鳥籠の花

海花

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街頭が僅かに照らす壁に背中を預けると、スーツが汚れるのも気にせず真守はしゃがみこみ、両手で顔を覆った。
 雅臣の側近に付き添われ敷地外に出された時は、祖父に全てを話し、あんなイカれた事から秀行を解放するつもりでいた。
 しかし、冷静になるにつれ、いくら義父と言えども雅臣が祖父の言葉を聞くとは思えない。それどころか、下手をすれば祖父すら秀行との関係を絶たれかねない。
 それに、秀行は祖父にまで知られたくないだろう。

───自分の子供に……あんな売春みたいなこと…………

 初めて校舎裏で出会った時、意味も分からず恥ずかしくなったのを覚えている。
 それが従兄弟だと知ってからも、時間を重ねる毎に秀行に惹かれていった。
 しかし、あの屈託のない笑顔にの下に、頬を染め真っ直ぐに見つめる眼差しの裏に、夜な夜な行われていた行為が、薄汚く向けられた欲望が隠れていたのだ。

「───クソッ…………」

 真守は吐き捨てるように口にすると、立ち上がり、美しい庭に囲まれた古い洋館を振り返った。




「秀行さん」

 人払いされ、雅臣と和臣、そして秀行が残された部屋で、息をするのも困難と思える程張り詰めた空気を、近藤の声が穏やかに震わせた。

「お怪我はありませんか?」

 その優しい声に、秀行は一瞬顔を上げたが、小さく首を横に振ると再び俯き視線を逸らした。
 近藤に助けられながらズボンを履き、手が震えボタンを止めることのできない秀行の代わりにボタンを止める近藤の背中が、雅臣の視界から秀行を隠しているように見える。

「…………俺は……家を出る」

 和臣の声に、秀行の身体がビクリと震えた。

「……家を出てどうするつもりだ……。なんの後ろ盾もなく……お前のような者に何が出来る?」

 起伏の無い冷静な雅臣の声に、和臣は両手をキツく握りしめた。そう長くは無い爪が食い込む痛みが、辛うじて冷静さを保たせていた。
 それがなければ、怒りで雅臣に殴りかかりそうだったのだ。

「それでも……こんな家にいるよりはずっとマシだ……」
 
「それで…………『中村小春』とかいう娘はどうする??全てを無くしたお前が、自分だけではなく人一人背負って立つつもりか?」

「───!?」

 知るはずのない名前を出されたことに、和臣の表情が一瞬で変わった。

「随分勝手な真似をしたそうで……腹に子がいるそうじゃないか?………その腹の子まで、路頭に迷わせるか?」

「───それは…………」

 極僅かに変わった和臣の纏う空気に、雅臣は分からない程微かに口角を上げた。

 秀行に頼まれたから和臣には黙っていた。それは、雅臣にも都合が良い構図だったのだ。
 雅臣自体、秀行を弟として可愛がっている和臣に、全てを話すのは得策だと思えなかった。そして、それを盾に秀行にも多少の無理を強いる事ができる。
 他に兄弟がいれば、分散させることも出来たが、跡取りの和臣の他は秀行独りしかいない以上、その全てを秀行に担わせるしかない。そうすれば自然と負担は大きくなる。

 その上で“兄を慕う弟”と“弟思いの兄”は雅臣にとっても、扱いやすい手駒だったのだ。
 ただ問題なのは、“どのタイミングで和臣に知らせるか“だった。

 いつなら和臣が秀行を切り捨てることが出来るか……。

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