王への道は険しくて

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クウとヒミカ

独り

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 賛と別れて、ヒミカは酷く落ち込んでいた。いつかは、そうなる運命があることくらい分かりきっていて、準備はしているつもりだったのに。

 壊れかけた矢倉に登り、月を独り占めする。真ん丸と膨らんだ月は、十六夜だろうか。見た目では欠けたところのない望月と遜色はないが、確かに何かを欠いて、後は、その欠けたところを大きくしていくのだ。

 潰れて、真ん中の支柱となる柱がむき出しになった住居に、ボロボロになって、土が荒れている田んぼ。茶色く濁った川に、えぐられた山。好きだった景色はそこにはない。賛さんが必死に作ろうとしていた学校だって無惨な形になっている。

一人じゃないから
僕が君を守るよ 

そんな風に言って、隣で励ましてくれる賛はもういない。素直で真面目な努力家。だから、皆、無名であっても付いていこうと思えたんだ。

「賛さん…どうしたら良い?」

月に問いかけて、答えなんて返ってくるはずがないのに。

「王妃様!」
下から声がした。
もう、王妃の職は解かれるべきなのに、国民は、ただ一人、私にすがる。私は、自分ではなにもしていない。ただ、賛さんの志を心に持って、少しだけでもこの国に恩返しをしたい。ただ、それだけなんだ。
「今、行きます」
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