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第十九章
925:創業者一族への命令
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「タカミ、電力事業者管理団体の連中がOP社本社に向かわず、『ヴィラ・ポルテ』に向かった理由は何だ?」
ロビーからの報告を聞いたミヤハラが尋ねた。
「OP社の広報責任者のウノって人の自宅があります。そこで、今日の朝イチで抗議するつもりで、自宅を取り囲もうとしたらしいのですわ。このとき押しかけようとした電力事業者管理団体のグループに事情を聞いて続々と集まってきた連中がおります。これが金貸しのグループの連中です」
ロビーによれば、最終的に「ヴィラ・ポルテ」を占拠したのは電力事業者管理団体のメンバーが四〇人弱、金貸しグループが三〇人弱であったという。
「昨晩から今朝は、あの通り寒かったですからね。焚火で暖をとりながら朝を待ったらしいのですが、朝になってウノ宅へ押しかけるか、それとも周辺を囲んで抗議の姿勢を見せ続けるかで小競り合いになり、焚火の管理が疎かになったのでしょうね。誰も見ていないうちに焚火の火が建物に燃え移った、というところのようです」
ロビーの語った調査結果は、多数の死者が出た事件の原因としてはお粗末なものであったが、それで犠牲になった人々が救われるわけでもなかった。
「タカミさんよ、どっちのグループが『抗議の姿勢を見せ続ける』と主張したかわかるか?」
ヌマタがロビーを試すかのような表情を見せた。
ヌマタには人の上に立つ者についてその器やものの考え方を厳しくチェックするという性質がある。すなわち彼はロビーを「人の上に立つ者」と認めるべきか、それを知ろうとしたのだ。
「ヌマタさん、金貸しの方です。裏付けは取ってないですが、我々をできるだけ長く『ヴィラ・ポルテ』に縛り付けておきたかったのではないかなと」
ロビーの答えにヌマタが珍しく笑みを見せた。
画面のロビーは湯飲みに手をやっている。湯飲みの中味は好物の昆布茶のはずだ。
するとミヤハラがロビーに尋問と犯人の監視を別の者に任せて指令室に戻れと命じた。
指令室に残す社員を確保するためであった。
(イナ、タカミが戻ったら社長室に来い)
ロビーとの通信を閉じると、ミヤハラがオイゲンにそう命じた。
一八時半にロビーは指令室に戻ってきた。
ミヤハラは「三〇分ばかり指令室を空けるので、何かあれば社長室に連絡せよ」と命じて、社長室へと戻った。
オイゲンはロビーが戻る二〇分ほど前に、自社と連絡を取ると言って指令室を出ていた。
「イナ、俺より先にこっちへ来ているとは、いい身分だな」
ミヤハラが社長室にオイゲンの姿を見つけて茶化した。
「この部屋の利用者としては、一応僕の方が先輩だからね」
対するオイゲンの口調もくだけたものとなっていた。
「時間が惜しい。早速本題だが、イナ、例の『宿題』の結果を寄越せ」
ミヤハラのこの命令に対して、オイゲンは素直に従った。
「これは後で見ておく。それとだ。この騒動が収まるまで、お前の秘書以外のHBS社の従業員を全員、指令室の指揮下に入れるようにしてくれ」
「妻はいいのかい?」
「他の従業員なら俺でもサクライでも使いこなせる。ただ、あの秘書はどう考えてもイナ以外では無理だ。だから不要だ」
「……わかった。ただ、負荷の面は考えてくれよ。理由もなく、超過勤務をさせられるのは困る」
オイゲンの言葉は指令室の指揮下に入るメンバーを気遣ったものであった。
ただでさえHBS社は人員が少ない。最近は調査などの業務が多かったからメンバーの負荷も高かったのだ。
「……まあいいだろう。それと、だ。イナ、お前は『地球のECN社』の創業者一族で、エクザロームのECN社の前社長でもある。その立場を利用するタイミングがあれば、そのときは覚悟しろ」
ミヤハラが冷酷ともいえる指示をオイゲンに出した。指示というよりも命令に近い。
その口調はいつもと変わらなかったが、表情がいつもよりわずかに硬いことにオイゲンは気付いていた。
オイゲンはミヤハラの言葉が意味するところを完全に理解していた。
この役割はオイゲン以外に担い得る者がいない。
命令したミヤハラの心中を完全に理解することはできないが、何らかの葛藤はあるだろうとオイゲンは推測している。少なくともオイゲンは目の前の親友のことを血も涙もない人物だとは思っていない。
ロビーからの報告を聞いたミヤハラが尋ねた。
「OP社の広報責任者のウノって人の自宅があります。そこで、今日の朝イチで抗議するつもりで、自宅を取り囲もうとしたらしいのですわ。このとき押しかけようとした電力事業者管理団体のグループに事情を聞いて続々と集まってきた連中がおります。これが金貸しのグループの連中です」
ロビーによれば、最終的に「ヴィラ・ポルテ」を占拠したのは電力事業者管理団体のメンバーが四〇人弱、金貸しグループが三〇人弱であったという。
「昨晩から今朝は、あの通り寒かったですからね。焚火で暖をとりながら朝を待ったらしいのですが、朝になってウノ宅へ押しかけるか、それとも周辺を囲んで抗議の姿勢を見せ続けるかで小競り合いになり、焚火の管理が疎かになったのでしょうね。誰も見ていないうちに焚火の火が建物に燃え移った、というところのようです」
ロビーの語った調査結果は、多数の死者が出た事件の原因としてはお粗末なものであったが、それで犠牲になった人々が救われるわけでもなかった。
「タカミさんよ、どっちのグループが『抗議の姿勢を見せ続ける』と主張したかわかるか?」
ヌマタがロビーを試すかのような表情を見せた。
ヌマタには人の上に立つ者についてその器やものの考え方を厳しくチェックするという性質がある。すなわち彼はロビーを「人の上に立つ者」と認めるべきか、それを知ろうとしたのだ。
「ヌマタさん、金貸しの方です。裏付けは取ってないですが、我々をできるだけ長く『ヴィラ・ポルテ』に縛り付けておきたかったのではないかなと」
ロビーの答えにヌマタが珍しく笑みを見せた。
画面のロビーは湯飲みに手をやっている。湯飲みの中味は好物の昆布茶のはずだ。
するとミヤハラがロビーに尋問と犯人の監視を別の者に任せて指令室に戻れと命じた。
指令室に残す社員を確保するためであった。
(イナ、タカミが戻ったら社長室に来い)
ロビーとの通信を閉じると、ミヤハラがオイゲンにそう命じた。
一八時半にロビーは指令室に戻ってきた。
ミヤハラは「三〇分ばかり指令室を空けるので、何かあれば社長室に連絡せよ」と命じて、社長室へと戻った。
オイゲンはロビーが戻る二〇分ほど前に、自社と連絡を取ると言って指令室を出ていた。
「イナ、俺より先にこっちへ来ているとは、いい身分だな」
ミヤハラが社長室にオイゲンの姿を見つけて茶化した。
「この部屋の利用者としては、一応僕の方が先輩だからね」
対するオイゲンの口調もくだけたものとなっていた。
「時間が惜しい。早速本題だが、イナ、例の『宿題』の結果を寄越せ」
ミヤハラのこの命令に対して、オイゲンは素直に従った。
「これは後で見ておく。それとだ。この騒動が収まるまで、お前の秘書以外のHBS社の従業員を全員、指令室の指揮下に入れるようにしてくれ」
「妻はいいのかい?」
「他の従業員なら俺でもサクライでも使いこなせる。ただ、あの秘書はどう考えてもイナ以外では無理だ。だから不要だ」
「……わかった。ただ、負荷の面は考えてくれよ。理由もなく、超過勤務をさせられるのは困る」
オイゲンの言葉は指令室の指揮下に入るメンバーを気遣ったものであった。
ただでさえHBS社は人員が少ない。最近は調査などの業務が多かったからメンバーの負荷も高かったのだ。
「……まあいいだろう。それと、だ。イナ、お前は『地球のECN社』の創業者一族で、エクザロームのECN社の前社長でもある。その立場を利用するタイミングがあれば、そのときは覚悟しろ」
ミヤハラが冷酷ともいえる指示をオイゲンに出した。指示というよりも命令に近い。
その口調はいつもと変わらなかったが、表情がいつもよりわずかに硬いことにオイゲンは気付いていた。
オイゲンはミヤハラの言葉が意味するところを完全に理解していた。
この役割はオイゲン以外に担い得る者がいない。
命令したミヤハラの心中を完全に理解することはできないが、何らかの葛藤はあるだろうとオイゲンは推測している。少なくともオイゲンは目の前の親友のことを血も涙もない人物だとは思っていない。
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