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しおりを挟む和臣が部屋を出ていった後すら、まだ頬を染め嬉しそうにしている秀行に僅かに苛つく。
しかし、たった2人きりの兄弟で、厳しい父と、その父に言いなりの母の元で育てば、優しい兄に抱く強い思いも解らないでは無い。
そう自分に言い聞かせると、真守はもう一度紅茶で湿らせてから口を開いた。
「お前……本当にやりたい事とか…将来の夢とか無いの?」
「…………え……?」
その質問に、秀行は不思議そうに真守を見つめた。
何か突拍子も無い事を聞かれたような顔だ。
「さっきも言ったけど、僕は兄さんが本多家の当主として少しでもやりやすい様に……」
「───そうじゃなくてさッ!お前のやりたいこと!」
当たり前のように、嬉しそうに話す秀行に苛つきが増し、真守は話を遮るようについ声を張り上げた。
「なんか無いの!?……例えば……医者とか……警察官とか……なんかあんだろ!?漠然とした夢でもさ……海外で暮らしてみたいとか……なんなら幸せな結婚、とかさ」
「…………幸せな結婚て……」
ただでさえ丸い目を、まだ丸くして聞いていた秀行は、そう口にするとクスクスと笑った。まだ高校生にもならない親友の口から“結婚”という言葉が出るとは思ってもいなかったのだ。
「う、うるせぇな!例えばだよ!例えば!!」
思わず口を衝いて出た言葉に真守は顔を赤らめた。
別段、自分も結婚など考えたことは無かったが、秀行の口から和臣とは“関係ない未来”を聞きたくて必死になっていた。
「…………幸せな結婚は……無理かなぁ……」
「────え?」
ぽつりと吐いた秀行の言葉がハッキリと聞き取れず、眉をしかめた真守を真直ぐに見つめると、秀行はニヤッと笑った。
「真守はあるの!?将来の夢」
「俺か!?──俺はいいんだよッ!今はお前の話を……」
「いいじゃん!聞かせてよ!……真守こそ神部のおじい様の跡を継いでお医者さま!?」
目を輝かせ、秀行はベッドの上から身を乗り出した。
「俺のことはいいってッ!──それにッ………俺はじいさんの病院を継ぐ気はねぇし……」
いきなり近付いた距離が気恥ずかしく感じ、真守は思わず視線を逸らした。
「…………そうなの……?」
「そうなの!」
「でも……おじい様は、真守に継がせたがってるんでしょ?」
「別に……じいさんも“その気になったら継げばいい”って……ただ、いざその気になった時困らないように、勉強だけはしとけってさ。やりたい事があるなら、やれって言ってくれてるよ」
首を傾げ真守の話を聞いていた秀行は、黒目がちな丸い目で真直ぐに見つめると
「……やっぱやりたい事あるんじゃん」
僅かに頬を膨らませた。
自分には教えてくれないのを拗ねているのだ。
「べッ…別に俺のことはいいんだよッ!」
「僕には教えてくれないんだ……」
「そういう訳じゃッ……」
「僕は……真守のこと…………親友だと思ってるのに……」
「───だからッ……別にそういうんじゃ……」
肩を落とし、ただでさえ小さな身体をまだ小さくして落ち込んでいる姿が、ワザとそうしているのだと解っている。
真守が“それ”に弱いと理解っていてそうしているのだ。
しかし、それを解っていながら真守は大きく溜息を吐くと
「……写真……」
諦めたように、重い口を開いた。
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