君の手の温もりが…

海花

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『俊』

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「今日帰り寄ってけよ」
客が切れると薫が俊輔に声を掛けた。
「…んー…そうだな…。休み明け、すぐテストだっけ?」
俊輔が陳列を直しながら返事をする。
「そう。明けてすぐな」
薫もレジから出てきて向かい側の棚を直し始める。
久々にバイトの時間が薫と被り5時には同時に上がれる予定だ。
昨夜眠れなかった所為か、今朝改めて新しくなった薬を飲んでからずっと、頭に薄い靄がかかっている様な気がする。
───ちゃんと勉強しなきゃな……。
葵は6時までバイトって言ってたし…。
「…少し寄らせてもらおうかな…」
薫から勉強を教わる様になって、大分効率よく出来るようになってきていた。
「じゃあ、決まりな」
その言葉と同時に客が入ってきた。

薫の部屋に入ると何故か少しホッとする。
色調や必要な物以外無いのが、自分の部屋と似ている所為かもしれない。
俊輔はいつもの定位置に座ると欠伸をした。
「…また寝不足か?」
薫は自分の勉強机の椅子に座る。
「……ちょっとね」
俊輔が顔を歪めて笑う。
「それ…笑ってるつもり?酷い顔してるぞ?」
苦笑いしながら問題集を引き出しから取り出し俊輔に渡す。
「なんかあったの?」
「……別に…。……動画見てたら寝そびれただけ」
受け取りながら無理に笑った。
頭の中に昨日の艶めかし葵の声が蘇る…。
一晩中あの「…藤井…さん……」と、愛おしそうに呼ぶ葵の声が耳に張り付いて離れなかった…。
「まぁた…エロ動画でも見てたんだろ」
薫がからかうように笑うと
「ばーか」
俊輔もつられて笑った。
2人でくだらない話をしながらお互い問題集に取り組む。
6時を少し過ぎた頃、俊輔のスマホが鳴り出した。
葵からのラインだ。
──『帰り遅くなるから飯いらない』──
「………………」
「……弟?」
薫が俊輔に視線を移す。
俊輔のスマホを持つ手が微かに震えている。
「──そう……」
一言だけ答えると、返事を返さず床にスマホを置いた。
昨日…きれい事の様に「応援するよ」なんて言った……。
本当はそんなこと思ってもないくせに……
「…返さなくていいの?」
薫が俊輔を見つめる。
手が震えているのを見逃す訳が無い…。
「…飯いらないってだけだから。返す必要もないだろ…」
俊輔がわざわざ素っ気なく言っているのが分かって、つい口角が上がる。
「喧嘩でもしたのかよ?」
「……別に…?何で?」
「何となく、そう思っただけ」
そう言って薫は肩を竦めた。
「あ!ならさ、うちで飯食ってけよ。ピザでも頼もうぜ!」
薫が嬉しそうに提案する。
「………そうだな…。たまにはそうするか」
俊輔がそう言うと、薫は早速タブレットでピザ屋のサイトを開き始めた。

──あの人と一緒にいるんだろうか……

考える気もなく考えてしまう……。
「俊輔、どれが良い?」
薫の声に我に返る。
「…何でもいいよ。甘くなきゃ」
俊輔が笑うと
「せっかくだからちゃんと選べよ!」
そう言いながらタブレットを持って隣までくる。
「俺、肉系が良い。俊は?」
「──え……」
俊輔の顔から笑顔が消え薫を見る。
「ん?……あ、肉嫌いだっけ?」
「いや……そんなことない…けど…」
「……?──ああ…俊て呼んだこと?マズかった?」
「別にそうじゃないけど…そう呼ぶの……弟だけだったから……」
心臓が『トクトク…』と自己主張し始める…。
今まで…『俊』て呼ぶのは何でか葵だけだった……。
「嫌ならやめるけど…?」
「いや…そういう訳じゃないよ。ちょっと…びっくりしただけ」
俊輔がタブレットに視線を移し笑った。

ピザが届くとタブレットで映画を見ながら食べた。
友達とこんな風に過ごすのは久しぶりだった。
葵と2人になってから食事の用意もあって、何となく葵と2人で過ごすのが当たり前で友達と遅くまで過ごすことが少なくなっていた。
「あ!俺この映画見たいんだよね」
一つ見終わって検索画面を見ながら薫が指を指す。
かなり古いホラー映画だ。
「薫、ホラー好きなの?」
「結構好き。俊は?」
「俺も嫌いじゃない。ってか好き。現実味無いようであるって言うか……」
「じゃあ、今度泊まり来いよ!一晩中ホラー見ようぜ」
「──……そうだな……。たまには……良いかも」

──そしたら…きっと葵はあの人の所へ…

「いつにする?」
薫がスマホで予定を見だす。
「何時でもいいよ。あ…バイト休みの前の日ならな」
俊輔が笑う。
「じゃあ……」
2人でお互いの予定を見て日程を決める。
久しぶりのことに俊輔もいつの間にか笑顔になっていた。

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