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9月1日
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夕方の6時を回るとさすがに少し薄暗くて、昼間は暑くてもゆっくりと秋になりつつあるのを教えてくれる。
俊輔は久しぶりの買い物に通学用のリュックを背負いながら両手いっぱいの荷物を持っていた。額には薄っすらと汗もかいている。
結局、葵の課題が終わったのは日付が9月1日になって大分経ってからだった。つまり葵を迎えに行ってから2人きりで丸一日以上『課題だけ』やっていた。
しかも最後はほぼ意識が無い葵の代わりに俊輔がほとんどやっていた…。
———まったく……溜すぎなんだって。
「———重っ……」
指に食い込む荷物を体勢を整え持ち直す。
———やっぱり……一旦帰ってから葵と行けば良かったかな……。
買い物は2人で…と決めていたが、昨夜3時間程度しか寝ておらず早く夕飯を済ませたかった。
それに…やっと課題から解放されて2人きりの夜を過ごせるのだから。
「お前、何その荷物……」
突然背中から掛けられた声と共に左手が急に軽くなった。
「葵……おかえり…」
自転車に跨いだ状態の葵が、今まで俊輔の左手にぶら下げられていた荷物を持ち
「帰ってから一緒に行けば良かったじゃん」
そう言って自転車を押しながら俊輔の隣を並んで歩き始めた。
「そうだけどさ……」
少し不貞腐れた様な俊輔を見て葵は何か言いたそうに口を開いたが、思い直した様に黙ったまま俊輔の横を歩き続けた。
夕飯のオムレツを会話も無いまま口に運ぶ。
———昨日何話してたっけ………。そっか……昨日は課題の話してたんだ……。
葵は大好きなはずの俊輔が作るオムレツの味もわからない程緊張していて余計焦った。
———ヤバイヤバイヤバイ……何話せば良いか全然分かんない……!
「……課題…ちゃんと出した?」
俊輔が徐に口を開いて、葵が見て取れるほどビクッとする。
「———え⁉︎……あ……出した……」
「………そっか………」
俊輔も葵と目が合うと気まずそうに俯いて会話は終わりを告げた……。
———何やってんの!俺‼︎——せっかく俊が話し掛けてきたのにっ‼︎
俊輔は葵の顔をチラッと盗み見て、気付かれない程小さくため息をついた。
———葵は………本当に…俺のこと……好きなのかな…………。
一昨日…一緒に帰ってから葵に気持ちを打ち明けた。葵以外好きになったことが無いことも……。
———葵もずっと俺を好きだったって言ってくれたけど………。
結局……その時一度だけキスをしただけに留まっていた。昨夜など課題に手間取りお互いベッドにも入らないまま俊輔の部屋でごろ寝してしまった。
———やっと……手が届くのに……。
同じ事を考え2人は同時にため息をついた………。
シャワーを浴び葵がリビングに戻るとソファーでスマホをいじっていた俊輔が大きな欠伸をしているのに気付いた。
———昨日……課題やってくれたせいで寝てないんだもんな………。
「俊、眠いならベッド行けよ」
葵はいつもの様にそう言ってから
———違った!———今のは『ベッド行こう』が正解だった………。
またやらかした事にガックリ項垂れる。少し前までただの兄弟で……どう『恋人同士』へと舵を取れば良いのか分からない。
子供の頃から…おそらく出会った時からずっと好きだったのに、それが当たり前すぎていまいち『両思い』になった実感が無い。
落ち込む葵を、既に眠くてトロンとした瞳の俊輔が見つめる。
──今日は別々に寝るのかな……。
そう考えて思わず顔が熱くなった。
──別に……今日どうこうって訳じゃないけどさっ…平日だし……明日も学校あるし……。いや……そもそも、どうこうって何だよ……そんな……葵も好きだって言ってくれたからって………そんなすぐ……
俊輔は混乱する頭にため息をつき
「そうする……。おやすみ」
少し落ち込みながらリビングを後にした。
──キスくらい……したかったな……。
俊輔が部屋へ行ってしまってから葵は大急ぎで寝る準備を進めた。歯を磨き、髪は適当に乾かした。
電気を消し階段を静かに上がっていく。
俊輔の部屋の前で立ち止まり、何と言って中へ入っていけばいいか頭を悩ませた。いつも当たり前に入っていき、当然の様に俊輔のベッドを占領していた。
しかし何故か今はそれが出来ない。
ただでさえ胸が高鳴って息が苦しい程なのに……。
さっきリビングで俊輔が少し落ち込んだようにため息をつくのを目の隅で見ていた。
──きっと……俊も…待っててくれてるハズだ……。
葵が口の端をギュッと結ぶとドアノブに手を掛けた。
ベッドで寝返りをうちながら俊輔は見慣れたドアを見つめる。
あんなに眠かったのにすっかり目が覚めてしまっていた。
本当は一緒に眠りたかった。別に何も無くてもいいから、ただ手を繋いで一緒にいられるだけで良かった。
葵も意識しているのが解った。お互いに意識し過ぎて上手くいかないのだと…。
───葵も……きっと本当は一緒にいたいんだ…………。
俊輔はベッドから起き上がり葵を迎えに行く為ドアへ向かった。
葵が一瞬早くドアを開けると『ゴツッ』と言う音と共にドアが何かに勢いよく当たった。
「———え?」
ドアの隙間から覗き込むと俊輔がおでこを押さえながらしゃがんでいるのが見えた。
「俊!———ごめん!」
隙間から身体を滑り込ませ葵は慌てて俊輔を抱き起こした。
「……平気…」
俊輔が笑って答えるが、おでこは真っ赤になっていて衝撃の強さを物語っている。
「本当ごめん!」
謝りながら葵は無意識に俊輔を抱きしめた。
———あ……………
2人の心臓の音がお互いに届いて……葵は一層強く俊輔を抱きしめた。
俊輔もゆっくりと葵の背中に腕を回し抱きしめ返す。
「………大好きだよ」
どちらからともなく同じ言葉を口にして2人で顔を見合わせて笑った。
そして、どちらからともなく口付けた。触れるだけのキスを何度もしてゆっくりとお互いの舌を絡ませていく。
そしてまた抱きしめて
「——愛してるよ」
俊輔が葵の耳元で囁くと
「俺も……愛してる」
葵が照れ臭そうに言って、また二人で笑った。
おわり
こんどこそ本当に終わりです。
そして本当にありがとうございました。
挿絵は俊と葵の一場面です。
俊輔は久しぶりの買い物に通学用のリュックを背負いながら両手いっぱいの荷物を持っていた。額には薄っすらと汗もかいている。
結局、葵の課題が終わったのは日付が9月1日になって大分経ってからだった。つまり葵を迎えに行ってから2人きりで丸一日以上『課題だけ』やっていた。
しかも最後はほぼ意識が無い葵の代わりに俊輔がほとんどやっていた…。
———まったく……溜すぎなんだって。
「———重っ……」
指に食い込む荷物を体勢を整え持ち直す。
———やっぱり……一旦帰ってから葵と行けば良かったかな……。
買い物は2人で…と決めていたが、昨夜3時間程度しか寝ておらず早く夕飯を済ませたかった。
それに…やっと課題から解放されて2人きりの夜を過ごせるのだから。
「お前、何その荷物……」
突然背中から掛けられた声と共に左手が急に軽くなった。
「葵……おかえり…」
自転車に跨いだ状態の葵が、今まで俊輔の左手にぶら下げられていた荷物を持ち
「帰ってから一緒に行けば良かったじゃん」
そう言って自転車を押しながら俊輔の隣を並んで歩き始めた。
「そうだけどさ……」
少し不貞腐れた様な俊輔を見て葵は何か言いたそうに口を開いたが、思い直した様に黙ったまま俊輔の横を歩き続けた。
夕飯のオムレツを会話も無いまま口に運ぶ。
———昨日何話してたっけ………。そっか……昨日は課題の話してたんだ……。
葵は大好きなはずの俊輔が作るオムレツの味もわからない程緊張していて余計焦った。
———ヤバイヤバイヤバイ……何話せば良いか全然分かんない……!
「……課題…ちゃんと出した?」
俊輔が徐に口を開いて、葵が見て取れるほどビクッとする。
「———え⁉︎……あ……出した……」
「………そっか………」
俊輔も葵と目が合うと気まずそうに俯いて会話は終わりを告げた……。
———何やってんの!俺‼︎——せっかく俊が話し掛けてきたのにっ‼︎
俊輔は葵の顔をチラッと盗み見て、気付かれない程小さくため息をついた。
———葵は………本当に…俺のこと……好きなのかな…………。
一昨日…一緒に帰ってから葵に気持ちを打ち明けた。葵以外好きになったことが無いことも……。
———葵もずっと俺を好きだったって言ってくれたけど………。
結局……その時一度だけキスをしただけに留まっていた。昨夜など課題に手間取りお互いベッドにも入らないまま俊輔の部屋でごろ寝してしまった。
———やっと……手が届くのに……。
同じ事を考え2人は同時にため息をついた………。
シャワーを浴び葵がリビングに戻るとソファーでスマホをいじっていた俊輔が大きな欠伸をしているのに気付いた。
———昨日……課題やってくれたせいで寝てないんだもんな………。
「俊、眠いならベッド行けよ」
葵はいつもの様にそう言ってから
———違った!———今のは『ベッド行こう』が正解だった………。
またやらかした事にガックリ項垂れる。少し前までただの兄弟で……どう『恋人同士』へと舵を取れば良いのか分からない。
子供の頃から…おそらく出会った時からずっと好きだったのに、それが当たり前すぎていまいち『両思い』になった実感が無い。
落ち込む葵を、既に眠くてトロンとした瞳の俊輔が見つめる。
──今日は別々に寝るのかな……。
そう考えて思わず顔が熱くなった。
──別に……今日どうこうって訳じゃないけどさっ…平日だし……明日も学校あるし……。いや……そもそも、どうこうって何だよ……そんな……葵も好きだって言ってくれたからって………そんなすぐ……
俊輔は混乱する頭にため息をつき
「そうする……。おやすみ」
少し落ち込みながらリビングを後にした。
──キスくらい……したかったな……。
俊輔が部屋へ行ってしまってから葵は大急ぎで寝る準備を進めた。歯を磨き、髪は適当に乾かした。
電気を消し階段を静かに上がっていく。
俊輔の部屋の前で立ち止まり、何と言って中へ入っていけばいいか頭を悩ませた。いつも当たり前に入っていき、当然の様に俊輔のベッドを占領していた。
しかし何故か今はそれが出来ない。
ただでさえ胸が高鳴って息が苦しい程なのに……。
さっきリビングで俊輔が少し落ち込んだようにため息をつくのを目の隅で見ていた。
──きっと……俊も…待っててくれてるハズだ……。
葵が口の端をギュッと結ぶとドアノブに手を掛けた。
ベッドで寝返りをうちながら俊輔は見慣れたドアを見つめる。
あんなに眠かったのにすっかり目が覚めてしまっていた。
本当は一緒に眠りたかった。別に何も無くてもいいから、ただ手を繋いで一緒にいられるだけで良かった。
葵も意識しているのが解った。お互いに意識し過ぎて上手くいかないのだと…。
───葵も……きっと本当は一緒にいたいんだ…………。
俊輔はベッドから起き上がり葵を迎えに行く為ドアへ向かった。
葵が一瞬早くドアを開けると『ゴツッ』と言う音と共にドアが何かに勢いよく当たった。
「———え?」
ドアの隙間から覗き込むと俊輔がおでこを押さえながらしゃがんでいるのが見えた。
「俊!———ごめん!」
隙間から身体を滑り込ませ葵は慌てて俊輔を抱き起こした。
「……平気…」
俊輔が笑って答えるが、おでこは真っ赤になっていて衝撃の強さを物語っている。
「本当ごめん!」
謝りながら葵は無意識に俊輔を抱きしめた。
———あ……………
2人の心臓の音がお互いに届いて……葵は一層強く俊輔を抱きしめた。
俊輔もゆっくりと葵の背中に腕を回し抱きしめ返す。
「………大好きだよ」
どちらからともなく同じ言葉を口にして2人で顔を見合わせて笑った。
そして、どちらからともなく口付けた。触れるだけのキスを何度もしてゆっくりとお互いの舌を絡ませていく。
そしてまた抱きしめて
「——愛してるよ」
俊輔が葵の耳元で囁くと
「俺も……愛してる」
葵が照れ臭そうに言って、また二人で笑った。
おわり
こんどこそ本当に終わりです。
そして本当にありがとうございました。
挿絵は俊と葵の一場面です。
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