契約婚のはずが、腹黒王太子様に溺愛されているようです

星月りあ

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お菓子をお渡しします

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「こちらの書類、ご確認お願いします」
「ああ。ところで公爵殿」
「はい」
「スカーレット嬢とは最近どうなの?」
特に悪い話は聞いてはいないが良い話も何も聞いていないため、婚約が上手くいっているのか、レイリックはふと疑問に思ったのだ。

「どう、とは?」
「遅くまで仕事してるって聞いたけど、ちゃんと会話はしてる?」
「ええ。昔話でしたら、いつもしております」
「昔話?」
「はい、リリカの幼い頃の話をたっぷりと」

えぇ……。
レイリックとロベルトは呆れ交じりの瞳を向ける。

「どれだけ話しても聞き続けてくれますし。彼女を婚約者に選んだリリカの目は正しかった。流石、僕の愛しの妹っ」
ウィリアムは嬉しそうにしているが、それを聞いたレイリックとロベルトは遠い目をしていた。

「……あのさ、公爵。リリカ嬢のことを大切に思っているのは知ってるし、話すのがダメだとは言わないけどさ、婚約者にリリカ嬢の話ばっかりするのはどうかと思うよ」
「では何を話せばよいのですか?」
「……それぐらい自分で考えてほしいんだけど。ロベルト、何か意見ある?」
考えるのが面倒になったレイリックはロベルトに丸投げした。

「えっ。……俺に聞きます? 俺、婚約者なんていたことないんですけど……」
そう言いつつも、ロベルトは何かないかと思考を巡らせてくれている。

「そうですね……。まず二人でデートにでも行かれては? そうすれば自然と会話が出来るでしょう」
ロベルトは、暫く考え込んだ末に無難な答えを返した。

「デート? だが僕たちは恋人というわけではないが……」
「恋人だからデートする、というわけではありませんよ。婚約者同士でも仲を深めるためにデートはするものです」
「そういうものか?」
「ええ。殿下も何度かリリカ嬢とデートされていますし」
「なにっ!!」
リリカから何も聞いていなかったウィリアムは叫び声を上げる。

「えっ。あれはデートだったのか。ただの買い物だと思っていたけど」
「仲良くなりたいという意識があるのなら、それはデートですよ」
「そうだったのか……」
「まあリリカ嬢もただの買い物だと思っていらっしゃると思いますが」
「……とにかく公爵、相手は婚約者なんだから、リリカ嬢のことばかりじゃなくて他の会話もすること。いいね」
レイリックは念を押すように言った。

「承知いたしました」



**********

リリカはレイリックの執務室前まで来ると、大きく深呼吸をした。

「よしっ、行くわよ!!」
気合いを入れて、扉をコンコンとノックする。すると、中からロベルトが扉を開けてくれた。

「ん? リリカじゃないか!! 久しぶりだな~」
リリカの姿を見たウィリアムはいつも通りリリカに抱き着こうとしたが、レイリックにグイッと引っ張られ、後ろに引き戻された。

「それでリリカ嬢、どうしてここに?」
「あっ、はい。これをお渡ししたくて」
そう言ってリリカはレイリックにクッキーを手渡す。

「これはクッキー?」
「はい……」
「リリカ嬢?」
一言発して無言になってしまったリリカを、不思議そうにレイリックは見ている。

「そっ、その、私が作ったんです……」
「えっ!? リリカ嬢が?」
「はい。レイリック様にはいつもお世話になっていますし、お礼がしたくて」
「そんなこと気にしなくてもいいけど。でも僕のために作ってくれるなんて嬉しいよ。ありがとう」
「いえ。で、ですが食べられなさそうなら捨てていただいても大丈夫ですから」
心底喜んでいるレイリックを見て、慌てて告げる。

「いや、リリカ嬢が僕のために作ってくれたものを捨てたりなんてしないよ」
「レイリック様……。毒味はしましたし、一応食べられるものだとは思うのですが」
「毒味って。ふふっ、大丈夫だよ。こんなに美味しそうなんだから」
レイリックはところどころ焦げているクッキーを見て、嬉しそうな笑みを浮かべている。

「それなら良いのですが……」
「リリカ、僕の分はないのか?」
「えっと……」
ウィリアムに尋ねられたリリカは口籠ってしまった。

お兄様のことは考えていなかったわ。まさかお兄様もいるだなんて思わなかったもの。

「公爵様。こちらをどうぞ」
後ろに控えていたレイナが袋に包まれたクッキーを手渡す。

「それって……」
「ええ、お嬢様の手作りクッキーです。念の為ご用意しておりました」

ナイスッ。
「流石レイナね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「リリカの手作りクッキー……。ありがとう、リリカ。大切にするよ」
「?大切にするって、食べ物なんですから腐らせる前に食べてくださいね」
「ああ、分かったよ」
「ねぇ、早速食べてもいいかな?」
「はい、どうぞ」

レイリックは袋を開けクッキーを取り出す。

私は食べても大丈夫だったけど、倒れたらどうしましょう!? 大丈夫かしら?
リリカはドキドキしながらその様子を見守る。

レイリックは一枚取り出して、口に入れた。
「……」
ど、どうして無言!? もしかしてヤバいものだったんじゃ……。
「あっ、あのレイリック様。変な味とかしましたか?」
不安に思い、慌てて尋ねる。

「ああ、いや、そうじゃなくて、虹が見えたんだ」
「はい?」
虹ってなに?? 川じゃなくて? いえ、川だったらもっとダメだけどっ。

「美味しすぎるよっ!!」
レイリックは目を輝かせている。

「えっ!? えっと、それは何よりです」
その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。

でもそんなに美味しいものだったかしら。確かに今までで一番美味しくは出来たけれど、レイリック様は王宮の最高級の料理をいつも食べているわけだから、それと比べるとなんてことない普通の味だと思うのだけど。
そうは思いつつも、ついつい嬉しくて笑みが零れてしまう。

「では私はこれで失礼します」
「うん、またね」
「ああ。いつでも帰って来てくれていいからな。なんならまた公爵家で一緒に暮らそう。うん、それがいい」
「……またお会いしましょう」
リリカはウィリアムの言葉を軽くスルーし、執務室を出た。
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