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第十五章
717:脱出者の確保
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ロビーたちは、建物の外へ脱出しどこかに逃れようとしている者がないか捜索を開始した。
爆発した建物は原形をとどめておらず、東側は一部の骨組みを除いてはほぼ瓦礫の山となっていた。東側は建物の姿が残されているが、こちら側は火の勢いが強い。
炎と煙とで、ロビー達のいる位置からでは建物の様子がよく見えない。仮に脱出者があったとしても、これではすぐに気づくことが難しそうだ。
「ひでえな……」
思わずロビーが口にしてしまったが、周囲の部下たちも同じように思ったためか、無言でうなずくだけであった。
ロビー達は周囲を歩き回って、どうにか煙や炎による視界への影響が少ない場所を見つけた。
この場所からなら建物のあった場所が比較的よく見える。脱出者の姿も時間をかけずに発見できるだろう。
(……?)
ロビーが建物から見て北西の方角に目をやったとき、その景色に僅かな違和感を覚えた。
視力には自信のある彼であったが、僅かにぼやけて見える一角があるのだ。
ぼやけて見える一角は建物から十数メートル離れた場所で、建造物などは見当たらない。
周囲に見えるのは地面だけだ。
(あのあたりに何かあるようには見えないが……)
ロビーは目を閉じ、手をその上にやってから反対側の目で再び同じ場所を見るが、その結果も同じであった。
試しに他の位置を見ると、そのようにぼやけることはなかった。
(蒸気でも出ているのか?)
「悪い、二人は残っていてくれ。それと一人はこっちだ」
ロビーは近くにいる三人の部下のうち一人についてくるように命じ、ぼやけて見える場所のほうへと走った。
数十メートルほど走ったところで、少し先の地面からわずかに煙が立ちのぼっているのが見えた。
「煙が出ている、気をつけてくれ」
「了解」
ロビーは慎重に煙の地点まで近づいた。
調べてみると、金属でできた格子状の蓋のようなものが見つかった。落ち葉や枯れ木などで巧みに偽装されていたが、煙があがっていたことから隙間があるのがわかったのだ。
「おい、開けるから手伝ってくれ」
ロビーはついてきた部下にそう命じ、蓋を開ける。
蓋の下は建物のほうに向かって斜めに下っていく穴になっていた。
穴は人が立って通るのには十分な広さで、両脇には排水溝と思われる溝が掘られていた。
「建物の煙がここを通って出てきた、ということか?」
穴の中はうっすらとした煙で満たされており、立った状態で通るのは危険であるように思われた。
「身体を起こしていると煙にやられるんだったな」
ロビーは迷わず腹ばいになり、溝の空気を吸いながら徐々に穴の奥へと進んでいった。
「はい。気を付けてください」
ついてきた部下も反対側の溝に沿って腹ばいで進んでいく。
三、四メートル進んだところでずり、ずり、と向こう側から微かに何かを引きずっているような音が聞こえてきた。
「止まれ、静かにしていろ」
音に気付いたロビーが小声で命じた。
何かを引きずる音は、ゆっくり、そして確実に大きくなってきた。
しかし、穴の中の暗さと煙とで、何がやってくるのかまでは見えない。
ロビーは息を潜めて、目を凝らした。
相手より先にこちらが相手を発見する。
視力には自信のあるロビーである。
おぼろげながら、音の正体が見えてきた。
やはり人のようであるが、ロビーと比較するとかなり小柄なようであった。
ロビーと同じ側の溝に沿って進んでいるため、ロビーは見つからないよう静かに反対側の溝の方へ移動した。
そして、相手が近づくのを持ち、射程に入った瞬間、ほとんど音をたてることなく一気に飛び出して相手の肩をつかんで上半身を軽く起こす。
それに続いて部下も相手に飛びつき、両足首をつかんだ。
相手は一瞬身体をこわばらせたものの、それ以上は抵抗しようとせず、声を発することもなかった。
「しーっ! 悪いができるだけ音を立てないように頼む。今、誰かに追われているのか?」
ロビーが捕まえた相手にそう尋ねた。
暗くて顔はよく見えないが、おぼろげに見えるシルエットから女性らしいことがわかる。
「わからない。ただ、私の後にこの穴に誰か入ったということはないと思う」
相手は首を横に振り、小声で答えた。
ロビーは足首をつかんでいる部下に放すよう命じた。
そして、捕まえた相手についてくるように言った。
相手は無言でうなずき、ロビーの後をついて腹ばいで穴の外のほうへと向かった。
その後を部下がついていく。
穴の出口を出たところで、ロビーは捕まえた相手が自分と同世代くらいの女性であることを確認した。
「ECN社のロビー・タカミという者だ。信用しろ、といっても無理だとは思うが、悪いようにはしないつもりだ。すまないが、俺の部下とこのあたりにしばらく隠れていてくれ」
「……わかりました」
ロビーの言葉に対する相手の返事は極めて短く、無機質なものであった。
「悪いがひと仕事してくる。待っていてくれ!」
ロビーは部下に捕まえた相手と隠れているよう命じると、建物の方へと走っていった。
爆発した建物は原形をとどめておらず、東側は一部の骨組みを除いてはほぼ瓦礫の山となっていた。東側は建物の姿が残されているが、こちら側は火の勢いが強い。
炎と煙とで、ロビー達のいる位置からでは建物の様子がよく見えない。仮に脱出者があったとしても、これではすぐに気づくことが難しそうだ。
「ひでえな……」
思わずロビーが口にしてしまったが、周囲の部下たちも同じように思ったためか、無言でうなずくだけであった。
ロビー達は周囲を歩き回って、どうにか煙や炎による視界への影響が少ない場所を見つけた。
この場所からなら建物のあった場所が比較的よく見える。脱出者の姿も時間をかけずに発見できるだろう。
(……?)
ロビーが建物から見て北西の方角に目をやったとき、その景色に僅かな違和感を覚えた。
視力には自信のある彼であったが、僅かにぼやけて見える一角があるのだ。
ぼやけて見える一角は建物から十数メートル離れた場所で、建造物などは見当たらない。
周囲に見えるのは地面だけだ。
(あのあたりに何かあるようには見えないが……)
ロビーは目を閉じ、手をその上にやってから反対側の目で再び同じ場所を見るが、その結果も同じであった。
試しに他の位置を見ると、そのようにぼやけることはなかった。
(蒸気でも出ているのか?)
「悪い、二人は残っていてくれ。それと一人はこっちだ」
ロビーは近くにいる三人の部下のうち一人についてくるように命じ、ぼやけて見える場所のほうへと走った。
数十メートルほど走ったところで、少し先の地面からわずかに煙が立ちのぼっているのが見えた。
「煙が出ている、気をつけてくれ」
「了解」
ロビーは慎重に煙の地点まで近づいた。
調べてみると、金属でできた格子状の蓋のようなものが見つかった。落ち葉や枯れ木などで巧みに偽装されていたが、煙があがっていたことから隙間があるのがわかったのだ。
「おい、開けるから手伝ってくれ」
ロビーはついてきた部下にそう命じ、蓋を開ける。
蓋の下は建物のほうに向かって斜めに下っていく穴になっていた。
穴は人が立って通るのには十分な広さで、両脇には排水溝と思われる溝が掘られていた。
「建物の煙がここを通って出てきた、ということか?」
穴の中はうっすらとした煙で満たされており、立った状態で通るのは危険であるように思われた。
「身体を起こしていると煙にやられるんだったな」
ロビーは迷わず腹ばいになり、溝の空気を吸いながら徐々に穴の奥へと進んでいった。
「はい。気を付けてください」
ついてきた部下も反対側の溝に沿って腹ばいで進んでいく。
三、四メートル進んだところでずり、ずり、と向こう側から微かに何かを引きずっているような音が聞こえてきた。
「止まれ、静かにしていろ」
音に気付いたロビーが小声で命じた。
何かを引きずる音は、ゆっくり、そして確実に大きくなってきた。
しかし、穴の中の暗さと煙とで、何がやってくるのかまでは見えない。
ロビーは息を潜めて、目を凝らした。
相手より先にこちらが相手を発見する。
視力には自信のあるロビーである。
おぼろげながら、音の正体が見えてきた。
やはり人のようであるが、ロビーと比較するとかなり小柄なようであった。
ロビーと同じ側の溝に沿って進んでいるため、ロビーは見つからないよう静かに反対側の溝の方へ移動した。
そして、相手が近づくのを持ち、射程に入った瞬間、ほとんど音をたてることなく一気に飛び出して相手の肩をつかんで上半身を軽く起こす。
それに続いて部下も相手に飛びつき、両足首をつかんだ。
相手は一瞬身体をこわばらせたものの、それ以上は抵抗しようとせず、声を発することもなかった。
「しーっ! 悪いができるだけ音を立てないように頼む。今、誰かに追われているのか?」
ロビーが捕まえた相手にそう尋ねた。
暗くて顔はよく見えないが、おぼろげに見えるシルエットから女性らしいことがわかる。
「わからない。ただ、私の後にこの穴に誰か入ったということはないと思う」
相手は首を横に振り、小声で答えた。
ロビーは足首をつかんでいる部下に放すよう命じた。
そして、捕まえた相手についてくるように言った。
相手は無言でうなずき、ロビーの後をついて腹ばいで穴の外のほうへと向かった。
その後を部下がついていく。
穴の出口を出たところで、ロビーは捕まえた相手が自分と同世代くらいの女性であることを確認した。
「ECN社のロビー・タカミという者だ。信用しろ、といっても無理だとは思うが、悪いようにはしないつもりだ。すまないが、俺の部下とこのあたりにしばらく隠れていてくれ」
「……わかりました」
ロビーの言葉に対する相手の返事は極めて短く、無機質なものであった。
「悪いがひと仕事してくる。待っていてくれ!」
ロビーは部下に捕まえた相手と隠れているよう命じると、建物の方へと走っていった。
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