テイルウィンド

双子烏丸

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第四章 前哨戦

順調、異常なし

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 ――ふふっ、順調順調。 確かにいつもより、幾らか手強いですけど、それでも私の敵ではありませんね。まぁ、相手が実力を出していない、だけかもしれませんけどね――
 シロノのホワイトムーンも、既にツインブルーへと到達した。
 複数のディスプレイ一面には、濃紺色のガス気流が見える。流れの向きと強さはガスで構成される惑星表面の上層、下層によって大きく変化し、同じ層でも流れが違っているのも珍しくない。気流が衝突する場所では渦が生じ、あちこちで渦を巻いているのも見えた。
 全体的にその流れは活発に感じられ、今はガス惑星であるツインブルーの、惑星活動が活発な時期なのだろうとシロノは考えた。
 順位も、あれから上昇を続けている。
 この瞬間も、また、一機追い抜いた。
〈現在、順調に上昇中、只今の順位は5位となります〉
 さすがに次がG3レースの前試合という事もあり、レース難度はそれなりに高い。
 それでも、レースが始まって間もない時間で、シロノはすぐに上位へと到達した。
 ――まぁ多分、実力者の中には、この親善試合に出ていない選手も、それなりにはいるはず……。
 私の後ろにも、数機か食いついているみたいですが、彼らも中々出来るみたいです。少しでも油断すれば……すぐに追いつかれてしまいそうです――
 

 
 こんな風に考えながら視線を移した三次元レーダーには、ホワイトムーンのすぐ後ろを飛行する機体が、三機ほど見える。
 レーダーに表示される機体情報では、その中の一機がジョセフ・クレッセンの玄武号であると分かる。
 ――それにしても…………よく、あの機体でここまで来れるものですね。いくらか旧型の、大量生産された安価な民間機。一応、専用のレース機体ではない一般小型宇宙船を使うレーサーは結構いますけど、それでも快速船のように、速度を十分に発揮出来る船を使うもの。あれは、操作性だけが良いだけで、その性能はせいぜい飛べればいい程度の、安く大量に生産することを目的にした、元々はそれだけの機体のはず。
 一体、どれ程の改造を施せば、ああなるのでしょうか――
 ついつい、そんな事を思い、今度は前方の様子を確認した。
 シロノの先を飛ぶは、全四機のレース機体。ディスプレイにはその存在を示す、エネルギー噴射による光点が見え、さながら空に輝く星のようだ。
 その先頭を飛ぶのは、もちろんジンジャーブレッドだろう。
 ――きっと彼は、この一番先でしょうね――
 シロノは通路ですれ違った、ジンジャーブレッドの姿を思い出す。
 あの不敵な態度と、強い自信の持ち主。きっと、その実力もそれを裏付けるのに、十分な物であるはずだ。
 彼の実力に、今の段階でどこまでついて行けるか……。
 レースにおいては上級のプロレーサーであるシロノ・ルーナ。
 この彼でさえ、そこまで思わせる程――、ジンジャーブレッドはそれ程の相手だった。

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