秀才くんの憂鬱

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出発前 です。

叔父様 です。

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 「あの、ユウくん居ますか?」
子供が友達を遊びに誘うみたいなトーンで、ノックをするのは、ユウが呼びつけたユウの叔父だ。年齢こそ、叔父が上だが、王位継承順位から身分が上なのはユウになる。

「はい、居ますよ。お久しぶりです」
戸を開けると、叔父は特に躊躇う様子もなく部屋に入ってくる。母の弟である叔父とは仲が良い。
「お久しぶりです。と、言っても、一週間ぶりじゃないですか。いやぁ、でも、背が伸びましたね」
「それ、会うたびに言ってますね。一週間じゃ、変わりませんよ」
「そりゃ、かわいい甥っ子の変化には敏感になりますよ」
叔父は、自他共に認める、お姉ちゃん子である。両親が幼い頃に戦死しているから、基本的には年に離れた姉(ユウの母)がずっと育ててくれたと言っている。だから、ユウにも妹たちにもすごく優しい。
「ここに、腰かけておいてください。すみません、お仕事でお疲れのところ」
「なになに、まだまだ若いよ」
力こぶを作る叔父。叔父は、30歳手前だったな。髪の毛もふっさりとしている。
「これ、差し入れでいただいたお茶です」
さっき、イチナが持ってきたお茶を、近いテーブルに置く。
「あぁ、悪いね」
コップを手にとって、お茶を飲む叔父。
「いえいえ」
「さ、それで、本題に入りましょうか。神話ですよね。えっと、草薙剣の」
「はい、これです」
本の重たさに少し、驚いた素振りを見せて、それから、じっくりと読み込む。

 叔父は、警学校出身で、そこから農家になったり、地方の護衛兵になったり、司法部の地方団体に勤めたり、と、職を転々としながら、今は、歴史研究員として、クニで唯一の博物館に勤めている。つまり、興味の幅が広く的確な言葉や方法を教えてくれることが多い。頼りになる兄のようだ。

約1時間半が経過した。
パタンと本を閉じた叔父。
「タヨさん(叔父)、どうですか?」
「なんとも、言えないけれど、これだけはハッキリと言えるよ。この話が本物であっても作り話であっても、このクニの歴史を辿る重要なものです。作り話なら、多分、作り話の中で最も古いでしょうし」
タヨはユウの方に本を渡した。
「その剣は実在すると思いますか?」
「剣に関する表記が、具体的であることなんかを考えるとあっても可笑しくないというのが、俺の見解です」
「そうですか…」
ユウは冷えきったお茶をすすった。
イチナが言っていたことが本当だったら、その剣を見つけるのは僕かもしれない。偶然に見つけた本が、そんな凄いものだったなんて。嬉しいような、ちょっと心配なような。

 タヨは、ユウの少し暗い顔を覗き込むようにして話しかける。夕日が山に隠れようとしている。最後の、悪あがきのように赤い光を部屋の隅々まで入れて、ユウの顔に強い影が浮かぶ。
「…ユウくん、ユウくんは、大人になったら何になりたい?」
「大人になったら?」
「そっか、もう、今でも十分立派な大人だもんね。ごめん、今の忘れて」
タヨはそう言って笑った。一方で、ユウは深刻な顔をしていた。
「僕は、立派な大人なんかじゃないです。今でも、分からなくなります。僕は魏で人生の半分は過ごしてきましたし、憧れていた歴代の王様のように振る舞うことはできないですし、今、勉強していることとかどうやって国民の生活に活かされていくのかも分からなくて…」
自信無さそうな、ユウ。タヨは頭を横に振った。
「ユウくんにはユウくんの良いところがあって、無理に憧れにあわせる必要もないし、今、やってる勉強も無駄にはならないよ。っていうか、こんな三十手前で子供もいる俺でも、分からんことまみれだよ」
タヨは大きく口を開けて笑った。それを、見て、ユウはつられて苦笑いに似た笑顔を溢した。
「タヨさんは、ひとつだけ願いが叶うなら何を願いますか?」
「う~ん、難しい質問だなぁ。まぁ、家内安全かな、家族が楽しく健康で仲良く過ごせますようにってね」
「家内安全?それ、でも」
一家族のことを、願うのは正解?
「うん。あんまり、女王の弟っていう立場で公には言えないけど、正直、俺にとって大事なのは、顔も見たことがない他人のことよりも、自分の家族なんだよ」
タヨの意見は、率直で素直なものだった。口ではいくらでも、何とでも言えたとしても、結局、大切なものには順位が決まっている。
「ユウくんには、まだ、先のことかもだけど、いつか分かるよ」

タヨは、足を組み換えて、ユウの横に置かれた本を指した。
「どうしたんですか?」
「探しに行きたい?その本の剣」
なんとなくの視線で悟られたのかな。
「そんな、あるかどうかすら分からない物を探しに行けるほど暇じゃないです」
「そう?行って後悔はしないと思うよ。姉上がなんて言うか分からないけど、諸国漫遊っていうか、他国の視察っていう名目で行くの悪くないと思うよ。やりたいことを、出来るのは若者の特権だよ」
ぐいぐいと迫ってくるタヨ。
「…また、考えてみます」
「もしも、行きたいなら、叔父はさんは応援するよー!」 
なんというか、相変わらず軽い人だなぁ。いや、僕がいつも、怖がりすぎなんだろうか。まぁ、お母さんに一旦、相談してみようかな。でもなぁ、神話なんか信じている訳じゃないし。イチナさんも言ってたけどなぁ、二つ証拠があるってことは実在するってことなのかな?いや、でも、初めて聞いたし。う~ん
「悩むくらいなら、動いた方が早いよ」
「タヨさんは、あるって思うんですか?それだけ、言うってことは」
「あったら、男のロマンじゃん」
そう、間髪いれずに答えたタヨ。
「ろまん?」
「そう!」
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