ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

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第十八章

859:「EMいのちの守護者の会」からの要求

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 サクライが次はどう応戦してやろうか、と相手の出方を伺っていると、今度はパタパタという足音が近づいてきた。
「?」
 会議室内の全員の視線が足音の方に向く。
 その直後、会議室のドアが乱暴にノックされた。
 トウノが扉を開けると、若い女性社員が息を切らせて立っていた。
 トウノの部下らしく、彼のところにやってきて、その耳元でなにやら話している。
 サクライには聞かせたくない類の話なのであろう。
 話を聞いているトウノの表情が、急に青ざめてきた。
「……わかった。下がってよろしい。後で指示を出す」
 トウノは女子社員の話が終わると、かろうじて冷静さを保っているような様子で、退室を命じた。
 そして、今度はトウノがホクトとトミカに小声で何か話している。
 一人蚊帳の外なのがサクライだ。

(連中は何を慌てているのだ? いい気味とはいえるが……)
 最初、サクライは生暖かい目でトウノ、ホクト、トミカの三人がひそひそ話をするのを見守っていた。ざまあみろ、とでも言いたい気分になった。
 だが三人の話が五分に達しようとしたところで、さすがに焦れてきた。
 サクライは三人に呼び出されて「わざわざ」会議室に出向いていたのだ。
 文句を言われるのも納得できなかったが、自分を無視して放置されるのはそれ以上に納得できない。
 そこで我慢できないとばかりに口を開いた。
「特に話がないのならこちらもやるべきことがあるので、そろそろ退室させてもらえないでしょうか? 研修センターを占拠した連中への対応策を社長と検討する必要もありますし」
 しかし、サクライの言葉が彼らの耳に入った様子はなかった。
 (何だ? 何の話をしているのだ?)
 副社長の自分の声を無視してまで続けられているトウノたちの話はサクライにとって気になる。
 しかし、彼らとの間に距離があるため、話の内容はよく聞こえない。
 少し脅すかとサクライは考え、大きめの声でゆっくり、次のように告げた。
「このまま放っておくと、社長が面倒だと言って研修センターを占拠している連中の要求をそのまま飲んでしまうかもしれないですね」
 すると、トミカが青ざめた顔で声を張り上げた。
「もういい! 勝手に出て行ってくれ! 大変なことになった! この責任は取ってもらうぞ!」
 上役であるサクライに対する敬語も忘れるほど、トミカの言葉には余裕がなかった。
 その様子はサクライの存在などどうでもよいという風であった。
 さすがに人を呼びだしておいてその態度は何だ、とサクライは腹を立てそうになったが、それ以上に彼らの態度が滑稽で毒気を抜かれてしまった。
 彼らは何かに怯えているようにすらサクライには思える。
 さすがにただ事ではないと考え、状況を「マッチ・ラボ」に滞在しているエリックに伝えた上で、何があったか調査を依頼することにした。

 エリック達が必要な情報を集めるのにそれほど時間はかからなかった。
 サクライが事態を把握したのは、一五時近くになってのことであった。
 最初に報道で「EMいのちの守護者の会」が、ECN社の研修センターを占拠したグループについて、彼らの要求を支持すると表明した。
 「EMいのちの守護者の会」は、一企業の施設を許可なしに占拠したことは非難したものの、一〇月二八日の事件を持ち出して次のようにECN社を糾弾した。
「エクザロームの未来を担う子供たちを応援する善良な人々に暴力で応えた悪魔を支持基盤とする『タブーなきエンジニア集団』。その関係者を幹部として雇用する横暴な企業を私たちは決して許さない」
 そして、ECN社の横暴さはその規模によるものであり、関連会社であるOP社もろとも解体し、細切れにする必要がある、というのが「EMいのちの守護者の会」の主張であった。

 これに対し、「リスク管理研究所」の副所長ヨシクニ・サワムラは、ECN社の道徳的責任については言及を避けたものの、従業員だけで島の全人口の一〇パーセントを占める規模については、「EMいのちの守護者の会」と同様に危機感を覚える、と発表した。
 サワムラは昨今のインデストを中心とした電力供給不足と治安の悪化はエクザローム全体の経済活動の鈍化によるものであり、その原因はECN社とOP社という巨大な独占企業が存在することにより企業間の競争がなくなったこと、と主張した。
 そのため、「リスク管理研究所」は「EMいのちの守護者の会」が提唱するECN社とOP社の分割や解体を積極的に支持する、としたのだった。

 また、「EMいのちの守護者の会」から、ECN社の一部の役員に対しては、非公式に会への支持を表明せよとの半ば脅しのような要請があったとのことであった。
 トミカやホクトが青ざめたのは、これらの一連の情報が彼らに伝わったからであろう。
 エリックの調査によればトミカやホクトには「EMいのちの守護者の会」より、支持を表明せよと求める使者が訪れたとのことであった。
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