君の手の温もりが…

海花

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俊輔と葵

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パンが焼き上がるとやっと、葵がシャツに手を突っ込み腹を掻きながら入ってきてそのままダイニングの椅子に座った。
「今日も目玉焼き?もう飽きたんだけど……」
欠伸をしながら文句を言う葵に
「気に入らないなら自分で作ればいいだろ…。それよりちゃんと顔ぐらい洗ってこいよ」
パンを皿にのせ、渡しながら俊輔も文句を返した。
「いい。飯食ったらシャワー浴びるから」
葵はパンにジャムをこれでもかという程塗っている。
「お前…よくそんなん食えるな…」
———見ているだけで胸焼けしそう……。
葵は完全な甘党だが、俊輔は甘い物が苦手だ。
「バーカ。糖分取った方が頭が働くんだよ」
満足そうにパンに齧り付く葵を横目に、俊輔は肩を竦め自分のパンにバターを塗り食べ始めた。


葵は高校生活初めての夏休みをバイトに費やすことに決めていたらしく、休みになる少し前からバイトを始めていた。
お目当てはゲーミングPC。
中3で部活をやめてから、すっかりサッカーにも興味が無くなりゲームに夢中になっていた。
葵は少し長くなった前髪が、エアコンの風で目の前で揺れるのを、うっとおしそうに手でかき上げた。
すると、大きくて印象的な目が現れる。
真っ直ぐに伸びた鼻筋と、薄くて赤い唇。
好き不好きは別として、大概の者に『美しい顔立ち』だと思わせるだけの器量もある上に、どこか色気もあった。
しかし、葵本人にはそれもどうでもいい事の一つに過ぎなかった。
「お前今日何時まで?」
俊輔が聞くと
「4時。なんか買ってくる?」
葵が口の端のジャムを指で拭きながら答える。
「晩飯何食べたい?」
 「んー…。オムレツかオムライス」
俊輔は冷蔵庫にある物を少し考えて
「じゃぁ、卵とひき肉買ってきて。あとトマト…だけでいいかな」
そう言うと嬉しそうに笑っている葵に気付く。
「…なんだよ……」
俊輔が目を細めて警戒すると
「ケーキ買っていい!?」
葵が目を輝かせている。
「そんなことだと思った…」
俊輔は軽いため息をつき
「500円までな」
「やった!」喜びながら食べ終えた皿をシンクに運んでいく。
───まったく……。
そう思いながらも、素直な性格が昔から変わらないな……と苦笑いしてしまう。
あの風呂での衝撃のあと、しばらくぎこちなくなった俊輔に、葵は変わらず素直で慕っていた。
そのお陰で俊輔もどうにか衝撃から立ち直り、今もずっと仲の良い兄弟でいられた。
「お前今日バイト?」
今度は葵がキッキンから声を掛ける。
「いや。今日課題やるつもり」
俊輔が答えてから最後のウィンナーを口に放り込む。
「なら帰ってきたら一緒にゲームやろう!」
葵が皿を洗いながら笑顔を向ける。
「…………課題終わったらな」
口の中の残りを飲み込み俊輔が答えると
「昼間のうちに終わらしとけよ」
葵は少し不満げに風呂場へ向かった。

俊輔が「ホント生意気…」と愚痴りながら皿を洗っているとスマホが着信を知らせた。
慌ててタオルで手を拭きスマホを手に取ると画面に『結衣』と表示されている。保育園から一緒の幼なじみだ。
「もしもし?」
『あ!俊輔?今日家行っていい?課題教えて欲しいんだけど』
電話の向こうから元気な声が聞こえる。
「別にいいよ。俺も今日課題やるつもりだったし」
『じゃぁ10時頃行くね!何か買ってくけど、欲しいものある?』
「別にないかな…。あ、昼どうする?どうせうちで食うんだろ?」
話してる内にシャワーを終えた葵が下着姿でリビングに入ってくる。
「じゃぁ10時に…」
俊輔が電話を切ると、葵が髪を拭きながら面白くなさそうに俊輔に視線を向けた。
「あいつ…また来んの?」
「課題が分からないんだってさ」
俊輔が肩を竦める。
どうも葵と結衣は相性が悪い…。特に葵は結衣への敵意を隠そうともしない。結衣も結衣でそんな葵をブラコンとからかうから余計もつれる…。
「あいつ……絶対俺がいない時狙って来るよな……。本当ムカつく……」
俊輔は軽くため息をついた。
葵はそう言うが……今日葵がバイトで本当に良かった。と…。








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