ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
299 / 304
第十五章

717:脱出者の確保

しおりを挟む
 ロビーたちは、建物の外へ脱出しどこかに逃れようとしている者がないか捜索を開始した。
 爆発した建物は原形をとどめておらず、東側は一部の骨組みを除いてはほぼ瓦礫の山となっていた。東側は建物の姿が残されているが、こちら側は火の勢いが強い。
 炎と煙とで、ロビー達のいる位置からでは建物の様子がよく見えない。仮に脱出者があったとしても、これではすぐに気づくことが難しそうだ。
「ひでえな……」
 思わずロビーが口にしてしまったが、周囲の部下たちも同じように思ったためか、無言でうなずくだけであった。

 ロビー達は周囲を歩き回って、どうにか煙や炎による視界への影響が少ない場所を見つけた。
 この場所からなら建物のあった場所が比較的よく見える。脱出者の姿も時間をかけずに発見できるだろう。
 (……?)
 ロビーが建物から見て北西の方角に目をやったとき、その景色に僅かな違和感を覚えた。
 視力には自信のある彼であったが、僅かにぼやけて見える一角があるのだ。
 ぼやけて見える一角は建物から十数メートル離れた場所で、建造物などは見当たらない。
 周囲に見えるのは地面だけだ。
 (あのあたりに何かあるようには見えないが……)
 ロビーは目を閉じ、手をその上にやってから反対側の目で再び同じ場所を見るが、その結果も同じであった。
 試しに他の位置を見ると、そのようにぼやけることはなかった。
 (蒸気でも出ているのか?)
「悪い、二人は残っていてくれ。それと一人はこっちだ」
 ロビーは近くにいる三人の部下のうち一人についてくるように命じ、ぼやけて見える場所のほうへと走った。
 数十メートルほど走ったところで、少し先の地面からわずかに煙が立ちのぼっているのが見えた。
「煙が出ている、気をつけてくれ」
「了解」
 ロビーは慎重に煙の地点まで近づいた。
 調べてみると、金属でできた格子状の蓋のようなものが見つかった。落ち葉や枯れ木などで巧みに偽装されていたが、煙があがっていたことから隙間があるのがわかったのだ。
「おい、開けるから手伝ってくれ」
 ロビーはついてきた部下にそう命じ、蓋を開ける。
 蓋の下は建物のほうに向かって斜めに下っていく穴になっていた。
 穴は人が立って通るのには十分な広さで、両脇には排水溝と思われる溝が掘られていた。
「建物の煙がここを通って出てきた、ということか?」
 穴の中はうっすらとした煙で満たされており、立った状態で通るのは危険であるように思われた。
「身体を起こしていると煙にやられるんだったな」
 ロビーは迷わず腹ばいになり、溝の空気を吸いながら徐々に穴の奥へと進んでいった。
「はい。気を付けてください」
 ついてきた部下も反対側の溝に沿って腹ばいで進んでいく。

 三、四メートル進んだところでずり、ずり、と向こう側から微かに何かを引きずっているような音が聞こえてきた。
「止まれ、静かにしていろ」
 音に気付いたロビーが小声で命じた。
 何かを引きずる音は、ゆっくり、そして確実に大きくなってきた。
 しかし、穴の中の暗さと煙とで、何がやってくるのかまでは見えない。
 ロビーは息を潜めて、目を凝らした。
 相手より先にこちらが相手を発見する。
 視力には自信のあるロビーである。
 おぼろげながら、音の正体が見えてきた。
 やはり人のようであるが、ロビーと比較するとかなり小柄なようであった。
 ロビーと同じ側の溝に沿って進んでいるため、ロビーは見つからないよう静かに反対側の溝の方へ移動した。
 そして、相手が近づくのを持ち、射程に入った瞬間、ほとんど音をたてることなく一気に飛び出して相手の肩をつかんで上半身を軽く起こす。
 それに続いて部下も相手に飛びつき、両足首をつかんだ。
 相手は一瞬身体をこわばらせたものの、それ以上は抵抗しようとせず、声を発することもなかった。
「しーっ! 悪いができるだけ音を立てないように頼む。今、誰かに追われているのか?」
 ロビーが捕まえた相手にそう尋ねた。
 暗くて顔はよく見えないが、おぼろげに見えるシルエットから女性らしいことがわかる。
「わからない。ただ、私の後にこの穴に誰か入ったということはないと思う」
 相手は首を横に振り、小声で答えた。
 ロビーは足首をつかんでいる部下に放すよう命じた。
 そして、捕まえた相手についてくるように言った。
 相手は無言でうなずき、ロビーの後をついて腹ばいで穴の外のほうへと向かった。
 その後を部下がついていく。
 穴の出口を出たところで、ロビーは捕まえた相手が自分と同世代くらいの女性であることを確認した。
「ECN社のロビー・タカミという者だ。信用しろ、といっても無理だとは思うが、悪いようにはしないつもりだ。すまないが、俺の部下とこのあたりにしばらく隠れていてくれ」
「……わかりました」
 ロビーの言葉に対する相手の返事は極めて短く、無機質なものであった。
「悪いがひと仕事してくる。待っていてくれ!」
 ロビーは部下に捕まえた相手と隠れているよう命じると、建物の方へと走っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...