの力強さと切れがなかった。
「カネサキ、アンタこそ、こんなところでへたばっている場合じゃないでしょ!」
「……そうね、落ち着いたら……戻るわ。それと……コナカ、こっちに来なさい」
 カネサキに呼ばれたコナカが慌ててカネサキのもとへ駆け寄った。
「いい、二人とも……私は……しばらく一緒には……行けない」
 カネサキの言葉と表情に、只事ではないと感じたオオイダとコナカが顔を見合わせた。
「アンタたちが……先生を……守りなさい」
 そこまで言い終えると、カネサキの身体が再び痙攣を始めた。
「いかん!」
 モモギが慌てて、カネサキに酸素マスクを着けさせた。
 しばらくして痙攣は治まったが、モモギはこれ以上カネサキに負担をかけるのは危険と判断し、オオイダとコナカに会話を中止するよう依頼しようとした。
 しかし、落ち着いたカネサキが、それを遮った。
「モモギさん……まだ、話は終わって……いません」
 カネサキの声は弱弱しいものであったが、その表情には断ることを許さないような迫力があった。
「オオイダ、コナカ……悪いんだけど、私の帰りが遅れるよう……だったら、弟の面倒を……よろしく。あの子は……ちょっと心配……だから……」
「わかったわよ、カネサキ! 他に言う事はないの?」
「カネサキさん……」
「二人とも……情けない……顔、するんじゃないわよ……特にオオイダ……」
「何よ! カネサキ!」
「今日は……これで、終わり……二人とも……戻っていいわよ……」
 そこまで言い終えると、カネサキは目を閉じた。
 オオイダとコナカはそのまま部屋に残り、カネサキの様子を見守ることにした。

「ねぇ、コナカ。カネサキ、大丈夫かな……?」
 オオイダはいつもの能天気さを微塵も見せず、不安そうにコナカに尋ねた。
「このまま……落ち着いてくれれば……」
 二人がカネサキを見守っている間、シバノイ、モモギ、レイカなどの面々が忙しく部屋を出入りしている。
 その様子から医師の到着まで時間がかかりそうなこと、凶器の分析が思うように進んでいないことなどが感じとれた。

 一四時半━━カネサキが刺されてからおよそ一時間半、オオイダとコナカがカネサキとの話を終えてから四〇分後、ようやくインデストの病院から医師と二名の看護師が到着した。
 すぐに診察が開始されたが、カネサキの状態は非常に厳しいものであった。
 モモギの手によって毒らしきものは相当量吸い出されたものの、カネサキの状況を改善するには至っていない。
 医師からは体内に打ち込まれた毒らしきものが何か判明しない限り、対症療法しか取り得ないことが伝えられた。
 毒らしきものの分析は必死に進められているが、現時点ではそれが何か判明していない。
 また、カネサキには頻繁に痙攣や呼吸困難が生じており、本人の体力の維持も厳しい状況、とのことであった。

 一五時四〇分、カネサキの呼吸が停止した。
 呼吸は十数秒後に回復したが、今までの荒い呼吸から弱弱しいものへと変わった。
 五分後、カネサキが不意に言葉を発した。
「……オオイダ、コナカ……いるわね」
「カネサキ! いるわよ!」
「カネサキさん……」
 オオイダとコナカが心配そうにカネサキの顔を覗き込む。
 カネサキの目はわずかに開かれていたが、瞳には光がほとんど感じられなかった。
「いるなら……いいわ……よく……見えないのよ……」
 そう喘ぐように言うと、カネサキは再び目を閉じた。

 一五時四九分、再びカネサキが言葉を発した。
「セス君の……隣なんて……いいわね……」
 言葉の後、オオイダとコナカがカネサキに呼びかけたが、反応はなかった。
 更に三分後の一五時五二分、カネサキの身体が跳ね上がった。
 直後にカネサキのうめく様な声が聞こえてきた。
「オオイダ……コナカ……しっかり……」
 言葉が途切れるのと同時に、カネサキの身体は床に着地し、痙攣を始めた。
 痙攣は数秒続き、その後カネサキの呼吸が停止した。
「ちょっと、カネサキ! 何やっているのよ!」
 オオイダがカネサキの身体を乱暴に揺さぶった。
 コナカがオオイダの腕の上に自分の手を乗せる。
「嘘でしょ! カネサキ! アンタ寝ている場合じゃ……」
 オオイダは叫んだが、その後は声にならなかった。
 不意にカネサキが、大きくふうと呼吸した。
 驚いたオオイダが慌てて手を放した。
「何やって……」
 そう言いかけたところで、再びカネサキの呼吸が停止した。
「失礼します」
 医師と看護師がオオイダとコナカの間に割り込んで、カネサキに蘇生措置を施す。
 しかし、カネサキは戻ってこなかった。
 一六時一〇分、カネサキの蘇生は断念された。
 こうしてカネサキは、三二年の生涯を故郷のサンジョウから遠く離れたインデストの地で閉じたのだった。
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