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第二十章
952:吉報と……
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LH五三年二月二二日が終わろうとしている。
そんな時間に、ECN社本社四階の会議室の中で通信の接続要求を知らせるアラーム音が鳴り響いた。
(状況が動いたか!)
ノリオ・ミヤハラは指令室内を見回した。
この男には、自ら接続要求に応じようという考えはない。その代わりに別の青年が要求に応じ、ミヤハラはそれを当然のように見守っていた。
「はい、こちらECN社指令室です。ホンゴウさんですね? イナです」
通信の接続要求に応じたのは、オイゲン・イナであった。
アツシ・サクライは総務のマコト・トミシマより別の連絡を受けている最中で、通信を繋げることができなかった。
ロビー・タカミは「PRSタワー」突入によって生じるであろう「民意の代表者」の捕虜を確保する施設の準備を部下たちに指示していた。
このため、消去法で手が空いていたオイゲンが応じることになったのだった。
指令室には他に誰もいないのだ。
これは接続要求を出した者にとっては、運がよいと言えただろう。温厚で他者への当たりが強くない相手だからだ。
「ホンゴウさん、状況報告ですね? 少々お待ちください」
オイゲンの返答から通信の内容はホンゴウによる何らかの報告だと思われた。
そうであれば「PRSタワー」の状況が動いたことに間違いない。
彼らはタワーと人質の奪還のために突入した。
恐らく戦闘になったであろうから、今こうして連絡を寄越してきたということは、少なくとも戦闘が小康状態になったか、終結したのだと考えられる。
戦力の差を考えれば後者の可能性が高いが、やや時間が早いようにも思われた。
「イナ、全員に聞こえるようにしろ」
ミヤハラは椅子に座ったまま、オイゲンの後ろから指示を出した。
オイゲンはわかったと肯き、通信を目の前の端末から大型スクリーンへと切り替えた。
ミヤハラの予想通り、大型スクリーンにはホンゴウの姿が映し出された。
空気がわずかに白く濁っており周辺の様子はわかりにくいが、比較的静かなことから戦闘は終結しているように思われた。
ミヤハラはオイゲンに報告を開始させろと手で促した。
「ホンゴウさん、こちらの準備ができました。報告をお願いします」
準備の間にいつの間にかサクライとロビーが用事を済ませていた。
それだけホンゴウからの報告に興味があるということであろう。
室内の全員の視線がスクリーンに集中する。
「……では、報告いたします。『PRSタワー』を制圧完了。占拠していた『民意の代表者』なる集団の幹部と思われる数名を確保しました」
この報告に対し、ミヤハラは当然だと言わんばかりに、うむ、と肯いた。
一方、サクライは無言でスクリーンを凝視している。彼にとってはより重要な事項がまだ報告されていない。
「……そして、人質となっていたモトムラマネージャーですが……」
ホンゴウがいったん言葉を切った。
スクリーンの表示を切り替えようとしているようだ。
しばらくして、スクリーンの右半分の表示が切り替わった。
「こちらの記載の通りですが、現在意識不明でメディットへ搬送中です」
ホンゴウが表示させたのはメディットの医師からのメッセージで、エリックの容体に関する情報が記載されていた。
その最後に「二月二三日〇時一五分の列車でポータル・シティ北駅よりメディットへ向けて出発予定」とあった。
メディットに搬送しなければならないということは、エリックの容体がかなり悪いのだろうと予想できた。
「むっ……」
サクライが何かを言いかけたが、ぐっと飲みこんだ。
「社長、確保した幹部の尋問は副社長と自分に任せてもらえないですかね? ホンゴウさんにも入っていただきたいのですが」
さり気なくロビーが尋問に加わろうとミヤハラに持ちかけた。
エリックの容態が悪化するようであれば、サクライは感情的になる危険がある、とミヤハラは見ていた。
その意味で、サクライを尋問に参加させるのは気が進まなかった。
しかし、尋問がエリックのタスクユニットの所属者のみで行われれば、恣意的な尋問となる可能性がある。
外部の者で、ロビーよりも上位者を混ぜるとなると、総務のマコト・トミシマが考えられるが、尋問に向いた人物とは考えられない上に、他の業務への影響を考えると彼女の手を取られるのは避けたかった。
「いいだろう。ただし、行けと言うまではここに待機だ」
ミヤハラが命じると、ロビーは「まあ、そうなりますよね」と素直に従った。
「捕虜の搬送など事後処理については後程、モロイズミさんから連絡させます。他になければ事後処理に移りますが……」
「わかった、事後処理に移ってくれ」
ミヤハラはスクリーンのホンゴウにそう命じてから、通信を切らせたのだった。
そんな時間に、ECN社本社四階の会議室の中で通信の接続要求を知らせるアラーム音が鳴り響いた。
(状況が動いたか!)
ノリオ・ミヤハラは指令室内を見回した。
この男には、自ら接続要求に応じようという考えはない。その代わりに別の青年が要求に応じ、ミヤハラはそれを当然のように見守っていた。
「はい、こちらECN社指令室です。ホンゴウさんですね? イナです」
通信の接続要求に応じたのは、オイゲン・イナであった。
アツシ・サクライは総務のマコト・トミシマより別の連絡を受けている最中で、通信を繋げることができなかった。
ロビー・タカミは「PRSタワー」突入によって生じるであろう「民意の代表者」の捕虜を確保する施設の準備を部下たちに指示していた。
このため、消去法で手が空いていたオイゲンが応じることになったのだった。
指令室には他に誰もいないのだ。
これは接続要求を出した者にとっては、運がよいと言えただろう。温厚で他者への当たりが強くない相手だからだ。
「ホンゴウさん、状況報告ですね? 少々お待ちください」
オイゲンの返答から通信の内容はホンゴウによる何らかの報告だと思われた。
そうであれば「PRSタワー」の状況が動いたことに間違いない。
彼らはタワーと人質の奪還のために突入した。
恐らく戦闘になったであろうから、今こうして連絡を寄越してきたということは、少なくとも戦闘が小康状態になったか、終結したのだと考えられる。
戦力の差を考えれば後者の可能性が高いが、やや時間が早いようにも思われた。
「イナ、全員に聞こえるようにしろ」
ミヤハラは椅子に座ったまま、オイゲンの後ろから指示を出した。
オイゲンはわかったと肯き、通信を目の前の端末から大型スクリーンへと切り替えた。
ミヤハラの予想通り、大型スクリーンにはホンゴウの姿が映し出された。
空気がわずかに白く濁っており周辺の様子はわかりにくいが、比較的静かなことから戦闘は終結しているように思われた。
ミヤハラはオイゲンに報告を開始させろと手で促した。
「ホンゴウさん、こちらの準備ができました。報告をお願いします」
準備の間にいつの間にかサクライとロビーが用事を済ませていた。
それだけホンゴウからの報告に興味があるということであろう。
室内の全員の視線がスクリーンに集中する。
「……では、報告いたします。『PRSタワー』を制圧完了。占拠していた『民意の代表者』なる集団の幹部と思われる数名を確保しました」
この報告に対し、ミヤハラは当然だと言わんばかりに、うむ、と肯いた。
一方、サクライは無言でスクリーンを凝視している。彼にとってはより重要な事項がまだ報告されていない。
「……そして、人質となっていたモトムラマネージャーですが……」
ホンゴウがいったん言葉を切った。
スクリーンの表示を切り替えようとしているようだ。
しばらくして、スクリーンの右半分の表示が切り替わった。
「こちらの記載の通りですが、現在意識不明でメディットへ搬送中です」
ホンゴウが表示させたのはメディットの医師からのメッセージで、エリックの容体に関する情報が記載されていた。
その最後に「二月二三日〇時一五分の列車でポータル・シティ北駅よりメディットへ向けて出発予定」とあった。
メディットに搬送しなければならないということは、エリックの容体がかなり悪いのだろうと予想できた。
「むっ……」
サクライが何かを言いかけたが、ぐっと飲みこんだ。
「社長、確保した幹部の尋問は副社長と自分に任せてもらえないですかね? ホンゴウさんにも入っていただきたいのですが」
さり気なくロビーが尋問に加わろうとミヤハラに持ちかけた。
エリックの容態が悪化するようであれば、サクライは感情的になる危険がある、とミヤハラは見ていた。
その意味で、サクライを尋問に参加させるのは気が進まなかった。
しかし、尋問がエリックのタスクユニットの所属者のみで行われれば、恣意的な尋問となる可能性がある。
外部の者で、ロビーよりも上位者を混ぜるとなると、総務のマコト・トミシマが考えられるが、尋問に向いた人物とは考えられない上に、他の業務への影響を考えると彼女の手を取られるのは避けたかった。
「いいだろう。ただし、行けと言うまではここに待機だ」
ミヤハラが命じると、ロビーは「まあ、そうなりますよね」と素直に従った。
「捕虜の搬送など事後処理については後程、モロイズミさんから連絡させます。他になければ事後処理に移りますが……」
「わかった、事後処理に移ってくれ」
ミヤハラはスクリーンのホンゴウにそう命じてから、通信を切らせたのだった。
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