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第十七章
784:新しい補佐役
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一連の調査についてミヤハラが表立って動けなかったのは、「EMいのちの守護者の会」の存在もあった。
だが、それに加えて、社内の幹部にミヤハラの行動を快く思わない者が少なくなかったことの影響が大きい。
ECN社は各幹部が抱えるタスクユニットの独立性が高く、社長といえどもタスクユニットのトップの意思に反して人員を動かすことができない。
社内に一八あるタスクユニットのうち、ミヤハラに協力的なのは二つか三つであり、半数程度が敵対的、残りが中立といった状況であった。
ミヤハラがある程度自由に動かせるのは、協力的な二つか三つのタスクユニットの人員のみである。
タスクユニットとは別に役員のマコト・トミシマ率いる総務部門とレイカが率いる広報企画室はミヤハラ支持であるが、どちらも人数的には少数の部門である。
このため、ミヤハラが動かせる人員はそれほど多くない。
それだけではなく、最も協力的であるエリック・モトムラのタスクユニットは「東部探索隊」事業に多くの人員を割いていたし、総務部門からもインデストへ少なくない人員を派遣している。
しかし、今回の事件でECN社は電力事業者管理団体を捜査する大義名分を得た。
ミヤハラに敵対的な幹部達でも大義名分が立てば表立って彼に反対するわけにはいかない。
むしろECN社の関連会社であるOP社が被害を受けたことで、ECN社が事件の捜査を行わなければ市民の疑いの目がECN社に向けられる可能性の方が高い。
ミヤハラとしてはしてやったりの状況であり、今後は動きやすくなりそうであった。
だが、懸念材料も抱えていた。
それがミヤハラの最大の協力者であるオイゲンなのだから皮肉でしかない。
今回オイゲンをハモネスに戻したところで、ミヤハラは行方不明だった彼が見つかったことを発表する腹であった。
オイゲン自身に社長への復帰の意思はないが、ミヤハラを嫌うがゆえにオイゲンを推す幹部が出るであろうことは明白であった。
旧「タブーなきエンジニア集団」を中心としたメンバーで、彼らにとって得体の知れない活動を推し進めるミヤハラと比較して、オイゲンははるかに御しやすい、と彼らは見ていると思われた。
オイゲンが社長に就任したところで、オイゲンがミヤハラを支持している以上、ECN社としてやることは変わらない。
しかし、古参幹部としがらみの多いオイゲンであるし、彼の性格からミヤハラに反対する者を封じ込めるほどの思い切った決断はできないであろう。また、ミヤハラ自身にもオイゲンにトップを譲るという考えはなかった。
現在はほぼ回復しているようであるが、オイゲンが記憶を失っていた、という事実はミヤハラ、オイゲン双方にとって都合のよいものであった。
この事実を利用して「オイゲンはECN社の社長に復帰できる状態ではない」と主張するのがミヤハラとオイゲンとで取り決めた方針であった。
オイゲンの治療を担当したフィリップ・ウェル医師からの診断書は入手済みであり、説明は十分につく。
診断書の内容から、オイゲンに多少の性格の変化が生じても不自然ではない状況であるため、いざとなればオイゲンが豹変したふりをして、彼を推す者たちの士気を落とすことも考えられていた。
(イナがもう少し強硬な人間であれば、俺がここまで考えなくても済んだのだが……)
ミヤハラが近くで作業中のオイゲンを見ながら、声にならない声でぼやいた。
ミヤハラ本人は自覚していないが、彼がオイゲンに拘るのはオイゲンの忠実さと事務処理能力の高さを評価してのことであった。
それでもぼやかずにいられないのは、そもそもミヤハラがある意味怠惰といえるレベルの面倒臭がりであったからだ。
このような状況でなければ例えば故ウィーリー・トワのような優秀な者にトップを任せて、自身は惰眠をむさぼったであろうことは疑いようもなかった。
事実、「タブーなきエンジニア集団」時代はトップのウォーリーにすべてを任せて補佐役に徹していればよかったので、オイゲンのような役割を必要としていなかった。
しかし、自らがECN社のトップとなった以上、補佐役 (という名のサボり)に徹しているわけにはいかない。
その一方で、ミヤハラは自らの考えを理解してそれを忠実に行動できる補佐役を必要としていた。
ミヤハラの目から見て、サクライは忠実さとフットワークの軽さに欠ける。エリックは忠実ではあるが、ウォーリーの部下という性質が強く、ミヤハラを直接補佐する役割としては使いにくい。
他にも候補はいるが、サクライやエリックと比較して小粒であり、ミヤハラの補佐役としては何かしらの不足がある。
オイゲン以上にこの役割にふさわしい者はない、というのがミヤハラの結論であった。
この結論に基づいて、ECN社内の主導権争いからオイゲンを切り離し、必要な作業に専念させる目的で彼を「マッチ・ラボ」の近所へ引っ込ませることを決めたのだ。
だが、それに加えて、社内の幹部にミヤハラの行動を快く思わない者が少なくなかったことの影響が大きい。
ECN社は各幹部が抱えるタスクユニットの独立性が高く、社長といえどもタスクユニットのトップの意思に反して人員を動かすことができない。
社内に一八あるタスクユニットのうち、ミヤハラに協力的なのは二つか三つであり、半数程度が敵対的、残りが中立といった状況であった。
ミヤハラがある程度自由に動かせるのは、協力的な二つか三つのタスクユニットの人員のみである。
タスクユニットとは別に役員のマコト・トミシマ率いる総務部門とレイカが率いる広報企画室はミヤハラ支持であるが、どちらも人数的には少数の部門である。
このため、ミヤハラが動かせる人員はそれほど多くない。
それだけではなく、最も協力的であるエリック・モトムラのタスクユニットは「東部探索隊」事業に多くの人員を割いていたし、総務部門からもインデストへ少なくない人員を派遣している。
しかし、今回の事件でECN社は電力事業者管理団体を捜査する大義名分を得た。
ミヤハラに敵対的な幹部達でも大義名分が立てば表立って彼に反対するわけにはいかない。
むしろECN社の関連会社であるOP社が被害を受けたことで、ECN社が事件の捜査を行わなければ市民の疑いの目がECN社に向けられる可能性の方が高い。
ミヤハラとしてはしてやったりの状況であり、今後は動きやすくなりそうであった。
だが、懸念材料も抱えていた。
それがミヤハラの最大の協力者であるオイゲンなのだから皮肉でしかない。
今回オイゲンをハモネスに戻したところで、ミヤハラは行方不明だった彼が見つかったことを発表する腹であった。
オイゲン自身に社長への復帰の意思はないが、ミヤハラを嫌うがゆえにオイゲンを推す幹部が出るであろうことは明白であった。
旧「タブーなきエンジニア集団」を中心としたメンバーで、彼らにとって得体の知れない活動を推し進めるミヤハラと比較して、オイゲンははるかに御しやすい、と彼らは見ていると思われた。
オイゲンが社長に就任したところで、オイゲンがミヤハラを支持している以上、ECN社としてやることは変わらない。
しかし、古参幹部としがらみの多いオイゲンであるし、彼の性格からミヤハラに反対する者を封じ込めるほどの思い切った決断はできないであろう。また、ミヤハラ自身にもオイゲンにトップを譲るという考えはなかった。
現在はほぼ回復しているようであるが、オイゲンが記憶を失っていた、という事実はミヤハラ、オイゲン双方にとって都合のよいものであった。
この事実を利用して「オイゲンはECN社の社長に復帰できる状態ではない」と主張するのがミヤハラとオイゲンとで取り決めた方針であった。
オイゲンの治療を担当したフィリップ・ウェル医師からの診断書は入手済みであり、説明は十分につく。
診断書の内容から、オイゲンに多少の性格の変化が生じても不自然ではない状況であるため、いざとなればオイゲンが豹変したふりをして、彼を推す者たちの士気を落とすことも考えられていた。
(イナがもう少し強硬な人間であれば、俺がここまで考えなくても済んだのだが……)
ミヤハラが近くで作業中のオイゲンを見ながら、声にならない声でぼやいた。
ミヤハラ本人は自覚していないが、彼がオイゲンに拘るのはオイゲンの忠実さと事務処理能力の高さを評価してのことであった。
それでもぼやかずにいられないのは、そもそもミヤハラがある意味怠惰といえるレベルの面倒臭がりであったからだ。
このような状況でなければ例えば故ウィーリー・トワのような優秀な者にトップを任せて、自身は惰眠をむさぼったであろうことは疑いようもなかった。
事実、「タブーなきエンジニア集団」時代はトップのウォーリーにすべてを任せて補佐役に徹していればよかったので、オイゲンのような役割を必要としていなかった。
しかし、自らがECN社のトップとなった以上、補佐役 (という名のサボり)に徹しているわけにはいかない。
その一方で、ミヤハラは自らの考えを理解してそれを忠実に行動できる補佐役を必要としていた。
ミヤハラの目から見て、サクライは忠実さとフットワークの軽さに欠ける。エリックは忠実ではあるが、ウォーリーの部下という性質が強く、ミヤハラを直接補佐する役割としては使いにくい。
他にも候補はいるが、サクライやエリックと比較して小粒であり、ミヤハラの補佐役としては何かしらの不足がある。
オイゲン以上にこの役割にふさわしい者はない、というのがミヤハラの結論であった。
この結論に基づいて、ECN社内の主導権争いからオイゲンを切り離し、必要な作業に専念させる目的で彼を「マッチ・ラボ」の近所へ引っ込ませることを決めたのだ。
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