ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

715:広まらない情報

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 ミヤハラとオイゲンが「オーシャンリゾート」の一室で情報収集に当たっている。
 集めているのは検問所の付近でECN社の関係者が襲撃された事件に関するものが中心だ。
 主に動いているのはオイゲンで、ミヤハラはスツールに腰かけたままオイゲンに「おい、どうだ?」と状況を尋ねるだけだ。
 それでもオイゲンが文句も言わず情報収集を続けているのは、ミヤハラがこうした仕事に向かないことを痛いほど理解しているからだ。ミヤハラの出番は他にある。

 しばらくして、カエラ・ミツイリより「ロビーがサナミと合流し『勉強会』グループが捜査に入った建物へ向かった」という連絡が入った。
 「勉強会」グループの動きが把握しきれていないため捜査状況は不明であるが、ロビーの動きは迅速であり、ミヤハラの意図が正しく伝わったようであった。
 一方、先発部隊のいる検問所の方は混乱しており、カネサキを刺した犯人を確保したにも関わらず、警備員がECN社の関係者と犯人との面会を拒絶する状況が続いているらしい。
 また、カネサキの治療も続けられているが、容態は深刻ということであった。
 このうち、カネサキに関しては医師に任せるより他になかった。
 ミヤハラたちが今できることは、可能な限り「勉強会」グループの行動を監視することである。場合によっては、「勉強会」グループの暴走を止める必要が生じるが、現時点ではそうするのに十分な理由がないとミヤハラは判断している。

 オイゲンが確認しているニュース番組では、「勉強会」グループのトップ、ヒロスミ・オオバの会見を中継している。
 会見でオオバはトーカMC社を「インデストの安全を脅かす犯罪者の巣窟」と糾弾し、徹底した捜査を行うことを宣言していた。
 また、前回レイカ・メルツがインデストを訪問した際の交渉で、IMPUの幹部がトーカMC社の社員を同席させたことについて、「危機管理能力の欠如が疑われる」とし、IMPU幹部の退陣を訴えていた。
 番組上でコメンテーターの一人がIMPU幹部、特に代表のサン・アカシの不見識を糾弾しており、襲撃に関与したとされるトーカMC社には厳罰をもって対抗すべしと気炎を揚げていた。
 また、「EMいのちの守護者の会」が運営する学校や託児所などにいる子供の安全を守るため、施設には「勉強会」グループから派遣される警備員を常駐させ、登下校や送迎時には警備員を複数同行させている様子なども映し出されていた。
 「EMいのちの守護者の会」の会長であるシホ・サツガのコメントも読み上げられ、番組は「正義は『勉強会』グループにあり」、と訴えているかのようであった。
 オイゲンは知る限りの放送局にチャンネルを合わせてニュース番組を確認したが、どこも報道姿勢に大きな差はないようだった。

「ちっ、ジンダイ、ちょっと待て。インデストの放送局はこんなに少ないのか?」
 ミヤハラはいつの間にかスツールから身体を伸ばして、オイゲンの携帯端末を覗き込んでいた。舌打ちしたのは苛立っているためだ。
「電力不足と鉱工業の不振で、放送局の数が減っているらしい。詳しいことは知らないが、僕がインデストを出た頃と比較してもいくつか減っている」
 オイゲンの答えの通り、インデストでは放送局や通信社などのマスコミの数が減っている。
 電力不足とそれに伴う鉱工業の不振により、主な収入源である広告料と視聴料が激減し、経営が維持できなくなったマスコミの数多くが撤退や合併を余儀なくされたのである。
 また、電力不足も市民のテレビ放送などの視聴を大きく減らす要因となっていた。
 インデストで実際に活動している報道機関の数は、ピーク時と比較して三割に満たない。
 そして、現在生き残っているのは、潤沢な資金のある「EMいのちの守護者の会」と関係の深いところが多い。
 「EMいのちの守護者の会」が「勉強会」グループを支持している以上、「勉強会」グループに不利な報道がされにくい状況となっているのだ。
 更に問題なのは「EMいのちの守護者の会」が「子供の未来と安全を守る」という大義名分を掲げているため、これを表立って批判することが難しいことである。
 「EMいのちの守護者の会」を批判する場合、「お前は子供たちの未来がどうなってもよいというのか」という非難を覚悟しなければならない。
 「子供たちの未来と安全を守る」という姿勢が誤りだとして、相手を説得できる者は皆無に近いであろう。
 「EMいのちの守護者の会」の活動は、「子供たちの未来と安全」以外の部分に批判されるべき材料が隠されているのであるが、「子供たちの未来と安全」という大義名分が強力すぎるため、それ以外の部分に目が向けられること自体が少ない。
 少なくとも「子供たちの未来と安全」に関する活動において、サブマリン島のどの団体や企業よりも貢献度が高いといっても過言ではなかったから、その大義名分は十分に果たしていた。
 これらの要素が、彼らが批判の対象となることが少ない理由であった。
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