294 / 304
第十五章
712:「とぉえんてぃ? ず」リーダーを失う
しおりを挟む
一方、部屋の中ではオオイダがカネサキのもとに呼ばれていた。
カネサキの痙攣は治まっていたが、呼吸が乱れていたため落ち着くのを待っていた。
「カネサキ……何でこんなになっちゃうのよ?」
オオイダは、泣きながら抗議するかのようにわめいた。
「アンタね……何て顔しているのよ。しっかり……しなさい!」
カネサキの叱咤には、いつもの力強さと切れがなかった。
「カネサキ、アンタこそ、こんなところでへたばっている場合じゃないでしょ!」
「……そうね、落ち着いたら……戻るわ。それと……コナカ、こっちに来なさい」
カネサキに呼ばれたコナカが慌ててカネサキのもとへ駆け寄った。
「いい、二人とも……私は……しばらく一緒には……行けない」
カネサキの言葉と表情に、只事ではないと感じたオオイダとコナカが顔を見合わせた。
「アンタたちが……先生を……守りなさい」
そこまで言い終えると、カネサキの身体が再び痙攣を始めた。
「いかん!」
モモギが慌てて、カネサキに酸素マスクを着けさせた。
しばらくして痙攣は治まったが、モモギはこれ以上カネサキに負担をかけるのは危険と判断し、オオイダとコナカに会話を中止するよう依頼しようとした。
しかし、落ち着いたカネサキが、それを遮った。
「モモギさん……まだ、話は終わって……いません」
カネサキの声は弱弱しいものであったが、その表情には断ることを許さないような迫力があった。
「オオイダ、コナカ……悪いんだけど、私の帰りが遅れるよう……だったら、弟の面倒を……よろしく。あの子は……ちょっと心配……だから……」
「わかったわよ、カネサキ! 他に言う事はないの?」
「カネサキさん……」
「二人とも……情けない……顔、するんじゃないわよ……特にオオイダ……」
「何よ! カネサキ!」
「今日は……これで、終わり……二人とも……戻っていいわよ……」
そこまで言い終えると、カネサキは目を閉じた。
オオイダとコナカはそのまま部屋に残り、カネサキの様子を見守ることにした。
「ねぇ、コナカ。カネサキ、大丈夫かな……?」
オオイダはいつもの能天気さを微塵も見せず、不安そうにコナカに尋ねた。
「このまま……落ち着いてくれれば……」
二人がカネサキを見守っている間、シバノイ、モモギ、レイカなどの面々が忙しく部屋を出入りしている。
その様子から医師の到着まで時間がかかりそうなこと、凶器の分析が思うように進んでいないことなどが感じとれた。
一四時半━━カネサキが刺されてからおよそ一時間半、オオイダとコナカがカネサキとの話を終えてから四〇分後、ようやくインデストの病院から医師と二名の看護師が到着した。
すぐに診察が開始されたが、カネサキの状態は非常に厳しいものであった。
モモギの手によって毒らしきものは相当量吸い出されたものの、カネサキの状況を改善するには至っていない。
医師からは体内に打ち込まれた毒らしきものが何か判明しない限り、対症療法しか取り得ないことが伝えられた。
毒らしきものの分析は必死に進められているが、現時点ではそれが何か判明していない。
また、カネサキには頻繁に痙攣や呼吸困難が生じており、本人の体力の維持も厳しい状況、とのことであった。
一五時四〇分、カネサキの呼吸が停止した。
呼吸は十数秒後に回復したが、今までの荒い呼吸から弱弱しいものへと変わった。
五分後、カネサキが不意に言葉を発した。
「……オオイダ、コナカ……いるわね」
「カネサキ! いるわよ!」
「カネサキさん……」
オオイダとコナカが心配そうにカネサキの顔を覗き込む。
カネサキの目はわずかに開かれていたが、瞳には光がほとんど感じられなかった。
「いるなら……いいわ……よく……見えないのよ……」
そう喘ぐように言うと、カネサキは再び目を閉じた。
一五時四九分、再びカネサキが言葉を発した。
「セス君の……隣なんて……いいわね……」
言葉の後、オオイダとコナカがカネサキに呼びかけたが、反応はなかった。
更に三分後の一五時五二分、カネサキの身体が跳ね上がった。
直後にカネサキのうめく様な声が聞こえてきた。
「オオイダ……コナカ……しっかり……」
言葉が途切れるのと同時に、カネサキの身体は床に着地し、痙攣を始めた。
痙攣は数秒続き、その後カネサキの呼吸が停止した。
「ちょっと、カネサキ! 何やっているのよ!」
オオイダがカネサキの身体を乱暴に揺さぶった。
コナカがオオイダの腕の上に自分の手を乗せる。
「嘘でしょ! カネサキ! アンタ寝ている場合じゃ……」
オオイダは叫んだが、その後は声にならなかった。
不意にカネサキが、大きくふうと呼吸した。
驚いたオオイダが慌てて手を放した。
「何やって……」
そう言いかけたところで、再びカネサキの呼吸が停止した。
「失礼します」
医師と看護師がオオイダとコナカの間に割り込んで、カネサキに蘇生措置を施す。
しかし、カネサキは戻ってこなかった。
一六時一〇分、カネサキの蘇生は断念された。
こうしてカネサキは、三二年の生涯を故郷のサンジョウから遠く離れたインデストの地で閉じたのだった。
カネサキの痙攣は治まっていたが、呼吸が乱れていたため落ち着くのを待っていた。
「カネサキ……何でこんなになっちゃうのよ?」
オオイダは、泣きながら抗議するかのようにわめいた。
「アンタね……何て顔しているのよ。しっかり……しなさい!」
カネサキの叱咤には、いつもの力強さと切れがなかった。
「カネサキ、アンタこそ、こんなところでへたばっている場合じゃないでしょ!」
「……そうね、落ち着いたら……戻るわ。それと……コナカ、こっちに来なさい」
カネサキに呼ばれたコナカが慌ててカネサキのもとへ駆け寄った。
「いい、二人とも……私は……しばらく一緒には……行けない」
カネサキの言葉と表情に、只事ではないと感じたオオイダとコナカが顔を見合わせた。
「アンタたちが……先生を……守りなさい」
そこまで言い終えると、カネサキの身体が再び痙攣を始めた。
「いかん!」
モモギが慌てて、カネサキに酸素マスクを着けさせた。
しばらくして痙攣は治まったが、モモギはこれ以上カネサキに負担をかけるのは危険と判断し、オオイダとコナカに会話を中止するよう依頼しようとした。
しかし、落ち着いたカネサキが、それを遮った。
「モモギさん……まだ、話は終わって……いません」
カネサキの声は弱弱しいものであったが、その表情には断ることを許さないような迫力があった。
「オオイダ、コナカ……悪いんだけど、私の帰りが遅れるよう……だったら、弟の面倒を……よろしく。あの子は……ちょっと心配……だから……」
「わかったわよ、カネサキ! 他に言う事はないの?」
「カネサキさん……」
「二人とも……情けない……顔、するんじゃないわよ……特にオオイダ……」
「何よ! カネサキ!」
「今日は……これで、終わり……二人とも……戻っていいわよ……」
そこまで言い終えると、カネサキは目を閉じた。
オオイダとコナカはそのまま部屋に残り、カネサキの様子を見守ることにした。
「ねぇ、コナカ。カネサキ、大丈夫かな……?」
オオイダはいつもの能天気さを微塵も見せず、不安そうにコナカに尋ねた。
「このまま……落ち着いてくれれば……」
二人がカネサキを見守っている間、シバノイ、モモギ、レイカなどの面々が忙しく部屋を出入りしている。
その様子から医師の到着まで時間がかかりそうなこと、凶器の分析が思うように進んでいないことなどが感じとれた。
一四時半━━カネサキが刺されてからおよそ一時間半、オオイダとコナカがカネサキとの話を終えてから四〇分後、ようやくインデストの病院から医師と二名の看護師が到着した。
すぐに診察が開始されたが、カネサキの状態は非常に厳しいものであった。
モモギの手によって毒らしきものは相当量吸い出されたものの、カネサキの状況を改善するには至っていない。
医師からは体内に打ち込まれた毒らしきものが何か判明しない限り、対症療法しか取り得ないことが伝えられた。
毒らしきものの分析は必死に進められているが、現時点ではそれが何か判明していない。
また、カネサキには頻繁に痙攣や呼吸困難が生じており、本人の体力の維持も厳しい状況、とのことであった。
一五時四〇分、カネサキの呼吸が停止した。
呼吸は十数秒後に回復したが、今までの荒い呼吸から弱弱しいものへと変わった。
五分後、カネサキが不意に言葉を発した。
「……オオイダ、コナカ……いるわね」
「カネサキ! いるわよ!」
「カネサキさん……」
オオイダとコナカが心配そうにカネサキの顔を覗き込む。
カネサキの目はわずかに開かれていたが、瞳には光がほとんど感じられなかった。
「いるなら……いいわ……よく……見えないのよ……」
そう喘ぐように言うと、カネサキは再び目を閉じた。
一五時四九分、再びカネサキが言葉を発した。
「セス君の……隣なんて……いいわね……」
言葉の後、オオイダとコナカがカネサキに呼びかけたが、反応はなかった。
更に三分後の一五時五二分、カネサキの身体が跳ね上がった。
直後にカネサキのうめく様な声が聞こえてきた。
「オオイダ……コナカ……しっかり……」
言葉が途切れるのと同時に、カネサキの身体は床に着地し、痙攣を始めた。
痙攣は数秒続き、その後カネサキの呼吸が停止した。
「ちょっと、カネサキ! 何やっているのよ!」
オオイダがカネサキの身体を乱暴に揺さぶった。
コナカがオオイダの腕の上に自分の手を乗せる。
「嘘でしょ! カネサキ! アンタ寝ている場合じゃ……」
オオイダは叫んだが、その後は声にならなかった。
不意にカネサキが、大きくふうと呼吸した。
驚いたオオイダが慌てて手を放した。
「何やって……」
そう言いかけたところで、再びカネサキの呼吸が停止した。
「失礼します」
医師と看護師がオオイダとコナカの間に割り込んで、カネサキに蘇生措置を施す。
しかし、カネサキは戻ってこなかった。
一六時一〇分、カネサキの蘇生は断念された。
こうしてカネサキは、三二年の生涯を故郷のサンジョウから遠く離れたインデストの地で閉じたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる