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第十七章
827:空中戦
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ミヤハラが署名について「社の問題と考える」と答える様子を見たサクライは、彼が故エイチ・ハドリのようであると感じた。
もっともハドリをよく知る者であれば、ハドリがここまで言葉を尽くして相手に説明することなどまずないと感じたであろう。
しかし、サクライはそこまでハドリ個人のことをよく知っているわけではなかった。
「社長がそう仰られるのであれば、この場で議論するのがいいだろう」
ミヤハラ批判派の総元締め的な立場にあるショウキ・トミカの声であった。
この場に集まった者たちのうち、ミヤハラを支持する者は圧倒的に数が少なかった。
エリック・モトムラをはじめとしたミヤハラ支持の幹部の多くは、通信が困難な状況で移動中、もしくは別の業務に当たっているなどの理由で会議に参加できる状態になかった。
タンザンが急いで会議の招集を要請したのには、このような背景があると考えられていた。
「社として議論するのは問題ありませんが、最終決定はミヤハラ社長が行うべきと考えます。その点、皆さんに相違はありませんか?」
透き通った声が会場に響いた。
発言者はコールセンターを統括するタスクユニットの上級チームマネージャー、パウリーナ・イズヴォリスカヤであった。
中立とされている幹部の中では年長であったが、彼女自身は四七歳にすぎない。
これは六〇歳を超える幹部全員がミヤハラに対して多かれ少なかれ批判的な立場に立っているためであった。
ECN社の幹部には二〇代から七〇代まで幅広い年齢層の者が存在している。
その中から六〇代以上の者を除けば、四〇代後半は年長に入る、というだけのことなのだ。
「ミヤハラ社長が先ほど本件は社の問題と仰った。最終決定を社長に委ねるかどうかを含めて、この場で議論すべきです」
トウノが反論した。
「待ってください! 社の問題とは言いましても、社長個人に関わる問題である以上、社長が個人として意思決定するのが前提と思われます!」
この発言はニーナ・レーナルトによるもので、今回の会議における初のミヤハラ支持派の発言者であった。
これに対してはトウノやマキなどのミヤハラ批判派がここぞとばかりに「社長が社の問題としていることを社長個人の問題にするな」とレーナルトに反論してきた。
しかし、レーナルトも黙っておらず、社長であるとしても個人の部分は存在し、要請を受けるか受けないかは社長個人の意志が最優先されるべきだと応戦した。
入口であるミヤハラの意思をどうするか、の部分で議論が白熱し、一向に話は進む気配を見せない。
ここで苛立ったら批判派の思う壺だ、とミヤハラは冷静に議論の行く末を見守っている。
この場で議論が収束しないことはミヤハラよりもむしろ批判派にとって、デメリットが大きい。
ミヤハラ支持派のメンバーの多くが会議に出席できない今だからこそ、批判派は幹部会議を望んだはずであった。
現在はミヤハラ自身を除けば、ミヤハラ支持派はレーナルトとサクライ、トミシマの三名のみといった状況である。
このうちトミシマは議事進行役を担っているため、実質的に意見を表明することは困難な状況であった。
サクライも副社長という立場から、軽々しく発言できない。
このためレーナルトが一人、批判派による攻撃に応戦している状況であった。
自社の社長が島全体の統治者として望まれているという状況から、最初は少なくない中立のメンバーも議論に積極的に参加していたが、時間が経つにつれて、彼らが議論に飽きる様子を見せてきた。
(さすがにレーナルトと老人の口喧嘩に割って入る物好きな部外者はおらんよなぁ……)
ミヤハラは他人事のように、現在の状況を分析していた。
ミヤハラ自身もレーナルトとトウノやマキなどの批判派との間の現在の論戦にはまったく興味がない。
「ミヤハラ社長、社の重要な意思決定です! 今までの議論を踏まえて、社長のお考えをお聞かせ願いたい!」
不意にトウノが矛先をミヤハラに向けてきた。
「トウノマネージャーに確認したい。何についての考えを話せばよいのか? 今までの議論からはふたつ考えられるが」
ミヤハラはそこまで言っていったん言葉を切った。
そして、ふたつとは「署名で求められている事項に対する意思決定者を誰にすべきなのか?」「ミヤハラ個人が署名に対してどう対処しようと考えているのか?」である、と付け加えた。
「勿論、ふたつとも、になりますな」
「トミカマネージャーの仰る通りです。そろそろ議論をまとめるためにも、そうすべきだと」
トウノを制して、トミカ、ホクトのミヤハラ批判派二大巨頭がミヤハラに向けて回答を迫った。
(さすがにこれ以上長引かせたくはない、か)
ミヤハラは相手を苛立たせるかのようにゆっくり立ち上がり、大きく息を吸い込んだ。
もっともハドリをよく知る者であれば、ハドリがここまで言葉を尽くして相手に説明することなどまずないと感じたであろう。
しかし、サクライはそこまでハドリ個人のことをよく知っているわけではなかった。
「社長がそう仰られるのであれば、この場で議論するのがいいだろう」
ミヤハラ批判派の総元締め的な立場にあるショウキ・トミカの声であった。
この場に集まった者たちのうち、ミヤハラを支持する者は圧倒的に数が少なかった。
エリック・モトムラをはじめとしたミヤハラ支持の幹部の多くは、通信が困難な状況で移動中、もしくは別の業務に当たっているなどの理由で会議に参加できる状態になかった。
タンザンが急いで会議の招集を要請したのには、このような背景があると考えられていた。
「社として議論するのは問題ありませんが、最終決定はミヤハラ社長が行うべきと考えます。その点、皆さんに相違はありませんか?」
透き通った声が会場に響いた。
発言者はコールセンターを統括するタスクユニットの上級チームマネージャー、パウリーナ・イズヴォリスカヤであった。
中立とされている幹部の中では年長であったが、彼女自身は四七歳にすぎない。
これは六〇歳を超える幹部全員がミヤハラに対して多かれ少なかれ批判的な立場に立っているためであった。
ECN社の幹部には二〇代から七〇代まで幅広い年齢層の者が存在している。
その中から六〇代以上の者を除けば、四〇代後半は年長に入る、というだけのことなのだ。
「ミヤハラ社長が先ほど本件は社の問題と仰った。最終決定を社長に委ねるかどうかを含めて、この場で議論すべきです」
トウノが反論した。
「待ってください! 社の問題とは言いましても、社長個人に関わる問題である以上、社長が個人として意思決定するのが前提と思われます!」
この発言はニーナ・レーナルトによるもので、今回の会議における初のミヤハラ支持派の発言者であった。
これに対してはトウノやマキなどのミヤハラ批判派がここぞとばかりに「社長が社の問題としていることを社長個人の問題にするな」とレーナルトに反論してきた。
しかし、レーナルトも黙っておらず、社長であるとしても個人の部分は存在し、要請を受けるか受けないかは社長個人の意志が最優先されるべきだと応戦した。
入口であるミヤハラの意思をどうするか、の部分で議論が白熱し、一向に話は進む気配を見せない。
ここで苛立ったら批判派の思う壺だ、とミヤハラは冷静に議論の行く末を見守っている。
この場で議論が収束しないことはミヤハラよりもむしろ批判派にとって、デメリットが大きい。
ミヤハラ支持派のメンバーの多くが会議に出席できない今だからこそ、批判派は幹部会議を望んだはずであった。
現在はミヤハラ自身を除けば、ミヤハラ支持派はレーナルトとサクライ、トミシマの三名のみといった状況である。
このうちトミシマは議事進行役を担っているため、実質的に意見を表明することは困難な状況であった。
サクライも副社長という立場から、軽々しく発言できない。
このためレーナルトが一人、批判派による攻撃に応戦している状況であった。
自社の社長が島全体の統治者として望まれているという状況から、最初は少なくない中立のメンバーも議論に積極的に参加していたが、時間が経つにつれて、彼らが議論に飽きる様子を見せてきた。
(さすがにレーナルトと老人の口喧嘩に割って入る物好きな部外者はおらんよなぁ……)
ミヤハラは他人事のように、現在の状況を分析していた。
ミヤハラ自身もレーナルトとトウノやマキなどの批判派との間の現在の論戦にはまったく興味がない。
「ミヤハラ社長、社の重要な意思決定です! 今までの議論を踏まえて、社長のお考えをお聞かせ願いたい!」
不意にトウノが矛先をミヤハラに向けてきた。
「トウノマネージャーに確認したい。何についての考えを話せばよいのか? 今までの議論からはふたつ考えられるが」
ミヤハラはそこまで言っていったん言葉を切った。
そして、ふたつとは「署名で求められている事項に対する意思決定者を誰にすべきなのか?」「ミヤハラ個人が署名に対してどう対処しようと考えているのか?」である、と付け加えた。
「勿論、ふたつとも、になりますな」
「トミカマネージャーの仰る通りです。そろそろ議論をまとめるためにも、そうすべきだと」
トウノを制して、トミカ、ホクトのミヤハラ批判派二大巨頭がミヤハラに向けて回答を迫った。
(さすがにこれ以上長引かせたくはない、か)
ミヤハラは相手を苛立たせるかのようにゆっくり立ち上がり、大きく息を吸い込んだ。
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