王への道は険しくて

N

文字の大きさ
上 下
3 / 38
シューとカン

賛の登場、カンとの結婚

しおりを挟む
 ヒミカも子供ではなくなり、タヨもヨチヨチは卒業し、タヨはカンの元で見習いをしていた。
「お疲れ様、お菓子作ってきたからみんな休憩の時に食べて、ここに置いとくね」
「シュー、ありがとねー」
シューも副村長として本格的に働き始めて忙しいはずだが、こうやってカンの元で働く子供たちによく差し入れを持ってきていた。
 そのこともあってかシューは子供たちの中で絶大な人気を誇っていた。キリッとした凛々しい顔に、爽やかな笑顔、抜群のスタイルに優しい性格、力を使った豪快な遊び、美味しいお菓子。子供が嫌いになる要素がない。
「ありがとうございます!」
タヨもまた例外ではなかった。特に、姉のヒミカには特段優しいシュー。これも、好感度ポイントだ。


「シューさんからお野菜とお米が届いた」
「え、どれどれ?」
定期的にヒミカの家には食料を送っている。私にできることはそれくらいしかないのだが、ヒミカはそれを助かりますと言っって笑顔で受けとる。


「シュー、仕事終わった?今日、ヒミカと食事の予定なんだけど来る?あ、タヨくんも一緒」
カンとはあれから数年経っても関係性に変化なし。カンは渡来人として村人に扱われることも多く、男が言い寄ってきても両方の家がなかなか認めないらしい。当然、表だってそんなことが言われているわけではなく噂にすぎないが 。
今でも、タヨを交えた四人でたまに食事をとるほど仲が良い。ヒミカはヒミカでそんなに悩んでいる素振りもない。
「行く」
「じゃ、ヒミカはもう行ってるみたいだし行こ」
「今から?まぁ、良いけど」
予定というよりも現在進行形らしい。
「やった!ヒミカは飲まないじゃん?だけど、たまには友達と飲むのもやりたくて」
「確かに、ヒミカにお酒は大変だもんな」
「そうそう、誰の酒癖に似たんだろう?若いってのはあるだろうけどさ」
「確かに、 日美香的父母没有那种形象」
ヒミカの両親が酒癖が悪いなんてイメージも湧かないというのに、ヒミカは酔っぱらうと後が大変だった。成人の儀で飲んでいたが、もう、二度と飲ませないようにしようと心に誓ったほどだ。
「うん」

二人は、ヒミカとタヨが待つお食事処へ向かう。
暖簾をくぐると一番奥でヒミカがこちらに向かって、手を振る。
「お待たせ、ヒミカ」
「ううん、そんな待ってないし大丈夫」
「ほら、言ってたようにシューも連れてきた」
「ヒミカが呼んだのか?どうしたんだい?」
ヒミカは二人を座るように手で促す。二人は促されるまま座る。

「実は、薬師試験の目処が立ちました!試験を受けるための試験に合格して、あとは本試験。日程も公開されました!」
「凄いじゃん!ヒミカ」
「おめでとう」
シューとカンはヒミカに惜しみなく拍手を送った。
「ありがとう」
「ヒミカが薬師かぁ、なんか感慨深い」
カンは、ファーっと溜め息のように息を吐いた。
「二人からの支えがあったからこそ、ここまで来れた。本試験までの間は、今よりも給料も待遇も良くなるみたい。多分、他の組織に引き抜かれないように」
「そうか、ヒミカの独り立ちも遠い話ではないのだな」
どこか少し寂しい感じもするが良いことだ。
「それで、二人には二人で叶えたいこともあるだろうと思っているから、今度の夏祭りは二人でまわったら良いよ。私は私でもう大丈夫だから」
ヒミカは笑顔を添えた。シューに対する好きという感情はない。最善策を提案したのだ。シューだってヒミカに恋愛感情はない。村の人々もそれに関しては薄々気がついている様子だった。
「いや、それはできない」
思いもよらない返答にちょっと驚いた表情を浮かべるヒミカ。
「なんで?」
「年齢制限だ。あの祭りの日に結婚相手が見つからないと、ヒミカは村の掟で追い出されてしまう。幼いタヨくんもいるのにどうするつもりなんだい?それとも、素敵な人がいるのかい?それなら、ヒミカが納得できる判断を下せば良いよ」
「…いる、いるから大丈夫」
咄嗟の嘘だった。もう、弥生時代におけるカンとシューの年齢は結婚して当然の年齢だった。なのに、この夏祭りでシューを引き留めるとなると、少なくとも2人の結婚できるのは一年後になってしまう。
「え!ヒミカにそんな人がいるとは知らなかった」
カンは目をパチクリさせる。
「まぁ、秘密にしてたからね」
どうする、私!嘘に嘘を重ねてしまった。正直、そこからどの料理がどんな味であったか答えられる自信がなかった。


翌日の夕方

あぁ、なんか都合の良い男でも沸いて出てきてくれないかな?
薬草を籠に入れて、ボケーッとしながら村の近くをうろうろと歩き回っていた。
すると、そこに突如として「九条賛」と名乗る同い年くらいの男が現れたのだ。
しおりを挟む

処理中です...