ユメかウツツかマボロシか

海花

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だれ⁉︎

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「佳代さんさぁ……」

私の机の上のノートパソコンに向かい黙々と仕事を続ける私の顔を冬音夜が覗き込んだ。

「俺……いつ出番くんの?」

思わず目をそらす……。

「…………ねぇ、聞こえないフリしないでよ」

ムスッとしてしつこく覗き込む冬音夜に

「…………今……仕事忙しいって言ったでしょ…」

まるで結婚数年目の旦那が、嫁の相手をしないで責められている時の様な言い訳を口にした……。

「───だってそう言いながら忍と光流は書いてんじゃん!……それに!」

ノートパソコンのすぐ横を冬音夜の手が『バシンッ』と音を立てて打ち付けた。

「康介と航の続きッ!書いてんの知ってんだからね!」

そして本気で睨みつけている冬音夜に何も言えず、私は俯いた。




趣味でBL、いわゆる『ボーイズラブ』と言われる小説を書くようになって数年が過ぎた。
学生時代からその手の話が大好きで、読む専門だったのだが、仕事のストレスからの現実逃避もあり自分でも書くようになって素人投稿サイトに投稿するようにもなった。
別に読んでくれる人が大勢いる訳でもなく、自分の好きなように気ままにやっていた。
だからそれ自体にストレスを感じたことも無く、仕事のストレスを発散する趣味…………そう思っていたのに……。

3ヶ月程前、突然目の前に自分が書いている小説の主人公たちが現れたのだ。
忘れもしない、今日1日行けば休み!そう思って起き出した金曜の朝、リビングの扉を開けると、見も知らない若い男の子ばかりが数人、テレビを見たり、勝手にコーヒーを入れて飲んでいたり、まるで我が家のように過ごしているではないか……。
もう恐怖を通り越し呆然とする私に

「佳代さんおはよう」

そう言って笑顔を向けてくる…………。
しかも皆…………イケメンばかり…………

するとその中でも1番若そうな、どう見ても高校生くらいにしか見えない茶髪の男の子が私の手を握った。

「──ちょっとッ……」

焦ってその手を振り払おうとした私に

「佳代さん!俺ヤリチンじゃないよね!?」

「───はあ!?」

───何言ってんのこの子…………

唖然とする私に気付き、もう1人同年代と思われる黒髪の子が、慌ててその茶髪の子を止めに入った。

「葵!佳代さん困ってるよ!」

───葵……!?

「だってッ!康介がッ……」

───康介!?

「航と比べたらヤリチンだって言っただけだろ? 現に直斗とすぐやったじゃん」

ソファーでテレビを見ていたハーフアップの茶髪が呆れた様に口にした。

───航!?……直斗!?……

「おいおい……俺関係無いんだから巻き込まないでくんない?おれは零一筋だっつうの」

そう面白くないように言った、少しガラの悪そうな黒髪の男の子の隣には困ったようにそれを見ている美青年……。

もう何が何だか解らず頭がクラクラした。
どの名前も自分の小説に登場する子ばかりで……
けど、私がBL小説を書いてることなど自分以外誰も知らないハズで……。

そしてその時、私は本気で焦った。

『完全に発病した!』

そう思ったのだ。
35歳、独身。彼氏いない歴早5年……。
今更彼氏に縛られるのも嫌だとか何とか言いながら、BLの世界にどっぷり浸かりきって……
いよいよ幻覚が見え始めた…………
そう絶望した。

それでも仕事に行かない訳にも行かず、とりあえず全て見えなかったことにして、早々に準備をして職場へ向かった。
しかし職場では有り難いことに彼らの幻覚が見える訳でも無い。
普段通りに仕事をして、適当に世間話もして……。
寝ぼけて夢の続きを勘違いしたのか………
と、それならもっと彼らと話して楽しんでおけば良かった……などと考える余裕さえあった。そして仕事帰り、いつも通り夕飯の買い物をする為に近所のスーパーに寄った。
この時既に『夢』で片付けていた私は、朝の事など忘れかけていたと思う。
頭の中は夕飯を何にするかと、土日の連休どんな話を書こうか……それしか考えていなかった。

しかし───偶然出会った近所のおばさんに

「本田さんのところ、甥っ子さんあんなにいたのねぇ。みんなイケメンばっかりで羨ましいわ」

そうにこやかに言われたのだ。

───はい!?……甥っ子って…………なに!?

残念ことにたった一人いる私の兄は、数年前離婚され……子供にすら会わせてもらってないハズだ。
しかも3人いる子供はみんな女の子…………。

そこでやっと朝の光景が頭に蘇った。

───『あの子達だ…………』

夢じゃ無かったんだ。
しかも私以外にも普通に見えてる。
ってことは……幻覚じゃない!?
どういう事!?一体何が起こってるの!?
混乱する頭で大急ぎで自宅へ帰った。
そしてリビングのドアを開けた私は言葉を無くした……。
明らかに朝より人数が増えている……。
確かに……一人暮らしにしては広すぎる一軒家に住んでいる。
近所付き合いが面倒で、郊外に広い戸建を借りていたから。

それにつけてもだッ!!
わちゃわちゃしているリビングで一人一人数える。

───1.2.3.4.………10人もいるッッ!!

「あ、佳代さんおかえりー!」

そして帰ってきた私に気付き、笑顔を向けてくれたイケメン達に

「…………嘘でしょ………………」

それが、私が初めて向けた言葉だった…………。

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