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第八章
喧嘩をしないってどういうこと?
「はい、皆さん、料理は行きわたりましたでしょうか?」
「ケルークス」の店内にユーリの声が響いた。
「来ていまーす」「大丈夫です」
店内の中央部に設けられた席から次々に答えが返ってきた。
四人掛けのテーブルをみっつつなげた即席の大テーブルだ。
ここに四人の人間、五体の精霊、二名の相談員が着席している。
席は一二あるが、これは一体到着が遅れている精霊がいるためだ。
「大丈夫ですね? それでは始めまーす! 参加者の皆さんは精霊に聞きたいことを聞いてくださいね」
ユーリの合図でお茶会が始まった。
「ケルークス」の存在界側の出入口周辺は最近きな臭い状況だ。
それでも相談に訪れるお客のために、当相談所もイベントを実施している。
今回は精霊界体験のミニツアー。その最後を締めくくるお茶会が始まったのだ。
一泊二日のツアーもあるのだけど、どうしても拘束時間が長くなってしまうということで今回日帰りのミニツアーを企画した。
最寄り駅に朝九時に集合して、一六時に解散する。
相談所で過ごす時間は短くなるけど、これなら一日の休みで精霊界をちょっとだけだが体験できる。
「サクラさん、パートナーの出張が多いと聞いたけど、気にならないのですか?」
モネさんという中年女性の参加者が相談員のサクラに尋ねているのを、私は少し離れたカウンター席から聞いている。
ミニツアーのお茶会に参加している相談員はサクラとエリシアの二人だ。
今回は四人とも女性客なので、対応する魂霊の相談員は二人とも女性となったのだ。
「クサーファーさんがいないときは相談員の仕事をしたり、家の近所を散歩したりしています。散歩は存在界にいたときにできなかったことなので、楽しいですよ」
「ああ、サクラさんはこちらに来る前、身体を悪くされていたのですよね」
「ええ。それに家を空けるといっても二、三日のことなのでそういうものかと思ってます。遅れていますけど、今日ももうすぐこちらに到着するはずです」
「あ、そんな感じなの? 出張と聞いていたからもっと長いと思っていたけど……」
話を聞くとモネさんはパートナーとべったりの過ごし方を望んでいるようだ。
「それだけべったりになると喧嘩も絶えないんじゃないかしら? 勤めていた会社の上司とは仲が悪かったし、いつも喧嘩していたけど、あんなのは御免よ」
そう突っ込んできたのはアサさんというお婆さんの参加者。モネさんの母親くらいの世代に見える。
「あら? 精霊は争いごとや競争が嫌いで、喧嘩になることはないと聞いたけど?」
今度はセンジュさんと呼ばれている参加者が質問してきた。
こちらは穏やかな感じの女性で、アサさんより少し年下か。
「これは精霊を代表して私が答えますけど、こちらで暮らしている限り、精霊だけではなくて他の誰とも喧嘩はできませんよ」
アイリスが定位置となっている奥の席から立ち上がって答えた。彼女も大テーブルの席には着かず、必要に応じて定位置から発言するだけだ。
「争いごとが嫌いだって話は聞いたことあるけど、喧嘩ができない、ってどういうことかしら?」
アサさんが疑わし気に尋ねてきた。
「確かに……精霊の側が一方的に我慢するだけじゃ、フラストレーションがたまって、いつか爆発しそうだけど……イッカイ、というのでしたっけ?」
今度は眼鏡の思慮深そうなホリさんという女性だ。
彼女は二年以上相談所に通っていてかなり多くの情報を得ている。溢壊のことを知っているのもそのためだ。
何でも判断するためにできる限りの情報を集めておきたいとのことで、今回も多忙な中スケジュールを調整してミニツアーに参加しているそうだ。
「人間には無い感覚かも知れないけど……」
アイリスがそう前置きしてから説明を始めた。
「……精霊や魂霊は、そもそも相手を傷つけたり争ったりする行動が取れないよう造られているの。これは精霊界という世界がそうなっているからなのだけど、相手が嫌がることを思いつかないようになっているのよ。むしろ、ストレスの原因になるのは魂霊のパートナーが存在しないことね。これが原因で溢壊のもととなる『揺らぎ』が生じるのだけど……」
「でも、民話とかでは存在界に行った精霊が悪さをすることがありますよね?」
センジュさんが穏やかながら鋭いツッコミを返してきた。
「そうなのよね……世界を構成する要素を放置しておくと皆が影響を受けてしまうから存在界を創ったけど、この要素からできた世界だけは精霊界のようにならなかった。それがそもそもの問題で、存在界に行った精霊は人間同様悪さもすることもある。悪戯の類であったり、純朴すぎて人間に受け入れられないことをしてしまうケースはあるけど、私から見れば大部分は人間側の誤解だけどね」
アイリスの表情が渋い。
世界が造られる前は、世界を構成する要素が不安定なままふわふわと漂っていたそうだ。
これは精霊だけでなくありとあらゆるものに悪影響を及ぼすので、世界を創ったらしい。
要素の大部分からは精霊界のような安定した世界が創れたのだけど、ごく一部の要素はどうしてもそうはならず、その結果できたのが存在界だったらしい。
話が難しすぎて、どういう理屈なのか私にはよくわからない。
「申し訳ない。展望台方面に監視の連中がうようよいて奴らに見つからないよう移動するのに手こずってしまった」
息を切らせて申し訳なさそうにクサーファーが「ケルークス」の店内に入ってきた。今は金髪の中年男性の姿だ。
首無し騎士の姿はさすがに刺激が強すぎると判断したのだろう。
「クサーファーさん! こっちこっち!」
サクラが大声をあげて手招きする。
これで精霊も全員揃ったことになる。
「クサーファー、遅い! 罰としてお主が存在界で引き起こした悪行をすべて吐くのだ!」
今まで大人しかったエリシアが、いきなりビシッとクサーファーに向けて指を突き付けた。
「事情が把握できておらぬが……我には存在界でそのようなことをした記憶はないのだが?」
「そこ、すっとぼけない! オイラは知っているんだぞ! 夜中にハイキング道を疾走する首無し騎士の馬車の存在を!」
エリシアがニヤニヤしながらクサーファーに詰め寄る。
「む、それが一体……」
「とぼけるか?」
一瞬たじろいだクサーファーに更にエリシアが詰め寄ったところでアイリスが割り込んだ。
「ストップ、あれは相談所の業務のうち、でしょう。悪行でも何でもないわよ」
「むぅ、せっかく面白くなると思ったのに……」
エリシアは残念そうだが、ちょっとおふざけが過ぎたような気がしないでもない。
「皆さんに説明すると、最近、ハイキング道や駐車場でここに来るお客さんを妨害している連中がいるでしょう? そういった輩を追い払うためにここのクサーファーにはひと働きしてもらっている、というわけ。知っている人は知っていると思うけど、クサーファーはデュラハンなのよ。本来の姿で人前に出たらそれなりの抑止力になるでしょう。こういうふうに善意の活動が悪い連中から悪行だと言いふらされているという例が少なくないのよ」
アイリスは他にも精霊━━存在界では精霊は妖精になるが━━の善意が存在界で悪行と解釈された事例をいくつか説明した。
「文化や考え方の違いもありますし、精霊がこちらで他者を傷つけられないように造られている、ということは理解しました。でも、喧嘩がないとなるとやはりフラストレーションが発散できない気がするのですが……」
説明を聞いたホリさんが首を傾げている。
「同じ説明になっちゃうけど、精霊は争いごとが苦手なのよ。他者に余計な介入をすることも大の苦手。そういうことは考えもすることがない。ただ、そのせいかもしれないけど他者に本性をさらけ出すことも苦手で、そのための触媒として魂霊との契約が必要になる、って説明でいいかしら?」
「そういうことですか……なかなか難しいものですね」
ホリさんは渋い顔を見せながらも納得してくれたようだった。
「他の質問も受けますよー」
重い雰囲気になったのを察したのか、サクラが声を張りあげた。
「あ、そうだ。精霊界にも観光名所があると聞いたのだけど……」
サクラの意図を察したのか、センジュさんが間髪入れず質問を返してきた。
それ以降は和気あいあいとした雰囲気でお茶会が進み、終了時間の一四時三〇分となった。
駅へ向かう本来のルートが使えるなら、あと一時間弱は余裕があるのだが、そこには監視の人が多く入り込んでいるようだ。
そのため、反対側のバス停に向かうルートを使うように予定を変更した。
また、クサーファーと「ケルークス」の厨房を担当するブリスがツアー客に同行し、安全を守ることになった。
お茶会の時間が当初の予定より一時間ばかり短くなってしまったが、お客さんはハイキングが楽しめると好意的に評価してくれた。
アイリスとユーリ、そして私の三人は一六時半に業務を終えて「ケルークス」の建物を後にした。
「ふぅ……ようやく終わったわね」
「アイリス、何か気になることがあるのだろうか?」
帰り道、アイリスが難しい顔をしていたので、思わず声をかけてしまった。
「……アーベルには隠せない、か。だったら話しちゃった方がいいかもね」
アイリスが力なく首を横に振った。
「アーベルなら話しちゃっても平気、だと思う。私も聞いておきたいけど……」
ユーリが私の方をチラッと見てからアイリスに言った。
「……わかったわ。存在界や生物を造った後で、原初の精霊や初期の精霊の間では設計を間違ったのではないか、という議論がなされたことがあったのよ。存在界そのものは違うけど、生物の設計には私も関わっていたからね。さっきのお客さんからの質問を聞いて人間の設計にもっと時間をかければよかったかな、って思っちゃった。存在界の生物にはかなり迷惑をかけてしまったでしょうし」
「……軽々しく判断できないけど、どうしてそう思うのかは気になるな……」
アイリスがどのような考えで人間の設計をしたのかは私にも見当がつかない。長老などから色々うるさく言われていたことくらいは過去に聞いたことがあるのだが……
「アサさんやホリさんの質問を聞いて考えちゃったのよ。存在界は争いができる世界だし、人間を含めた多くの生物は争いが絶えないし……精霊の私としてはそういうのを見るのは正直嫌なのよね……」
アイリスの言葉で精霊と人間との間に争いに対する感覚の差が大きいことがわかった気がした。
こういうとき、気の利いた人なら「私が存在しているのだから、人間を今の設計にしたことを誤りだと思って欲しくない」くらいのことを言えるのだろう。
でも、私にはそれができない。
精霊にとって今の存在界やそこで生きる生物の在り方というのが、たまらなく嫌なものである可能性が考えられたからだ。
「私には難しいことはよくわからないけど……できちゃったものはしょうがないんじゃない? 無かったことにはできないし、今更全部壊しちゃうのはもっとマズいと思うけど……」
ユーリの言う通りかもしれない。
「……そうね。できちゃったのはしょうがない、か。そういうことにしておくわ。帰ったらお酒にしよ、お酒!」
アイリスが私とユーリの手を取って、家へと向けて引っ張り出した。何とか元気になってくれるとよいのだけど。
「ケルークス」の店内にユーリの声が響いた。
「来ていまーす」「大丈夫です」
店内の中央部に設けられた席から次々に答えが返ってきた。
四人掛けのテーブルをみっつつなげた即席の大テーブルだ。
ここに四人の人間、五体の精霊、二名の相談員が着席している。
席は一二あるが、これは一体到着が遅れている精霊がいるためだ。
「大丈夫ですね? それでは始めまーす! 参加者の皆さんは精霊に聞きたいことを聞いてくださいね」
ユーリの合図でお茶会が始まった。
「ケルークス」の存在界側の出入口周辺は最近きな臭い状況だ。
それでも相談に訪れるお客のために、当相談所もイベントを実施している。
今回は精霊界体験のミニツアー。その最後を締めくくるお茶会が始まったのだ。
一泊二日のツアーもあるのだけど、どうしても拘束時間が長くなってしまうということで今回日帰りのミニツアーを企画した。
最寄り駅に朝九時に集合して、一六時に解散する。
相談所で過ごす時間は短くなるけど、これなら一日の休みで精霊界をちょっとだけだが体験できる。
「サクラさん、パートナーの出張が多いと聞いたけど、気にならないのですか?」
モネさんという中年女性の参加者が相談員のサクラに尋ねているのを、私は少し離れたカウンター席から聞いている。
ミニツアーのお茶会に参加している相談員はサクラとエリシアの二人だ。
今回は四人とも女性客なので、対応する魂霊の相談員は二人とも女性となったのだ。
「クサーファーさんがいないときは相談員の仕事をしたり、家の近所を散歩したりしています。散歩は存在界にいたときにできなかったことなので、楽しいですよ」
「ああ、サクラさんはこちらに来る前、身体を悪くされていたのですよね」
「ええ。それに家を空けるといっても二、三日のことなのでそういうものかと思ってます。遅れていますけど、今日ももうすぐこちらに到着するはずです」
「あ、そんな感じなの? 出張と聞いていたからもっと長いと思っていたけど……」
話を聞くとモネさんはパートナーとべったりの過ごし方を望んでいるようだ。
「それだけべったりになると喧嘩も絶えないんじゃないかしら? 勤めていた会社の上司とは仲が悪かったし、いつも喧嘩していたけど、あんなのは御免よ」
そう突っ込んできたのはアサさんというお婆さんの参加者。モネさんの母親くらいの世代に見える。
「あら? 精霊は争いごとや競争が嫌いで、喧嘩になることはないと聞いたけど?」
今度はセンジュさんと呼ばれている参加者が質問してきた。
こちらは穏やかな感じの女性で、アサさんより少し年下か。
「これは精霊を代表して私が答えますけど、こちらで暮らしている限り、精霊だけではなくて他の誰とも喧嘩はできませんよ」
アイリスが定位置となっている奥の席から立ち上がって答えた。彼女も大テーブルの席には着かず、必要に応じて定位置から発言するだけだ。
「争いごとが嫌いだって話は聞いたことあるけど、喧嘩ができない、ってどういうことかしら?」
アサさんが疑わし気に尋ねてきた。
「確かに……精霊の側が一方的に我慢するだけじゃ、フラストレーションがたまって、いつか爆発しそうだけど……イッカイ、というのでしたっけ?」
今度は眼鏡の思慮深そうなホリさんという女性だ。
彼女は二年以上相談所に通っていてかなり多くの情報を得ている。溢壊のことを知っているのもそのためだ。
何でも判断するためにできる限りの情報を集めておきたいとのことで、今回も多忙な中スケジュールを調整してミニツアーに参加しているそうだ。
「人間には無い感覚かも知れないけど……」
アイリスがそう前置きしてから説明を始めた。
「……精霊や魂霊は、そもそも相手を傷つけたり争ったりする行動が取れないよう造られているの。これは精霊界という世界がそうなっているからなのだけど、相手が嫌がることを思いつかないようになっているのよ。むしろ、ストレスの原因になるのは魂霊のパートナーが存在しないことね。これが原因で溢壊のもととなる『揺らぎ』が生じるのだけど……」
「でも、民話とかでは存在界に行った精霊が悪さをすることがありますよね?」
センジュさんが穏やかながら鋭いツッコミを返してきた。
「そうなのよね……世界を構成する要素を放置しておくと皆が影響を受けてしまうから存在界を創ったけど、この要素からできた世界だけは精霊界のようにならなかった。それがそもそもの問題で、存在界に行った精霊は人間同様悪さもすることもある。悪戯の類であったり、純朴すぎて人間に受け入れられないことをしてしまうケースはあるけど、私から見れば大部分は人間側の誤解だけどね」
アイリスの表情が渋い。
世界が造られる前は、世界を構成する要素が不安定なままふわふわと漂っていたそうだ。
これは精霊だけでなくありとあらゆるものに悪影響を及ぼすので、世界を創ったらしい。
要素の大部分からは精霊界のような安定した世界が創れたのだけど、ごく一部の要素はどうしてもそうはならず、その結果できたのが存在界だったらしい。
話が難しすぎて、どういう理屈なのか私にはよくわからない。
「申し訳ない。展望台方面に監視の連中がうようよいて奴らに見つからないよう移動するのに手こずってしまった」
息を切らせて申し訳なさそうにクサーファーが「ケルークス」の店内に入ってきた。今は金髪の中年男性の姿だ。
首無し騎士の姿はさすがに刺激が強すぎると判断したのだろう。
「クサーファーさん! こっちこっち!」
サクラが大声をあげて手招きする。
これで精霊も全員揃ったことになる。
「クサーファー、遅い! 罰としてお主が存在界で引き起こした悪行をすべて吐くのだ!」
今まで大人しかったエリシアが、いきなりビシッとクサーファーに向けて指を突き付けた。
「事情が把握できておらぬが……我には存在界でそのようなことをした記憶はないのだが?」
「そこ、すっとぼけない! オイラは知っているんだぞ! 夜中にハイキング道を疾走する首無し騎士の馬車の存在を!」
エリシアがニヤニヤしながらクサーファーに詰め寄る。
「む、それが一体……」
「とぼけるか?」
一瞬たじろいだクサーファーに更にエリシアが詰め寄ったところでアイリスが割り込んだ。
「ストップ、あれは相談所の業務のうち、でしょう。悪行でも何でもないわよ」
「むぅ、せっかく面白くなると思ったのに……」
エリシアは残念そうだが、ちょっとおふざけが過ぎたような気がしないでもない。
「皆さんに説明すると、最近、ハイキング道や駐車場でここに来るお客さんを妨害している連中がいるでしょう? そういった輩を追い払うためにここのクサーファーにはひと働きしてもらっている、というわけ。知っている人は知っていると思うけど、クサーファーはデュラハンなのよ。本来の姿で人前に出たらそれなりの抑止力になるでしょう。こういうふうに善意の活動が悪い連中から悪行だと言いふらされているという例が少なくないのよ」
アイリスは他にも精霊━━存在界では精霊は妖精になるが━━の善意が存在界で悪行と解釈された事例をいくつか説明した。
「文化や考え方の違いもありますし、精霊がこちらで他者を傷つけられないように造られている、ということは理解しました。でも、喧嘩がないとなるとやはりフラストレーションが発散できない気がするのですが……」
説明を聞いたホリさんが首を傾げている。
「同じ説明になっちゃうけど、精霊は争いごとが苦手なのよ。他者に余計な介入をすることも大の苦手。そういうことは考えもすることがない。ただ、そのせいかもしれないけど他者に本性をさらけ出すことも苦手で、そのための触媒として魂霊との契約が必要になる、って説明でいいかしら?」
「そういうことですか……なかなか難しいものですね」
ホリさんは渋い顔を見せながらも納得してくれたようだった。
「他の質問も受けますよー」
重い雰囲気になったのを察したのか、サクラが声を張りあげた。
「あ、そうだ。精霊界にも観光名所があると聞いたのだけど……」
サクラの意図を察したのか、センジュさんが間髪入れず質問を返してきた。
それ以降は和気あいあいとした雰囲気でお茶会が進み、終了時間の一四時三〇分となった。
駅へ向かう本来のルートが使えるなら、あと一時間弱は余裕があるのだが、そこには監視の人が多く入り込んでいるようだ。
そのため、反対側のバス停に向かうルートを使うように予定を変更した。
また、クサーファーと「ケルークス」の厨房を担当するブリスがツアー客に同行し、安全を守ることになった。
お茶会の時間が当初の予定より一時間ばかり短くなってしまったが、お客さんはハイキングが楽しめると好意的に評価してくれた。
アイリスとユーリ、そして私の三人は一六時半に業務を終えて「ケルークス」の建物を後にした。
「ふぅ……ようやく終わったわね」
「アイリス、何か気になることがあるのだろうか?」
帰り道、アイリスが難しい顔をしていたので、思わず声をかけてしまった。
「……アーベルには隠せない、か。だったら話しちゃった方がいいかもね」
アイリスが力なく首を横に振った。
「アーベルなら話しちゃっても平気、だと思う。私も聞いておきたいけど……」
ユーリが私の方をチラッと見てからアイリスに言った。
「……わかったわ。存在界や生物を造った後で、原初の精霊や初期の精霊の間では設計を間違ったのではないか、という議論がなされたことがあったのよ。存在界そのものは違うけど、生物の設計には私も関わっていたからね。さっきのお客さんからの質問を聞いて人間の設計にもっと時間をかければよかったかな、って思っちゃった。存在界の生物にはかなり迷惑をかけてしまったでしょうし」
「……軽々しく判断できないけど、どうしてそう思うのかは気になるな……」
アイリスがどのような考えで人間の設計をしたのかは私にも見当がつかない。長老などから色々うるさく言われていたことくらいは過去に聞いたことがあるのだが……
「アサさんやホリさんの質問を聞いて考えちゃったのよ。存在界は争いができる世界だし、人間を含めた多くの生物は争いが絶えないし……精霊の私としてはそういうのを見るのは正直嫌なのよね……」
アイリスの言葉で精霊と人間との間に争いに対する感覚の差が大きいことがわかった気がした。
こういうとき、気の利いた人なら「私が存在しているのだから、人間を今の設計にしたことを誤りだと思って欲しくない」くらいのことを言えるのだろう。
でも、私にはそれができない。
精霊にとって今の存在界やそこで生きる生物の在り方というのが、たまらなく嫌なものである可能性が考えられたからだ。
「私には難しいことはよくわからないけど……できちゃったものはしょうがないんじゃない? 無かったことにはできないし、今更全部壊しちゃうのはもっとマズいと思うけど……」
ユーリの言う通りかもしれない。
「……そうね。できちゃったのはしょうがない、か。そういうことにしておくわ。帰ったらお酒にしよ、お酒!」
アイリスが私とユーリの手を取って、家へと向けて引っ張り出した。何とか元気になってくれるとよいのだけど。
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