君の手の温もりが…

海花

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女好き

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「腹減った」
家に着くなり葵が不機嫌そうに訴える。
「今作るよ」
俊輔がキッチンへ向かう。「飯炊いた?」
「炊いといた」
葵がぶっきらぼうに答える。
どうやら今日は本格的に機嫌が悪いらしい…。
「お前さぁ」
キッチンで料理している俊輔にリビングから葵が話しかける。
「あいつと付き合ってんの?」
視線はスマホに向けたままだ。
「はぁ!?別に付き合ってねぇよ。結衣が家に来るのなんて昔からだろ」
俊輔が呆れたように答える。
確かに高校に入ってからは勉強にバイトに忙しくて、昔ほど頻繁には来てなかったが。
「ふぅーん」
葵が振り向いて冷たい視線を向ける。「またお前の病気が出たのかと思った」
「なんだよ?病気って…」
「女好き」
「はぁ!?」
俊輔が心外だと言いたげに声をあげた。「いつ俺が…」
「中学の時の俊は優等生の皮を被った、ただの女好きだったろ」
俊輔の言葉を遮り葵が話続けた。「何人女取っかえ引っ変えした?」
ソファーに腕をかけ葵が冷たい視線を投げ続ける。
「お前…人聞き悪い…」
中学に入ると周りが異性に興味を持ち始め、何組の誰が可愛いとか好きだとか言い出した。
俊輔はその会話についていけず『好きな人』が葵以外、過去いなかったことに初めて気付かされた。
葵の過去があっただけに正直焦った。
もしかして自分は同性が好きなのか!?と悩んでみたが、どうやらそうでもない。
そんな1年の夏休み前、初めて女の子から告白された。
隣のクラスの可愛いと評判の子だった。
友達に背中を押されたのもあって初めて付き合った。
付き合ってその子を知る内に好きになるかもしれないと思ったからだ。
しかし付き合ってしばらく経っても好きだという感情は一向に湧いてこなかった。
結局3ヶ月で別れ、その後また違う子に告白され付き合ってみたが結局結果は変わらなかった。
別の子なら…と片っ端から付き合った。
デートもしたし、キスも、それ以上の事もしたが、結局相手に対して『恋愛感情』はもてなかった。
そして中学の卒業と共に無理に人を好きになろうとするのもやめたのだ。
「俺にだって事情があったんだよ…」
俊輔が言い訳するようにブツブツ言う。
「まっいいけど」
葵が再びスマホに目を移す。
夕方のスプーンの件からずっとイライラしていた。
結衣の口をつけたスプーンを俊輔が平気で口にしたことに腹が立ったし、いつもなら絶対口にしない様なクリームたっぷりのケーキを結衣のために食べたのも気に入らなかった。
そして何より結衣を庇った俊輔にイラついて仕方なかった。
しかも結衣の嬉しそうな笑顔…。
気分転換に始めたゲームもそのせいで上手くいかず余計イライラした。
「くそっ」
葵の悪態が俊輔の耳にも届いた。
オムレツを作りながら葵の様子を窺う。
何にそんなにへそを曲げているのかさっぱり分からない。
いつもなら結衣が帰れば機嫌は治るのに。
ケーキを取られたことだろうか…。
結衣が1日30個限定のケーキと言っていたしなぁ…。
俊輔は思い当たる要因を頭の中で色々探ってみた。
料理も出来上がり2人でテーブルに着き食べ始める。
俊輔の目にオムレツを食べているスプーンが映る。
スプーンか…。
あのスプーンのやり取りから、あからさまに葵の機嫌が悪くなった。
思いついたように俊輔が自分のオムレツを1口すくうと葵に差し出した。
「…なんだよ…」
機嫌が悪そうに眉をひそめる。
俊輔は何も言わず更にスプーンを葵の口元に近ずける。
葵は怪訝そうな顔はしたものの素直にオムレツを口にした。
俺の使ったスプーンが本当は嫌で機嫌が悪くなったって訳でもなさそうだな…。
俊輔は眉をひそめると再びオムレツを食べ始めた。
逆転の発想で考えてみたらどうだろう…。
再び何か思いついたように手を止め考え出す。
俺が使ったスプーンが嫌だったんじゃなくて、俺が使う前のスプーンが使いたかったんだとしたら…。
「あ…」
思わず口から声が漏れる。
結衣が嫌いだから意地悪をしてるんじゃなくて、好きだから構ってるのか…!?
結衣が来てる時、葵は必ず俺の部屋に来る。
さっき、俺と結衣が付き合ってるのか聞いてきたのも、それなら納得がいく。
葵は結衣が嫌いなんじゃなくて好きなのか…。
そう思った瞬間、俊輔の胸がチクっと痛んだ。
「ん…?」
俊輔が眉をひそめ、左手を胸に当てる。
今痛かったような気がしたけど…。
気のせいかな…。
首を傾げ胸に手を当てている俊輔を葵が呆れてみている。
「お前…さっきから何してんの?」
「え?いや…別に?」
俊輔を見つめる目をわざとらしく細める。
「何考えてるか言ってみな。どうせろくな事じゃないだろ」
俊輔がニヤっと笑う。
「別になんも考えてねぇよ。ただお前も成長するんだな、って思ってただけ」
「ぜってーろくな事考えてねぇだろ!?」
ムキになる葵を尻目に俊輔はさっさと食器を片付け始めた。
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