64 / 104
第三章
パートナーたちから元気をもらう
しおりを挟む
「よし、こっちは片付いた」
「アーベルさま、ゲーム機の魔力は後で私が補充しておきますね」
私が箱にしまったゲーム機をリーゼがよいしょと運んでいく。
ゲーム機が片付いた直後からニーナとメラニーが料理の皿を運んできた。
いつものマナだが、今日はディップの数が多いような気がする。
「ピアに教わったのよ。私も何か作ってみようと思ってね」
ふふん、と鼻を鳴らしながらメラニーが胸を張った。
いつの間にキッチンに入っていたのだろうか? ゲームに夢中で気が付かなかった。
「ニーナ、私も準備できました。お酒は何を持ってきますか?」
カーリンが作業場からリビングに向けて顔を出した。
「アーベル様、今日はグラネトエールにしようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
ニーナの問いに私がいいよと答えると、カーリンが地下の倉庫にグラネトエールの樽を取りに降りていった。
何となくだが、私が沈み気味なのに気付いて皆気を遣っているのがわかる。
ありがたいというか申し訳ない気分だ。
「ニーナ、二樽持ってきました。準備は大丈夫ですか?」
「カーリン、こっちは大丈夫です。アーベル様、始めてよろしいでしょうか?」
「うん、始めよう」
ニーナは律義なのでいちいち私に許可を求めてくるが、そこまでしないでもよいとは思う。
カーリンとリーゼが皆のジョッキにグラネトエールを注いだ。
ジョッキが満たされたところで食事を始める。
「アーベル、何があったの?」
パートナーたちが顔を見合わせた後、メラニーが代表して私に尋ねてきた。
恐らく皆で示し合わせていたのだろうと思う。
「ああ、存在界に出張している精霊から話を聞く機会があったのだけど……」
私は相談所で見聞きした、一部の人間が移住希望者や精霊界に興味を持っている者に向けている偏見の話をした。
あまり気分の良い話ではないが、隠しているとかえってパートナーたちを心配させるだろうと思ったからだ。
彼女たちはそういう面ではかなり鋭い。
「……移住する方をどう思われるかは自由だと思います。ですが、それを妨害するというのはわたくしの感覚ではあり得ません」
ニーナが首を横に振った。
他人の行動を妨害するために、相手の好みや考え方を悪く言うという考え方が精霊に無いのだろう。
「そうですね、ちょっとひどいです。こちらへ来たいという方が邪魔されないといいのですが……」
素直なカーリンらしい反応だ。そうだよなあと私も思うのだが、存在界では私の考え方は必ずしも多数派ではないと思っている。
「私は存在界の決まり事をよく知らないけど、力ずくで妨害したらそれこそ罰を受けるんじゃないの? そう簡単に妨害できるとも思わないけど……」
精霊界では現実派のメラニーであるが、存在界の人の考え方や法律には疎い。このような反応になるのも無理はない。
精霊界に移住するのを阻止するために、一般の人が移住希望者に暴力を振るうのは犯罪になると思う。
だが、移住のためには「精霊界移住相談所」を訪れる必要があり、相談所へ行こうとする者を警察などが阻止することはよくあることだ。
ユーリが最初に相談所を訪れようとした際に妨害が入ったのを私は目撃している。
「存在界で活動するメンバーを増やした方がいいと思います。数なら精霊の方が圧倒的に多いのですから」
リーゼは冷静だ。
彼女のいう通り、数でなら精霊は人間を圧倒できる。
存在界での活動に適した精霊というのは必ずしも多くないし、存在界で精霊が妖精となって活動するためには色々と準備が必要だ。
それでも存在界での活動を増やした方がいいだろう。その意味では私もリーゼの意見に賛成だ。
皆が私のモヤモヤを代弁してくれたおかげで、かなり気が楽になった。
「ありがとう。アイリスたちとももう少し話をして対応を考えてもらうよ。この話はこれでいいかな。あとは食事とお酒を楽しもうか」
「アーベルさん、今日はそれだけではないですよ」
カーリンが私に意味ありげな視線を向けてきた。
「そうよね。続きもあるのだし」
続けてメラニーが妖艶に微笑んだ。こういう笑みはカーリンが得意としているのだが……
「そうだったね。今日は全員集合の日か」
「アーベルさま、そうですよ。お忘れではないですよね?」
リーゼまでがゲームのときとはうって変わって、姉同様意味ありげな表情を浮かべている。
こちらは視線に疑わし気な成分が若干量含まれているような気がするが。
「コホン。夜のお楽しみはそのときになったら楽しむとして、今はお料理とお酒を楽しみませんか」
「ってニーナが一番楽しみにしていますよね? ニーナは昨日順番が来たばかりですけど……」
「リーゼ、それとこれとは話が別です。わたくしは定められた順番通りに……」
「あー、アーベルの前でそういうのはいいから」
「?!」
リーゼとメラニーにたしなめられてニーナがキッ! 二体を睨んだ。
「まあまあ、ニーナのいう通り今はお酒とマナを楽しまないか? その後はその後でたっぷり楽しめばいい」
「アーベル、わかった。寝室ではいっぱい楽しもうね!」
私の言葉を聞きつけて、メラニーが私の左腕を抱く腕に力を込めた。
「もう! メラニー、アーベル様が動きにくそうにしていますよ」
「わっと。すぐ離したからセーフよ、セーフ!」
ニーナに注意されて慌ててメラニーが私の左腕を解放した。
「場所、変わってみるか? ニーナとメラニーで場所を交換。カーリンとリーゼも場所を入れ替わって」
「はーい」「はいっ!」「「はい」」
場所を入れ替えた結果、ソファの真ん中が私で左隣がニーナ、右隣がリーゼになった。
私から向かって正面右側にカーリン、左側がメラニーだ。
この位置は新鮮だが、これはこれで悪くない。
「こうして皆と食事したり飲んだりするのは飽きないな。席を入れ替えただけでも新鮮だよ。皆に感謝だ」
思わず口にしてしまったが、こういう心情でいられるのもパートナーたちのおかげだ。
「アーベルってばぁ、飽きさせなんてしないわ。ドライアドの誇りにかけて、ね」
メラニーが私に流し目をくれた後、空いたジョッキにグラネトエールを注いでくれた。
メラニー本人から聞いたが、ドライアドは「気に入った相手を誘惑するのではなくて飽きさせないために何でもする存在」なのだそうだ。
他のドライアドからも同じ話を聞かされたことがあるので、メラニーだけが勝手にそう思っている訳ではないらしい。
「ありがとう。私にとって今の生活は楽しいし、飽きるようなものではないからね。このディップは……」
メラニーに礼を言って皿の上のマナに手を伸ばす。
するといつもは家で見ない色のディップが入った器が置かれている。
鮮やかな濃い緑色のそれは、存在界であれば青じそかほうれん草、またはゴーヤを使ったものに見える。
「これ、私がピアに習ったやつ。ちょっとアレンジしたから『ケルークス』のとは違うよ」
メラニーがディップの器を私の方に寄せた。
スプーンですくってマナに塗って口にしてみる。
ほんのり苦いが、スパイシーな酸味がありわずかな塩味と合わさってマナが進む。
「ケルークス」で最近出されるようになった「緑のディップ」に似ているが、それとは異なり唐辛子のような辛さはないし、こちらのほうがさらっとしている。
「緑のディップとは少し違うのか……辛さがないから辛いのが苦手な相手に出しても大丈夫そうだ」
「よかったっ! 『ケルークス』のはスーラの鞘が入っているけど、こっちはマナの葉っぱを入れているの。私にはマナの葉っぱの方が扱いやすいし、手に入れやすいからね」
メラニーが身を乗り出してきて、ディップの説明をしてくれた。
隣でニーナがメラニーを止めようと身構えている。
メラニーの顔がかなり近いが、感情表現がストレートな彼女なのでこれくらいは許してやってほしい。
「アーベルさん、私たちは皆ずっと一緒、ですから。私たちとの時間を楽しんでくれると嬉しいです。私はアーベルさんと一緒にいるのがすごく楽しいですし、幸せですから!」
メラニーが落ち着いたところで、今度はカーリンがそう言って私のジョッキにグラネトエールを注いでくれた。
やっぱり気を遣わせているなと思う。
よく見るとカーリンのジョッキも空なので、私がグラネトエールを注ぎ返した。
「うーん、メラニーのディップはネクタルを少しアレンジするといい組み合わせになりそう。アーベルさん、今度手伝って頂けると嬉しいです」
「もちろん。ネクタルを組み合わせるというのはさすがカーリンだな。興味あるから試してみたい」
カーリンは食べること、飲むことが大好きだ。造る方はお酒の方が得意だし、彼女自身お酒造りの方が好きなように見える。
私が飽きないよう、そして急な変化に戸惑わないよう小さなアレンジを加えるのは彼女らしい心遣いだと思う。
「アーベル様、わたくしもいただいてよろしいでしょうか?」
「おっと、ごめん。別に私の許可は要らないから」
ニーナに声をかけられて慌てて彼女のジョッキにエールを注ぐ。
彼女は最近ようやく皆がいる場所でも自分の要求を口にしてくれるようになった。
家のことをしっかり管理してくれているし、働き者だから羽目を外すところは思いっきり外してほしい。
彼女もお酒は好きなようだが、他にも趣味らしきものがあるらしい。
リーゼが何か知っているようだが、機会があったらニーナ自身の口から聞いてみたいものだ。
「アーベルさま、本のことをちょっと聞いてもいいですか?」
ニーナが満たされたジョッキに口を付けたタイミングで今度はマンガを片手に持ったリーゼが尋ねてきた。
「もちろん。新刊の入荷のことかい?」
「いえ、この話に『どーこーかい』なる人間の集まりみたいなものが書かれているのですが、これは何でしょうか? お祭り?」
リーゼは存在界に行ったことがないから、存在界に関する知識は本とゲーム、そして私の話から得ている。
かなり存在界のことには詳しくなったと思うのだが、精霊界にないもので存在界にあるものというのはまだまだ多いようだ。
この日も遅くまで食べ、語らい、飲んだ。
食事とお酒の時間が過ぎてもまだすることはある。
今日は全員で寝室に入る日。皆が満足するまで一肌脱ぐとしよう。
こうした時間が私は好きだ。
「アーベルさま、ゲーム機の魔力は後で私が補充しておきますね」
私が箱にしまったゲーム機をリーゼがよいしょと運んでいく。
ゲーム機が片付いた直後からニーナとメラニーが料理の皿を運んできた。
いつものマナだが、今日はディップの数が多いような気がする。
「ピアに教わったのよ。私も何か作ってみようと思ってね」
ふふん、と鼻を鳴らしながらメラニーが胸を張った。
いつの間にキッチンに入っていたのだろうか? ゲームに夢中で気が付かなかった。
「ニーナ、私も準備できました。お酒は何を持ってきますか?」
カーリンが作業場からリビングに向けて顔を出した。
「アーベル様、今日はグラネトエールにしようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
ニーナの問いに私がいいよと答えると、カーリンが地下の倉庫にグラネトエールの樽を取りに降りていった。
何となくだが、私が沈み気味なのに気付いて皆気を遣っているのがわかる。
ありがたいというか申し訳ない気分だ。
「ニーナ、二樽持ってきました。準備は大丈夫ですか?」
「カーリン、こっちは大丈夫です。アーベル様、始めてよろしいでしょうか?」
「うん、始めよう」
ニーナは律義なのでいちいち私に許可を求めてくるが、そこまでしないでもよいとは思う。
カーリンとリーゼが皆のジョッキにグラネトエールを注いだ。
ジョッキが満たされたところで食事を始める。
「アーベル、何があったの?」
パートナーたちが顔を見合わせた後、メラニーが代表して私に尋ねてきた。
恐らく皆で示し合わせていたのだろうと思う。
「ああ、存在界に出張している精霊から話を聞く機会があったのだけど……」
私は相談所で見聞きした、一部の人間が移住希望者や精霊界に興味を持っている者に向けている偏見の話をした。
あまり気分の良い話ではないが、隠しているとかえってパートナーたちを心配させるだろうと思ったからだ。
彼女たちはそういう面ではかなり鋭い。
「……移住する方をどう思われるかは自由だと思います。ですが、それを妨害するというのはわたくしの感覚ではあり得ません」
ニーナが首を横に振った。
他人の行動を妨害するために、相手の好みや考え方を悪く言うという考え方が精霊に無いのだろう。
「そうですね、ちょっとひどいです。こちらへ来たいという方が邪魔されないといいのですが……」
素直なカーリンらしい反応だ。そうだよなあと私も思うのだが、存在界では私の考え方は必ずしも多数派ではないと思っている。
「私は存在界の決まり事をよく知らないけど、力ずくで妨害したらそれこそ罰を受けるんじゃないの? そう簡単に妨害できるとも思わないけど……」
精霊界では現実派のメラニーであるが、存在界の人の考え方や法律には疎い。このような反応になるのも無理はない。
精霊界に移住するのを阻止するために、一般の人が移住希望者に暴力を振るうのは犯罪になると思う。
だが、移住のためには「精霊界移住相談所」を訪れる必要があり、相談所へ行こうとする者を警察などが阻止することはよくあることだ。
ユーリが最初に相談所を訪れようとした際に妨害が入ったのを私は目撃している。
「存在界で活動するメンバーを増やした方がいいと思います。数なら精霊の方が圧倒的に多いのですから」
リーゼは冷静だ。
彼女のいう通り、数でなら精霊は人間を圧倒できる。
存在界での活動に適した精霊というのは必ずしも多くないし、存在界で精霊が妖精となって活動するためには色々と準備が必要だ。
それでも存在界での活動を増やした方がいいだろう。その意味では私もリーゼの意見に賛成だ。
皆が私のモヤモヤを代弁してくれたおかげで、かなり気が楽になった。
「ありがとう。アイリスたちとももう少し話をして対応を考えてもらうよ。この話はこれでいいかな。あとは食事とお酒を楽しもうか」
「アーベルさん、今日はそれだけではないですよ」
カーリンが私に意味ありげな視線を向けてきた。
「そうよね。続きもあるのだし」
続けてメラニーが妖艶に微笑んだ。こういう笑みはカーリンが得意としているのだが……
「そうだったね。今日は全員集合の日か」
「アーベルさま、そうですよ。お忘れではないですよね?」
リーゼまでがゲームのときとはうって変わって、姉同様意味ありげな表情を浮かべている。
こちらは視線に疑わし気な成分が若干量含まれているような気がするが。
「コホン。夜のお楽しみはそのときになったら楽しむとして、今はお料理とお酒を楽しみませんか」
「ってニーナが一番楽しみにしていますよね? ニーナは昨日順番が来たばかりですけど……」
「リーゼ、それとこれとは話が別です。わたくしは定められた順番通りに……」
「あー、アーベルの前でそういうのはいいから」
「?!」
リーゼとメラニーにたしなめられてニーナがキッ! 二体を睨んだ。
「まあまあ、ニーナのいう通り今はお酒とマナを楽しまないか? その後はその後でたっぷり楽しめばいい」
「アーベル、わかった。寝室ではいっぱい楽しもうね!」
私の言葉を聞きつけて、メラニーが私の左腕を抱く腕に力を込めた。
「もう! メラニー、アーベル様が動きにくそうにしていますよ」
「わっと。すぐ離したからセーフよ、セーフ!」
ニーナに注意されて慌ててメラニーが私の左腕を解放した。
「場所、変わってみるか? ニーナとメラニーで場所を交換。カーリンとリーゼも場所を入れ替わって」
「はーい」「はいっ!」「「はい」」
場所を入れ替えた結果、ソファの真ん中が私で左隣がニーナ、右隣がリーゼになった。
私から向かって正面右側にカーリン、左側がメラニーだ。
この位置は新鮮だが、これはこれで悪くない。
「こうして皆と食事したり飲んだりするのは飽きないな。席を入れ替えただけでも新鮮だよ。皆に感謝だ」
思わず口にしてしまったが、こういう心情でいられるのもパートナーたちのおかげだ。
「アーベルってばぁ、飽きさせなんてしないわ。ドライアドの誇りにかけて、ね」
メラニーが私に流し目をくれた後、空いたジョッキにグラネトエールを注いでくれた。
メラニー本人から聞いたが、ドライアドは「気に入った相手を誘惑するのではなくて飽きさせないために何でもする存在」なのだそうだ。
他のドライアドからも同じ話を聞かされたことがあるので、メラニーだけが勝手にそう思っている訳ではないらしい。
「ありがとう。私にとって今の生活は楽しいし、飽きるようなものではないからね。このディップは……」
メラニーに礼を言って皿の上のマナに手を伸ばす。
するといつもは家で見ない色のディップが入った器が置かれている。
鮮やかな濃い緑色のそれは、存在界であれば青じそかほうれん草、またはゴーヤを使ったものに見える。
「これ、私がピアに習ったやつ。ちょっとアレンジしたから『ケルークス』のとは違うよ」
メラニーがディップの器を私の方に寄せた。
スプーンですくってマナに塗って口にしてみる。
ほんのり苦いが、スパイシーな酸味がありわずかな塩味と合わさってマナが進む。
「ケルークス」で最近出されるようになった「緑のディップ」に似ているが、それとは異なり唐辛子のような辛さはないし、こちらのほうがさらっとしている。
「緑のディップとは少し違うのか……辛さがないから辛いのが苦手な相手に出しても大丈夫そうだ」
「よかったっ! 『ケルークス』のはスーラの鞘が入っているけど、こっちはマナの葉っぱを入れているの。私にはマナの葉っぱの方が扱いやすいし、手に入れやすいからね」
メラニーが身を乗り出してきて、ディップの説明をしてくれた。
隣でニーナがメラニーを止めようと身構えている。
メラニーの顔がかなり近いが、感情表現がストレートな彼女なのでこれくらいは許してやってほしい。
「アーベルさん、私たちは皆ずっと一緒、ですから。私たちとの時間を楽しんでくれると嬉しいです。私はアーベルさんと一緒にいるのがすごく楽しいですし、幸せですから!」
メラニーが落ち着いたところで、今度はカーリンがそう言って私のジョッキにグラネトエールを注いでくれた。
やっぱり気を遣わせているなと思う。
よく見るとカーリンのジョッキも空なので、私がグラネトエールを注ぎ返した。
「うーん、メラニーのディップはネクタルを少しアレンジするといい組み合わせになりそう。アーベルさん、今度手伝って頂けると嬉しいです」
「もちろん。ネクタルを組み合わせるというのはさすがカーリンだな。興味あるから試してみたい」
カーリンは食べること、飲むことが大好きだ。造る方はお酒の方が得意だし、彼女自身お酒造りの方が好きなように見える。
私が飽きないよう、そして急な変化に戸惑わないよう小さなアレンジを加えるのは彼女らしい心遣いだと思う。
「アーベル様、わたくしもいただいてよろしいでしょうか?」
「おっと、ごめん。別に私の許可は要らないから」
ニーナに声をかけられて慌てて彼女のジョッキにエールを注ぐ。
彼女は最近ようやく皆がいる場所でも自分の要求を口にしてくれるようになった。
家のことをしっかり管理してくれているし、働き者だから羽目を外すところは思いっきり外してほしい。
彼女もお酒は好きなようだが、他にも趣味らしきものがあるらしい。
リーゼが何か知っているようだが、機会があったらニーナ自身の口から聞いてみたいものだ。
「アーベルさま、本のことをちょっと聞いてもいいですか?」
ニーナが満たされたジョッキに口を付けたタイミングで今度はマンガを片手に持ったリーゼが尋ねてきた。
「もちろん。新刊の入荷のことかい?」
「いえ、この話に『どーこーかい』なる人間の集まりみたいなものが書かれているのですが、これは何でしょうか? お祭り?」
リーゼは存在界に行ったことがないから、存在界に関する知識は本とゲーム、そして私の話から得ている。
かなり存在界のことには詳しくなったと思うのだが、精霊界にないもので存在界にあるものというのはまだまだ多いようだ。
この日も遅くまで食べ、語らい、飲んだ。
食事とお酒の時間が過ぎてもまだすることはある。
今日は全員で寝室に入る日。皆が満足するまで一肌脱ぐとしよう。
こうした時間が私は好きだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる