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第五章
新たな契約
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「アーベル、ちょっといいかしら?」
「今ですか? 大丈夫ですけど……」
相談客への対応を終えて、相談所の二階から一階の「ケルークス」に下りようとしたところ、アイリスに呼び止められた。
相談客はまだ応接室にいるはずだから、アイリスは相談客を待たせて応接室の外に出てきたことになる。これは珍しい。
「相談客の相手が終わったら話があるから、サロンで待っていて」
「はあ、承知しました……」
アイリスの指示に従い、私は二階のサロンへと移動した。
「待たせたわね、アーベル。今日はすぐ終わるから」
アイリスは数分後にサロンにやって来た。
「はあ……」
今日はすぐ終わる、というのは一体どういうことだろうか?
「明日なのだけど、契約しているパートナー全員を連れて一七時にここにきてもらえないかしら? カーリンには話は通してあるから」
「全員、ですか。カーリンに話が通っているなら都合はつくと思いますけど、一体何の用です?」
「詳しい話は資料が届いていないから明日になるけど、契約に関する話だから」
「……わかりました。けど、良い返事はできないかもしれませんよ」
「今の状況じゃ仕方ないわね。わかった」
アイリスの話はそれで終わりだった。
契約関連、ということからおおかた新しいパートナー候補を紹介されるのだろうと私は予想した。
少なくとも先日アイリスによる家庭訪問を受けたが、そっちは問題なかったはずだ。現在の契約をどうこうしようということにはならないだろう。
今のところ私に新しい相手と契約する意思はない。
アイリスの話しぶりからすると、どこからか私向けの契約相手が紹介されたといったところだろう。
水か風属性の精霊で状態がよくない者がいる可能性が考えられる。
相手のことも知らずに断るのは失礼だろうし、カーリンたちの意見も聞いておきたい。
※※
翌日の一七時少し前、私は四体のパートナーと一緒に相談所の二階にあるサロンに到着した。
「来たわね。準備があるから少し待っていて」
アイリスがサロンにやって来て、私たちに声をかけたが、すぐにどこかへと行ってしまった。
契約相手を紹介される場合、通常は最初に相手に関する書類を見せられるはずなのだが……
五分ほどして「入るわよ」とアイリスの声が聞こえてきた。
「どうぞ」
私が答えると、扉が開いて最初にアイリスが入ってきた。
「失礼します」「失礼するよー」
その後に聞きなれた女性の声がふたつ、聞こえてきた。
「ユーリにオリヴィアじゃないか。どういうことだい?」
入ってきたのは「ケルークス」の店長のユーリとカーリン、リーゼ姉妹の知り合いオリヴィアだ。どちらも私がよく知っている顔なのだがこれは一体?
「ユーリ、私から説明しようかしら?」
「ううん、私から言うから」
アイリスを制してユーリがこちらに歩み寄ってきた。
「あ、アーベル! 私、私と契約をお願いっ!」
ユーリが私に向かって勢いよく頭を下げた。
「ゆ、ユーリ? ええと……これはアイリスに尋ねたいのだが……」
ユーリから突然契約を頼まれて私は困惑した。
契約は魂霊と精霊との間で結ばれるものであって、魂霊同士での契約は認められていないはずだ。
「何? ユーリに直接聞いた方がいいんじゃない?」
アイリスがニタリと笑みを浮かべた。これは絶対何かを企んでいる顔だ。
「魂霊同士の契約は認められないのではなかったのではないですか? それはどうなっているんです?」
「話していなかったっけ? 色々変わったのよ。これを見たら」
アイリスがすっと一枚の紙を差し出した。
見ると「パートナーとの契約のルール変更について」と書かれている。
こんな紙は見たことないし、契約に関するルール変更の話など聞いたことがない。アイリスは敢えて私には知らせずにユーリに会わせているはずだ。
「なるほど……精霊と契約している魂霊同士の契約が認められるようになったのか……」
ユーリは現在精霊との契約を結んでいない。オリヴィアが連れてこられたのはそのためだろう。
「そういうこと。ユーリとオリヴィアで契約を結ぶから障害はないはずよ」
アイリスがふふんと鼻を鳴らした。彼女のことだから、こういうところに手抜かりはないはずだ。
となれば、あとは関係者の気持ちだけだ。
「……ユーリは私でいいのか? 私はユーリのお爺ちゃんくらいの年なのだが。それに精霊からなら別だろうが、正直私は人間の女性にあまりウケがよいとは言えないのだが……」
私は改めてユーリの意思を確認してみた。
彼女に関しては二点、引っかかる点があるからだ。
一つは彼女がこちらに移住してきてから今まで誰とも契約を結んでおらず、契約を焦っているように見えること。
相談員で出勤回数が多めの私は彼女が一番多く顔を合わせる相手の一人だろうから、近くで安易に相手を探していないかという懸念だ。
もう一つは、彼女が相談に訪れた際、私が追手から逃れるために手を貸したことがある。
このことを過大評価していないかという懸念だ。
「アイリスから色々な精霊を紹介されたし、『ケルークス』に出入りしている精霊たちにもたくさん会ったけど、私は……私は、アーベルがいいのっ!」
ユーリが肩で息をしながら答えた。その後は不安そうに私とパートナーたちを交互に見ている。
さすがにこれは本気だろう。こちらも真面目に考えなければならない。また、パートナーたちの意思も確かめる必要がある。
「アーベルはユーリのことどう思っているのよ?」
アイリスが突っ込んできた。見かねたのだろう。
正直なところ、ユーリと契約を結ぶなどとは考えたこともなかった。
魂霊同士の契約はルールが変わるまでは認められていなかったからだ。
私はユーリに対しては良い印象を持っているし、接しやすいとは思っている。
パートナー契約となると大事であるが、望まれるのなら何とか応えたいという気持ちにはなれる相手だ。
どうも私は欲しいものにあまり執着がないタイプなので、自分から積極的に求めようという気にならないのだが、それでもユーリはよいのだろうか?
「……好ましくは思っていますが、ユーリの期待に沿えるかというと自信がないです。それと今のパートナーたちの意思も確認したい」
私は甲斐性というものを持ち合わせていないのでこういう答えしかできない。
「アーベルさん、私が代表して答えますね」
それまで無言を貫いていたカーリンが私の前に進み出てきた。
「わかった。リーゼ、メラニー、ニーナもそれでいいのか?」
私が確認すると、リーゼ、メラニー、ニーナが力強くうなずいた。
その瞬間、私は確信した。いや、ようやく気付いたというべきか……
「私たちもユーリさんに来て欲しいです。アーベルさんのことを大事に思っているのは私たちと同じですし、私たちはユーリさんやオリヴィアとも仲間になりたいんです!」
カーリンが必死に訴えてきた。
恐らくユーリとカーリンたちは長い時間をかけてお互いの意思を確認してきたのだろう。
ここのところ私のパートナーたちが「ケルークス」を訪れる回数が増えていたが、そのときに話を進めていたに違いない。アイリスも間違いなく一枚噛んでいるはずだ。
時間をかけて外堀だけではなく内堀も埋めてきた、という訳だ。
となると、残りは一体だ。
「カーリンたちの意思は解った。それは尊重したいがオリヴィアの意思も確認したい。まだ何も聞いていないからね」
「うん。ユーリは反応が面白いし、付き合いが長いから契約したいんだよ。それとカーリンとリーゼとは付き合いが長いから、二人を見ていてアーベルとも契約したいと思っていたのだよね。正直、アーベルには可愛がってほしいかな」
オリヴィアがあっけらかんと答えた。
「何か難しい契約を言っていないか? ……これも認められるのか……」
私はアイリスから受け取った紙を確認した。
魂霊同士の契約がある場合、相手の魂霊が契約している精霊との契約も可能になるらしい。
「今も契約を必要としている精霊はたくさんいるのよ。彼らを救うために長老たちも重い腰を上げたってワケ。アーベル、覚悟なさい」
アイリスがいい笑顔を見せている。
「今更断るってことはないですよ。ユーリ、オリヴィア、契約をお願いします」
私はユーリとオリヴィアに向かって頭を下げた。
「アーベルっ! 私からもお願い!」「うん、よろしく」
ユーリとオリヴィアから了解が得られたのを確かめてから、アイリスがちゃちゃっと契約書を作成した。
「始めるわよ」
アイリスがテーブルの上に契約書を置いた。
契約書の上にユーリ、オリヴィア、私が手を置いた。
「みんな、異存はないわね?」
「ありません」「あるわけないわ」「ないよー」
アイリスが関係者の意思を確認すると、紙は炎に姿を変え、ユーリ、オリヴィア、私の身体に吸い込まれていった。
これで契約完了だ。
「契約形態が変わっても契約のやり方は変わらないのだな」
私は過去の契約とやり方が同じだったことに感心していた。
「アーベルさま。ユーリとオリヴィアの部屋を決めましょう。それと今後の過ごし方もです」
リーゼが私のところにやって来た。
「……そうか。増築はユーリとオリヴィアの分だったのだな」
「はい」
リーゼがいい笑顔でうなずいた。
いきなり四部屋も増築するから何事かと思ったが、二部屋はユーリとオリヴィアの分だったということだ。
その頃から皆はユーリとオリヴィアを受け入れることを決めていたのだろう。知らぬは私だけ、と。
「メラニー、いいかな。私、家でアーベルとどう接すればいいかわからないのだけど……」
ユーリが心配そうな顔でメラニーに尋ねた。私に直接聞かれても答えに困るので、メラニーに聞いた方がいいだろう。
新たに加わったユーリとオリヴィアを含めたパートナーたちがわいわいとこれからのことについて話をしている。楽しそうなのは何よりだ。
私は蚊帳の外だが、まあそれもいいだろう。
「ふふん。良かったわね、アーベル」
もう一人蚊帳の外だったアイリスがニヤニヤしながら近づいてきた。
「私に黙って進めていたのですね?」
「そうよ。アーベルなら、カーリンたちさえ説得すれば大丈夫だってわかっていたからね」
「……否定はしませんが、ユーリとオリヴィアはこれでよかったのですかね?」
「良かったと思わせるようにするのがアーベルの役目よ。まあ、カーリンたちと同じように扱えば大丈夫だから心配していないけどね」
「はあ、善処します。オリヴィアは精霊だからいいですけど、ユーリはそれでいいのですかね? 魂霊は精霊と感覚が違うと思いますけど」
私が懸念を表すと、アイリスは人差し指を立ててちっちっと横に振った。
「アーベル、わかっていないわね。ユーリには属性欠損があるし、感覚はかなり精霊寄りよ。心配いらないから」
「そういうものなのですかね……」
ともかく思いがけぬ形で新たにパートナーが二人も増えた。
周到に計画されていたみたいだからパートナーたちについては心配いらないのだろう。
あとは私が精進するだけ、ということのようだ。
「今ですか? 大丈夫ですけど……」
相談客への対応を終えて、相談所の二階から一階の「ケルークス」に下りようとしたところ、アイリスに呼び止められた。
相談客はまだ応接室にいるはずだから、アイリスは相談客を待たせて応接室の外に出てきたことになる。これは珍しい。
「相談客の相手が終わったら話があるから、サロンで待っていて」
「はあ、承知しました……」
アイリスの指示に従い、私は二階のサロンへと移動した。
「待たせたわね、アーベル。今日はすぐ終わるから」
アイリスは数分後にサロンにやって来た。
「はあ……」
今日はすぐ終わる、というのは一体どういうことだろうか?
「明日なのだけど、契約しているパートナー全員を連れて一七時にここにきてもらえないかしら? カーリンには話は通してあるから」
「全員、ですか。カーリンに話が通っているなら都合はつくと思いますけど、一体何の用です?」
「詳しい話は資料が届いていないから明日になるけど、契約に関する話だから」
「……わかりました。けど、良い返事はできないかもしれませんよ」
「今の状況じゃ仕方ないわね。わかった」
アイリスの話はそれで終わりだった。
契約関連、ということからおおかた新しいパートナー候補を紹介されるのだろうと私は予想した。
少なくとも先日アイリスによる家庭訪問を受けたが、そっちは問題なかったはずだ。現在の契約をどうこうしようということにはならないだろう。
今のところ私に新しい相手と契約する意思はない。
アイリスの話しぶりからすると、どこからか私向けの契約相手が紹介されたといったところだろう。
水か風属性の精霊で状態がよくない者がいる可能性が考えられる。
相手のことも知らずに断るのは失礼だろうし、カーリンたちの意見も聞いておきたい。
※※
翌日の一七時少し前、私は四体のパートナーと一緒に相談所の二階にあるサロンに到着した。
「来たわね。準備があるから少し待っていて」
アイリスがサロンにやって来て、私たちに声をかけたが、すぐにどこかへと行ってしまった。
契約相手を紹介される場合、通常は最初に相手に関する書類を見せられるはずなのだが……
五分ほどして「入るわよ」とアイリスの声が聞こえてきた。
「どうぞ」
私が答えると、扉が開いて最初にアイリスが入ってきた。
「失礼します」「失礼するよー」
その後に聞きなれた女性の声がふたつ、聞こえてきた。
「ユーリにオリヴィアじゃないか。どういうことだい?」
入ってきたのは「ケルークス」の店長のユーリとカーリン、リーゼ姉妹の知り合いオリヴィアだ。どちらも私がよく知っている顔なのだがこれは一体?
「ユーリ、私から説明しようかしら?」
「ううん、私から言うから」
アイリスを制してユーリがこちらに歩み寄ってきた。
「あ、アーベル! 私、私と契約をお願いっ!」
ユーリが私に向かって勢いよく頭を下げた。
「ゆ、ユーリ? ええと……これはアイリスに尋ねたいのだが……」
ユーリから突然契約を頼まれて私は困惑した。
契約は魂霊と精霊との間で結ばれるものであって、魂霊同士での契約は認められていないはずだ。
「何? ユーリに直接聞いた方がいいんじゃない?」
アイリスがニタリと笑みを浮かべた。これは絶対何かを企んでいる顔だ。
「魂霊同士の契約は認められないのではなかったのではないですか? それはどうなっているんです?」
「話していなかったっけ? 色々変わったのよ。これを見たら」
アイリスがすっと一枚の紙を差し出した。
見ると「パートナーとの契約のルール変更について」と書かれている。
こんな紙は見たことないし、契約に関するルール変更の話など聞いたことがない。アイリスは敢えて私には知らせずにユーリに会わせているはずだ。
「なるほど……精霊と契約している魂霊同士の契約が認められるようになったのか……」
ユーリは現在精霊との契約を結んでいない。オリヴィアが連れてこられたのはそのためだろう。
「そういうこと。ユーリとオリヴィアで契約を結ぶから障害はないはずよ」
アイリスがふふんと鼻を鳴らした。彼女のことだから、こういうところに手抜かりはないはずだ。
となれば、あとは関係者の気持ちだけだ。
「……ユーリは私でいいのか? 私はユーリのお爺ちゃんくらいの年なのだが。それに精霊からなら別だろうが、正直私は人間の女性にあまりウケがよいとは言えないのだが……」
私は改めてユーリの意思を確認してみた。
彼女に関しては二点、引っかかる点があるからだ。
一つは彼女がこちらに移住してきてから今まで誰とも契約を結んでおらず、契約を焦っているように見えること。
相談員で出勤回数が多めの私は彼女が一番多く顔を合わせる相手の一人だろうから、近くで安易に相手を探していないかという懸念だ。
もう一つは、彼女が相談に訪れた際、私が追手から逃れるために手を貸したことがある。
このことを過大評価していないかという懸念だ。
「アイリスから色々な精霊を紹介されたし、『ケルークス』に出入りしている精霊たちにもたくさん会ったけど、私は……私は、アーベルがいいのっ!」
ユーリが肩で息をしながら答えた。その後は不安そうに私とパートナーたちを交互に見ている。
さすがにこれは本気だろう。こちらも真面目に考えなければならない。また、パートナーたちの意思も確かめる必要がある。
「アーベルはユーリのことどう思っているのよ?」
アイリスが突っ込んできた。見かねたのだろう。
正直なところ、ユーリと契約を結ぶなどとは考えたこともなかった。
魂霊同士の契約はルールが変わるまでは認められていなかったからだ。
私はユーリに対しては良い印象を持っているし、接しやすいとは思っている。
パートナー契約となると大事であるが、望まれるのなら何とか応えたいという気持ちにはなれる相手だ。
どうも私は欲しいものにあまり執着がないタイプなので、自分から積極的に求めようという気にならないのだが、それでもユーリはよいのだろうか?
「……好ましくは思っていますが、ユーリの期待に沿えるかというと自信がないです。それと今のパートナーたちの意思も確認したい」
私は甲斐性というものを持ち合わせていないのでこういう答えしかできない。
「アーベルさん、私が代表して答えますね」
それまで無言を貫いていたカーリンが私の前に進み出てきた。
「わかった。リーゼ、メラニー、ニーナもそれでいいのか?」
私が確認すると、リーゼ、メラニー、ニーナが力強くうなずいた。
その瞬間、私は確信した。いや、ようやく気付いたというべきか……
「私たちもユーリさんに来て欲しいです。アーベルさんのことを大事に思っているのは私たちと同じですし、私たちはユーリさんやオリヴィアとも仲間になりたいんです!」
カーリンが必死に訴えてきた。
恐らくユーリとカーリンたちは長い時間をかけてお互いの意思を確認してきたのだろう。
ここのところ私のパートナーたちが「ケルークス」を訪れる回数が増えていたが、そのときに話を進めていたに違いない。アイリスも間違いなく一枚噛んでいるはずだ。
時間をかけて外堀だけではなく内堀も埋めてきた、という訳だ。
となると、残りは一体だ。
「カーリンたちの意思は解った。それは尊重したいがオリヴィアの意思も確認したい。まだ何も聞いていないからね」
「うん。ユーリは反応が面白いし、付き合いが長いから契約したいんだよ。それとカーリンとリーゼとは付き合いが長いから、二人を見ていてアーベルとも契約したいと思っていたのだよね。正直、アーベルには可愛がってほしいかな」
オリヴィアがあっけらかんと答えた。
「何か難しい契約を言っていないか? ……これも認められるのか……」
私はアイリスから受け取った紙を確認した。
魂霊同士の契約がある場合、相手の魂霊が契約している精霊との契約も可能になるらしい。
「今も契約を必要としている精霊はたくさんいるのよ。彼らを救うために長老たちも重い腰を上げたってワケ。アーベル、覚悟なさい」
アイリスがいい笑顔を見せている。
「今更断るってことはないですよ。ユーリ、オリヴィア、契約をお願いします」
私はユーリとオリヴィアに向かって頭を下げた。
「アーベルっ! 私からもお願い!」「うん、よろしく」
ユーリとオリヴィアから了解が得られたのを確かめてから、アイリスがちゃちゃっと契約書を作成した。
「始めるわよ」
アイリスがテーブルの上に契約書を置いた。
契約書の上にユーリ、オリヴィア、私が手を置いた。
「みんな、異存はないわね?」
「ありません」「あるわけないわ」「ないよー」
アイリスが関係者の意思を確認すると、紙は炎に姿を変え、ユーリ、オリヴィア、私の身体に吸い込まれていった。
これで契約完了だ。
「契約形態が変わっても契約のやり方は変わらないのだな」
私は過去の契約とやり方が同じだったことに感心していた。
「アーベルさま。ユーリとオリヴィアの部屋を決めましょう。それと今後の過ごし方もです」
リーゼが私のところにやって来た。
「……そうか。増築はユーリとオリヴィアの分だったのだな」
「はい」
リーゼがいい笑顔でうなずいた。
いきなり四部屋も増築するから何事かと思ったが、二部屋はユーリとオリヴィアの分だったということだ。
その頃から皆はユーリとオリヴィアを受け入れることを決めていたのだろう。知らぬは私だけ、と。
「メラニー、いいかな。私、家でアーベルとどう接すればいいかわからないのだけど……」
ユーリが心配そうな顔でメラニーに尋ねた。私に直接聞かれても答えに困るので、メラニーに聞いた方がいいだろう。
新たに加わったユーリとオリヴィアを含めたパートナーたちがわいわいとこれからのことについて話をしている。楽しそうなのは何よりだ。
私は蚊帳の外だが、まあそれもいいだろう。
「ふふん。良かったわね、アーベル」
もう一人蚊帳の外だったアイリスがニヤニヤしながら近づいてきた。
「私に黙って進めていたのですね?」
「そうよ。アーベルなら、カーリンたちさえ説得すれば大丈夫だってわかっていたからね」
「……否定はしませんが、ユーリとオリヴィアはこれでよかったのですかね?」
「良かったと思わせるようにするのがアーベルの役目よ。まあ、カーリンたちと同じように扱えば大丈夫だから心配していないけどね」
「はあ、善処します。オリヴィアは精霊だからいいですけど、ユーリはそれでいいのですかね? 魂霊は精霊と感覚が違うと思いますけど」
私が懸念を表すと、アイリスは人差し指を立ててちっちっと横に振った。
「アーベル、わかっていないわね。ユーリには属性欠損があるし、感覚はかなり精霊寄りよ。心配いらないから」
「そういうものなのですかね……」
ともかく思いがけぬ形で新たにパートナーが二人も増えた。
周到に計画されていたみたいだからパートナーたちについては心配いらないのだろう。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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