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賛とヒミカ
時代が変わる
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賛と別れて、4年が経った。
ヒミカは22歳、あの時よりは随分と大人っぽくなった。
賛といた時間よりも賛と別れてからの時間が長くなった。賛と別れてからしばらくは、タヨがしきりに会いたいとせがんできた。その顔を見る度、チクリと胸が痛む。タヨからしてみれば、急に家族がいなくなったような感じがしたのだろう。賛と別れた理由には納得できない。と、言わんばかりの態度。本当の兄のように慕っていた。
確かに、私たちは、本当の家族になりきれなかったかもしれない。偽り、偽物、偽造、表面だけの関係。でも、誰が、なんと言ったって、私は、賛さんが居た時間を嘘で終わらせるつもりはない。短い時間でも、私とタヨにとって彼は紛れもない家族の一員だった。
震災後の目まぐるしく変わる世界で、ヒミカは女王になった。賛が消えてしまったのだ。後継者も居らず、代打的な感じで抜擢されたのである。代打だったのだが、政治の才能は群を抜き、未来が見えていると言われるくらいだ。無論、前科者であることを咎め、ふさわしくないと罵る者もいるが、大災害からの迅速な復興の影にヒミカかがいたことを知れば、口をつぐむ。
ヒミカの口癖は「賛さんだったらどうするかな…」常に頭の中には国民に寄り添う王の姿。ヒミカにとって、理想の王は彼なのだ。笑顔をのぞかせる賛が、辛いときにはそっと力を貸してくれる。
賛と別れてすぐは、結婚とか家庭とか考えられなかった。だが、周囲からの圧と、引き出しの中に見つかった賛からの手紙の内容から、徐々に意識がそっちへ向かうようになった。そして、幸いなことに、優しく誠実でヒミカを愛する同い年の男性が現れた。
その人は、見た目も声も賛とは違っていたけれど、その穏やかでのんびりとした空気感はヒミカの性格と相性がよく、友達になるのは時間がかからなかった。
「ヒミカさん、僕と結婚してください」
そして今、ヒミカは、賛とは違う男からプロポーズを受けた。彼は、教育部の副部長で、身分も申し分ない。そして、何より、私が彼を好いている。タヨも懐き、結婚を阻むものはない。
「クウくん、ありがとう。これからも、よろしく」
ヒミカの返事を聞いて泣き出したクウ。クウは泣きながらヒミカを抱き締める。
「泣かないで」
「嬉しくて、ヒミカさんと結婚できるの嬉しくて」
よしよしと背中をさする。
クウは、賛とヒミカのことを知っているし、ヒミカを好きになってしまった自分を隠してきた。
大災害で親友のカイキを失った悲しみにくれていた時に、側に寄り添って励ましてくれたヒミカ。王妃という立場ながら、国民と一緒に復興作業をする姿。愛する人を失くしたのに(表向きには、賛は行方不明になっている)、必死に前を向こうとする姿。そして、いつしかヒミカの力になりたいと強く思っていた。
クウは、私が落ち込んでいるときや苦しいときに、支えてくれる。純粋に良い人だと思っていた。賛との別れもあって、誰かを好きになることを躊躇うというか、好きになれなかった。女王と呼称されるようになってから、色んな男が言い寄ってきたが大概はこう言うのだ。「前王のことは忘れて」「私を見て」「前王も望んでいる」「私は気にしない」なにか、違う。そうじゃない。そんな中、クウだけは賛との関係があったことを認め、賛を尊敬していた。その上で、私に何かを強要することもなく私との今の時間を大事にしてくれた。
私と賛
私とクウ
それは、それぞれ独立した別の関係であり、同じくらい大事だと。
賛を忘れたわけでも、乗り換えたわけでもない。
ただ、雨が降りもし、傘を持ってきてくれる人がいるならば、それは、クウが良い。
精神的にも、大人になって、生涯を添い遂げる相手と考えた時にはクウしかいないと思えた。
身内だけの小さな式を挙げて晴れて正式な夫婦となった。
さらに1年半
「クウくん、私たち親になったね…」
「ありがとう、ありがとう」
小さな小さな赤ちゃんの手をソッと握るクウ。
「この子はどんな大人になるんだろう、ヒミカに似たら、明るくて元気でかわいい子かな」
「クウに似たら、優しくて真面目で賢い子かな」
「どっちに似ても、僕らの子だから、きっといっぱい色んなことを経験しながら、笑顔の絶えない子になるよ」
「うん、私たちも、この子のために頑張らないとね」
「だね、あ~、僕って幸せ者だな」
しみじみとそう言ったクウに笑いがこみ上げる。そして、私も幸せ者だと思った。隣には、愛しい人が居て、待ち望んだ子供が生まれて。賛さん、私、今、最高に幸せなんだよ!と言ってやりたい。
「姉上、出産おめでとう」
タヨも部屋に入ってきた。
「ありがと」
「クウさん、頼みますよ、姉上とこの子のこと。俺、二人をおろそかにしたら許さないんで」
と、言って凄む。
「いつもは、俺とか言わないくせに何凄んでんの。クウくんが、私たちをおろそかにするわけないでしょ」
さらに、その2年後4年後には、第一王女、第二王子も生まれた。でも、クウとも話し合って、子供たちは王にしないことにした。世襲よりも、国民が選んだ人が政治をするのが健全な社会だと考えたからだ。この理論の根幹には賛の民主主義への熱い想いがあった。民間王様と呼ばれた、歴史上唯一の王。
「父上、母上、私は、魏の国へ行き学びたい。高い技術や学問を学び、山大国の発展を支えたいのです」
長男がクウとヒミカに頼み込む。クウが仕事で、魏へ一時的に渡ることに決まった夜。王宮の古い書物の中に紛れていたカイキの日記を読み、大陸へ強い興味を抱いたらしい。
「クウくん、私は、ちょっと怖いけど、やりたいことはやってほしい!」
「わかった。そんな高い志を持つなら、きっと魏での経験は良いものになるよ。父と一緒に行こうか」
我が子が遠くへ離れてしまうことは寂しい。でも、一生懸命に打ち込む息子を信じることにした。
どんな困難があろうとも、小さな幸せを拾いながら成長していく1人の人間として貴方と肩を並べてみたかった。ずっと先を歩んでしまう貴方が見ている景色を見たかった。でも、叶わない願いに足をとられるほど子供じゃない。私が私の幸せを探すんだ。もう、一人じゃない。
「卑弥呼女王、魏の使者がお越しになりました」
「分かりました、今、伺います。クウくん、ユウ、ユリ、ユシン、みんな準備はできてる?」
ユウの手はクウが、ユリとユシンの手はヒミカが握る。
「あぁ、完璧だよ」
「魏の人ってどんななの?キンチョーするよ、お母さん」
ユウがヒミカの顔を見上げた。
「きっと、いい人だよ」
門がギリっと重い音を立てて開く。
「あなたが、邪馬台国の卑弥呼女王ですか?」
「はい、よろしくお願いします」
新たな時代が幕を開けた
ヒミカは22歳、あの時よりは随分と大人っぽくなった。
賛といた時間よりも賛と別れてからの時間が長くなった。賛と別れてからしばらくは、タヨがしきりに会いたいとせがんできた。その顔を見る度、チクリと胸が痛む。タヨからしてみれば、急に家族がいなくなったような感じがしたのだろう。賛と別れた理由には納得できない。と、言わんばかりの態度。本当の兄のように慕っていた。
確かに、私たちは、本当の家族になりきれなかったかもしれない。偽り、偽物、偽造、表面だけの関係。でも、誰が、なんと言ったって、私は、賛さんが居た時間を嘘で終わらせるつもりはない。短い時間でも、私とタヨにとって彼は紛れもない家族の一員だった。
震災後の目まぐるしく変わる世界で、ヒミカは女王になった。賛が消えてしまったのだ。後継者も居らず、代打的な感じで抜擢されたのである。代打だったのだが、政治の才能は群を抜き、未来が見えていると言われるくらいだ。無論、前科者であることを咎め、ふさわしくないと罵る者もいるが、大災害からの迅速な復興の影にヒミカかがいたことを知れば、口をつぐむ。
ヒミカの口癖は「賛さんだったらどうするかな…」常に頭の中には国民に寄り添う王の姿。ヒミカにとって、理想の王は彼なのだ。笑顔をのぞかせる賛が、辛いときにはそっと力を貸してくれる。
賛と別れてすぐは、結婚とか家庭とか考えられなかった。だが、周囲からの圧と、引き出しの中に見つかった賛からの手紙の内容から、徐々に意識がそっちへ向かうようになった。そして、幸いなことに、優しく誠実でヒミカを愛する同い年の男性が現れた。
その人は、見た目も声も賛とは違っていたけれど、その穏やかでのんびりとした空気感はヒミカの性格と相性がよく、友達になるのは時間がかからなかった。
「ヒミカさん、僕と結婚してください」
そして今、ヒミカは、賛とは違う男からプロポーズを受けた。彼は、教育部の副部長で、身分も申し分ない。そして、何より、私が彼を好いている。タヨも懐き、結婚を阻むものはない。
「クウくん、ありがとう。これからも、よろしく」
ヒミカの返事を聞いて泣き出したクウ。クウは泣きながらヒミカを抱き締める。
「泣かないで」
「嬉しくて、ヒミカさんと結婚できるの嬉しくて」
よしよしと背中をさする。
クウは、賛とヒミカのことを知っているし、ヒミカを好きになってしまった自分を隠してきた。
大災害で親友のカイキを失った悲しみにくれていた時に、側に寄り添って励ましてくれたヒミカ。王妃という立場ながら、国民と一緒に復興作業をする姿。愛する人を失くしたのに(表向きには、賛は行方不明になっている)、必死に前を向こうとする姿。そして、いつしかヒミカの力になりたいと強く思っていた。
クウは、私が落ち込んでいるときや苦しいときに、支えてくれる。純粋に良い人だと思っていた。賛との別れもあって、誰かを好きになることを躊躇うというか、好きになれなかった。女王と呼称されるようになってから、色んな男が言い寄ってきたが大概はこう言うのだ。「前王のことは忘れて」「私を見て」「前王も望んでいる」「私は気にしない」なにか、違う。そうじゃない。そんな中、クウだけは賛との関係があったことを認め、賛を尊敬していた。その上で、私に何かを強要することもなく私との今の時間を大事にしてくれた。
私と賛
私とクウ
それは、それぞれ独立した別の関係であり、同じくらい大事だと。
賛を忘れたわけでも、乗り換えたわけでもない。
ただ、雨が降りもし、傘を持ってきてくれる人がいるならば、それは、クウが良い。
精神的にも、大人になって、生涯を添い遂げる相手と考えた時にはクウしかいないと思えた。
身内だけの小さな式を挙げて晴れて正式な夫婦となった。
さらに1年半
「クウくん、私たち親になったね…」
「ありがとう、ありがとう」
小さな小さな赤ちゃんの手をソッと握るクウ。
「この子はどんな大人になるんだろう、ヒミカに似たら、明るくて元気でかわいい子かな」
「クウに似たら、優しくて真面目で賢い子かな」
「どっちに似ても、僕らの子だから、きっといっぱい色んなことを経験しながら、笑顔の絶えない子になるよ」
「うん、私たちも、この子のために頑張らないとね」
「だね、あ~、僕って幸せ者だな」
しみじみとそう言ったクウに笑いがこみ上げる。そして、私も幸せ者だと思った。隣には、愛しい人が居て、待ち望んだ子供が生まれて。賛さん、私、今、最高に幸せなんだよ!と言ってやりたい。
「姉上、出産おめでとう」
タヨも部屋に入ってきた。
「ありがと」
「クウさん、頼みますよ、姉上とこの子のこと。俺、二人をおろそかにしたら許さないんで」
と、言って凄む。
「いつもは、俺とか言わないくせに何凄んでんの。クウくんが、私たちをおろそかにするわけないでしょ」
さらに、その2年後4年後には、第一王女、第二王子も生まれた。でも、クウとも話し合って、子供たちは王にしないことにした。世襲よりも、国民が選んだ人が政治をするのが健全な社会だと考えたからだ。この理論の根幹には賛の民主主義への熱い想いがあった。民間王様と呼ばれた、歴史上唯一の王。
「父上、母上、私は、魏の国へ行き学びたい。高い技術や学問を学び、山大国の発展を支えたいのです」
長男がクウとヒミカに頼み込む。クウが仕事で、魏へ一時的に渡ることに決まった夜。王宮の古い書物の中に紛れていたカイキの日記を読み、大陸へ強い興味を抱いたらしい。
「クウくん、私は、ちょっと怖いけど、やりたいことはやってほしい!」
「わかった。そんな高い志を持つなら、きっと魏での経験は良いものになるよ。父と一緒に行こうか」
我が子が遠くへ離れてしまうことは寂しい。でも、一生懸命に打ち込む息子を信じることにした。
どんな困難があろうとも、小さな幸せを拾いながら成長していく1人の人間として貴方と肩を並べてみたかった。ずっと先を歩んでしまう貴方が見ている景色を見たかった。でも、叶わない願いに足をとられるほど子供じゃない。私が私の幸せを探すんだ。もう、一人じゃない。
「卑弥呼女王、魏の使者がお越しになりました」
「分かりました、今、伺います。クウくん、ユウ、ユリ、ユシン、みんな準備はできてる?」
ユウの手はクウが、ユリとユシンの手はヒミカが握る。
「あぁ、完璧だよ」
「魏の人ってどんななの?キンチョーするよ、お母さん」
ユウがヒミカの顔を見上げた。
「きっと、いい人だよ」
門がギリっと重い音を立てて開く。
「あなたが、邪馬台国の卑弥呼女王ですか?」
「はい、よろしくお願いします」
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