ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

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第十六章

761:大口顧客の力

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 果たして「勉強会」グループは自分の話に耳を傾けるだろうか? というオソダの疑問にレイカが答える。
「『勉強会』グループの方の要求は何でしょうか? 要求するものを提供できる可能性が最も高いのは、オソダ支店長だと私は考えています」
「メルツ室長、それはかつてのように我々が鉱山を管理し、現在のIMPUの幹部や組合などを押さえつけろ、ということでしょうか?」
 かつての自分であれば、このようなことは絶対に言わなかっただろう、と思いながらもオソダはレイカに尋ねた。
 ハドリが行方不明になる前であれば、OP社がIMPUや組合を押さえつける、という行為を当然のものとして受け入れただろう。
 しかし、今は状況が異なるし、ハドリが目指していたものもすべてが正しいとは思えなくなってきていたオソダであった。

「時代を撒き戻すことはできないでしょう。ただし、御社はIMPUに対して影響力を発揮できる分野をお持ちです。この力の使い方を誤らなければ、『勉強会』グループの求めるものが提供できるでしょう」
「IMPUに対する影響力? わが社は、鉱山関係からは完全に手を引いていますが?」
「御社で今、もっとも不足している『モノ』は何でしょうか?」
「発電機器をメンテナンスする部品類、ですね……なるほど」
 オソダはあることに思い至った。
 メンテナンスの部品類はインデスト以外の都市、すなわちポータル・シティやハモネスなど島西端部で製造されているものも少なくなかったが、その原材料のほとんどがIMPUで製造されていた。
 直接ではないが、OP社はIMPUにとって金額で第二位の大手顧客なのだ。
 レイカはOP社に、「顧客として影響力を発揮せよ」と主張していたのだ。
 そして、その姿勢の見せ方で「勉強会」グループにも影響力を発揮することができる、と。
 必ずしも容易ではないやり方ではあったが、鉱山関係の業務にOP社が再参入する方法と比較して、オソダ一人でも対応しやすい。
 OP社も部品の販売業者などを通じてIMPUへ要望を出してはいるのだが、その行動は、ほとんど表面化することがなかった。
 IMPUへの要望を表に出し、そしてより強い姿勢で対応した場合、IMPUが聞く耳を持つか、という点においてオソダは疑問を抱いていた。
 オソダはインデストにおけるOP社のトップではあったが、鉱山関係の業務に携わったこともなければ、鉱山関係者によく知るメンバーもほとんどいなかった。
 そのためアカシなどIMPUの幹部の人となりをよく知らなかったのであった。
 ハドリ健在時のOP社の社風と現在のOP社の事業が作り出した皮肉であるといってよかった。

 しかし、レイカが提案してきたということは、彼女なりに勝算があるのだろう、とオソダは考えた。
 よく考えてみれば、OP社にとって悪い話ではなかった。
 現在、インデストが抱えている問題の解決のためにECN社へ寄せられる期待は大きいといえた。
 ECN社はインデストでほとんど事業活動を行っていないが、インデストの問題を解決できる資源を有していると考えられていた。
 逆を言えば、ECN社以外で問題解決のために十分な資源を有している企業や団体は存在しない、という意見が大半だったのであった。
 すなわち、問題が悪化すれば、市民の批判の目はECN社に向けられる可能性が高い。
 この状況でレイカ・メルツともあろう者が、分の悪い賭けに出るとは考えにくかった。

「IMPUに要求を出した上で、『勉強会』のオオバさんとは話をしてみましょう。彼も私と同じで古い考えのOP社の人間ですから、話が合うでしょう」
 ことがレイカの思うように進めば、すべては彼女の手柄になるかも知れなかったが、オソダはそのことをあまり気にかけていなかった。
 市民への電力の安定供給、それがオソダの希望だった。
「『勉強会』への対応は支店長にお願いします。IMPUと組合は私が話をしますので。アカシ代表とは明日の午前中に話をすることになっております」

 レイカの言葉でオソダは覚悟を決めた。
 (これは、今日中にIMPUと話をしなさい、ということか。見かけによらず、厳しい先生だな……職業学校のもと人気教官は甘くないということか)

 この後、ECN社とOP社とで今後の対応について協議が続けられた。
 OP社の状況が非常に厳しいことと、双方の利害がほぼ一致していたことから、協議はスムーズに進んでいった。

 一五時過ぎに話はまとまった。
 オソダらOP社の幹部は、この後IMPUへ話をしに行くこととなった。
 レイカらECN社のメンバーはこの後「EMいのちの守護者の会」を訪れる予定となっている。
 これにはオソダ達が驚かされた。
 彼らは「EMいのちの守護者の会」の裏の顔を知らなかったが、IMPUの現幹部寄りとされているECN社の幹部が「勉強会」グループを支持している団体の本拠地に少人数で乗り込むというのは大胆を通り越して無謀に近いのではないか、と考えたからだ。

「子供たちや一連の事件などに関係ない市民の方々の安全を願う点で、私どもと『EMいのちの守護者の会』の皆さんの間に大きな差はないでしょうから」
 オソダ達の疑問に、レイカはしれっと答えてのけたのだった。
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