ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

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第十七章

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 モミガワの話からエリックは彼がシシガやウィリマに何を見たか、おぼろげながらわかったような気がしていた。
 それはオイゲンをシシガやウィリマと引き合わせた理由と同じだとエリックは気付いたのであった。
 ただ、このことがエリックが現在遂行しなければならない仕事と何の関係があるのか、エリック自身にも明確にはわからなかった。
 そこでエリックはウィリマから話を聞くことにした。

 モミガワの話はECN社が持っている「EMいのちの守護者の会」の裏の顔についての情報が正しいことを示唆していた。
 エリックとしては、それで十分に収穫があったといえる。
 ただ、現在裏づけが取れている情報だけでは、「EMいのちの守護者の会」を断罪することに対して、市民の支持を十分得るのは難しいとも考えている。
 そもそもECN社は単なる一営利企業であり、市民から認められた司法機関ではない。
 ただ、現在のサブマリン島でもっとも強力な組織であるがゆえに、市民から治安維持のための活動を求める空気のようなものがあるに過ぎなかった。
 社として市民に治安維持のための活動を行ってよいか許可を求めようとしても、何をもって許可が得られたと判断するか、という基準すらないのだ。統治機構がない弊害ともいえる。

 かつては各地で「有力者」と呼ばれる者たちが、彼らの管理する地域の統治機関のような役割を担っていたため、ECN社が治安維持のための活動に介入する必要はなかった。
 しかし、エイチ・ハドリが彼らの力を奪い、自らが司法警察機関となった後に彼が行方不明となったため、こうした活動を行う機関が事実上消滅していたことが、ECN社を動かすきっかけともなっていた。
 エリックはECN社が治安維持のための活動を行うことについて比較的肯定的であると思っているが、亡くなった元上司のウォーリー・トワの影響があることをエリック自身も否定できていない。
 現在のECN社を率いているのがウォーリーであれば、との思いはエリックにもある。
 彼ならば迷うことなく、自分が正しいと信じた行動を取るであろうと思っていたからだ。
 しかし、エリックはウォーリーとは異なる人間であり、それがゆえにウィリマの話を聞く必要がある、そう考えていた。
 ウィリマはもう少しモミガワに話をさせたかった様子であったが、珍しくエリックが譲らなかった。
「そういえば、救出されたカヤノさんは、島内の色々な組織の規定を集めて調査していたそうですよ」
 ウィリマに向けてそう伝えたのはオイゲンであった。
「それは彼女の趣味? それとも何か狙いがあってのこと?」
 オイゲンの言葉にウィリマが即座に反応した。
 どうやらウィリマはカヤノに興味があるようであった。
「彼女が参加していた団体の方針だったようです。これは僕の推測ですが、自分達が相手を『裁くためのものさし』を作ろうとしていたのではないかと思っています」
 オイゲンの答えはエリックの興味も惹いた。
 カヤノが救出されたという報せはエリックも聞いていたが、彼女についてエリックはそれ以上の情報を持っていなかったのだ。
 これはミヤハラやオイゲンなどが意図してエリックに伝えなかったのではなく、単純に彼らがエリックと話をする機会がなかっただけのことであった。

「『裁くためのものさし』って、何故そのようなものを求めたのでしょうか?」
「モトムラ君、それはカヤノさんに聞くしかないだろうね。本来なら例の団体を設立した人に聞くべきだろうが、僕の知る限り例の団体の生き残りは彼女だけのようだから……」
 エリックの問いにそう答えたオイゲンは、ちらっとウィリマの方を見やった。
「裁く」対象がウィリマにも関係したことであり、それがウィリマの身体の自由を奪う原因となったことをオイゲンは知っていた。
 そのことをウィリマに思い出させることについては、オイゲンにも躊躇があるようだった。
 オイゲンの様子に気づいたのか、ウィリマは身体を左右に捻って自由にならない左腕を揺らした。
「アタシに気を遣う必要なんてないよ。この通りあの事件のせいで腕はこんなのだけれど、別に今の生活には不便はないからね。今は生まれたときから腕はこんなものだと思えるくらい自然なことなのだよね……」
 その言葉にエリックが許可を求めるかのようにオイゲンの方を見やった。
 しかし、ウィリマはそれを無視して話を続けた。
「ものさしを欲しがった理由はアタシに聞いたって無駄だよ。
 ……困ったことにアタシは例の事件当日のことだってよく覚えていないというか、知っていることが少ないのだよね。夜中に親の叫び声で目が覚めて、周りを見たら真っ赤に燃えていたから。
 お母さんが狂ったように叫んでいて、お父さんはそれを落ち着かせようとしていたみたいだったけど」
 無理もない、とエリックは思った。
 事件はウィリマが五歳か六歳のときのものだ。
 それも夜遅くのことで、子供はおろか、昼間に活動している大人でも眠っている時間帯のはずであった。
 ウィリマも他の子供たちと同様であったのだろう。
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