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第七章

309:扱いに困る贈り物

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「……イナからか。なるほど秘書の安全を確保してくれということか。役立てろというのは意味がよくわからんが、話をしてみるか」
 メンバーから封書を渡されたノリオ・ミヤハラは、その場で封を開け、中の文書を読んだ。
 内容は秘書の安全の確保と彼女を活用してほしいという親友からの依頼であった。
 親友からの頼みを断る理由をミヤハラは持ち合わせていなかった。
 できれば親友であるオイゲン本人の安全も確保したいところだが、さすがに彼の立場上それは無理だろう。

「わかった。社長秘書が待っている部屋を教えてくれ」
 ミヤハラは封書を持ってきたメンバーにメイがいる部屋の場所を聞き、自らその部屋へと向かった。

「イナからの手紙は読ませてもらった。事情は理解したが……」
 ミヤハラは部屋に入るや否や、メイの斜め向かいの席に腰をかけてぶっきらぼうに話しかけた。
 実のところミヤハラもどのようにメイに話しかけてよいか迷っていたのだ。

「……」
 ミヤハラの言葉にメイは無言でテーブルを見つめているだけだった。
 (やれやれ、相変わらずの対人恐怖症だな。それにしてもどうすればいいんだ?)
 ミヤハラもメイの反応に困惑している。困惑は表に出ないが、オイゲンと違って彼にはメイの取り扱いについての知識がない。
「うーむ。イナの手紙には、貴女の安全を確保して欲しい、と書いてあった。どうも奴はOP社に同行してうちのマネージャーと対峙しなければならないようなことを言っているが、それは間違いないのか?」
「……(コクリ)」
 メイは無言でうなずいた。

 (やれやれ、イナも取り扱いの難しいのを送ってきたな。俺にどうしろと……?)
 オイゲンからの手紙によれば、メイに生活用の部屋を提供して欲しい、というのとウォーリーのために彼女の知恵を役立てて欲しい、という内容が書かれていた。
 ミヤハラは苦労しながらそのことをメイに説明して、
「部屋は用意させるから、当面はそこで生活すればいい。ところで、貴女の知恵を借りたいときは、どうすればいいんだ……?」
 と尋ねた。
 すると今度はメイが自信なさげに首を横に振った。
 どうも調子が狂うな、とミヤハラは思う。
 会話がかみ合っているのかいないのか、当事者のミヤハラにも見当がつかない。
「ところで……イナが荷物を受け取ってくれ、と書いてあるんだが、どれのことだ?」
 ミヤハラの言葉にメイは黙ってリュックを差し出した。オイゲンに託されたものである。
 ミヤハラはリュックの中身を確かめた。
 中味は木箱に入った同じ銘柄のワインが二本だった。
 レイカ・メルツがこの場にいたら、そのうち一本はオイゲンが彼女に依頼して調達させたものだと指摘しただろう。
(……例のワインか。イナが無事に戻ってきたらマネージャーも入れて一緒に飲むか)
「まあ、これは受け取っておくわ」
 ミヤハラは木箱を受け取り、丁寧にテーブルの上に置いた。
 本来はウォーリーが受け取るべき品物だとは思うが、彼は遠く離れたインデストにいるから仕方ない。
「それと、住む家が必要なのだよな。案内させる」
 ミヤハラはメンバーを呼んでメイを部屋に案内させた。
 メイは黙ってその後をついていった。
 (それにしても……イナの奴、秘書だけ送り込んで一体何を考えているのだ? 彼女の知恵を借りろ、って言っているが、一言も話ができないじゃないか……)
 ミヤハラは無駄な抵抗をやめて、とりあえずウォーリーに内容だけ報告することを決めた。オイゲンからの手紙にはさっと目を通しただけなので、もしかしたら見落としがあるかもしれない。
 (何だ、マネージャーに「教師の親が自殺した娘で、マネージャーが奨学金を申請した人」と伝えればわかる……? どういうことだ?)
 オイゲンからの手紙の文面には、ミヤハラの理解を超える文言が多い。
 ただ、苦労しているらしいことは読み取れる。
 OP社の監視のもと、目をつけられないように彼なりに工夫したのだろう。
 ミヤハラはウォーリーとの間に通信を開き、これまでのことを報告した。
「教師の親が自殺した娘……」のくだりを聞いて、当初ウォーリーは首をかしげていた。
 しかし、しばらくして「そうか! わかったぞ!」と叫んだ。
「一体何だというのですか?」
 ミヤハラの質問にウォーリーは、知る限りの情報を伝えた。
「……という訳でな。放置しておくのは人の道にもとる、と考えてな、俺が奨学金を出すように総務にねじ込んだんだ。その学生があの秘書とはなぁ……
 まあ、あれだけ世間から責め立てられれば人間嫌いにもなるぜ……その点は同情するわ」
 ミヤハラは、ほう、とうなずいてみせた。
 通信にサクライが割り込んできた。
「マネージャー、ついにOP社が動いたようです。さっき、ハドリが出立したそうです。うちの社長も同行しているとか……気が知れませんがね」
 サクライの言葉にウォーリーはそうか、とだけ答えた。予想はできていたことだ。
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