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第五章 深紅の炎
クリムゾンフレイムとマリン
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それは、少し前の出来事だった。
一面に流れるガス気流……。その青い景色を背にして、クリムゾンフレイムは深紅の船体をきらりと光らせる。
クリムゾンフレイム、そしてパイロットであるマリン・フローライトの順位は二位、あのジンジャーブレッドに次ぐ順位だ。
しかし……
――やっぱり、さすがはジンジャーブレッドね。ここまで来て、まだ私が追い付けないなんて――
マリンは、ディスプレイ上に映るも、いまだに距離が縮まらない、ブラッククラッカーの後ろ姿を、しげしげと眺めていた。
――いくら二位だって言っても、すぐ後ろにはほら……それなりに機体がついて来てるし――
別のディスプレイの後部映像には、確かに4、5機程、後ろを飛行する姿が見て取れた。
そして……この時、マリンは意識していなかったが、そこには既にここまで追いついて来た、ホワイトムーンの姿もある。
――やっぱり、一筋縄では行かないか。ガス惑星でのレースは今まででも多かったから、慣れていたはずなんだけど……他のレーサーも追いついて来ているかもだし、ジンジャーブレッドには追い付けないし…………もう!――
今までは、ここまで苦戦したことはなかったのかもしれない、マリンはかなり不満そうにむくれている。
彼女は今までの経験をもとに、高確率で船にとって強い追い風となり、なおかつ近道で効率の良い気流に乗り、ここまでリードして来た。
多分、後ろのレーサーも、大体は同じようにしたのだろう。
でも……今のままではジンジャーブレッドに追いつけない。
もちろん、ここで無理に、彼に勝利する必要はない。
――けど、レースしているからには、やっぱり勝つために全力を尽くしたいよね――
マリンはそう、気持ちを切り替えると、どうすれば彼に追いつけるか考えた。
ディスプレイに映る惑星の様子は、いくつものガスの流れが、上下、そして四方を覆っていた。
どこを見ても、様々な流れを見せる、青、青、青……、そして渦。惑星を構成するガスの中を飛んでいるせいで、どの方向を、どれくらい飛んでいるのかは分かりにくい。
そこで、多くのレーサーは、そんな中でもレースの様子を撮影している、無人機を目印にしている。
この無人機は、コースの範囲を囲い込むように、その中央から上下左右に四機一組で、コース全体に等間隔で配置されている。
それは、レースの撮影のみならず、全無人機がネットワークを形成することで発生させる、特殊レーダーフィールドにより、機体がコースから外れたどうか、監視する役割を持つ。
その境界は映像に映るものではないが、もし少しでも外れればそれを感知、有無を言わさずリタイヤとなる。
映像全体に見える気流の速さは、遅いも早いも様々だ。そして、その流れがどの方向に、どこまで続くかは、乗ってみなければ分からない。
そんな気流の中には、一度乗ったらレース機体でも、そこから抜け出すのが難しいほどに、かなり急激な流れもある。
クリムゾンフレイムのディスプレイにも、そんな流れがいくつも見える。景色は全て青いが、流れるガスの速度を見れば分かる。もしそれに乗れば、逆転のチャンスはあるかもしれない。
だが……、流れがどこに、どこまで繋がっているかも分からず、流れの終わりまでそこから出れないことを考えれば、リスクはかなり高い。
もしそれが遠回りになれば、更にはコースの逆走になることも考えられ、最悪、そのコースからも外れてリタイヤになる可能性まである。
加えて、そこまで急激な流れなら、他の流れとの衝突による、渦の数も強さも多い。渦に巻き込まれて足止め……リタイヤ。ガス惑星の奥にまで引きずりこまれて遭難し、こんな狭い空間で、シャワーも浴びれずに何日も救助を待たなければいけない羽目になるかもしれない。
――ううっ……。そんな事になるなんて、私は嫌だな――
遭難など最悪の場合に備えて、携帯食料と水、酸素の用意は義務付けられているため、死ぬようなことはないが…………、宇宙空間での遭難なんて、正直良い体験とは言えない。
彼女は性格に反して、高い操縦技術と観察眼に裏打ちされた、堅実なレースプレイを得意としていた。
普通なら、こんな賭け事をする事はない。しかし――
――けど、選手紹介であんな事やっちゃったし、今更怖気づくなんて出来ないよね。……
よし! ここは一か八か――
覚悟を決めたマリンは、高速で流れる気流の中から、比較的安全で、なおかつ近道になりそうな気流を選んだ。
――さてと、慣れないことだけど、鬼が出るか蛇が出るか……運試しね!――
こうしてマリン、そしてクリムゾンフレイムは、惑星の大気に急激に流れる、気流の一つにその身を委ねる。
――――
〈……と、まぁ、こうして貴方の元までたどり着いたわ。ふふっ、慣れないことでも、やってみるのはいいものね〉
ジンジャーブレッドはセンサーからの外部映像の情報に加え、赤毛の若い女性の姿とその声を認識していた。
通信を許可し、こうして現れたのが彼女、マリン・フローライトだった。
「なるほど、あの高速気流に乗ってここまで来たのか。運が良いと言うべきか……パイロットの実力、機体の性能によるものと言うべきか……」
〈お褒めに預かって、光栄だわ、ジンジャーブレッド〉
「だが、それらは全て、私が上だ。君の快進撃はここまでだと、断言しよう」
するとマリンは、挑発的な笑みを見せる。
〈どうかしらね? 幾ら昔に活躍したからって、お高く留まっていると足元をすくわれるかもよ?〉
「ふっ……、そこまで言うなら試してみるか?」
〈……上等じゃない!〉
――ふむ、随分と骨のあるレーサーだ。所詮は前哨戦だが、なかなか頑張るじゃないか――
そんなジンジャーブレッドの余裕、それはクリムゾンフレイムが接近したと言っても、彼の機体であるブラッククラッカーとの距離は、せいぜいディスプレイに映り通信が可能なギリギリの距離。接戦には程遠い。
――それにしても予選の……確かリッキーだったか、さらに廊下ですれ違ったシロノに、そしてマリン。長年ぶりに復帰しただけで、随分と良いレーサーがいるものだな。
さて、彼女はどこまで私と渡り合えるか……見ものだな――
ジンジャーブレッドはそう、ほくそ笑んだ。
一面に流れるガス気流……。その青い景色を背にして、クリムゾンフレイムは深紅の船体をきらりと光らせる。
クリムゾンフレイム、そしてパイロットであるマリン・フローライトの順位は二位、あのジンジャーブレッドに次ぐ順位だ。
しかし……
――やっぱり、さすがはジンジャーブレッドね。ここまで来て、まだ私が追い付けないなんて――
マリンは、ディスプレイ上に映るも、いまだに距離が縮まらない、ブラッククラッカーの後ろ姿を、しげしげと眺めていた。
――いくら二位だって言っても、すぐ後ろにはほら……それなりに機体がついて来てるし――
別のディスプレイの後部映像には、確かに4、5機程、後ろを飛行する姿が見て取れた。
そして……この時、マリンは意識していなかったが、そこには既にここまで追いついて来た、ホワイトムーンの姿もある。
――やっぱり、一筋縄では行かないか。ガス惑星でのレースは今まででも多かったから、慣れていたはずなんだけど……他のレーサーも追いついて来ているかもだし、ジンジャーブレッドには追い付けないし…………もう!――
今までは、ここまで苦戦したことはなかったのかもしれない、マリンはかなり不満そうにむくれている。
彼女は今までの経験をもとに、高確率で船にとって強い追い風となり、なおかつ近道で効率の良い気流に乗り、ここまでリードして来た。
多分、後ろのレーサーも、大体は同じようにしたのだろう。
でも……今のままではジンジャーブレッドに追いつけない。
もちろん、ここで無理に、彼に勝利する必要はない。
――けど、レースしているからには、やっぱり勝つために全力を尽くしたいよね――
マリンはそう、気持ちを切り替えると、どうすれば彼に追いつけるか考えた。
ディスプレイに映る惑星の様子は、いくつものガスの流れが、上下、そして四方を覆っていた。
どこを見ても、様々な流れを見せる、青、青、青……、そして渦。惑星を構成するガスの中を飛んでいるせいで、どの方向を、どれくらい飛んでいるのかは分かりにくい。
そこで、多くのレーサーは、そんな中でもレースの様子を撮影している、無人機を目印にしている。
この無人機は、コースの範囲を囲い込むように、その中央から上下左右に四機一組で、コース全体に等間隔で配置されている。
それは、レースの撮影のみならず、全無人機がネットワークを形成することで発生させる、特殊レーダーフィールドにより、機体がコースから外れたどうか、監視する役割を持つ。
その境界は映像に映るものではないが、もし少しでも外れればそれを感知、有無を言わさずリタイヤとなる。
映像全体に見える気流の速さは、遅いも早いも様々だ。そして、その流れがどの方向に、どこまで続くかは、乗ってみなければ分からない。
そんな気流の中には、一度乗ったらレース機体でも、そこから抜け出すのが難しいほどに、かなり急激な流れもある。
クリムゾンフレイムのディスプレイにも、そんな流れがいくつも見える。景色は全て青いが、流れるガスの速度を見れば分かる。もしそれに乗れば、逆転のチャンスはあるかもしれない。
だが……、流れがどこに、どこまで繋がっているかも分からず、流れの終わりまでそこから出れないことを考えれば、リスクはかなり高い。
もしそれが遠回りになれば、更にはコースの逆走になることも考えられ、最悪、そのコースからも外れてリタイヤになる可能性まである。
加えて、そこまで急激な流れなら、他の流れとの衝突による、渦の数も強さも多い。渦に巻き込まれて足止め……リタイヤ。ガス惑星の奥にまで引きずりこまれて遭難し、こんな狭い空間で、シャワーも浴びれずに何日も救助を待たなければいけない羽目になるかもしれない。
――ううっ……。そんな事になるなんて、私は嫌だな――
遭難など最悪の場合に備えて、携帯食料と水、酸素の用意は義務付けられているため、死ぬようなことはないが…………、宇宙空間での遭難なんて、正直良い体験とは言えない。
彼女は性格に反して、高い操縦技術と観察眼に裏打ちされた、堅実なレースプレイを得意としていた。
普通なら、こんな賭け事をする事はない。しかし――
――けど、選手紹介であんな事やっちゃったし、今更怖気づくなんて出来ないよね。……
よし! ここは一か八か――
覚悟を決めたマリンは、高速で流れる気流の中から、比較的安全で、なおかつ近道になりそうな気流を選んだ。
――さてと、慣れないことだけど、鬼が出るか蛇が出るか……運試しね!――
こうしてマリン、そしてクリムゾンフレイムは、惑星の大気に急激に流れる、気流の一つにその身を委ねる。
――――
〈……と、まぁ、こうして貴方の元までたどり着いたわ。ふふっ、慣れないことでも、やってみるのはいいものね〉
ジンジャーブレッドはセンサーからの外部映像の情報に加え、赤毛の若い女性の姿とその声を認識していた。
通信を許可し、こうして現れたのが彼女、マリン・フローライトだった。
「なるほど、あの高速気流に乗ってここまで来たのか。運が良いと言うべきか……パイロットの実力、機体の性能によるものと言うべきか……」
〈お褒めに預かって、光栄だわ、ジンジャーブレッド〉
「だが、それらは全て、私が上だ。君の快進撃はここまでだと、断言しよう」
するとマリンは、挑発的な笑みを見せる。
〈どうかしらね? 幾ら昔に活躍したからって、お高く留まっていると足元をすくわれるかもよ?〉
「ふっ……、そこまで言うなら試してみるか?」
〈……上等じゃない!〉
――ふむ、随分と骨のあるレーサーだ。所詮は前哨戦だが、なかなか頑張るじゃないか――
そんなジンジャーブレッドの余裕、それはクリムゾンフレイムが接近したと言っても、彼の機体であるブラッククラッカーとの距離は、せいぜいディスプレイに映り通信が可能なギリギリの距離。接戦には程遠い。
――それにしても予選の……確かリッキーだったか、さらに廊下ですれ違ったシロノに、そしてマリン。長年ぶりに復帰しただけで、随分と良いレーサーがいるものだな。
さて、彼女はどこまで私と渡り合えるか……見ものだな――
ジンジャーブレッドはそう、ほくそ笑んだ。
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