A world of fantasy〜大人の階段のぼっちゃう…⁉︎ かもしれない物語〜

海花

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まだまだ子供?

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「お前さぁ……さっき女の子と何話してたの?」

明るい栗色の髪と同じ色の耳をぴょこっと動かしながら、翡翠は背中を向けたまま蒼玉に声を掛けた。

「……なにって……」


時は令和。
2人は人間として生活するべく、琥珀の元を出され目下試練の最中である。
眠りたくなれば眠り、汗をかけば川で水浴びをする。
そんな自由気ままに暮らしてきた2人が人としても生活出来るよう、この2DKのアパートで暮らし始め1年と少し。
学校にも通い、なんとか……狼とはバレる事無く、ようやく人としての生活に慣れてきたところである。


蒼玉はやはり同じように頭の上に生えた耳を僅かに伏せると、考える様な素振りで首を傾げた。
「さっき」と「女の子」。このワードで思いつくことと言えば、学校から出てすぐクラスの女の子に呼び止められたことだろうか……。

「………帰りに呼び止められたこと?」

「……他に何があんだよ」

どこか不機嫌な声がこちらを向くことなく投げかけられる……。

「別に……週末の祭りに行くのかって聞かれただけだけど……」

蒼玉は首を傾げたまま、翡翠の背中へ返した。

「………………へーぇ……で?」

「で……って?」

「なんて答えたのかってことッ!」

益々機嫌のわるくなった声に思わず目が丸くなった。
ここまでくれば、いくらおっとりとした性格の蒼玉と言えど翡翠がただ機嫌が悪いだけではなく、怒っているのだと解った。
それも恐らく“自分に対して”怒っている。しかし、何故怒っているのか、何が怒らせたのかは解らない。

「翡翠と……一緒に行くつもりだよ……って答えたけど……」

これ以上怒られたくないが、何が着火剤になるか分からず蒼玉は恐る恐る答えた。

「…………あっそ……」

しかし翡翠はそう言うと、それ以上は何も言わず浴室へ向かって行った。

「……なんなの……一体………」

その背中がドアの向こうへ消えると、蒼玉の口がポツリと吐いた。



幼い頃から何をするのも一緒だった。
まだ大して喋ることも出来ない蒼玉に、一番言葉を教えたのは翡翠だろう。
それ程までに傍にいた。
お互い親の顔も覚えていない頃から、『大口真神』である琥珀の元で暮らし兄弟の様に育ってきた。
面倒見のいい翡翠に、甘えん坊の蒼玉。
もう1人共に育ったやはり狼の雌である“蛍”は、女性らしい体型になった頃からは2人から適度に離れ、自分の未来を見据えつつ、兄のような叔父のような……黒曜にまとわりついている。

それに対して他者とは余り関わらず、いつまでも子供の様な2人を心配して、親代わりでもある琥珀は自分達の元から離したのだが、それも成果があるのか無いのか……相変わらず何をするのも2人一緒だった。


「真神くん」

次の授業が始まるまで窓の外をぼんやり見ていた蒼玉に、クラスメイトの1人が声を掛けた。
アパートからそう遠くない公立高校。
いくら一緒にいたいと言ってみたところで、さすがに学校でまではそうもいかない。
蒼玉は1年、翡翠は2年……。
歳の差ばかりは抗えない。

「お祭り、翡翠先輩も行くよね!?」

返事をする間も無く席を取り囲まれ、蒼玉はちいさく溜息を吐いた。

「……行くけど…」

───またその話か…………

「ねぇ!彼女とじゃないよね!?浴衣着てくの!?」

「浴衣は着てくと思うよ……?それに何度も言ってるけど、翡翠に彼女なんか……」

───いないよ───

そう言いかけて、思わず言葉を呑み込んだ。

───本当にいないの…………?

ここに来る前のことなら分かる。
朝から晩まで傍にいたから。
食事も風呂も、寝る時すら一緒だった。
けど今は……。
キャッキャッと騒ぐ女の子たちを余所に、蒼玉は視線を再び校庭へ向けた。
次の授業が体育なのか、翡翠が友達とじゃれ合いながら笑っている。
昼間はほぼ顔すら合わせない。

───それに夜も……。

琥珀の言いつけでお互い別々の部屋で眠る様になった。
今の生活を始めるまで、何故一緒に眠ることすらダメなのか解らなかった。
翡翠もその事で琥珀に散々噛みついたが、しかし答えは変わらなかった。
けれど、今なら痛い程解る。
『雄は雌に惹かれて当然』なのだ。
子孫を残す為に……。
琥珀が2人を手元から離したのも、恐らく“幸成を生涯の伴侶とした自分が良い手本になれない”から。
神として生きる琥珀には、幸成との間に子を儲けることが出来たが、翡翠にしろ蒼玉にしろそういう訳にはいかないのだ。

「おーい!席に着け!」

いつの間にか入ってきた教師の声に、皆がまだ僅かに騒ぎながら席につき、やがて穏やかな声が教室を支配下に置いていく。

───なんか…………面倒臭いな…………。

校庭では楽しそうな声が響き、翡翠はその中心で……やはり笑っている。
明るくて面倒見が良くて、ここに来てからも蒼玉より遥かに早く全てに慣れていた。

───俺が……雌だったら良かったのかな…………それか……翡翠が…………

毎晩翡翠の肌に触れながら眠った。手を繋ぎながら、時には腕の中で……。
それが温かくて安心していられた。

───大人に……なりたくないな…………子供のままで…いられたらいいのに……。

穏やかに異国語を奏でる声より、微かに聞こえる翡翠の声が心地よく、蒼玉は手元の教科書に視線を落とした。



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