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帰省準備
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朝起きて、顔を洗い、口をゆすぐ。凍るような水に、目が覚める。
寝巻きの上から、分厚い上着を着て、廊下に出る。足先まで冷える。冷気が下にたまって、いよいよ冬に訪れを感じさせる。
コンコンコンと何かを切る音が調理場からする。調理場からは湯気がもくもくと出ている。
尊星は誘われるようにそっちへ向かう。
「おはようございます」
ツキヨはパッと振り向いて挨拶をする。
「おはようございます。今日は何を作っているんですか?」
「さつまいもとその芋づるのお粥です」
「芋づる?あまり食べたことがないな」
「私の地元では結構みんな食べてますよ、しっかり煮たら普通に食べられます」
「へぇー」
「体も温まりますし、無駄も減らせますし、なんだかお得じゃないですか?」
「確かにそうだな」
宮妃だというのに相変わらず自分で料理をするとは、それも、安く済ませられる材料を使って。まぁ、それ自体は良いんだけど、こういつもいつもご飯を作って貰っていては、私も何かをしてあげないなーと思ってしまう。
「ツキヨさん、その、何か欲しいものとかありますか?」
「欲しいものですか?」
「はい、今度、大陸からの貿易船がやって来るんです。少し珍しいものなんかもあったりするので、折角ですし」
ツキヨはうーんと考える。そして、思い付いたように言う。
「では、綺麗なお皿が欲しいです。尊星さまと一緒にお食事をするときに、食卓が華やかになるかなって思いまして」
お皿か。確かに、あまり気にしていなかったがこの家にはお皿の種類が少ないな。飾り物みたいなものだと、何枚かあるけれどそれは使えないし。
「お皿ですね、また、探してみます」
「ありがとうございます」
だいたい高官の娘なんかであれば、何が欲しいか?という問いに、「もう十分でございます」と答えるか、あるいは、「〇〇の××の~~が欲しい」(高級品)と言う。そこにきて、ツキヨは平凡なことを素直に言う人である。やはり、育ってきた環境が違うからだろうか。
「あの、ツキヨさん」
「はい」
「この冬に帰省されますか?」
「出来ればとは思っていますけれど」
「来月、私が休みが取れそうなんです。結婚のご挨拶も対面では出来ていないですし、私の方も会う必要性を感じているんです」
「尊星さまのご予定がつけば、私もそれに合わせます」
「宮妃としての仕事もあるだろう?」
「あるにはありますが、全て月の頭に固まっていて後半は仕事が無い日がほとんどです」
「そうか。では、月の後半に休みを貰おう」
美味しい芋粥を朝食に食べてから、仕事に行く。ツキヨさんも今日は宴会に来て欲しいと声がかかっているようで、私の後に家を出るそうだ。
執務室に今日の仕事で使う分の申請書をドサッと置く。
休暇申請を上司に通して、無事に、来月後半2週間ほどの休みを取れた。水彦さんには少し嫌な顔をされたが、まぁ、使える休みはこっちが使う権利があるわけで、ちょっと無視をすることにしよう。
気が重いがもう一つの部署にも出向く。
官女が多いこの部署は、宮中の行事なんかを担当する。お嬢様が多い、女性のエリート部みたいなところだ。
「中冨雪華さんをお願いします」
受け付けにそう言うと、取り次いでもらえる。
「部署名とお名前をお願いします」
「食糧管理部 尊星です」
「少々、お待ちください」
5分後
雪華は尊星を見て嬉しそうな顔をする。
「星影の宮様、どうされたんですか?」
「あぁ、少しお願いしたいことがあって」
顔が赤くなる雪華。
「ついに、お見合いを…」
「あ、それもありました」
忘れてた、お見合いのやり直しの話。
「機会を設けていただけますか?」
「設けるつもりはありません、私には妻も居ますので」
きっぱりと断った尊星。
「私の代理の娘でしょう?」
「少なくとも私にとって彼女はもうただの代理ではありません。私は、妻をがっかりさせるようなことは出来ないですし、妻がいながら見合ができる器用な性格もありません」
「そんなに愛していらっしゃるんですか?」
「え?妻だから?」
ちょっと照れる。
雪華はギュッと強く拳を握る。爪が掌に食い込む。
「3年…3年前のお言葉は偽りだったのですか?」
「3年前?」
偽りうんぬんの前に本当に知らないんですけど。
「えっと…」
「お忘れになりましたの?酷い。
何年後になるか分からないけれど、私が私として生きられる時に、君に側にいて欲しい とおっしゃったのに」
は?本当に知らない。人違い?それとも、夢か現実か曖昧なんじゃないの?
「そんなこと言っていません、勘違いでは?」
「勘違いなわけがないじゃないですか。お惚けにならないでください」
雪華の目に涙が溜まっていくのが分かった。
「な、なにも、泣くことないじゃないですか」
雪華を見て酷く動揺する尊星。
「泣いていません」
「そ、そうですか?」
尊星は雪華にこれ以上、この話をするのが申し訳なく思えてきて、話題を変える。
「あの、今日、私がここへ来た用件を伝えても構いませんか?」
雪華は無言で頷く。
「貴女の護衛を担当する軍学校の学生のタスクを来月の後半、お借りしたいです」
「タスク君を?」
雪華は顔をあげた。
「はい」
「どうしてですか?」
「彼も一緒に実家に帰れるようにしたくて」
「あー、タスクのお姉さまって」
「あ、そうです」
「構いませんが、必ず返してくださいね。タスク君はとても優秀ですし、良い話し相手でもあるのですから」
タスクを貸すから見合いをしろとでも言われたらどうしようかと思ったが、言われなくて良かったとちょっと安心。それに、タスク君が褒められたというのは、何故だか私を少し嬉しくさせる。
「はい、お約束します」
長期休暇前に仕事をとっとと終わらせて…
寝巻きの上から、分厚い上着を着て、廊下に出る。足先まで冷える。冷気が下にたまって、いよいよ冬に訪れを感じさせる。
コンコンコンと何かを切る音が調理場からする。調理場からは湯気がもくもくと出ている。
尊星は誘われるようにそっちへ向かう。
「おはようございます」
ツキヨはパッと振り向いて挨拶をする。
「おはようございます。今日は何を作っているんですか?」
「さつまいもとその芋づるのお粥です」
「芋づる?あまり食べたことがないな」
「私の地元では結構みんな食べてますよ、しっかり煮たら普通に食べられます」
「へぇー」
「体も温まりますし、無駄も減らせますし、なんだかお得じゃないですか?」
「確かにそうだな」
宮妃だというのに相変わらず自分で料理をするとは、それも、安く済ませられる材料を使って。まぁ、それ自体は良いんだけど、こういつもいつもご飯を作って貰っていては、私も何かをしてあげないなーと思ってしまう。
「ツキヨさん、その、何か欲しいものとかありますか?」
「欲しいものですか?」
「はい、今度、大陸からの貿易船がやって来るんです。少し珍しいものなんかもあったりするので、折角ですし」
ツキヨはうーんと考える。そして、思い付いたように言う。
「では、綺麗なお皿が欲しいです。尊星さまと一緒にお食事をするときに、食卓が華やかになるかなって思いまして」
お皿か。確かに、あまり気にしていなかったがこの家にはお皿の種類が少ないな。飾り物みたいなものだと、何枚かあるけれどそれは使えないし。
「お皿ですね、また、探してみます」
「ありがとうございます」
だいたい高官の娘なんかであれば、何が欲しいか?という問いに、「もう十分でございます」と答えるか、あるいは、「〇〇の××の~~が欲しい」(高級品)と言う。そこにきて、ツキヨは平凡なことを素直に言う人である。やはり、育ってきた環境が違うからだろうか。
「あの、ツキヨさん」
「はい」
「この冬に帰省されますか?」
「出来ればとは思っていますけれど」
「来月、私が休みが取れそうなんです。結婚のご挨拶も対面では出来ていないですし、私の方も会う必要性を感じているんです」
「尊星さまのご予定がつけば、私もそれに合わせます」
「宮妃としての仕事もあるだろう?」
「あるにはありますが、全て月の頭に固まっていて後半は仕事が無い日がほとんどです」
「そうか。では、月の後半に休みを貰おう」
美味しい芋粥を朝食に食べてから、仕事に行く。ツキヨさんも今日は宴会に来て欲しいと声がかかっているようで、私の後に家を出るそうだ。
執務室に今日の仕事で使う分の申請書をドサッと置く。
休暇申請を上司に通して、無事に、来月後半2週間ほどの休みを取れた。水彦さんには少し嫌な顔をされたが、まぁ、使える休みはこっちが使う権利があるわけで、ちょっと無視をすることにしよう。
気が重いがもう一つの部署にも出向く。
官女が多いこの部署は、宮中の行事なんかを担当する。お嬢様が多い、女性のエリート部みたいなところだ。
「中冨雪華さんをお願いします」
受け付けにそう言うと、取り次いでもらえる。
「部署名とお名前をお願いします」
「食糧管理部 尊星です」
「少々、お待ちください」
5分後
雪華は尊星を見て嬉しそうな顔をする。
「星影の宮様、どうされたんですか?」
「あぁ、少しお願いしたいことがあって」
顔が赤くなる雪華。
「ついに、お見合いを…」
「あ、それもありました」
忘れてた、お見合いのやり直しの話。
「機会を設けていただけますか?」
「設けるつもりはありません、私には妻も居ますので」
きっぱりと断った尊星。
「私の代理の娘でしょう?」
「少なくとも私にとって彼女はもうただの代理ではありません。私は、妻をがっかりさせるようなことは出来ないですし、妻がいながら見合ができる器用な性格もありません」
「そんなに愛していらっしゃるんですか?」
「え?妻だから?」
ちょっと照れる。
雪華はギュッと強く拳を握る。爪が掌に食い込む。
「3年…3年前のお言葉は偽りだったのですか?」
「3年前?」
偽りうんぬんの前に本当に知らないんですけど。
「えっと…」
「お忘れになりましたの?酷い。
何年後になるか分からないけれど、私が私として生きられる時に、君に側にいて欲しい とおっしゃったのに」
は?本当に知らない。人違い?それとも、夢か現実か曖昧なんじゃないの?
「そんなこと言っていません、勘違いでは?」
「勘違いなわけがないじゃないですか。お惚けにならないでください」
雪華の目に涙が溜まっていくのが分かった。
「な、なにも、泣くことないじゃないですか」
雪華を見て酷く動揺する尊星。
「泣いていません」
「そ、そうですか?」
尊星は雪華にこれ以上、この話をするのが申し訳なく思えてきて、話題を変える。
「あの、今日、私がここへ来た用件を伝えても構いませんか?」
雪華は無言で頷く。
「貴女の護衛を担当する軍学校の学生のタスクを来月の後半、お借りしたいです」
「タスク君を?」
雪華は顔をあげた。
「はい」
「どうしてですか?」
「彼も一緒に実家に帰れるようにしたくて」
「あー、タスクのお姉さまって」
「あ、そうです」
「構いませんが、必ず返してくださいね。タスク君はとても優秀ですし、良い話し相手でもあるのですから」
タスクを貸すから見合いをしろとでも言われたらどうしようかと思ったが、言われなくて良かったとちょっと安心。それに、タスク君が褒められたというのは、何故だか私を少し嬉しくさせる。
「はい、お約束します」
長期休暇前に仕事をとっとと終わらせて…
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