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第十八章
867:不動の社長、嬉々として動く
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「やはり奴等、待ち構えていたと見える」
「EMいのちの守護者の会」の非難声明を聞いたミヤハラがつぶやいた。
「気をつけてくれよ。まだ、世間がこちらに味方したとはわからないのだから」
「イナの心配性は変わらんな、と言いたいところだが油断しているつもりはない」
オイゲンの心配に対していつもならやや煩わしそうに応じるはすだが、今のミヤハラの表情は真剣そのものであった。
「それにしても、俺に面倒事を押し付けるとんでもない連中だからな。腹立たしいが、油断はできん」
ミヤハラとしては自分が仕事に忙殺されるというのは最も避けたい事態なのであるが、オイゲン以外の人物が聞いたら冗談としか思えないような言葉であった。
「それでだ、イナ。例の事件に関与したウチの社員という奴に誰が接触していたのか、それと金の動きがどうなっていたか、調べて報告してくれ。一時間で、だ」
「EMいのちの守護者の会」が関与する施設襲撃の犯人の一人がECN社の社員というのは、話ができすぎている。
動機がないとはいえないが、小学校を襲撃し、児童を殺害するまでのものではないようにミヤハラには思われる。
襲撃に関与したとされるWという社員は、占拠された研修センターを管理するタスクユニットに所属していたが、Wは研修センターを担当したことはないとのことであった。
現時点でWについて判明していることで、いくつか引っかかる点がある、とミヤハラはオイゲンに告げた。
その中でもWの両親は既に亡くなっており、現在生きている親類縁者が存在しないことと、「EMいのちの守護者の会」を支持していることは、特に重大なものである。
少なくとも「EMいのちの守護者の会」に対して、正と負の両方の感情を持ち得る背景がある。
Wについてはロビーが情報収集を行っているが、それはあくまでも表の手段である。
オイゲンに対しては裏の手段を期待する、ということなのだ。
オイゲンはその場で携帯端末を広げ、調査を始めた。
この調査はオオイダやコナカにさせる訳にはいかなかった。
オイゲンが使う「裏の手段」とは、すなわちエクザロームの通貨システムを意味している。
たとえECN社の社員といえども、権限のない者に触らせるわけにはいかない情報である。
通貨システムの実データにアクセスできる権限を有しているのは、サブマリン島全体で数百名程度であった。
そのうちの約三割がECN社の社員であるが、おいそれと「EMいのちの守護者の会」の資金の流れを追う作業をさせることはできない。
理由もなく他者の資金の流れを追うこと自体、かなりクロに近いグレーな行為だからだ。
ECN社のトップであるミヤハラといえども、このような作業を任せられる相手は限られている。
社内の人間を使ったとなれば、ミヤハラに批判的な者たちから「社長が立場を利用して、社員に危うい活動をさせた」と指摘される可能性はある。
こうした面倒な連中の相手で時間を浪費することは、どうしても避けたいところであった。
オイゲンが淡々と通貨システムを調べている間、ミヤハラはその場でじっとお茶を飲みながら結果を待っていた。
サブマリン島を代表する大企業の社長と前社長の姿にはとても見えないはずだが、この二人だとしっくりくるから不思議であった。
二〇分ほどでオイゲンが作業の手を止めた。
「見つけたよ。動きを隠そうとはしているけど、段々それも雑になってきたようだ」
オイゲンはそう言うと、ミヤハラの前のモニタに調査結果を表示させた。
「ヨシノ・テラウチというのは『EMいのちの守護者の会』の金庫番だね。彼から電力事業者管理団体の残党へ大量の資金が流れているよ。アツミさんは関与していないだろう」
オイゲンの報告に、うむ、と肯いてから、ミヤハラはモニタの表示を目で追いかけた。ちなみにアツミというのは電力事業者管理団体の設立者だ。
確かに、「EMいのちの守護者の会」の資金の動きは活発化している。
以前は小額をいくつかの段階を経て目的の相手へ資金供給していたが、最近は直接大きな額を供給することが増えてきている。
(さすがに相手も余裕がなくなってきたと見える……)
しかし、ミヤハラは自らの見解を口には出さなかった。
余裕がないとしても、油断ができる相手ではないことをよく知っているからだ。
ぼろを出させる程度に追い詰めなければならないが、こちらで制御できないような追い詰められ方をされるのは問題である。
その意味では小学校襲撃事件の犯人の中にECN社の社員が含まれていたことは、必ずしも自分にとってマイナスではない、とミヤハラは考えていた。
「イナ、これからは『EMいのちの守護者の会』から出た金、そして入った金について金額と相手を逐次報告しろ。いいな?」
「……わかったよ。やるだけやってみるさ」
オイゲンは素直に指示を受け入れた。
ミヤハラはオイゲンの返事に満足そうに肯いた。
この返事でもオイゲンは最善を尽くすと、ミヤハラは理解している。
長い付き合いだから、オイゲンの人となりも理解している。
オイゲンに対してはこれで十分であった。
これで必要な情報が得られなければ、他の誰にやらせても無理だろう。
「イナ、ここを確保していてくれ。俺は他の連中に指示を出さにゃならん」
そう言い残してミヤハラは大股で部屋を飛び出した。
「EMいのちの守護者の会」の非難声明を聞いたミヤハラがつぶやいた。
「気をつけてくれよ。まだ、世間がこちらに味方したとはわからないのだから」
「イナの心配性は変わらんな、と言いたいところだが油断しているつもりはない」
オイゲンの心配に対していつもならやや煩わしそうに応じるはすだが、今のミヤハラの表情は真剣そのものであった。
「それにしても、俺に面倒事を押し付けるとんでもない連中だからな。腹立たしいが、油断はできん」
ミヤハラとしては自分が仕事に忙殺されるというのは最も避けたい事態なのであるが、オイゲン以外の人物が聞いたら冗談としか思えないような言葉であった。
「それでだ、イナ。例の事件に関与したウチの社員という奴に誰が接触していたのか、それと金の動きがどうなっていたか、調べて報告してくれ。一時間で、だ」
「EMいのちの守護者の会」が関与する施設襲撃の犯人の一人がECN社の社員というのは、話ができすぎている。
動機がないとはいえないが、小学校を襲撃し、児童を殺害するまでのものではないようにミヤハラには思われる。
襲撃に関与したとされるWという社員は、占拠された研修センターを管理するタスクユニットに所属していたが、Wは研修センターを担当したことはないとのことであった。
現時点でWについて判明していることで、いくつか引っかかる点がある、とミヤハラはオイゲンに告げた。
その中でもWの両親は既に亡くなっており、現在生きている親類縁者が存在しないことと、「EMいのちの守護者の会」を支持していることは、特に重大なものである。
少なくとも「EMいのちの守護者の会」に対して、正と負の両方の感情を持ち得る背景がある。
Wについてはロビーが情報収集を行っているが、それはあくまでも表の手段である。
オイゲンに対しては裏の手段を期待する、ということなのだ。
オイゲンはその場で携帯端末を広げ、調査を始めた。
この調査はオオイダやコナカにさせる訳にはいかなかった。
オイゲンが使う「裏の手段」とは、すなわちエクザロームの通貨システムを意味している。
たとえECN社の社員といえども、権限のない者に触らせるわけにはいかない情報である。
通貨システムの実データにアクセスできる権限を有しているのは、サブマリン島全体で数百名程度であった。
そのうちの約三割がECN社の社員であるが、おいそれと「EMいのちの守護者の会」の資金の流れを追う作業をさせることはできない。
理由もなく他者の資金の流れを追うこと自体、かなりクロに近いグレーな行為だからだ。
ECN社のトップであるミヤハラといえども、このような作業を任せられる相手は限られている。
社内の人間を使ったとなれば、ミヤハラに批判的な者たちから「社長が立場を利用して、社員に危うい活動をさせた」と指摘される可能性はある。
こうした面倒な連中の相手で時間を浪費することは、どうしても避けたいところであった。
オイゲンが淡々と通貨システムを調べている間、ミヤハラはその場でじっとお茶を飲みながら結果を待っていた。
サブマリン島を代表する大企業の社長と前社長の姿にはとても見えないはずだが、この二人だとしっくりくるから不思議であった。
二〇分ほどでオイゲンが作業の手を止めた。
「見つけたよ。動きを隠そうとはしているけど、段々それも雑になってきたようだ」
オイゲンはそう言うと、ミヤハラの前のモニタに調査結果を表示させた。
「ヨシノ・テラウチというのは『EMいのちの守護者の会』の金庫番だね。彼から電力事業者管理団体の残党へ大量の資金が流れているよ。アツミさんは関与していないだろう」
オイゲンの報告に、うむ、と肯いてから、ミヤハラはモニタの表示を目で追いかけた。ちなみにアツミというのは電力事業者管理団体の設立者だ。
確かに、「EMいのちの守護者の会」の資金の動きは活発化している。
以前は小額をいくつかの段階を経て目的の相手へ資金供給していたが、最近は直接大きな額を供給することが増えてきている。
(さすがに相手も余裕がなくなってきたと見える……)
しかし、ミヤハラは自らの見解を口には出さなかった。
余裕がないとしても、油断ができる相手ではないことをよく知っているからだ。
ぼろを出させる程度に追い詰めなければならないが、こちらで制御できないような追い詰められ方をされるのは問題である。
その意味では小学校襲撃事件の犯人の中にECN社の社員が含まれていたことは、必ずしも自分にとってマイナスではない、とミヤハラは考えていた。
「イナ、これからは『EMいのちの守護者の会』から出た金、そして入った金について金額と相手を逐次報告しろ。いいな?」
「……わかったよ。やるだけやってみるさ」
オイゲンは素直に指示を受け入れた。
ミヤハラはオイゲンの返事に満足そうに肯いた。
この返事でもオイゲンは最善を尽くすと、ミヤハラは理解している。
長い付き合いだから、オイゲンの人となりも理解している。
オイゲンに対してはこれで十分であった。
これで必要な情報が得られなければ、他の誰にやらせても無理だろう。
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そう言い残してミヤハラは大股で部屋を飛び出した。
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