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第十七章
795:それでも二人は
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夜になってメディットから戻ったオイゲンに対してミヤハラは、
「つくづく面白い会社だな、ここは。病院に行くのに付き添いが必要な患者に社長をやれと押し付ける連中がトップクラスにごろごろいるのだからな」
と言って大笑いした。
この場にはオイゲンとミヤハラの二人だけがいるためか、ミヤハラもリラックスしているようだ。
「うーん、傀儡が欲しい人たちもいるからね」
オイゲンは一部の幹部達の意図を完全に見抜いていたのだが、それでも彼らの希望を無碍に切り捨てることができない、そういう性格であった。
だからこそ、こうした幹部達からあてにされている。
彼らの希望を受け入れたところで、ECN社やオイゲン自身にメリットがあるかと問われればかなり微妙な状況ではあるのだが。
「やれやれ、難儀な性格をしているな、イナは」
ミヤハラは軽く首を横に振ってから、近くの湯飲みに手を伸ばした。
オイゲンとは長い付き合いなので、彼の性格は知り尽くしているつもりだ。
その友誼は職業学校時代から十年以上に渡って変わることなく継続している。
何のかんの言ってもウマが合うのだろう。
「それはともかく、本社の雰囲気はだいぶ変わったね。僕がハモネスにいた頃は幹部達があんなに激しく議論することはなかった」
「ふむ」
ミヤハラは湯飲みを机の上に置き、腕を組んだ。
オイゲンが感心しているらしいことは、ミヤハラにも理解できた。
オイゲンはミヤハラと異なり、威圧感というものが皆無に等しい人物である。
ミヤハラは自身が取り立てて威圧的な人物だとは思っていないが、それでもオイゲンよりは威圧感があることくらいは理解していた。
そして、オイゲンに威圧感を求めることに無理があることも、ミヤハラは理解していた。
しかし、今のECN社のトップにはそれが求められる、というのがミヤハラの考えである。
オイゲンもそれを認めているから、社を去ると考えたのであろうと判断していた。
今日、幹部達の議論が活発になったのは、威圧感のあるミヤハラの存在だけが理由ではない、とミヤハラ自身は考えている。
ミヤハラが社長代行に就任して以降の会議で、今日ほど議論が活発になったことがなかったからだ。むしろ今日を除けば、オイゲンが社長の時代の方がより多くの意見が出されていたように思われる。
ミヤハラの存在は今日の議論が活発になった要因の一つではあろう。
だが、そこにオイゲンという触媒が投下された影響の方が大きいようにミヤハラには思われた。
この触媒のおかげで古参の幹部がどれだけ恥知らずであったかミヤハラは理解することができた。
人間、どこまでも恥知らずになれるものだと感心するくらいであった。
ここまで考えて、ミヤハラはあることに気付いて顔をしかめた。
「それにしてもイナ、お前、俺に厄介ごとを全部押し付けたな?」
「うん、まぁ、そういう形になるかな」
「押し付けられた分は労働奉仕で返してもらうから覚悟しておけ」
「そこは覚悟しているけど……お手柔らかに頼むよ、ミヤハラ」
オイゲンは苦笑しながら頭を掻いた。
このやり取りからも二人の関係性が窺い知れる。
ミヤハラとオイゲンとの関係を表す代表的なエピソードに次のようなものがある。
元来が面倒くさがりなミヤハラは職業学校時代、オイゲンの作成した課題やレポートを写して提出することもしばしばであった。
あるときのレポートでは返却時に「一字一句同じ内容のものがあります」とコメントがあり、仲良く赤点を食らった。当然、追加でレポートを提出させられる羽目になった。
返却されたレポートのコメントに、ミヤハラは半ば逆切れ気味にこう言った。
「イナ、お前なぁ……教官にばれないような方法を考えろよ。俺まで追加レポートを食らったじゃないか!」
文句を言われたオイゲンは次の課題が出された際、二種類のレポートを作成した。
二種類からミヤハラに好きな方を選ばせた上で、ミヤハラが選ばなかった方を自らの名前で提出した。
すると、今度はオイゲンがA評価、ミヤハラがBプラス評価を得た。
評価を見たミヤハラは、今度は次のように文句を言ったという。
「イナ、お前なぁ、レポートのレベルくらい合わせろよ。俺が損したじゃないか!」
そして、卒業試験の際、ミヤハラは何科目かで打音メッセを用いて、いくつかの問題について答えを教えろと伝えてきた。
オイゲンは、律儀にもそのすべてに答えた。
その結果、卒業時の席次はミヤハラが三位、オイゲンが五位とミヤハラのほうが上位となった。
それまでは大抵オイゲンの方がやや上の順位であったから、ミヤハラのカンニングが最終的な二人の順位を決定付けたと言えなくもなかった。
卒業試験の結果発表を見て、ミヤハラは満足した様子でオイゲンを食事に誘い、二人で仲良く酒と食事を楽しんだのであった。
「つくづく面白い会社だな、ここは。病院に行くのに付き添いが必要な患者に社長をやれと押し付ける連中がトップクラスにごろごろいるのだからな」
と言って大笑いした。
この場にはオイゲンとミヤハラの二人だけがいるためか、ミヤハラもリラックスしているようだ。
「うーん、傀儡が欲しい人たちもいるからね」
オイゲンは一部の幹部達の意図を完全に見抜いていたのだが、それでも彼らの希望を無碍に切り捨てることができない、そういう性格であった。
だからこそ、こうした幹部達からあてにされている。
彼らの希望を受け入れたところで、ECN社やオイゲン自身にメリットがあるかと問われればかなり微妙な状況ではあるのだが。
「やれやれ、難儀な性格をしているな、イナは」
ミヤハラは軽く首を横に振ってから、近くの湯飲みに手を伸ばした。
オイゲンとは長い付き合いなので、彼の性格は知り尽くしているつもりだ。
その友誼は職業学校時代から十年以上に渡って変わることなく継続している。
何のかんの言ってもウマが合うのだろう。
「それはともかく、本社の雰囲気はだいぶ変わったね。僕がハモネスにいた頃は幹部達があんなに激しく議論することはなかった」
「ふむ」
ミヤハラは湯飲みを机の上に置き、腕を組んだ。
オイゲンが感心しているらしいことは、ミヤハラにも理解できた。
オイゲンはミヤハラと異なり、威圧感というものが皆無に等しい人物である。
ミヤハラは自身が取り立てて威圧的な人物だとは思っていないが、それでもオイゲンよりは威圧感があることくらいは理解していた。
そして、オイゲンに威圧感を求めることに無理があることも、ミヤハラは理解していた。
しかし、今のECN社のトップにはそれが求められる、というのがミヤハラの考えである。
オイゲンもそれを認めているから、社を去ると考えたのであろうと判断していた。
今日、幹部達の議論が活発になったのは、威圧感のあるミヤハラの存在だけが理由ではない、とミヤハラ自身は考えている。
ミヤハラが社長代行に就任して以降の会議で、今日ほど議論が活発になったことがなかったからだ。むしろ今日を除けば、オイゲンが社長の時代の方がより多くの意見が出されていたように思われる。
ミヤハラの存在は今日の議論が活発になった要因の一つではあろう。
だが、そこにオイゲンという触媒が投下された影響の方が大きいようにミヤハラには思われた。
この触媒のおかげで古参の幹部がどれだけ恥知らずであったかミヤハラは理解することができた。
人間、どこまでも恥知らずになれるものだと感心するくらいであった。
ここまで考えて、ミヤハラはあることに気付いて顔をしかめた。
「それにしてもイナ、お前、俺に厄介ごとを全部押し付けたな?」
「うん、まぁ、そういう形になるかな」
「押し付けられた分は労働奉仕で返してもらうから覚悟しておけ」
「そこは覚悟しているけど……お手柔らかに頼むよ、ミヤハラ」
オイゲンは苦笑しながら頭を掻いた。
このやり取りからも二人の関係性が窺い知れる。
ミヤハラとオイゲンとの関係を表す代表的なエピソードに次のようなものがある。
元来が面倒くさがりなミヤハラは職業学校時代、オイゲンの作成した課題やレポートを写して提出することもしばしばであった。
あるときのレポートでは返却時に「一字一句同じ内容のものがあります」とコメントがあり、仲良く赤点を食らった。当然、追加でレポートを提出させられる羽目になった。
返却されたレポートのコメントに、ミヤハラは半ば逆切れ気味にこう言った。
「イナ、お前なぁ……教官にばれないような方法を考えろよ。俺まで追加レポートを食らったじゃないか!」
文句を言われたオイゲンは次の課題が出された際、二種類のレポートを作成した。
二種類からミヤハラに好きな方を選ばせた上で、ミヤハラが選ばなかった方を自らの名前で提出した。
すると、今度はオイゲンがA評価、ミヤハラがBプラス評価を得た。
評価を見たミヤハラは、今度は次のように文句を言ったという。
「イナ、お前なぁ、レポートのレベルくらい合わせろよ。俺が損したじゃないか!」
そして、卒業試験の際、ミヤハラは何科目かで打音メッセを用いて、いくつかの問題について答えを教えろと伝えてきた。
オイゲンは、律儀にもそのすべてに答えた。
その結果、卒業時の席次はミヤハラが三位、オイゲンが五位とミヤハラのほうが上位となった。
それまでは大抵オイゲンの方がやや上の順位であったから、ミヤハラのカンニングが最終的な二人の順位を決定付けたと言えなくもなかった。
卒業試験の結果発表を見て、ミヤハラは満足した様子でオイゲンを食事に誘い、二人で仲良く酒と食事を楽しんだのであった。
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