契約婚のはずが、腹黒王太子様に溺愛されているようです

星月りあ

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従魔との遭遇

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それは王太子妃教育が再開され、ソフィアの授業を受けていた最中だった。

ぴょんっと何かが窓から飛び跳ねて部屋に入って来たのだ。

「きゃっ」
こ、これは白ウサギ!?
どうしよう……逃げないと!!
「大丈夫ですよ。リリカ様」
「え? で、でも」
「この魔物はテイムされていますから。ほら、首輪がされています」


テイムとは魔物に魔法を掛け、従魔にして使役することを指す。そして従魔には従魔と一目で分かるように首輪をする決まりになっている。

ソフィアの落ち着いた声にリリカは安心感を覚えた。

「ほ、本当ですわね。良かった……。迷い込んでしまったのかしら」
『違うわ。貴方に会いに来たの』
「私に?」
『ええ』
「どうして私に?」
『それは、』

白ウサギが話そうとしたそのとき、後ろから声を掛けられた。

「もしかして、その白ウサギと会話されているのですか?」
「ええ。そうですけれど、もしかして声が聞こえないのですか?」
「そうですね。私には普通の鳴き声に聞こえますわ。そもそも白ウサギは言葉を話しませんから」
「えっ!? そうなのですか!? 高位の魔物は言葉を話すと聞いていたもので、てっきりこれが普通かと」
「普通だなんてとんでもない!! 高位といっても会話が出来る魔物はドラゴンなど一部の魔物だけですわ」
「!!」
そうだったのね。全く知らなかったわ。

過去のリリカの記憶の中でも、色々な魔物と会話していた記憶が残っている。だから、これくらい普通だと思っていたのだが。

コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」
入って来たのは騎士団の制服を着た若い男性だった。

「失礼いたします。こちらに白ウサギが来ていませんか?」
「ええ。この子ね」
「はい、申し訳ありません。急に飛び出して行ってしまい」
「構わないわ」

その男性は白ウサギを抱きかかえた。

『ちょっと!!』

白ウサギは抵抗しているが、そのまま騎士の男性に連れられて去って行った。

「結局、なんだったのかしら」



**********

「リリカ嬢、少しいいかな」

その夜、レイリックがリリカの部屋を訪ねて来た。

「レイリック様、いかがなさいました?」
「魔物が部屋に侵入したと聞いてね。彼らの処分について意見はあるかい?」
「しょ、処分!?」
「ああ、当然のことだよ。何を驚いているんだい」

テイムした魔物一匹従わせられない騎士なんて必要ないとレイリックは考えていた。

あの白ウサギは私に会いに来ただけなのに、そんなの……。
「あのぅ、出来れば処分など無しに……」
「どうして?」
「危険はありませんでしたから。これで処分なんてされたら夢見が悪いですし。お願いします」
そう言って頭を下げた。

「君は優しすぎる気がするけどね」
「そ、そうでしょうか」
「そうだよ。うん。処分はやっぱり無しにしておくよ」
レイリックは下手に処分してリリカに避けられるようになっては嫌だと思ったのだ。その代わりに厳しい訓練を受けさせようと考えていた。

「あと、魔物の言葉が分かるって聞いたんだけど」
「そうでした。あの白ウサギの子、私に話しがあって来たみたいだったんです。聞きそびれてしまいましたけど」
「……まず1つ。聞いたとは思うけど白ウサギとは普通は会話出来ない。となると君は翻訳魔法を持っている可能性が高い。そして、それを無意識に使えるということは相当レベルも高いのだろう」
「小さい頃から、私の周りには魔物がよく集まって来て、会話していたんです。それで会話が出来るものだと思っていたのですが」
「……魔物は警戒心が高いから無闇矢鱈に近付いたりはしない」
「そうなのですね。ところで翻訳魔法って何ですか?」
「翻訳魔法はその名の通り、何でも翻訳出来る魔法だよ。魔物の言葉もそうだし、君が苦手な外国語の翻訳も出来るよ」
「そうなんですか!? 嬉しいですっ!!」
もう苦労して勉強しなくてもいいと分かり、リリカはパアッと瞳を輝かせる。

「あれ? 私が苦手だってこと話しましたか?」
「まあ、あれだけ苦戦していたらね。見れば分かるよ」
「あっ」
以前レイリックが部屋に訪ねて来たときに気づいたらしい。

「他には古代書の解読だって出来る。だから貴重なんだよ」
「なるほど」

私は魔法は得意ではない。練習しても上手くはならなかった。別にそれを嘆いてはいない。けれど、他の魔法はいい。翻訳魔法だけは是非とも得意であってほしい。レイリック様の仰る通り、本当にレベルが高かったら良いな、と真剣にそう願った。

「2つ目、翻訳魔法が使えることは秘密にしていた方がいい」
「どういうことですか?」
「言ったでしょ、翻訳魔法は貴重だって。その力を狙って襲われたり、悪用しようとする者たちが近付いてくる可能性がある。大昔、軍事力は今より遥かに高かったという。その戦闘技術が古代書には記載されているんだ」

その言葉にはっとして顔を上げる。
「私の翻訳魔法で解読を?」
「ああ、そうだ。元々公爵家の血筋は魔法の扱いに秀でた者が多い。リリカ嬢が翻訳魔法が使えることを知られれば、きっと翻訳魔法に長けているのではと考える者たちも現れるだろう」

そんな余計なことに利用される気はさらさらないわ。
「分かりました。絶対に秘密にします」
「あと公爵にはすでに伝えておいたんだ。今は魔物の件を調べてもらっている」

お兄様は私が倒れたと聞き、飛んで来た。比喩ではなく、本当に魔法で。そして、王宮の中庭に降り立った。

降り立った途端相手が公爵だと皆すぐに分かった。普通なら大騒ぎになるところなのだろうが、レイリックがリリカを運んでいるところを見た人々からリリカが倒れたと噂になっていたので、シスコン公爵のことだからと特に騒ぎにはならなかった。それはそれで問題だと思うが……。

お兄様は私の手を握り、『リリカを連れて帰る』『リリカの側に永遠にいる』とかずっと言っていた。心配を掛けているのは分かっていた。しかし、ここにいたかった私は、お仕事を頑張っているお兄様が好きですよ、と一言告げた。すると、真っ直ぐ仕事に戻って行った。

「それで何か分かったのですか?」
「……いや、まだ何も分かっていないよ」
「そうですか」
「だけど、王宮内にいた魔物は全て倒したから安心していいよ。さて、この話はここまでにしておこうか。これ、新しいネックレスだよ」
色は前回と同じレイリックの瞳と同じ碧色だが、サイズは一回り大きい。

「ありがとうございます。ですが、大きいですよね?」
「そうだよ。前回より難しい魔法を入れようとしたら、この前の宝石には入り切らなかったからね」
「……一体、どんな魔法を?」
リリカは疑問に思っていたことをそのままぶつける。

「帝級魔法だよ」
「えっ……え!? あの帝級魔法ですか!? 伝説の」
リリカは驚いて目を丸くする。
「そうだよ。前回は第ニ級魔法にしたんだけど破れちゃったからね」
と普通に言われる。

第二級でも充分凄いのに。っていうか第一級魔法はどこにいったのよ!?
「普通なら第二級魔法で充分なんだけど、そうはいかなかったし、いっそのこと確実に守れるように帝級魔法を使おうと思ってね」
リリカの心の声に答えるようにそう返される。

帝級魔法とは第一級魔法より上に位置する魔法で、魔法書には記載があるが、実際に使える人が全くいないことで伝説の魔法と言われている。

レイリックはリリカを襲った魔物と相対し、本来の魔物とは比較にならない強さだったと感じていた。それをレイリックはいとも簡単に倒したわけだが。少しレベルを上げただけでは守れないかもしれないと、念には念を入れて、という判断でもあった。

そんな魔法が使えるなんて……。
リリカは驚きのあまり目を見開いたまま制止していた。

「ふふっ、君の反応はやっぱり面白いね」

!? 笑われた!? そんな面白がられるような反応してないと思うけど……。それに誰だって驚くわよ、こんなのっ!!
「まさか帝級魔法なんて凄い魔法が出てくるとは思わなかったんですから!!」
「ありがとう。たぶん、誰にも破られないと思うよ」
「はい、そう思います」
リリカは大きく頷いた。
これで破られたら、そのときは諦めるしかない。

「実はこの魔法はね、王族の中には過去に何人か使える人はいたんだよ。伏せられているだけでね。だからこそ、記述が残っているわけだよ」
「なるほど……」
「それとこのことも秘密でね」

どうして秘密なのかしら? 伝説の魔法が使えるなんて知られたら警戒されるからとか?
あまりにも皆と違う力を持っていると人々は警戒し、怖れるものだ。

「それは違うかな?」
「え?」
「別に警戒されたくなくて秘密にしてたとかじゃないんだよ」
「そうなのですね」
っていうか心読まれた!? 声には出てなかったわよね!?

「昔ね、この魔法を悪用して国を滅ぼそうとした人がいてね。それから表立っては存在しないことになった魔法なんだよ」
「ええっ!? そ、そんな魔法を使って大丈夫なのですか!?」
「問題ないよ。公にさえならなければね。それに、王族が魔力を込めるとき、一番強い魔法を使うっていう古くからの慣わしがあってね」
敢えてレイリックはそう告げた。慣わしというわけではないが、実際に歴代の王族の多くが最大級の魔法を込めてプレゼントしている。

「それで……。ですが、どうしてそんな重要な秘密を教えてくださったのですか?」
「リリカ嬢がどんな反応するのか気になってね」
「完全に面白がってますよね!?」
そう言うとレイリックは楽しそうに笑っていた。
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