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第七章
312:トニー、敵の本拠地に入る
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三月三一日、「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァは六名の所員を連れてOP社本社へと姿を現した。
OP社から依頼されたレポートを作成するにあたって、社内の調査を行うためであった。
ハドリが前日に出立していたため、残された腹心のノブヤ・ヤマガタが彼らの相手をすることとなっていた。
ヤマガタがハドリから指示されたのはただ一つ、「奴らの動きを見張れ。怪しい挙動があればすぐに報告しろ」ということだけであった。
トニーがこの日を選んでOP社へ姿を見せたのには訳がある。
ハドリが出立した日の次の日で、彼が不在であることが最大の理由である。
トニーたちがOP社を訪れると、ヤマガタが出迎えた。
しかし、ヤマガタは挨拶を済ませると早々にトニーの前を去った。
あとはご自由に調査ください、とのことである。
ヤマガタの行動に拍子抜けしながらも、トニーは警戒を緩めることなく調査を開始した。ハドリがこちらを監視していることは承知の上であったからだ。
ここで調査を止めたらかえってハドリに疑われることになるだろう。
そのため、トニーは様々なパターンを検討しながら、最も危険が少ないであろうハドリの出立翌日にOP社の調査に入ったのである。
調査を進めることで「タブーなきエンジニア集団」とOP社との対決の結果もある程度明らかになるだろう、という読みもある。ハドリが出立するのは、「タブーなきエンジニア集団」を殲滅するためなのだから。
ハドリの今までのやり方を見ている限り、敵対した相手は皆殺しにしているケースが多いが、「タブーなきエンジニア集団」に関しては態度が流動的だ。
「風力エネルギー研究所」の爆破事件の前後、OP社は「タブーなきエンジニア集団」の幹部を捕えようと躍起になっていた。
しかし、いつの間にか幹部を拘束するという話はうやむやになっていた。
ところがフジミ・タウンの賊を殲滅した後から、急に「タブーなきエンジニア集団」への態度が厳しいものとなったように思われた。
トニーはハドリの意思がいずこにあるのか読みかねている。
一度はウォーリーらを建物ごと爆破しようとしたはずだ。
しかし、その後の追及が妙に手ぬるい。
ウォーリーなど「タブーなきエンジニア集団」の幹部を捕らえようという動きはあるのだが、本腰を入れているようには思えない。本腰を入れるのなら、治安改革センターなどを活用して徹底的に調べ上げることができたはずなのだ。
それにもかかわらず、ジンなどでは治安改革センターの職員が追放されるに任せて、対処らしい対処をしていない。
(敢えて対処をしないことで、「タブーなきエンジニア集団」の油断を誘おうという魂胆か……?)
それを確認するためにトニーはやってきたのだ。
OP社、すなわちハドリの意思によって「リスク管理研究所」も対応を変えるつもりなのだ。もちろん、十分な注意が必要である。
対応を誤れば「リスク管理研究所」、いやトニー自身の身に危険が及ぶからだ。
トニーは予めOP社が抱える大きなリスク要因に「タブーなきエンジニア集団」を含めている。
こうすることで、OP社の中にある「タブーなきエンジニア集団」に関する情報に接する理由ができる。保険をかけずにこれらの情報に接するのは危険が大きすぎる。非公式とはいえ、一度は手を組んだ相手だ。「タブーなきエンジニア集団」について調べたい、とOP社に申し出れば関係を疑われる可能性は十分にある。
「まあ、ねーちゃんのレベルはECNよりは上だな」
トニーが同行していたメンバーに耳打ちした。
「ECNより上」というのは、暗に「リスク管理研究所」より下、ということも意味している。トニーの評価が正しいかどうかは意見が分かれるところかもしれない。
ただし、ECN社がOP社や「リスク管理研究所」などと比較して、女性の容姿を評価しない傾向があるのは事実である。
ECN社在席時代にトニーはオイゲンに、
「受付とかお客様相談室くらいは、美人のねーちゃんをそろえたらどうなんだ? 男の客の多いところに美人を入れるのは顧客サービスだぞ」
と指導 (?)したことがある。その際にオイゲンの見る目が信用できないので担当の選定は自分でやる、とまで言ったのだ。
それを聞いたオイゲンは面倒くさそうに「セクハラといわれたら嫌だよ」と、トニーの申し出を拒否したのだが。
「受付はすごかったですけどね。その手のお店かと思っちゃいましたよ」
トニーに声をかけられたメンバーがそう答えた。
「社長の趣味、だろうな。これも調査にあたっては重要な要素だ」
トニーが受付の女性の容姿や服装について記録するようにメンバーに命じた。
敢えて女性従業員に関する話をしたのは、ハドリの警戒を恐れてのことであった。
女性従業員の話をしている限りは、それほど危険視されないであろう。
「英雄、色を好む」という言葉もあるので、中にはハドリの愛人なども混じっているかもしれない、とトニーは考えている。
愛人に色目を使ったり、手を出したりすればハドリの怒りを買うことは必然だと思われたから、その点はメンバーにも徹底して注意するように伝えてある。
だが、女性従業員を見定めるくらいであれば問題ないだろう。
トニーに同行しているメンバーは全員がECN社経営企画室のもと従業員である。
ECN社は社内恋愛や交友関係に関しては無頓着な社風だ。
相手が嫌がることをしないこと、社の規程に反さないこと、社会通念に反さないこと、の三ヶ条を守ってさえいればよかった。トニーなど女性従業員の自宅から社に直行することも頻繁にあったのである。
メンバーを注意したのは、「ここはECN社ではない」ことを強調したかったからかもしれない。
OP社から依頼されたレポートを作成するにあたって、社内の調査を行うためであった。
ハドリが前日に出立していたため、残された腹心のノブヤ・ヤマガタが彼らの相手をすることとなっていた。
ヤマガタがハドリから指示されたのはただ一つ、「奴らの動きを見張れ。怪しい挙動があればすぐに報告しろ」ということだけであった。
トニーがこの日を選んでOP社へ姿を見せたのには訳がある。
ハドリが出立した日の次の日で、彼が不在であることが最大の理由である。
トニーたちがOP社を訪れると、ヤマガタが出迎えた。
しかし、ヤマガタは挨拶を済ませると早々にトニーの前を去った。
あとはご自由に調査ください、とのことである。
ヤマガタの行動に拍子抜けしながらも、トニーは警戒を緩めることなく調査を開始した。ハドリがこちらを監視していることは承知の上であったからだ。
ここで調査を止めたらかえってハドリに疑われることになるだろう。
そのため、トニーは様々なパターンを検討しながら、最も危険が少ないであろうハドリの出立翌日にOP社の調査に入ったのである。
調査を進めることで「タブーなきエンジニア集団」とOP社との対決の結果もある程度明らかになるだろう、という読みもある。ハドリが出立するのは、「タブーなきエンジニア集団」を殲滅するためなのだから。
ハドリの今までのやり方を見ている限り、敵対した相手は皆殺しにしているケースが多いが、「タブーなきエンジニア集団」に関しては態度が流動的だ。
「風力エネルギー研究所」の爆破事件の前後、OP社は「タブーなきエンジニア集団」の幹部を捕えようと躍起になっていた。
しかし、いつの間にか幹部を拘束するという話はうやむやになっていた。
ところがフジミ・タウンの賊を殲滅した後から、急に「タブーなきエンジニア集団」への態度が厳しいものとなったように思われた。
トニーはハドリの意思がいずこにあるのか読みかねている。
一度はウォーリーらを建物ごと爆破しようとしたはずだ。
しかし、その後の追及が妙に手ぬるい。
ウォーリーなど「タブーなきエンジニア集団」の幹部を捕らえようという動きはあるのだが、本腰を入れているようには思えない。本腰を入れるのなら、治安改革センターなどを活用して徹底的に調べ上げることができたはずなのだ。
それにもかかわらず、ジンなどでは治安改革センターの職員が追放されるに任せて、対処らしい対処をしていない。
(敢えて対処をしないことで、「タブーなきエンジニア集団」の油断を誘おうという魂胆か……?)
それを確認するためにトニーはやってきたのだ。
OP社、すなわちハドリの意思によって「リスク管理研究所」も対応を変えるつもりなのだ。もちろん、十分な注意が必要である。
対応を誤れば「リスク管理研究所」、いやトニー自身の身に危険が及ぶからだ。
トニーは予めOP社が抱える大きなリスク要因に「タブーなきエンジニア集団」を含めている。
こうすることで、OP社の中にある「タブーなきエンジニア集団」に関する情報に接する理由ができる。保険をかけずにこれらの情報に接するのは危険が大きすぎる。非公式とはいえ、一度は手を組んだ相手だ。「タブーなきエンジニア集団」について調べたい、とOP社に申し出れば関係を疑われる可能性は十分にある。
「まあ、ねーちゃんのレベルはECNよりは上だな」
トニーが同行していたメンバーに耳打ちした。
「ECNより上」というのは、暗に「リスク管理研究所」より下、ということも意味している。トニーの評価が正しいかどうかは意見が分かれるところかもしれない。
ただし、ECN社がOP社や「リスク管理研究所」などと比較して、女性の容姿を評価しない傾向があるのは事実である。
ECN社在席時代にトニーはオイゲンに、
「受付とかお客様相談室くらいは、美人のねーちゃんをそろえたらどうなんだ? 男の客の多いところに美人を入れるのは顧客サービスだぞ」
と指導 (?)したことがある。その際にオイゲンの見る目が信用できないので担当の選定は自分でやる、とまで言ったのだ。
それを聞いたオイゲンは面倒くさそうに「セクハラといわれたら嫌だよ」と、トニーの申し出を拒否したのだが。
「受付はすごかったですけどね。その手のお店かと思っちゃいましたよ」
トニーに声をかけられたメンバーがそう答えた。
「社長の趣味、だろうな。これも調査にあたっては重要な要素だ」
トニーが受付の女性の容姿や服装について記録するようにメンバーに命じた。
敢えて女性従業員に関する話をしたのは、ハドリの警戒を恐れてのことであった。
女性従業員の話をしている限りは、それほど危険視されないであろう。
「英雄、色を好む」という言葉もあるので、中にはハドリの愛人なども混じっているかもしれない、とトニーは考えている。
愛人に色目を使ったり、手を出したりすればハドリの怒りを買うことは必然だと思われたから、その点はメンバーにも徹底して注意するように伝えてある。
だが、女性従業員を見定めるくらいであれば問題ないだろう。
トニーに同行しているメンバーは全員がECN社経営企画室のもと従業員である。
ECN社は社内恋愛や交友関係に関しては無頓着な社風だ。
相手が嫌がることをしないこと、社の規程に反さないこと、社会通念に反さないこと、の三ヶ条を守ってさえいればよかった。トニーなど女性従業員の自宅から社に直行することも頻繁にあったのである。
メンバーを注意したのは、「ここはECN社ではない」ことを強調したかったからかもしれない。
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