王家の星影

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惟宗氏 ①

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頭を下げて出迎える。

「よろしくお願いします。私が、皇太子の寿安としやすと申します。国米蔵の管理主任の父の代理です。」
王の権力は絶大だ。全て、国が保有する蔵、田畑、軍用馬、金属、建物、船、反物…まぁ、とにかく何でも、国が貯めているとんでもない量の物は全て王様のもので、王様が管理している。
「よろしくお願いします」
「それで、こちらが、私の弟で内官庁食糧管理部部長の尊星です。彼は食糧福祉を担当しております」
寿の宮から紹介を受ける。
「尊星です。よろしくお願いします。」
髭を蓄え、大柄な男が一歩前に出る。ほんと、少し見上げないとダメなくらいだ。
「私は、惟宗嘉年三これむね かねぞうと申します。よろしくお願いします」
握手を交わす。
手もでかい人だな。圧を感じる。
惟宗氏といえば、ただの豪族ではない。大陸の秦の皇帝の流れを汲んでいる。だからこそ、少し別枠扱いがなされている。それ故に、税が軽い。その分、受けられる福祉も薄い。

「では、本題に入りましょうか」
寿の宮が進行役に自然となる。
「はい。二月ほど前、大嵐が起こり、川が氾濫しもう田畑が使い物ではなくなりました。もうそれはひどい惨状で、稲は全滅です。今までは、蔵の米で乗りきって来ましたが、それももう尽きます。だから、どうか、お恵みいただけませんか?」
惟宗氏は南を治めている。そこには、国民も居るということになる。恵みたい気持ちはやまやまだが、やはり、租税の負担的にただ飯を配るほど世の中は甘くはない。だいたい、そんなことをしては、真面目にきちんと税を我々に納めている国民の怒りを買ってしまう。
「恵みたい気持ちはありますが、2ヶ月で底を尽くとはどういうことでしょうか?確か、一年以上分の備蓄は絶対という約束があったように思うのですが?」
国民を守るためとして、惟宗氏には規定を設けている。
「川の氾濫で蔵ごと流されたりして、備蓄米もそもそもそんなに多くは残っていなかったんです」
「それは、管理不全ではないのですか?危険の少ないところへ蔵を建て替えるように、以前、催促の通知があったと思います」
通知を無視して川の近くに建てたままということなら、そう簡単にお米を出すわけにはいかない。
「建て替えの途中だったんです」
必死に訴えかける目の前の大男。切に願うその素振りと声。
ただ、そんな情で動くことはできない。確たる理由がほしい。絶対的に私たちが助けるより他はないというような完璧な理由が。
「そうでしたか。ちなみにいくつの蔵が流されましたか?」
「大きな蔵が三つです。そこにそれぞれ、3ヶ月分ずつありました。それから、小さいのもいくつか」
蔵と言ってもそれはただ一つがドンとたっているわけではなく、蔵が何個も何個も密集して、蔵しかないににまるでそこが小さな集落のようになっている。被害は深刻だ。
確か、蔵は大きいのが4つあったはず。ということは、あと一つが二ヶ月しかもたなかったというのか?
「一人当たりの試算が甘かったのではないですか?」
「いえ、そんなはずはありません。きちんと、基準に則っております」
「では、どうして、大きな蔵一つで二ヶ月分何ですか?」
「どの蔵も、常に全て埋まっているとは限りません」
「川沿いの蔵から、建て替える前にそちらに米を移さなかったということですか?それはどうしてですか?」
「蔵にあった分を全て動かすには、蔵の空間が無かったし管理も複雑になるから移動させられなかったんです」
「そうでしたか」
尊星はザッと卓上の資料をまとめた。
一番上にはそこの住民の米を求める切実な訴えと共に添えられた署名。十万人。恐らく、この中には「大変そうだから」「実際、うちは困っていないけど」みたいなのも含まれているだろうから、たぶん、実際に支援がいるのは3万から4万人だろう。
惟宗氏が治める範囲には、12万が住んでいることを考えるとやっぱり被害は深刻。それに間違いはないだろう。
尊星は、資料の上から5個目の項目を指す。そこには、市民が持っている米の総量。
嘉年三はバン!と力強く机を叩いた。
音が大きくて、尊星と寿の宮はビクッとする。
立ち上がって嘉年三は言った。
「私たちの蔵には確かに一年以上分の蓄えはあった!…
この国は、我々を見捨てるつもりなのですか?先程から、支援を渋るような、まるで、惟宗に非があったかのような口振り」
怒り、あるいは、悲しみ。懇願とでも言えそうなその顔はやめてくれ。私も好きで支援を出し渋っているのではない。財力的に支援が出来ないわけでもない。だったら、どうして、こうも端から見れば無情ともとれる言動を重ねるのか…
「見捨てないために詳しくお話を伺っています。あなた方、それから、そこに住んでいる住人は王朝へ治める税が軽い。ならば、受けられる福祉も当然軽くなるのが道理です」
「じゃあ、我慢しろとおっしゃるのですか?」
「そうではありません。私たちは、それによって惟宗氏とそうでは無い者が対立することを恐れています」
「もうそんなものは大昔からあるのに何を今さら」
「だからこそ、正当でこれ以外に選択肢がないという理由が必要なんです。これには、国民の580万人の血税が使われるのです。その重みに値するだけの有意義な支援でなくては我々は判断を下すことは出来ない。でも、私はあなた方を助けたい。だから、私が自信を持って、支援しなければならないと判断できるような理由を求め、あなたに質問をしているのです。支援を求める立場なら、丁寧に答えてください」
この若者が言うことは、正論だと思う。だけど、我々は正論は求めていない。580万人の重みとか個人では感じられない。ただ、そこにあるのか、無いのか、それだけが重要なんだ。もう、あとどれくらい持つか分からない。明日にも、米が尽きて暴動が起きるんじゃないだろうか。気がかりだ。
「この資料では足りませんでしたか?」
「いえ、惟宗氏が治めている地でなかったら、申請はすぐに通っています」
「だったら!」
「惟宗氏は今までさんざん自由にやって来たはずです。それを、他と同じようには扱いかねます。都合の良いときばかり、自由を主張し、都合が悪くなれば、国民を名乗る。それが、安易に許される制度をこの国は持っていません」
「なんだと?」
押さえているがずいぶんと感情的になってきた嘉年三。


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