テイルウィンド

双子烏丸

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第三章 新たな強敵(ライバル)達 

二人の時間(2)

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 レースが始まるまでには、まだ少しかかりそうだ。
 売り子の声が聞こえてくる。
「飲み物はいかがですかー。爽やかなラムネや甘いジュース……。一本たったの3UC(ユニバースクレジット)、レースの観戦に、ぜひどうぞー」
 フウマ達の所にも、売り子がやって来た。
「お二人さんもどうですか? お勧めですよ?」
 持って来た金銭には余裕がある。せっかくだから、何か頼む事にした。
 さっき売り子で言ってた『ラムネ』、そんな飲み物は初めて聞いた。少なくとも、エアケルトゥングではラムネなんて聞いた事はない。
 ――このラムネって飲み物、何だか気になるな――
 そんな好奇心を、フウマは抱く。
「なら、ラムネを二本貰うよ」
「ありがとうございます。ラムネ二本なら6UCです」
 フウマは言われた通り料金を払うと、ラムネを二本受け取った。
 

 
 それはガラス瓶に入っている、水色の液体だった。上の部分は、キャップシールで隠されている。
 彼は自分の分を一本、手元へと置く。
「ほら、ミオの分。喉が渇いただろ?」
 そしてもう一本のラムネを、ミオへと渡す。
「ありがと、フウマ」
 彼女に渡し終えると、フウマは改めてラムネを見た。
 どんな物か早速飲んでみようと上のシールを剥がすと、妙な形のラムネの口に、緑のキャップが付いていると分かった。
 ――えっと、普通にキャップを外せばいいのかな?――
 こう考えてキャップに触れると、それは呆気なく外れた。
 しかしラムネの口はキャップとは別に、何か透明なもので塞がれている。
「あれっ、おかしいな? どうしてこうなってんだ……?」
 フウマがそう呟きながらラムネを目の前に持ち上げていると、それを見ていたミオが可笑しそうにしている。
「プププっ、フウマってば……。ラムネの開け方、もしかして知らないの?」
「えっ?」
「見てて、開け方を教えてあげる。まずキャップの外側をこうして外して……」
 ミオはキャップの外側を外す。そして内側の突起を、ラムネの口に押し込む。
 するとプシュッと軽い音とともに、口を塞いでいたガラス玉が、ビンの中へと落下した。 
 いとも簡単にラムネを開けたミオは、さっそくそれを口をつけた。
「うん! とても爽やかで美味しい! フウマも開けて、飲んでみて」
 フウマもミオと同じように、ラムネの口にフタの突起を押し込む。
 その瞬間、さっきよりも大きなブシュっと音を立てて、すごい勢いで中身が噴き出した。
「ぷっ!!」
 噴き出したラムネは、思いっきりフウマの顔にかかる。
「フウマってば、ぷぷぷっ……気を付けないと」
 ミオは思いっきり、吹き出しそうになるのを堪えていた。
 一方でフウマは、顔にかかったラムネを拭きながら、若干不機嫌そうに呟く。
「むぅっ、他人事だと思って」
「まぁまぁ、とにかく美味しいんだから、フウマも飲んでみて」
 そう勧められるまま、フウマもラムネを飲む。
 すると、さっきまでの不機嫌さが、嘘のように消えた。
「……! ミオの言うとおり、爽やかで美味しい味だね。こんなに美味しい飲み物、初めてだよ」
「味が気に入って、良かったねフウマ。……ほら? こうしているのも、悪くないでしょ?」



 フウマの傍で、ミオは微笑ましそうに頬をつく。
 そんな中、フウマは何か変な気分になる。
 ――やっぱり彼女の言う通り、こんな事はそうないよね。それに、ミオと今こうしていると、何だか落ち着くって言うか、心地いいって言うか――
「どうしたの? そんなにジロジロと私を見て? ……少し照れちゃうな」
 ちょっと顔をうつむけて、僅かに照れながら上目づかいで彼を見ているミオ。そうしている姿は、何故か少しだけ、色っぽく見えた。
 フウマはドキッとした。
 ――そう言えば、僕とミオの関係って? 幼馴染? 親友? 確かにその通り。けど他にも、もっと何かあるような……。もしかして…………恋人とか?―― 
 フウマはこう考えた瞬間に、思わず顔を赤らめる。そしてそれを誤魔化そうと、すぐにミオから顔を背けた。
「ふふふっ、何だか今日のフウマは、とても変ね」
 彼のそんな様子に、ミオは不思議そうにしている。
 軽く深呼吸して、何とか気持ちを落ち着けてから、フウマは改めて、考えを深く巡らす。
 ――でも正直、僕達の関係は、そう考えても不思議じゃないよね。自分で言うのも何だけど、それなりに……親密な訳だし。むしろ逆に、今までそうならなかった方が不思議かも。そもそも、僕がレースにばかり、熱中していたからかな。だとすると、ミオには悪い事をしていたかも――
 そこまで考えると、フウマは慌てて首を横に振る。そして更に考え込む。
 ――いや、まだミオがどう思っているか、全然分からないじゃないか。けど少し前に、何か思わせぶりな事を言ってた気が……。ええっと……やっぱり考えるだけじゃ分からない、この機会だし、直接ミオに聞いてみようか――
「あのさ……ミオ」
 そうフウマが話掛けようとした時、後ろから何者かの声が聞こえた。


「――まさか、こんな所でテイルウィンドのパイロット、フウマ・オイカゼと会えるなんて……実に光栄だね」
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