ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

文字の大きさ
64 / 240
第十七章

783:ミヤハラ、ピンチを楽しむ

しおりを挟む
 ポータル・シティで暴動発生、死傷者が多数出ている模様!

 LH五二年夏のある日、サブマリン島西端部はこのニュースで騒然となった。
 このニュースを「マッチ・ラボ」にいるバン・シシガが耳にしたら、「ECN社は見通しを誤った、エリックが正しかったのだ」と指摘したに違いなかった。
 何故ならECN社は島西端部で暴動が起きるよりも、ECN社の幹部が襲撃される可能性を高く見ていたためだ。

 この日の島西端部は午前中雲ひとつない快晴で、正午から電力事業者管理団体の関係者がポータル・シティにあるOP社本社前で、電力供給回復を求めるデモを行っていた。
 午後三時過ぎに天候が急変し、叩きつけるような猛烈な雨がデモ隊を襲った。
 落雷の危険も予想されたため、安全を考えてOP社は本社ビルの一部を解放して、デモ隊など近くにいる人々の一時避難場所とした。これが午後三時一〇分のことであった。
 大部分のデモ隊がOP社本社ビルに避難したが、十数名が避難を拒否した。
 一部にはデモ隊の代表的な人物から避難を許可されなかったため外に残ったという話もあった。

 避難したのはデモ隊だけではなく、合宿でポータル・シティ郊外のキャンプ場に向かう中学生の集団なども含まれていた。
 豪雨と雷は一時間以上続き、OP社本社は外にいる者たちへ避難を呼びかけ続けた。
 外に残ったデモ隊の近くに落雷があったのは、午後四時二〇分のことである。
 道路脇の木の近くにいたデモ隊のメンバーが雷を受けた。
 それとほぼ時を同じくして近くの木が燃え出し、炎は近くのベンチやデモ隊が設置したテントなどに燃え移った。
 それを見たOP社の一部従業員が救助のため現場へと向かったが、逆にどこからともなく湧いて出てきた者たちの襲撃を受けた。
 更に八月一〇日にOP社本社近くのビルを占拠した電力事業者管理団体を名乗る集団が襲撃に加わり、乱闘状態となった。この集団はビルを占拠した後もその場に留まり続けていたのだった。
 OP社本社も従業員を守るための応援を派遣したが、時既に遅く、数に劣るOP社の従業員が一方的に暴行を受ける事態となった。

 事件について最初の報道がなされたのは、午後五時過ぎのことであった。
 この時点で雷を受けたデモ隊の一人と、暴行を受けたOP社の従業員二名の計三名の死亡が確認されていた。
 午後五時半過ぎには雨が上がったが、乱闘は治まるどころか更に規模を大きくしていった。
 負傷者などの搬送を行おうと応援に入った一〇人ほどが何者かからの暴行を受けた。
 このうちの数名が「OP社の従業員に暴行を受けた」と声を荒げて抗議したため、事態はより深刻となった。

 インデストからハモネスにあるECN社本社に向かっているミヤハラたちに事件の情報が入ったのは事件発生から約四時間後の八月一九日午後八時のことであった。
 未だ彼らは帰り道の途中にあり、ハモネスへの到着は八月二六日前後になる予定であった。

「サクライの奴は何をやっているのだ!」
 ミヤハラは簡易宿泊所の食堂で声を荒げたが、その表情はどこか状況を楽しんでいるようであった。声や表情にはあまりにも怒りの部分が少なかった。
「移動の速度を上げた方がいいかな?」
 そう問いかけたのはオイゲンであった。
 ミヤハラとは一昨日に合流し、現在は一緒に移動している。
 他にメイ、オオイダ、コナカ、ムレハの四名が同行しており、計六名がハモネスへと向かっていた。
 この中でミヤハラに気軽に声をかけることができるのは、親友でもあるオイゲンかお気楽なオオイダくらいであった。
 このため移動の予定が変更される可能性があると察知したオイゲンが、確認のためにミヤハラに声をかけたのであった。
「その必要はないだろう。何のためにサクライを残したと思っているのだ?」
 留守中の対応はサクライの仕事なので自分が出るまでもない、というのがミヤハラの答えであった。
 情報が少ないことは気に入らないが、事件が起きたことがわかればこちらにも対応策がある。
 死傷者が出ていることで、ECN社としても事件の捜査を行う大義名分が立つ。
 関連会社のOP社に被害が出ている状況なので、その支援の形で事件を捜査することは、ここサブマリン島では一般的なことだからだ。
 どうやら事件の発端は電力事業者管理団体を名乗る集団の行動にあるようだ。
 この集団についても、ECN社は極秘で調査を進めていた。
 既に海洋調査隊の運営代行会社が絡んでいることが判明しており、海洋調査隊に送られた者を利用して事件を起こしているのではないかという情報もあった。
 確証が得られていないためミヤハラは情報の裏取りを進めるよう命じていたが、彼らの動きが少なかったため、今までは十分な情報が得られていなかった。
 しかし、今回の事件で彼らが動きを見せたことにより、表立って捜査を行うことができる。

「……これでいい」
 ミヤハラが不敵な笑みを浮かべながら事件を報じる携帯端末のモニタに見入っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...